メトレレプチンによる治療を受ける し ぼ う い しゅくしょう 脂肪萎縮症の患者さんへ 監修：中尾 一和 先生 京都大学医学研究科内科学講座内分泌代謝内科教授 はじめに 脂肪萎縮症は，脂肪組織が減少したり，ほとんどなくなってし まったりする病気です。 脂肪萎縮症では，脂肪組織がほとんどなくなってしまうために， 脂肪細胞から分泌されるレプチンというホルモンが少なくなりま す。レプチンは，糖代謝や脂質代謝において重要なはたらきを行 なっていることから，レプチンの分泌が減ると糖尿病や高トリグ リセライド（中性脂肪）血症などが起こってきます。 近年，脂肪萎縮症のために脂肪細胞からの分泌が減少したレプ チンを補充する治療法の有効性が注目されてきました。 本冊子は，脂肪萎縮症とレプチンについてわかりやすくまとめ ました。是非とも，ご一読ください。 中尾 一和 先生 京都大学医学研究科内科学講座内分泌代謝内科教授 1 脂肪萎縮症とは 脂肪萎縮症の患者さんの数は 100 万人に 1 人程度と極めて稀な 病気です。脂肪萎縮症は，身体にある脂肪組織が減少したり，ほ とんどなくなってしまう病気です。 脂肪萎縮症 先天性脂肪萎縮症 後天性脂肪萎縮症 脂肪組織が減少したり， ほとんどなくなる レプチンの分泌が著しく減る （レプチンのはたらきが不足する） 糖や脂質の代謝が悪くなる 糖尿病・高トリグリセライド （中性脂肪）血症・脂肪肝 など 脂肪萎縮症の分類と原因 脂肪萎縮症には，全身の脂肪組織が減少する全身性のものと特定の部 分の脂肪組織が減少する部分性のものがあります。病因は先天性と後 天性のものに二分されていますが，不明な点が少なくありません。 2 脂肪萎縮症とレプチン 脂肪組織は，栄養の貯蔵，保温などのはたらきや身体の外から の衝撃を和らげるはたらきをしています。また，脂肪細胞は，身 体のはたらきを調整するいくつかのホルモンを分泌しています。 脂肪萎縮症では，これらのホルモンのうち，レプチンが著しく減っ ています。近年，脂肪細胞から分泌されるこのレプチンが血糖を 調整するインスリンのはたらきを高め，糖尿病や高トリグリセラ イド（中性脂肪）血症，脂肪肝などに深く関与することがわかっ てきました。脂肪萎縮症では，脂肪組織の減少のためにレプチ ンの分泌が著しく減り，レプチンの作用が不足することで糖尿病 や高トリグリセライド（中性脂肪）血症，脂肪肝などが起こってき ます。 視床下部 情報 血液中 筋肉 レプチン分泌 脂肪細胞 情報 肝臓 糖や脂質の代謝をつかさどる 食欲の抑制 インスリンの作用を高める など レプチンの作用 脂肪細胞から分泌されたレプチンは，脳の視床下部に作用して，食欲を 抑制したり，血糖を調整するインスリンの作用を高めるなど，糖や脂質 の代謝に重要です。 3 脂肪萎縮症が引き起こす病気 脂肪萎縮症の患者さんのほとんどがインスリンの効きにくい糖 尿病を伴い，多くの場合，高トリグリセライド（中性脂肪）血症 を伴っています。また，脂肪組織に脂質を貯蔵できず，代わりに 肝臓に脂質を貯蔵してしまうために，脂肪肝を起こします。した がって，脂肪肝を進行させないために，血糖や血液中のトリグリ セライドのコントロールを良い状態に保つ治療法が必要です。 ● 糖尿病 糖尿病はインスリンが不足しているか，あるいはインスリンの作 用が悪くなり，血糖値が高くなる病気です。 糖尿病は，大きく分けると，1 型糖尿病と 2 型糖尿病の 2 つに 分けられます。1 型糖尿病の多くは，インスリンを分泌する膵臓 のβ細胞に自己免疫反応 ※ が起こり，β細胞が傷害されること によってインスリンが不足して発症します。2 型糖尿病は，イ ンスリン分泌の低下やインスリンの作用が悪くなる遺伝的体質 に食べ過ぎや運動不足などの生活習慣が加わって，インスリンの 作用が不足することで発症します。 ※：本来自分の体内にあるものを異物とみなして攻撃してしまうこと。 4 ● 高トリグリセライド（中性脂肪）血症 高トリグリセライド（中性脂肪）血症は，血液中の中性脂肪が著 しく増加する病気です。 従来のお薬 糖尿病のお薬 （血糖を下げるお薬） 高トリグリセライド （中性脂肪）血症のお薬 （血液中の中性脂肪を下げるお薬） 脂肪萎縮症 レプチン分泌が著しく減る 糖尿病 糖の代謝が 悪くなる 脂質の代謝が 悪くなる 高トリグリセライド （中性脂肪）血症 ● 脂肪肝 脂肪肝は，肝臓に中性脂肪が異常に蓄積した状態のことです。 5 メトレレプチンの特徴と副作用 メトレレプチンの特徴 脂肪萎縮症では脂肪細胞から分泌されるレプチンが著しく減少して いますが，メトレレプチンは，その減少したレプチンを補充すること によって脂肪萎縮症における糖代謝と脂質代謝を改善します。 （メトレレプチンはレプチンと同じ作用をもつおくすりです。） 脂肪萎縮症 （レプチン分泌が著しく減る） ＋ メトレレプチン投与 （レプチンの補充） レプチンの作用 食欲の抑制 インスリンのはたらきを高める など 糖代謝や高トリグリセライド （中性脂肪）血症の改善 メトレレプチンは冷蔵庫に保管してください。 6 メトレレプチンの副作用 •よくみられる副作用は，腫れ・痛み・かゆみ・発赤などの注射部 位の反応です。 •重大な副作用として，蕁麻疹，全身性の発疹を含む過敏症があら われることがあります。 •急性膵炎 このおくすりを急に中止された患者さんで「急性膵炎」が起こる ことが報告されています。急性膵炎が起きる原因として，血中ト リグリセライド（中性脂肪）の急激な上昇があげられます。もとも と高トリグリセライド（中性脂肪）血症があったり過去に膵炎になっ たことがある患者さんでは，特に注意が必要です。ご自身の判 断で，このおくすりを中止しないでください。 激しい腹痛が見られる場合には，急性膵炎の発症の可能性があり ますので，すぐに医師にご相談ください。 【急性膵炎の症状】 ○激しい腹痛（みぞおちから背部に強い持続痛）○吐き気 ○腹部膨満感 ○発熱 など •低血糖 糖尿病治療薬を一緒に使う必要のある患者さんで，副作用として 「低血糖」が起こる可能性があります。 7 【低血糖の症状】 ○激しい空腹感 ○だるさ ○冷や汗 ○手足のふるえ ○顔面蒼白 ○動悸（脈が速くなる）○めまい ○失神 ○頭痛 など 低血糖の症状を疑ったら，すぐにブドウ糖（5 〜 10g）や砂糖 （10 〜 20g）をとるようにしてください。 そのために，ブドウ糖 や砂糖やそれらを含む飲食物を持ち歩き，いつでもどこでもとれ るように準備してください。また，すぐに医師やかかりつけの 薬局にご相談ください。 砂糖 砂糖 ［ 注意 ］ α-グルコシダーゼ阻害薬（アカルボース［商品名：グルコバイなど］， ボグリボース［商品名：ベイスンなど］， ミグリトール［商品名：セイブ ルなど］）をのんでいる場合には砂糖を食べても効きません。それ はこれらの薬剤が砂糖の消化や吸収を遅らせてしまうからです。必 ずブドウ糖を5〜10gとってください。携帯用のブドウ糖についてや その他何かわからないことがあれば医師にご相談ください。 アドバイス 脂肪萎縮症では， 脂肪蓄積のため食欲を抑制する作用があるレプ チンの分泌が著しく減っています。 しばしば過食が認められ， 糖尿病 や高トリグリセライド（中性脂肪）血症を悪化させます。そのためこ れらの治療では食事療法を継続することが大切です。 8 注射記録をつけましょう 年 月 メトレレプチン投与量 投与日 投与 時間 メモ 投与日 月 日 mL 月 日 mL 投与 時間 1日 ： 16日 ： 2日 ： 17日 ： 3日 ： 18日 ： 4日 ： 19日 ： 5日 ： 20日 ： 6日 ： 21日 ： 7日 ： 22日 ： 8日 ： 23日 ： 9日 ： 24日 ： 10日 ： 25日 ： 11日 ： 26日 ： 12日 ： 27日 ： 13日 ： 28日 ： 14日 ： 29日 ： 15日 ： 30日 ： 31日 ： 9 メモ 注射記録をつけましょう 年 月 メトレレプチン投与量 投与日 投与 時間 メモ 投与日 月 日 mL 月 日 mL 投与 時間 1日 ： 16日 ： 2日 ： 17日 ： 3日 ： 18日 ： 4日 ： 19日 ： 5日 ： 20日 ： 6日 ： 21日 ： 7日 ： 22日 ： 8日 ： 23日 ： 9日 ： 24日 ： 10日 ： 25日 ： 11日 ： 26日 ： 12日 ： 27日 ： 13日 ： 28日 ： 14日 ： 29日 ： 15日 ： 30日 ： 31日 ： 10 メモ 注射記録をつけましょう 年 月 メトレレプチン投与量 投与日 投与 時間 メモ 投与日 月 日 mL 月 日 mL 投与 時間 1日 ： 16日 ： 2日 ： 17日 ： 3日 ： 18日 ： 4日 ： 19日 ： 5日 ： 20日 ： 6日 ： 21日 ： 7日 ： 22日 ： 8日 ： 23日 ： 9日 ： 24日 ： 10日 ： 25日 ： 11日 ： 26日 ： 12日 ： 27日 ： 13日 ： 28日 ： 14日 ： 29日 ： 15日 ： 30日 ： 31日 ： 11 メモ 注射記録をつけましょう 年 月 メトレレプチン投与量 投与日 投与 時間 メモ 投与日 月 日 mL 月 日 mL 投与 時間 1日 ： 16日 ： 2日 ： 17日 ： 3日 ： 18日 ： 4日 ： 19日 ： 5日 ： 20日 ： 6日 ： 21日 ： 7日 ： 22日 ： 8日 ： 23日 ： 9日 ： 24日 ： 10日 ： 25日 ： 11日 ： 26日 ： 12日 ： 27日 ： 13日 ： 28日 ： 14日 ： 29日 ： 15日 ： 30日 ： 31日 ： 12 メモ 注射記録をつけましょう 年 月 メトレレプチン投与量 投与日 投与 時間 メモ 投与日 月 日 mL 月 日 mL 投与 時間 1日 ： 16日 ： 2日 ： 17日 ： 3日 ： 18日 ： 4日 ： 19日 ： 5日 ： 20日 ： 6日 ： 21日 ： 7日 ： 22日 ： 8日 ： 23日 ： 9日 ： 24日 ： 10日 ： 25日 ： 11日 ： 26日 ： 12日 ： 27日 ： 13日 ： 28日 ： 14日 ： 29日 ： 15日 ： 30日 ： 31日 ： 13 メモ 注射記録をつけましょう 年 月 メトレレプチン投与量 投与日 投与 時間 メモ 投与日 月 日 mL 月 日 mL 投与 時間 1日 ： 16日 ： 2日 ： 17日 ： 3日 ： 18日 ： 4日 ： 19日 ： 5日 ： 20日 ： 6日 ： 21日 ： 7日 ： 22日 ： 8日 ： 23日 ： 9日 ： 24日 ： 10日 ： 25日 ： 11日 ： 26日 ： 12日 ： 27日 ： 13日 ： 28日 ： 14日 ： 29日 ： 15日 ： 30日 ： 31日 ： 14 メモ 病院名・医師名・緊急連絡先等 ML-C-1（A1）2013年 3月作成 審U3408
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