ショパン/ピアノ協奏曲第 2 番 ヘ短調 Op.21 「ピアノの魂」(W・フォン

■ショパン/ピアノ協奏曲第 2 番 ヘ短調 Op.21
「ピアノの魂」
(W・フォン・レンツ)とまで言われたショパンの初期のピアノ音楽の中
で、ピアノ協奏曲第 2 番はピアニスト・ショパンの⼒量を鮮やかに印象づけた作品である。
1830 年 3 月 17 日にワルシャワで初めて開かれたショパンの公開演奏会は、何日も前にチ
ケットが売り切れる盛況ぶり。翌日の A・ドゥムジェフスキによる批評には「昨日、国⽴劇
場で音楽愛好家はすばらしい夕べを過ごした。800 人もの人々がそこにはいたが、彼らは
ワルシャワの聴衆が真の天才をいかに賞賛すべきか、⼼得ているのを証明してくれる。若い
ヴィルトゥオーゾはそこにいた人々をすっかり満足させ、傑出した巨匠の器をもっている
と認めさせた」と書かれている。
当時の聴衆を沸き上がらせた最⼤の理由はショパンのピアニストとしての実⼒であり、
ピアノの華やかな技巧を生かすよう構成された自作の第2番の協奏曲がそれを後押しした。
核となるメロディのまわりに細かく装飾的要素を加え、半音階的な⾛句がしなやかな転調
を導いて美しいハーモニーの変容をもたらすショパンのピアノ書法が、すでに確⽴されて
いる。彼は当時、性能を競い合っていたピアノの中から、とくにタッチが軽く、幾らかヴェ
ールがかかったような響きのプレイエルを好んだといわれる。この協奏曲に含まれる幻想
的な楽想も、銀の音色をもつとたたえられたプレイエルとよく合っているし、装飾音型を夢
のように奏でるため、タッチの軽さを重視したにちがいない。
第1楽章マエストーソは伝統的な協奏風ソナタ形式。高貴でしかも抒情をたたえた表情
が印象的である。第2楽章ラルゲットでは、慕情から生まれたといわれるアラベスク模様を
ピアノが繊細に描いていく。抒情味たっぷりの緩徐楽章だ。第3楽章アレグロ・ヴィヴァー
チェは⺠族的舞曲を彷彿とさせる主題をもつ。オーケストラを控えめに⽤いながら、主題が
戻ってくるところの巧みなホルンの楽句など、色彩的な響きによってピアノを浮かび上が
らせていく書法がうまい。
音楽学者 白石美雪
※掲載された曲目解説の許可のない無断転載、転写、複写は固くお断りします。