Phase-field 法による Fe-C 合金の等温変態シミュレーション Phase-field Simulation of Isothermal Transformation in Fe-C Alloy. ° 学 山 中 晃 徳 (神戸大・院) 正 高 木 知 弘 (神戸大・海科) 正 冨 田 佳 宏 (神戸大・工) Akinori YAMANAKA, Kobe Univ., Grad. Sch. Sci. & Tech., Nada, Kobe, 657-8501 Tomohiro TAKAKI, Kobe Univ., Fac. Maritime Sci., Higashinada, Kobe, 658-0022 Yoshihiro TOMITA, Kobe Univ., Dept. Mech. Eng., Fac. Eng., Nada, Kobe, 657-8501 Key Words : Phase Field Method, Fe-C Alloy, Isothermal Transformation, Carbon diffusion, Austenite, Ferrite, Adaptive Finite Element Method 1 緒言 優れた機械的特性を有する鉄鋼材料を開発する目的で, 熱処理条件の最適化などの材料組織制御や組織形成の予 測に関する研究が盛んに行われている. 代表的な鉄鋼材 料である Fe-C 合金はオーステナイト化温度以下の広範な 温度領域においてオーステナイト相 (γ 相) からフェライ ト相 (α 相) へと等温変態し, 変態温度によりパーライト, ベイナイト, マルテンサイトなど種々の形態や機械的特性 を有する組織が形成される. しかしながら, これらの組織 形成過程は, 温度に強く依存する炭素原子の拡散と α/γ 界面の移動の競合反応であり, その極めて複雑な両者の挙 動を実験的手法のみで理解しようとすることには限界が ある. そこで本研究では, 秩序変数の連続的変化で界面を 表現し, 複雑な境界条件を必要としない Phase-field 法を 用いて Fe-C 合金の γ → α 変態をモデル化する. さらに, 数値シミュレーションを行うことで γ → α 変態における, 炭素原子の拡散挙動および α/γ 界面の移動が変態挙動や 組織形成に与える影響について検討する. 2 Phase-field 法 Fe-C 合金の全自由エネルギーは, 化学的自由エネルギー と界面が存在することによる過剰な自由エネルギーの和 として, 次式に表す Gibbs の自由エネルギー汎関数を用 いる. ] ∫ [ ²(θ)2 2 G= g(φ, yc , T ) + |∇φ| dV (1) 2 ここで, φ は α 相において φ = 1, γ 相において φ = 0 の値をとる phase field で界面領域において滑らかに変化 する. yc は Fe 原子が形成する FCC 格子または BCC 格 子の格子間に形成される副格子を占有する炭素原子のモ ル分率 (以下, 炭素濃度) で, 通常のモル分率 xc を用いて yc = xc /(1 − xc ) と表す. また, T は絶対温度, 勾配修正 係数 ²(θ) は界面エネルギーの異方性を考慮して次式を採 用する. ²0 ²(θ) = ²0 η(θ) = (1 + ξ cos kθ) (2) 1+ξ ここで, η(θ) は異方性関数, ξ は異方性強度, k は異方性 モード, θ は界面の法線方向と x 軸がなす角度である. ま た, Fe-C 合金の化学的自由エネルギー密度 g(φ, yc , T ) は 次式で表される. g(φ, yc , T ) = p(φ)g α (yc , T ) + (1 − p(φ))g γ (yc , T ) + W q(φ) (3) ここで, g α (yc , T ) と g γ (yc , T ) は, それぞれ α 相と γ 相単 相の自由エネルギー密度である (1) . また, エネルギー密 度分布関数 p(φ), ダブルウェルポテンシャル q(φ) として 次式を採用する. p(φ) = φ3 (10 − 15φ + 6φ2 ) (4) q(φ) = φ (1 − φ) (5) 2 2 式 (2) の ²0 , 式 (3) のエネルギー障壁の高さ W は, 界面 √ エネルギー σ と界面幅 δ を用いてそれぞれ, ²0 = 3δσ/b, W = 6σb/δ のように関係付けられる. ここで, 界面領域 を λ ≤ φ ≤ 1 − λ と仮定して, b = 2tanh−1 (1 − 2λ) とし ている (2) . Phase field の時間発展方程式は Allen-Cahn 方程式か ら導出され, 式 (1)∼(5) で表される自由エネルギーを用 いると次式のようになる. { ∂φ ∂g = Mφ ∇ · (²2 ∇φ) − ∂t ∂φ ( ) ( )} ∂ ∂² ∂φ ∂ ∂² ∂φ − ² + ² (6) ∂x ∂θ ∂y ∂y ∂θ ∂x ) ( ∂g 15 1 (7) = 4W φ(1 − φ) − φ(1 − φ)∆g γα + φ − ∂φ 2W 2 ここで, Mφ は α/γ 界面の易動度 M (3) , W および ²0 に関係 √ 付けられる phase field の易動度であり Mφ = M 2W /6²0 と表される. ∆g γα は先に述べた α 相と γ 相単相の自由 エネルギー密度の差である. 一方, 炭素濃度 yc の時間発展方程式は Cahn-Hilliard 方 程式から導かれ, 式 (1)∼(5) を考慮すると, 次式のように 表される. { ( 2 )} ∂yc ∂2g ∂ g ∇y + = ∇ · L0 (φ, yc , T ) ∇φ (8) c ∂t ∂yc2 ∂yc ∂φ L0 (φ, yc , T ) = vm yc yv Mc (9) ここで, vm はモル体積, yv は炭素原子が占有していない 副格子, すなわち空格子のモル分率であり, 相の種類に依 存するものと仮定して次式で表す. ( yc ) + (1 − p(φ))(1 − yc ) yv = p(φ) 1 − 3 (10) また, Mc は炭素原子の易動度であり, α 相における炭素 原子の易動度は γ 相に比べて非常に大きい. これを表現 するため, 本研究では α 相における易動度 Mcα , および γ 相における易動度 Mcγ を用いて次式で表す (4)(5) . Mc = (Mcα )p(φ) (Mcγ )(1−p(φ)) (11) 数値シミュレーションは式 (6) および式 (8) を, 時間に関 してはクランクニコルソン中央差分法, 空間に関してはア ダプティブ有限要素法を用いて離散化して行った (2) . 解析モデルと解析条件 3 γ → α 変態による界面の移動と炭素濃度分布の変化およ び γ 相の初期炭素濃度が変態挙動に与える影響を検討する ために, 図1に示す解析モデルを用いた. 解析条件は, 温度 が 1000K 一定の等温変態とし, 解析領域を DX = 0.4µm, DY = 0.2µm の長方形領域とした. 解析領域左端には長 さが約 0.03µm の初期 α 相を置き, 界面幅 δ=5nm の界面 領域を挟んで, その右側に初期 γ 相を配置した. α/γ 界面 には, 界面の初期形状が組織形態に与える影響を検討する ために, 緩やかな凹凸を与えてある. 境界条件は全方向の 解析領域端でゼロノイマン条件とした. Interface thickness δ = 5nm Temperature T = 1000 [K] Growth direction Initial α phase y α phase γ phase 0.0014 Fig. 2 x DX = 0.4 µm Fig. 1 30µs 10µs 100µs 20µs 250µs 0.0140 0.0267 0.0393 [mole fraction] 0.0520 0.1µs 1µs Computational Model. Interface γ phase 0.3µs 2µs 0.5µs 3µs α phase 解析結果および考察 γ 相の初期炭素濃度 ycγ = 0.02 における, 時間 1, 10, 20, 30, 100 および 250µs での炭素濃度分布を図 2 に示す. α 相の成長は γ 相への炭素原子の拡散を伴って進行する 拡散律則変態となっていることが分かる. γ 相に排出した 炭素原子は γ 相の界面付近に局所的に堆積し, その領域 は変態の進行とともに拡大していく. また, 界面での γ 相 および α 相の炭素濃度はそれぞれ, 1000K における各相 の局所平衡濃度 (α 相は yc = 0.0023, γ 相は yc = 0.0691) に近づいていく. 0.0646 Time variation in α/γ interface position and distribution of carbon concentration at ycγ = 0.02. α phase 本解析においては, α 相の初期炭素濃度は全て ycα = 0.001 とし, γ 相の初期炭素濃度 ycγ を様々な値に変化させ て数値シミュレーションを行った. 以下に, 本解析で用いた 物性値および各種パラメータの値を示す (6) . σ = 1.0J/m2 , vm = 7.0 × 10−6 m3 /mol, ²0 = 8.262 × 10−5 (J/m)0.5 , ξ = 0.3, k = 2, W = 2.637 × 109 J/m3 , λ = 0.1, Mφ = 7.195 × 10−10 m3 /Js. 4 1µs γ phase Zero Neumann boundary condition DY = 0.2 µm h = 0.03 µm 図3に γ 相の初期炭素濃度が ycγ = 0.002 における, 時 間 0.1, 0.3, 0.5, 1, 2 および 3µs での炭素濃度の分布を示 す. γ 相の初期炭素濃度が, 平衡状態図における α/γ 相境 界の炭素濃度値にまで小さくなると変態駆動力が増加し, 界面の移動速度が炭素原子の拡散速度よりも大きくなる. このとき, 界面後方の α 相に炭素原子が固溶したままの 状態で γ 相と同組成の α 相が生成する, マッシブ変態と なる. このとき, 界面における各相の炭素濃度は平衡濃度 とならず, 変態の進行に伴ってスパイク状の炭素濃度分布 を有した界面が速い速度で移動することが分かる. 本解析は, 式 (2) に示される異方性関数で解析可能な最 も強い異方性を考慮したが, 今回の結果には影響を及ぼさ なかった. 今後は, より強い異方性を表現できる異方性関 数を用いて, 数値シミュレーションを行い, 組織形態の評 価および炭素拡散挙動の影響をより詳細に検討すること を課題としたい. γ phase 0.0009 0.0012 0.0016 0.0020 0.0024 0.0028 [mole fraction] Fig. 3 Time variation in α/γ interface position and distribution of carbon concentration at ycγ = 0.002. 5 1) 2) 3) 4) 5) 6) 参考文献 P, Gustafson., Scand.J.Metall., 14, (1985), 259. T, Takaki. et al., J.Crystal.Growth., 283, (2005), 263. M, Hillert., Metall.Trans.A., 6A, (1975), 5. J, Ågren., Acta.Metall., 30, (1982), 841. J, Ågren., Scripta.Metall., 20, (1986), 1507. I, Loginova. et al., Acta.Mater., 51, (2003), 1327.
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