ポリマーの分子量

ポリマーの分子量
1.ユニット分子量の概念
PMMA[poly(methyl methacrylate)]の場合
CH3
-(C-CH2)n-
CH3
CH3
CH3
CH3
R-C-CH2-C-CH2-……-C-CH2-C-CH2-R’
COOCH3
COOCH3 COOCH3
COOCH3 COOCH3
繰り返し単位構造
(repeating unit structure)
ポリマーの全体構造(R と R’は開始剤ラジカル断片)
@PMMA のユニット分子量は: Mu(C5H8O2)≒12×5+1×8+16×2=100
[Q1] PMMA 14.0g を完全に加水分解して発生する MeOH 量(g)は?
[Q2] スチレン(St)65.0mol%、アクリロニトリル(AN)35.0mol%より成る共重合体の平均ユ
ニット分子量は?
@PMMA 全体の分子量は
:
Mu×n(繰り返し単位数)+Mw(R)+Mw(R’)
n は、どのようにして定義する?
2.平均分子量と重合度
ポリマーは、その構造的要因により必ず「混合物」になっている。
@上記 1.の[Q2]のように、共重合体になっている場合・・・・St65.0mol%/AN35.0mol%と言い
表していても、これらはあくまで平均値である。60/40 や 70/30 も含まれている。
@PSt とか、PMMA のように単一のユニッとより成り立っていても、種々の分子量(長さ)の
ポリマーの混合物である・・・・やはり平均値で表すことになる。どうやって?
ある PMMA ポリマーを調べてみたら、次のような混合物であることが分かった。
番号i
①
②
③
④
⑤
⑥
⑦
⑧
⑨
[Q3]
その分子量 Mi
その本数 Ni
本数分率χi: (Ni /ΣNi)
0.200 万のポリマー が 8.00 本含まれる
1.995×10-2
0.400
24.00
5.985
0.800
53.00
13.22
2.000
88.00
21.95
4.000
95.00
23.69
8.000
76.00
18.95
20.000
35.00
8.729
40.000
16.00
3.990
80.000
6.00
1.496
ΣNi=401.00
Σχi=1.000
横軸を i 番目のポリマーの分子量 Mi(対数目盛:102,103,104,105,106)、縦軸を i 番目
のポリマーの本数分率χi 、とした図を作成せよ。
(1) 本数で平均する(本数分率に関する単純平均)
【数平均分子量:Mn number-average molecular weight (mass)】
Mn = Σ(χi×Mi)
(a)
一般的に、Ni(i番目のポリマーが「何本あるのか」)など分からない。しかし、i番目の
ポリマーが「何gあるのか」が分かっていれば、計算可能。
i番目のポリマーの重量を wi、アボガドロ数を N とする。
Ni = (wi/Mi)×N (cf. wi=MiNi/N)
したがって、
χi=(Ni/ΣNi)=[(wi/Mi)×N/Σ{(wi/Mi)×N }]=(wi/Mi)/Σ(wi/Mi)
となるので、式(a)は、
Mn =
[Q4]
[Q5]
Σ(Ni×Mi)
ΣN i
=
Σ{(wi/Mi)×Mi }
Σ(wi/Mi)
=
Σwi
Σ(wi/Mi)
(b)
式(b)を用いて前頁の①~⑨のポリマー混合物の Mn を求めよ。(有効数字に注意せよ)
Mn は、Q3 で作成した図の「どこに相当する」のか?
Mn/Mu を数平均重合度 Pn (number-average degree of polymerization) といい、ポリマー
の構造式-( )n-において示す n とほぼ同意義である(慣習的に n は概数化した整数で表すが、
Pn は小数を含んだ数値である)。Mn が同じであっても Mu が異なれば、Pn(すなわち主鎖の長
さ)は違ってくる。
既に述べたように、材料科学的見地からは“PMMA”といっても Mn(あるいは Pn)がどのくら
いのポリマーであるのかによって、使い道が違ってくる。さらには、同じ Mn (Pn)であっても、
Q3 で作成した分散図(分子量分散曲線)がどのくらい広いのかによっても、用途が異なる。ゼロ
ックスコピーの最後の段階はトナー(カーボン微粒子を PMMA でコーティングしたもの)の熱定
着であるが、ある温度以上で迅速に融解/ある温度以下で迅速に固化するような「分子量分散」
の狭い PMMA が使用されている。それでは、「分子量分散」をどのように定義すればよいだろ
うか?
(2) 重量で平均する(重量分率に関する平均)【重量平均分子量:Mw number-average molecular
weight (mass)】と分子量分散【PD: polydispersity or molecular weight dispersion】
統計力学では、
「数平均・重量平均・z平均」という概念がある。重量平均は「重み付き平均」
ともよばれ、ここでは、ポリマーの「本数」を指標とした平均ではなく、「重さ(=分子量 Mi×
本数 Ni)」を指標とする。すなわち、i番目のポリマーの重量はすでに定義した通り wi であるか
ら、その重量分率ωi は、ωi=wi/Σwi と表すことが出来る。式(a)と同様に考えてωi を指標と
した平均分子量を求めると式(c)のように定義できる。
Mw = Σ(ωi×Mi)
(c)
Mi
本数 Ni
本数分率χi
重量 wi(MiNi/N)
0.200 万 8.00 本
1.995×10-2
1.600×104/N
0.400
24.00
5.985
9.600
0.800
53.00
13.22
42.40
2.000
88.00
21.95
176.0
4.000
95.00
23.69
380.0
8.000
76.00
18.95
608.0
20.000
35.00
8.729
700.0
40.000
16.00
3.990
640.0
80.000
6.00
1.496
480.0
ΣNi=401.00 Σχi=1.000 Σwi=3037.6×104/N
番号i
①
②
③
④
⑤
⑥
⑦
⑧
⑨
[Q6]
重量分率ωi
0.05267×10-2
0.3160
1.396
5.794
12.51
20.02
23.04
21.07
15.80
Σωi=1.000
横軸を i 番目のポリマーの分子量 Mi(対数目盛:102,103,104,105,106)、縦軸を i 番目
のポリマーの重量分率ωi 、とした図を作成せよ。
また Mi と N を用いて表すと、wi=MiNi/N なので、
ωi=wi/Σwi=MiNi/ΣMiNi
したがって、式(c)は(d)のように書き換えられる。
Mw =
[Q7]
[Q8]
Σ(wi×Mi)
Σwi
=
Σ(MiNi×Mi )
Σ(MiNi)
=
Σ(Mi2Ni )
Σ(MiNi)
(d)
式(d)を用いて前頁の①~⑨のポリマー混合物の Mw を求めよ。(有効数字に注意せよ)
Mw は、Q6 で作成した図の「どこに相当する」のか?
材料科学の見地から、あるポリマーサンプルの分子量を指定するときには、Mn と Mw 、ある
いは Mn と Mw/Mn(≧1)が必要になる。Mw/Mn を分子量分散といい、Q5,Q8 と関連して、
それらの図における分子量分散曲線がどの程度の広がりを持っているのかを表す指標となる。
さらに Mz を指定することもある。
Mz =
Σ(Mi3Ni )
Σ(Mi2Ni)
(e)
式(b,d,e)を見比べる。Mn→Mw→Mz となるにつれて、Σ(MiNi )/Σ(Ni) → Σ(Mi2Ni)/Σ(MiNi)
→ Σ(Mi3Ni)/Σ(Mi2Ni) のように分母・分子に Mi を掛けていけばよい。