A1-1 がん患者の転倒を振り返る ○宮城 徹 1) 中松典子 1) 1)社会医療法人仁愛会 浦添総合病院 【はじめに】 転倒は身体機能や認知機能、環境などの要因が複雑な絡みあいにより起 こるものであり、因果関係は多くの先行研究で述べられている。しかし、 実際には病態の差異や偶発性から予防方法に頭を悩ませることは多く、 療法士は対象者の日中の活動レベルに、様々な評価を用いて多職種と連 携し各領域で工夫をしていると思われる。急性期病院である当院でがん 患者リハビリテーション専従として関わる中、がん患者が転倒を起因と して入院することや、夜間・早朝のカルテ記録を参照して転倒したこと を知るなど、病期による問題やリハが関わる時間外の状況について予測 と対応に苦慮しているのが実情である。今回、当院におけるがん患者の 転倒を振り返り、予防につなげることを目的としてまとめたので報告す る。 【対象と方法】 平成 26 年度 4 月から平成 27 年 9 月までの期間に、がん患者リハ専従で 対応した 460 名のうち、入院中に転倒した 7 名を対象とした。 ①平均年齢、②転倒直前の Performance Status(以下、PS)、③stage 分 類、④転倒した時間帯、⑤睡眠剤服薬の有無、⑥化学療法の有無、⑦医 療用麻薬の使用をカルテより後方視調査した。⑥化学療法と⑦医療用麻 薬については、χ2 検定を用い比較した。統計処理は Excel を使用した。 【結果】 ①平均年齢 62.1±12.2 歳、中央値 60 歳。 ②PS は Grade1 が 4 名、Grade2 が 3 名。 ③StageⅢ:2 名、StageⅣ:5 名。 ④転倒時間帯は 2 時~4 時の夜間帯に 4 名、10 時~12 時に 2 名、21 時が 1 名であった。日中の転倒 2 名は脳または肝臓に転移がみられていた。夜 間帯の転倒はすべて排泄に関連していた。 ⑤すべての患者が就寝前に眠剤(ゾピクロンまたはゾルピデム)を内服してい た。 ⑥化学療法は 7 名中 5 名が経験していた。 ⑦医療用麻薬は 7 名中 3 名が服用していた。化学療法と医療用麻薬はχ2 検定にて P<0.05 と有意差がみられ、今回の対象者では医療用麻薬に比 べ化学療法が有意に影響していた。 【考察】 睡眠剤、化学療法による有害事象と転倒について先行研究で関連性が調 査されている。今回の対象患者は全員が転倒前に睡眠剤を内服していた。 PSGrade1 は歩行可能で軽作業や座っての作業は行うことができる、 Grade2 は歩行可能で自分の身の回りのことはすべて可能、とそれぞれ定 義される¹⁾が、夜間帯の排泄関連について立位や Step を伴う場面では眠 剤使用による転倒への起因となったことが示唆される。日中に転倒した 2 名については脳または肝臓への転移を伴っていたが、薬剤報告によると 脳または肝障害では有害事象の出現および有害事象が遷延化しやすく注 意を必要とする事例とあり、日中の転倒の一要因となる可能性が考えら れた。 今回の対象者からは医療用麻薬に比べて化学療法の影響が高い可能性は 示されたが、化学療法の種類や有害事象としての悪心・嘔吐・骨髄抑制・ 手足症候群等の影響と関連性については症例数から傾向をみることがで きなかった。 【まとめと今後の展望】 活動量が高い患者でも睡眠剤内服後は夜間帯の転倒危険性を伴うこと、 病巣による代謝等の影響を踏まえて、排泄時の移動方法や環境調整につ いて検討する必要があることがわかった。 転倒した患者情報を基に共通点と可能性を検討したが、睡眠剤内服や化 学療法を受けていても転倒をしていない事例との違いについては述べる ことができなかった。今後はその差異を調査し、不要な安静を強いるこ とや活動量を下げることのないように明確にしたいと考える。生活の質 を下げず活動量を維持するためにも、がん罹患部位や PS、薬剤の影響な ど総合的に評価し、患者本人や家族・病棟スタッフへの情報提供を行い 転倒回避へ貢献したい。 ¹⁾JCOG ホームページ Common Toxicity Criteria, Version2.0 Publish A1-2 「脳卒中片麻痺患者に対して IVES と手指伸展 Splint を併 用した 1 症例」 ~自動関節可動域に着目して~ ○座覇政成 医師 末永正機 医療法人ちゅうざん会 部 作業療法科 ちゅうざん病院 リハビリテーション 【はじめに】 脳卒中片麻痺患者に対し脳の賦活化として随意性介助型電気機器 (以下 IVES)での治療効果が散見される。その中で手関節固定用 Splint と IVES 併用の治療報告はあるが手指伸展 Splint との報告は 尐ない。今回脳卒中発症後、手指の脱力感を訴え特に示指 PIP 関節 のみ自動伸展運動の改善が遅延した患者に対し、手指伸展位 Splint (以下 Splint)と IVES を併用し治療を試みた結果、手指自動伸展可動 域が短期間で改善した症例を経験したので考察をふまえ報告する。 【症例紹介】 A 氏 70 代女性、利き手:右、診断名:アテローム性脳血栓症 (大脳皮質への小梗塞)H27.1 月に右母指~中指の脱力を主訴に急性期病 院受診された。急性期病院受診後2週間目に当院外来へ紹介あり 外来リハビリテーション(以下リハ)開始。初期評価、Brs:Ⅴ・Ⅳ・Ⅵ、ROM:他動制 限無く自動 ROM:中指 PIP 関節伸展-20°母指 IP 関節伸展-15°示指 PIP 関節伸展-40°筋力:手指屈筋群 3、母指伸筋群 2、示指伸筋 2、総指伸筋:2 ~3、虫様筋:2~3、骨間筋 3、MAS:1、握力:右 7.6 ㎏左 17.6 ㎏、感覚: 表在・深部感覚共に軽度鈍麻。STEF:拒否。MMSEJ22/30 点。ADL:独歩にて 自立。FIM117 点。ニーズ:指が動くようになりたい。夫が他界されてから 日中不動傾向。 【治療経過・結果】 リハ開始 10 日目から手指伸展促通反復訓練に IVES を加えた。回数 は週 3 回、使用時間は 15 分×2 回総指伸筋・示指伸筋へ貼り手関節 中間位固定にて実施。IVES 開始5日で母指、中指完全伸展可能とな った。そこで示指 PIP 関節伸展に対し IVES 使用後 17 日目に Splint 作成。自宅で随時装着するよう指導した。作成 3 日後に示指完全伸展 可能となった。最終評価、FIM:124 点、Brs:Ⅵ・Ⅵ・Ⅵ、ROM:制限無し、 STEF:右 92 点、左 98 点、感覚:正常、筋力:母指伸筋群、示指伸筋、 総指伸筋、虫様筋、骨間筋共に 3、握力:右 7 ㎏左 18 ㎏、MAS:0 【考察】 手指自動伸展が早期に可能となったのは『IVES は随意運動との融合に より皮質脊髄路の賦活化の効果が得られ筋緊張にも相反抑制効果があ る』と報告がある。運動麻痺の回復ステージ理論では 1stStage 『急性期の回復メカニズムは残存している皮質脊髄路を刺激し興奮を高 めることで麻痺回復の促通時期となりその興奮は 3 ヵ月で消失する』と の報告がある。IVES を行った事で 1stStage に皮質脊髄路を賦活化し母指、 中指の改善に致ったと考える。示指に関しては、脳卒中ガイドライン 2009 『麻痺側上肢の痙縮に対し痙縮筋を伸張位に保持する装具又は FES 付装 具を考慮してもよい』とあり、Splint と IVES の併用で手指屈筋群の筋緊 張を抑制し示指伸展運動が促通し易くなった。さらに『痙縮の発現にお いて不動化は筋の短縮、痙縮の原因になる』との報告がある。症例は生 活場面で不動傾向にあり常に手指屈筋群有意の肢位で痙縮亢進に繋がっ ていたと考えると、自宅での Splint 装着は手指屈筋群の痙縮抑制になっ たと考える。又、Splint はコンパクトであり着脱も簡単な為抵抗無く装 着する事が出来たと考える。 【まとめ】 今回の治療結果から IVES と Splin を併用する事で脳卒中片麻痺患者の 手指伸展促通の一手段として効果が期待できるのではないかと考える。 今後も IVES と Splint を併用しての治療効果を継続して検証していくと 共に、早期の随意性向上を図り ADL・IADL への麻痺側上肢の参加を可能 に出来る様に取り組んで行きたい。 A1-3 急性期における電気刺激装置(IVES)を利用した治療経験 A1-4 「高次脳機能障害」 ~人となりを理解する。回復期作業療法の連携~ ○渡久知かおり 1) ○照谷優子¹⁾、久場政也¹⁾、内間勝弘¹⁾、新里順治¹⁾ 1)琉球大学医学部付属病院リハビリテーション部 【はじめに】 近年脳卒中片麻痺による、上肢機能障害に対し、頭蓋への磁気刺激や 電気刺激により脳の興奮を変化させることで、麻痺の回復を図るという、 脳機能研究に基づいた、新戦略が試みられている。一方、麻痺肢への電 気刺激療法における昨今の報告では、脳の機能的再構築を促すといった、 中枢性機序を示唆する報告が散見される。今回、随意筋電制御電気刺激 装置(以下 IVES)の外部アシストモードを使用した、急性期作業療法の治 療経験について報告させていただく。 【症例紹介】 80 歳代男性。朝方より呂律難出現しており、家族が受信を促すも拒否 あり。数時間経過するも症状改善認めず左上下肢の脱力感が出現し当院 緊急搬送。頭部 CT 施行後、急性期病変認めないも、呂律難持続している ため、精査目的にて入院。頭部 MRI 施行し水平断にて、13.Ox8,9mm のア テローム血栓性脳梗塞の診断にて投薬治療開始。発症より 6 日目、ペッ トサイドリハ開始となる。介入当初の所見として、Br.stage 上肢Ⅰ/手指 Ⅰ、腱反射消失しており、自動運動困難。発症 13 日目(介入 7 日目)、腹 部大動脈瘤疑いにてベット上安静となる。安欝期間中も、ベットサイド にて他動可動域訓練のみ可能な範囲で介入。発症より 24 日目にてステン トグラフト施行し、28 日目より心臓リハビリ開始。30 日目より OT 再開 となる。(作業療法中止期間は、ope 前後の 11 日間) 【訓練内容】 発症後、35 日目より IVES 導入開始。非麻痺側の筋活動電位を利用し麻 痺側の筋収縮を促通させる、外部アシストモードを利用した、上肢機能 訓練実施。ターゲット筋として、椀骨手根伸筋/総指伸筋を選択。15 分/1 回として、5 回/週、計 12 回施行した。課題指向型の訓練を課題とし、近 位関節の動きに関しては、徒手的に動きを誘導し、代償動作を抑制しな がら実施した。 【結果】 IVES 導入当初〔発症より 35 日目)の Br,stage 上肢Ⅰ~Ⅱ 手指Ⅰ~Ⅱ 導入後(発症より 50 日目/導入後 15 日目)Br.stage 上肢Ⅱ~Ⅲ 手指Ⅲ 緩徐であるが改善を認めた。 【考察】 IVES のパワーアシストモードを使用した、臨床報告は散見される が、外部アシストモードを使用した、急性期での報告は尐ない。今回、 重度の麻痺を呈した症例に対し、外部アシストモードを使用したところ、 緩徐ではあるが麻痺の回復を認めることができた。これは従来の機能的 電気刺激と比較し、症例の意志が反映されるため、感覚入力が促通され ることで、運動の統合がされたのではないかと考える。また両側運動を 課題として取り入れたことで、半球間の活動バランスを整え、運動麻痺 の機能回復を促進させる一助となったのではないかと考える。発症後、 重度の麻痺を呈した患者様に対して、外部アシストモードを使用した、 上肢機能訓練は随意運動を誘発するための手助けになると考える。 1)大浜第二病院 【はじめに】 高次脳機能障害者への介入が難しいのは、障害に対する知識の不十分 さもあるが、障害そのものを追体験しにくいという特徴があることも一 因と言われている。障害を検査所見からだけではなく、実生活における 「観察」を通して解釈することで対象者自身の気づきを促し生活能力の 向上に繋げることが出来た。独居に向けての取り組みについて報告する。 【症例紹介】 70 歳代 男性 (要支援 2) 診断名:急性硬膜下血腫(X 年 11 月発症) 入院日:X 年 12 月 既往歴:慢性硬膜下血腫、高血圧 【高次脳機能評価(ST より)】 ・WAIS-Ⅲ)VIQ86、PIQ65、VC93、PO66、WM96、PS72 ・CAT)選択性注意力の低下。正答率は高いが時間が掛かリ過ぎている。 作業記憶が著しく低下、年齢平均値を大幅に下回っている。 【日常生活での問題点(OT 評価) 】 ・入院時に決まった移動手段(歩行器)を守れていなかった。 ・ナースコールの理解はあるが、使用できていなかった。 ・部屋の場所が分からず迷う。・食事制限を守っていなかった。 ・リハビリの拒否があった( 「今日は無いと聞いた」との事) ・入浴も拒否(スタッフ誘導に「リハビリが来るから…」との事) ・排泄管理及び服薬管理ができていなかった。 ・周囲の状況に合わない言動に大きかった。 【問題点と要因の関係性】 ・入院による新たな日課において管理や対応が不十分な面 記憶障害、情報抽出力の低下、理解力低下→早合点 ・感情の起伏 情報の抽出力低下、整理困難、易刺激性→易怒性として表出 ・コミュニケーション面 情報処理能力低下、情報抽出力低下→理解を誤りやすい 【課題】入院中~退院後の独居に向けて ・移動面:徒歩やタクシー移動が安全に行える ・食事面:栄養面を考慮した惣菜の組み合わせや調理が出来る ・金銭管理:貯金通帳の管理、ATM や窓口での手続きが行える ・病院受診から服薬管理:手続きと薬の服用が出来る ・コミュニケーション面:困ったときの対処方法を確認できるなど、意 思を表出したり相手の事を理解したり、やり取りが出来る様になる 【介入経過】 ・病棟生活で起こっている問題と、症例が困っていることを確認し退院 前の生活状況も踏まえて障害の見立てを立てていく→特に ST と協業。 ・聴理解の低下が見られたが、症例は周囲の評価を気にしやすいこと等 の性格から分らないことを周囲に確認することがなかった→問題解決が 困難だが、初めに視覚情報(カレンダー・表札・メモ)の代償手段を導入。 ・院外リハビリで実際の生活範囲と動きを確認し、症例が何に困ったか を抽出する→出来ていることも併せて確認でき、動機づけに繋がる。 【考察】 入院当初は、病棟職員や時にはリハビリスタッフとの話の食い違いか らトラブルが起きやすかった。その際のやり取りで上手く伝わらないこ とが“易怒性”として表出されたと思われた。鈴木1)らは高次脳機能が どの過程でどの程度残存しているか等を検討するには画像所見を確認し ながらインタビューや観察、神経心理学的検査を駆使して「情報処理過 程」の分析を行うことが効果的と述べている。症例の症状や障害を見出 す事だけに終始せず、対象者の現状を理解し解釈することで、現状をい かに変化させ生活の質を向上させるか。その為に対象者自身の現状に対 する「気づき」を高め、前述した「解釈」過程を ST や PT と協業し介入 に繋げる必要があると考える。 A2-1 痛みなく起き上がってほしい ○下里 わかな 1) 1)大浜第一病院 仲本 裕香里 1)(PT) 下里 綱 1) 【はじめに】 化膿性脊椎炎発症後,疼痛により長期臥床状態が続いている症例を担当し た。離床が進まなかった症例に対して,作業療法(以下;OT)の中で,スライ ディングシート(以下;シート)を活用した結果,疼痛が軽減し離床を進める 事ができた。活動性向上へ繋がった症例の経過に考察を加えて報告する。 【事例紹介】 90 代男性。診断名は L4/5 化膿性脊椎炎(以下;脊椎炎)。既往に右腸腰筋 膿瘍の手術歴あり。 合併症として L4/5 脊椎周囲の広範囲に炎症所見あり。 入院期間は 180 日を超え,疼痛による長期臥床が続いた。脊椎炎は慢性化 しており治療の手立てがなく,約 3 か月間の抗生剤点滴加療後,内服へ切 り替えながら様子を見る事となった。入院前は独歩自立されており出来 ることは何でも自分で行っていた。活動的で常に家族の中心であった。 【開始時所見】 日常会話は可能。明るい性格でユーモアがある一方で,真面目な場面では はぐらかす事が多く,認知機能面の精査困難。看護師からの病棟生活状況 を聴取すると認知機能の低下は否めない。リハビリは意欲的で食べる事 が好きである。家族には疼痛訴えが強いが、OT 時は疼痛をこらえて頑張 る事がある。しかし運動時痛が強く頭頚部は伸展固定。疼痛誘発するた め自己体動はほとんどない。体動時フェイス-スケール(以下;FS)5/5。電 動ベッドギャッジアップ(以下;G-up)困難であり,もともと仙骨部にびら ん形成を認めたがエアマット導入後に改善した。病棟 ADL 介助時は,諸 動作時に協力動作得られるが,疼痛の訴えが強く病棟スタッフ(以下;病棟) からは一様に「介助が大変」との声が聞かれた。ADL 全介助(FIM23/126)。 【目標と基本方針】 本人・家族の希望を踏まえ,当面の目標を「痛みなく起き上がれるように なる」と設定。身体機能向上練習と共に,OT 以外でも痛みなく G-up を行 えるように,シートを活用した離床や病棟デモンストレーションの実施を 考案。痛みのない離床から活動性向上を図ることを方針とした。 【介入経過】 ○入院日+17 日~38 日:頭頚部/肩甲帯及び腹圧コントロールを行いなが らシートを使用 G-up 時の姿勢緊張調整を実施。接触摩擦を軽減する事で ほとんど疼痛なく G-up 可能となる(FS:0~2/5)。楽な G-up 座位が得られ た時点で病棟へ介助方法のデモンストレーションを実施。病棟がシート を使用し G-up 可能となり G-up 座位にて食事の自己摂取自立となる。 ○38 日~106 日:シートとシーツを使用し,2 人介助にて平行移乗で車いす 離床実施。PT、OT 共同介入し介助方法を統一し,病棟へ介助方法を伝達 した(デモンストレーション)車いす座位にて食事の自己摂取自立となる。 ○106 日~:シートを使用せず G-up 可能(FS:0/5)。端座位より車いす移乗 介助(FS:1~3/5)。病棟でも ADL 介助量軽減を実感(FIM47/126)。OT で は平行棒内練習を開始。その時期より食事量が増加,また他者とのコミュ ニケーションが増え活動性向上。主治医は,本人の生活状況を見て身体状 態が改善傾向と判断。当初より早い段階で抗生剤を内服切り替えとした。 【考察】 当初,症例は化膿性脊椎炎による炎症性疼痛と長期臥床による慢性疼痛 が混在する状態でベッド上の臥位姿勢は高緊張が常態化していた。G-up していく中でベッド背板可動部の角度が上昇すると,背部の接触圧力上昇 による不良姿勢誘発と胸部の圧迫感による不快感を解消するために,症例 は更に腰背部過伸展を運動戦略として選択した為に,更なる疼痛憎悪を誘 発していたと考える。今回シートを使用し摩擦軽減と圧分散を図る事で、 G-up 角度に応じた安楽な姿勢を確保しやすく,疼痛軽減した離床が行え たと考える。シートを用いることで摩擦係数が通常の布地より約4割軽 減するという先行研究もあり,OTR がシート使用による G-up を試した際 も,自己体動がなくても安楽な姿勢のまま G-up できることを内観できた。 また病棟と連携し離床時の疼痛軽減を図れたことで,日中の離床を促すこ とができ,症例の活動性向上へ繋がったと考える。特に車いす座位が安定 化することにより,元々食べることが好きだった背景からも食思アップと ともに情動の変化や意欲・体力の向上まで波及し QOL の向上が得られた。 【まとめ】 シートの特性を活かし離床を進めるきっかけが作れた事で,予後予測を上 回った活動性の向上を得る事が出来た。介入経過の中で,誰にでも安心し て楽に行える介助方法を考案し,指導していく役割をリハビリスタッフが 担うことの重要性を感じ,また病棟と協力体制を作っていく事の必要性や 難しさを痛感した。 A2-2 急性期整形外科病棟で生活行為向上マネジメントを実施し、活 動的な生活が送れるようになった症例 ○吉嶺綾乃¹⁾ 仲本裕香里 1) 下里綱 1) 1)大浜第一病院 リハビリテーション科 【はじめに】 亣通外傷にて,日常生活活動(以下;ADL)全介助レベルで,依存的だった症 例に対し,生活行為向上マネジメント(以下;MTDLP)を活用した作業療法を実施 した.何事に対しても依存的だった症例が,トイレ動作を獲得することをき っかけに,生活範囲が拡大した経過を報告する. 【事例紹介】 50 代男性.道路を横断中,車にひかれ右脛骨腓骨骨折,腰椎破裂骨折,左 寛骨臼骨折を受傷.既往に脳梗塞,糖尿病,糖尿病性腎不全(人工透析).手 術適応はあるものの,リスクが高く保存療法が選択され,3 週間介達牽引での ベッド上安静となった.入院前は,母と二人暮らし,ADL・屋外歩行は独歩に て辛うじて自立.印象として,大柄で無口・無表情,介護に対する羞恥心は なく意欲が全くないように感じられた.受傷後 3 週が経過し,離床開始す る頃には廃用症候群が進行しており,起立性低血圧にてバイタル変動が著明 で,端座位保持は困難であった.ADL は BI にて 5/100,食事以外は全て介助, 排泄コントロールに関しても排尿は導尿,排便は失便を繰り返していた. 多関節骨折,人工透析もあり,臥床を余儀なくされ,本人の依存的態度も 重なり,ADL の介助量や介助負担感はなかなか改善されなかった.一方で, 本人からは「歩いて家に帰りたい,いずれ歩けるから車いす練習は必要な い」との発言が聞かれ,家族からは,「高齢の母が介護することは困難,自 立できなければ施設を検討したい」と双方の方向性に乖離があった.回復 期リハへの転院も検討したが,人工透析管理上,転院調整に難渋した.受傷後 7 週でカンファレンスを実施し,一ヶ月後の転院または施設入所を方向性とした. 【作業療法評価】 カンファレンスで決まった方向性は,本人の希望に沿うものでなかったため, 受傷後 7 週目で MTDLP を導入.症例に目標を問うも「身の回りのことは手 伝ってくれるし,パソコンは寝ながらできるから何も困っていない,時期が きたら歩けるから今は何もしない」との発言が聞かれ,目標設定に難渋し た.そこで,目標を模索するために「興味・関心チェックシート」を使用したとこ ろ,排泄や就労に関することに興味があることが分かった. 身体機能面の評価として,荷重に対する痛みは無く,血圧コントロールなども 徐々に改善しており,本人の意欲が伴えば,日中の離床は出来る状況であ った.部分荷重が獲得できれば,トイレへの移乗も可能になる見込みあり, 「移乗動作が自立しトイレで排泄ができる」ことを合意目標とした. 【介入の基本方針】 荷重制限とベッド上で腹圧をかけられないことが,移乗動作と排泄コントロ ールの阻害要因として考えられた.そのため,荷重制限を守りつつも安定し た立ち上がりと方向転換を保持すること,安定した座位保持を維持し腹 圧が掛けられることを主眼においた. 【作業療法実施計画】 ティルトテーブルでの荷重練習を基に,基本プログラムにて座位保持向上を, 応 用プログラムにて荷重量を内観できた直後に実際のトイレ動作練習を取り入れ た.社会適応プログラムとして,車椅子駆動での買い物練習などを挙げた. 【介入経過と結果】 安静度に合わせ,立位・荷重練習を段階的に実施.荷重量の調整が出来た ことを確認し実際のトイレ動作練習を導入した.合意目標であったため, トイレ 動作練習の受け入れは良好であった.リハ以外でも病棟スタッフとトイレ動作の 介助方法の情報共有を通して ADL は日に日に改善していった。トイレでの 排泄という成功体験を得る事で表情や言動に変化が見られ,自発的に活動 し依存的な態度は尐なくなった.ADL は BI;80/100 へ改善,目標に対する 実行度や満足度は 1/10 から 9/10 へ向上した.また,コミュニケーションの機会が増 え,日中は車いすにてデイルームで過ごし生活範囲も拡大した.最大歩行能力 Walker30m まで改善し,将来的に在宅に戻る目標を持って転院となった. 【考察】 今回の事例は,多関節骨折で荷重制限を余儀なくされ,突然の身体機能 の変化に自身の置かれている状況を理解できない一方,退院後の生活を 楽観的に捉えていた.「歩いて帰る」までのプロセスを教育的アプローチとして 提示したことが,達成可能な目標を共有し,活動の意義を明確にできた因 子になった.さらに目標を自己決定すること,適宜フィードバックし満足度を確 認することが ADL 拡大へ好影響し, モチベーションを高める因子になった. A2-3 「やーに帰ってデイケアに通いたい」 A2-4 幼稚園での作業療法士の評価と関わりから学んだこと ~入所時から多職種連携して目標を共有し環境調整を行 った事例~ ○比嘉一絵 1) ○川上 1)とよみ生協病院 喜広 1) 1)社会福祉法人いなほ会 信成苑 【はじめに】 象者に生活行為向上マネジメント((以下 MTDLP)を使用しチームアプロ ーチを行い,自宅復帰ができた事例を以下に報告する. 【事例紹介】 A 氏 90 歳代女性.身の回りの事は,家族,介護の支援を受け一人暮らし. 義理の妹の子供達を母親代わりとして一緒に育てた. X年11月頃,発熱により細菌性肺炎と診断.その後,廃用の進行が見られ, リハ病院に転院.退院後家族より一人では心配との事で当施設入所とな る. 【作業療法評価と実施計画(MTDLPシート使用)】 1.生活行為聞き取りシート)A 氏「やーに帰ってデイケアに通いたい」, 理由として「やーは姪や甥がいるさー」.デイケアは「同じ部落の人とユ ンタクできる」家族「歩く練習をして一人でトイレをできてほしい」し かし「認知が悪化し歩くのも危なく施設入所を考えています」 2.生活行為向上マネジメントシート)生活行為の目標を妨げている因子 として,心身機能面では,認知機能低下,耐久性の低下,バランスの不安定 を挙げた.強みは,ある程度下肢筋力は維持されている.全身の耐久性,バ ランスの改善が見込まれた.活動,参加面では,BI65 点.トイレ動作では, ズボンの上げ下げはできるが,パット内に失禁が多い.移動は介助で杖歩 行が可能な状態.今後,機能訓練や歩行訓練を実施する事で,杖,伝い歩き で自立できると考えた.強みとして,家族が協力的である.また,自宅環境 ではベッドからトイレまで手すり設置.しかし,玄関までに階段があり介 助が必要.住宅改修を行い,自宅で生活できると判断.合意目標『在宅生活 を目標に歩行の安定を図りトイレ動作が自立できるようになる,また,以 前のようにデイケアに通う.』しかし,家族は消極的であった.(実行度 4, 満足度 1)実施計画として,①自宅に近い環境を作り,機能訓練,歩行訓練, トイレ訓練を立案.②自宅訪問での能力動作の確認,問題点の抽出.③デ イケアへ参加,外出,外泊訓練し自宅復帰を目指す. 【介入経過】 自宅に近い環境作りを行い,トイレまでの導線に手すり設置し杖と伝 い歩きで移動可能.自宅訪問を行い,自宅での生活動作を確認.室内では, 杖と伝い歩きで小刻み歩行が見られ疲労感があった.ベッドからトイレ までは手すりを把持し,ふらつきが見られた. 生活棟では,機能訓練を行い,トイレ,歩行訓練は介護職員と検討しな がら行った.夜間は覚醒なくパットに失禁が多く,介護職員と相談して就 寝前はオムツ型パンツに履き替えてもらった.また,相談員,介護職員,リ ハスタッフと協力し,付き添い歩行で階段を利用しながらデイケアの集 団体操に参加され笑顔で楽しまれていた.再度自宅訪問を行い,杖と伝い 歩きで移動が可能となった.また,退所に向けてのカンファレンスを行い、 医師からも本人の状態を説明し.外出,外泊訓練を実施し家族より「大丈 夫です」と発言された. 【結果】 トイレ動作,歩行の安定化が図れBI75点に改善された.また,住宅改修 の予定となり自宅復帰の運びとなった. (実行度7,満足度10) 【考察】 入所時から,環境調整を行い多職種と課題と目標を共有し,本人の能力 活用と環境適合を図った結果,できる ADL が拡大した.また,家族は自宅に 帰る事は消極的であったが、自宅訪問や外出,外泊を行い,医師からも説 明を行った結果,家族の心理状態も「家で生活できるかも」と徐々に変化 が見られた.さらに,デイケアに参加し自己有能感が感じられるようにな ったと考える. 【はじめに】 今回、那覇市内の幼稚園で先生からの依頺があり、便失禁が続いてい る生徒に対して、小学校への進学に向けて、支援する機会があった。そ の生徒に対して、作業療法評価の作業遂行を測定評価する COPM と AMPS、心理面から色彩バウムテストを実施。その結果から、生徒との 関わり方や環境に工夫する提案をした。その変化がみられたので、その 結果と現在の小学校への就学状況を含めて、以下に報告する。 【事例紹介】 5 歳男児(以下 A 氏と記す)、祖母・父・母・弟の 5 人暮らし。両親は 便失禁に対して、気にならないとのこと。幼稚園の先生より、学校生活 での便失禁や友達との関わりについて、心配とのこと。初回の面接で先 生が気になることは、1 便の垂れ流しが週 3 回以上はあること、2 友達 と遊びたいけど、遊べずに叩いていじわるをすること。園内の生活では、 易疲労性で床に座る場面が多く、外で遊ぶ友達から離れ、縁側で絵を描 く姿もみられる。便秘の時、ぼぅーとして話を聞き、集中して何かに 取り組むことが難しい状態であった。 【評価】①COPM ② AMPS ③ 色彩バウムテスト ①②③を実施から、A 氏は易疲労性や筋力低下(特に両内転筋郡) 、感 情表現の乏しさより「排泄をする、友達と遊ぶ、掃除する」がやりたい が、満足できていない状況である。このことを先生に報告し、排泄の誘 導時間の設定方法や、両下肢筋力運動のできる課題でボールの蹴り遊び 方法を提案した。 【介入経過】*月に 1~2 回の定期訪問をし、作業と方法を提案した。 《第 1 期:7 月 10 日~7 月 17 日》 ボール遊びにて、両下肢筋力運動とコミュニケーション練習(友達と亣 流する)と排泄の時間を決め、トイレへ誘導することを開始する。しか し、友達とボール遊びをする際は自ら友達と関わることができず、先生 が手助けをする必要性がある。 《第 2 期:9 月下旬~11 月上旬》 水泳の時期が終える頃に、縄跳びを開始する。先生が 「なわとびカー ド」を作成し、先生の前で飛んだ回数毎に、カードにシールを貼る。合 格賞として、メダルを皆の前で授与する方法を行う。結果、一人で黙々 と練習をすることが増える。また、トイレで排泄(便)をして、失禁す ることがなくなる。 《第 3 期:11 月中旬~3 月 6 日》 100 回以上の前飛びが縄跳びでできるようになり、友達の前で名人メダ ルを授与される。遊び時間には、A 氏が一人で縄跳びを始めると、周り に友達が一緒に縄跳びをするようになる。縄跳びを通して、友達と一緒 に過ごす時間が増える。 【変化点】初期:6 月 12 日 → 最終:3 月 6 日 ①COPM:優先順位の高いものを選択する。 ・A 氏(1)トイレで排泄する;遂行度初 2→終 10、満足度 初 2→終 10、 (2)友達と遊ぶ;遂行度初 3→終 7、満足度初 2→終 4、(3)掃除をする; 遂行度初 2→終 3、満足度初 3→終 4 ・先生(1)トイレで排泄する;遂行度初 1→終 8、満足度 初 1→終 8 、(2) 友達と遊ぶ;遂行度初 3→終 7、満足度初 2→終 10、(3)掃除をする;遂 行度初 1→終 2、満足度初 1→終 2 ②AMPS:(掃除、更衣の課題で評価を実施。 ) 運動技能初 0.58 logits→終 1.35 logits(0.77 logits 向上) 、プロセス技能 初 0.12 logits→終 0.72 logits(0.6 logits 向上)の変化がみられた。 ③色彩バウムテスト:自己肯定度初 12/39 点→終 15/39 点、自己否定度 初 9/39 点→終 10/39 点。感情表現の乏しさ、不安定さの軽減と自己表現 力の向上がみられる。 【考察】 幼稚園の先生は A 氏に対して、小学校の進学前に便失禁を無くしたい、 友達と一緒に遊べるようになってほしいという思いがあった。A 氏は縄 跳びを通して、便失禁の改善と友達と遊ぶことができるようになったが、 小学校へ就学し、再び失禁する回数が増えた。それは、小学校の先生へ の引継ぎ情報が不足していたことや、親が便失禁の改善に対して、意識 が乏しいことが影響していたと考える。幼稚園で成長した変化を次の就 学場の先生方や両親と情報共有できるシステム作りの必要性と、周囲の 大人が子供の成長に気づいて関わることの大切さを感じた。 B1-1 大葉性肺炎を呈した超高齢者に対する時期別アプローチ ~栄養を一指標として~ ○大田 守悟 1) B1-2 その人らしい生活を取り戻す事を目的とした取り組み ~患者視点の計画に気づいた一症例~ ○山城 湧上 理王 久貝 聖(Dr) 明人 兼城 賢也 崎原 尚子(Dr) 1)大浜第一病院リハビリテーション科 1)宜野湾記念病院 【はじめに】 厚生労働省調査で 90 歳代男性の死因第一位は肺炎となっており、予後 因子を研究した報告の中でも高齢男性であることは予後不良因子である。 今回、呼吸状態悪化の為一時 NPPV(非侵襲的陽圧換気方法)管理まで行っ た超重症肺炎の超高齢男性に対し、栄養評価を一指標に時期別で関わっ た点を以下に報告する。 【対象】 99 歳男性。クレブシエラ性肺炎による大葉性肺炎。基礎疾患はなく、 入院前は何とかではあったが ADL 自立レベルであった。A-DROP システ ム重症度分類超重症レベル。血液検査で CRP:28.9mg/dl、ALB:2.7g/dl、 TP:6.2 g/dl。血液ガスは pH:7.38、PvCO2:34mmHg、PvO2:38mmHg、 HCO3-:20.1mmHg。 【介入の基本方針】 介入開始時は異化期の時期であり、栄養も中等度消耗状態であった。 酸素吸入量など呼吸状態、胸部画像でのコンソリデーションの変化、無 気肺の改善具合の他に CRP、ALB での炎症、栄養状態の改善などを指標に しながら早期離床を図っていくことを目標にした。 【治療経過】 入院時:リザーバーマスクで酸素 7.0L/分吸入し SpO2:90%台前半、呼 吸数:26 回。食事は高カロリージュースを1日に数口摂取する程度であっ た。 異化期:酸素吸入量は徐々に減り、入院 8 日目には酸素マスク 4.0L/分 で SpO2:90%台前半をキープできるようになった。CRP:16.5 mg/dl、 ALB:1.6 g/dl、TP:5.1 g/dl。この時期は炎症反応に伴う栄養消耗があり、 カロリー摂取もほとんどできていなかった為、過負荷にならないよう ROM 訓練やポジショニングなどベッド上での介入を中心に実施した。 異化期~同化期:入院 11 日目に呼吸状態悪化し、NPPV での呼吸管理と なった。それに併せて CV(中心静脈)カテーテルを留置し、中心静脈栄養、 ALB 投与が開始された。CRP:6.95 mg/dl となり、ALB:1.8 g/dl に改善が みられた。CRP:3.0 mg/dl を下回った時期を同化期と考えるとされている が、中心静脈栄養が開始されたこと、NPPV によって呼吸疲労が減尐でき たことを考慮し、作業療法では低負荷の筋力強化プログラムを追加した。 同化期:入院 22 日目に NPPV を離脱し、マスクで酸素 4.0L/分吸入に移 行した。この時期には端座位訓練、車いす座位訓練へと徐々に離床を進 め、活動範囲を広げていった。ベッド上で過ごす時間が長く、認知機能 の低下もみられていたため精神機能賦活のために計算課題を取り入れた。 元々排泄自立しており、オムツ排泄を減らすためにトイレへの時間誘導 なども取り入れていった。入院 30 日目には呼吸状態改善し酸素吸入終了 となり、最終検査では CRP:1.40 mg/dl、ALB:2.5 g/dl、TP:6.6 g/dl へ 改善した。リハビリの時間以外でも新聞を読んで過ごしたり、トイレ誘 導した際に自尿がみられるようになり、介助量も軽減した。 【考察】 本事例は経過の中で、抗菌薬開始とともに解熱し、CRP が改善したこと や、CO2 貯留が軽度で換気障害が尐なかったことから疾患に対する予備力 があると予測し介入を行った。具体的には異化期の負荷量を最低限に抑 えながら廃用症候群を予防し、同化期に離床を進めていけば状態の安定 と共に ADL や余暇活動など生活へ視点を向けたアプローチができると考 えた。急性期リハビリテーションにおいて、まずは全身状態の安定に向 けて理学療法と内容がオーバーラップする部分が多いが、その中でも作 業療法の視点で認知機能に目を向けたり、離床が行える時期になると生 活をイメージしながら ADL 訓練を取り入れていく視点が必要であると考 える。 【はじめに】 入院中に「退屈」「他にやることもないから・・・」と訴え、入院生 活において活動参加へ消極的であった症例を経験した。『本人の意欲を 引き出す』ことを目的とした活動を提供し、活動へ積極的に参加するよ うになった。本症例の発言から入院生活のあり方を熟考する必要性に気 づき、患者視点を意識する機会となった。今回は、入院前の『いきいき とした生活』を入院生活においても感じることができるように取り組ん だ。その経過に考察を加え報告する。 【症例紹介】 80歳代女性。左大腿骨頚部骨折による、生活障害に対するリハビリ目 的にて当院に入院となる。69歳までは、様々な仕事を行っていたが、70 歳代の脳梗塞により左片麻痺を呈し、介護保険サービスを利用開始。入 院前は長女の支援を元に独居生活を行い、皿洗い等の簡単な役割をして いた。また週4回の通所リハを利用し、他利用者との亣流や集団活動、舞 踊の指導を行なうことを楽しみとしていた。 【取り組み前】(回復期転床日~32日目) 理学療法・作業療法による個別リハビリテーションを毎日3時間積極 的に参加する。また、30分の集団起立練習へ毎日参加するも、その他の 時間は臥床傾向にある。FIM:87点。移動手段は車椅子で、生活行為への 自主的な参加(ナースコール・訴え)は尐なく、職員からの促しが必要な ことが多い。 【取り組み】 「退屈」「他にやる事もないから・・・」の訴えあり。A氏にやりたい事 を聴取すると、「みんなと遊びたい」「もっとワイワイしたね~」と発 言聞かれる。 計画の見直しを行い、これまでの日程に集団活動 (午前20分・午 後20分)を追加した。集団活動において他患者と亣流すること、楽しみ ながら活動を行うことができる集団を作った。開始時は、セラピスト一 人がリーダーとなり、棒体操、座位で行える簡単な体操を実施。体操終 了後は、輪投げ・ボール投げ、風船バレーなど以前通所で行っていたレ ク活動を選択した。開始から1週間は直接介入を行うが、以降はリーダ ーとして役割を任せた。 【取り組み後】(32日目~59日目) 個別リハビリ以外での離床が増え、移動方法が杖歩行になるなど、生 活行為への自主的な参加も増えた。FIM:105点。またA氏から「みんなで 集まることはやっぱり楽しい」「毎日参加したい」などの前向きな発言 が聞かれる。 【考察】 取り組み前から訓練および生活行為において促しが必要な場面が多か ったが、取り組み後は、自ら離床する場面や意欲的な発言が聞かれるよ うになった。本人の望む作業や満足する役割に対し内発的な動機が高ま った結果だと考えられる。 症例の ように他者との亣流を楽しみにしている場合には、知り合いの尐ない病 院環境において、セラピストとの個別リハビリテーションのみでは満足 できない環境となっていることもある。そのため、環境作りを行ってい くことも作業療法士の大切な役割になると考える。作業の選択・提供に あたり、集団における環境への配慮、その中での個々の役割なども考慮 することが必要になることを学んだ。 「退屈」の発言により患者の視点から治療計画を見直し、入院生活全体 の活動時間、患者が主体的に参加できる活動内容、入院前の生活との違 い、退院後の生活に繋がる入院生活を考慮していく必要性に気づくこと ができた。 【おわりに】 本症例を通して患者中心の視点に、僅かながら気づくことができた。 今後も目の前の対象者個々の生活・心理状況などを考慮できるようにし ていきたい。 B1-3 全介助者の在宅復帰を通して学んだ事~情報共有するこ との重要さ B1-4 中頭病院における心臓血管外科手術後の作業療法の介入 基準の検討 ○池原 涼子 1) 内間 利奈 1) 新垣 〇喜納 俊介 1) 鈴木 咲 1) 田場辰典 1) 明利 1) 新里 順治 1) 1) 大浜第二病院 リハビリテーション科 【はじめに】 在宅復帰希望の全介助の症例を担当した。ご家族のニードとしてトイ レでトイレ介助が一人で可能なら自宅退院させたいとあげており、リハ ビリの中でご家族の要望と症例の身体状況のギャップからセラピストは、 在宅復帰は難しいのではないかと感じていた。今回ご家族、セラピスト、 病棟、在宅サービスとの家族指導、亣換ノート、住環境調査の中で情報 共有を行うことで、家族の不安感の軽減、症例の状況理解から在宅復帰 することが可能となった。今回、経過と考察を亣えて報告する。 【症例紹介】 年齢:90 代 性別:女性 疾患名:左脳梗塞、関節リウマチ、骨粗しょ う症、腰椎圧迫骨折、高血圧症 既往歴:S 状結腸がん術後、左大腿骨 頸部骨折、小脳出血、頸部脊柱管狭窄症、両 TKA 入院前の状況:娘と孫と同居。移動はピックアップウォーカー。着脱介 助で排泄。デイサービスを週四回利用。 (要介護3) 【入院時評価】 基本動作および日常生活動作:全介助(FIM38 点/126 点) コミュニケーション:短文レベルで理解可能。快不快など意思表示可能。 介護者の状況:キーパーソンは孫、日中は仕事で不在。娘が日中一緒に いるが、移乗動作など力を必要とされる介護は困難。 家族のニーズ:トイレでトイレ介助が一人で可能なら自宅退院させたい。 本人のニーズ:歩けるようになりたい、家に帰りたい 【経過】 第一期:入院から亣換ノート導入まで(入院当初から3ヶ月) 入院当初から全般的に全介助で、起居動作など声かけに対し若干の協 力動作を得られるが、立位保持が困難でリクライニング車いすへの移乗 動作も二人介助だった。また、唾液によるむせ込みも強く、誤嚥性肺炎 のリスクがあった。その後経過と共に起居動作から移乗動作に介助量の 軽減があり、一人介助で可能となった。トイレ動作では、立位時に膝折 れ、便器で座位保持困難など二人介助を要した。ご家族より一日のリハ 内容が知りたいとの提案があり、 「亣換ノート」を導入した。ノートには、 一日のリハビリの内容、ご家族からは病棟生活における要望などを記入。 第二期:住環境調査から一回目の外泊実施(4ヶ月から 5 ヶ月経過) 住環境調査の前に、移乗動作に対する家族指導を行った。住環境調査 では車いすの変更の必要性があるものの在宅環境が整っていたこと、家 族指導の中で最初にネックになりそうな移乗動作は家族指導の中で孫な らば可能だった。ご家族より「家で何とか出来そうです。」 「もう尐し楽 に移りやすくなれば…」とのコメントを頂いた。また、その場でケアマ ネージャーも亣えてサービスの利用や福祉用具の検討を行った。外泊で は、食事、夜間の排泄、体位変換に関する問題が浮き彫りとなった。 第三期:二回目の外泊から退院まで 再度外出リハを行う中で移乗動作に関する福祉用具の提案と在宅でのサ ービス利用における担当者との情報提供を行った。さらに夜間の排泄時 に体位変換の問題解決に対するエアマットの導入を病棟でも実際に使用 し、評価を行った。最終的には訪問リハ、訪問看護、訪問診療、通所サ ービス、ショートステイを利用しながらの在宅復帰となった。 【考察】 入院当初から症例は全介助であり、ご家族が望む姿と身体状況のギャ ップがあり在宅復帰は難しいのではないかと考えていた。急性期から当 院へ入院する際に予後について説明を受けているが、回復期における「期 待」と「介護に対する不安」、「現状における情報共有不足」からご家族 とセラピストの間にギャップがあった。そのギャップを埋めるには、 「亣 換ノート」の導入が欠かせなかった。セラピストがリハビリ内容を伝え ることで症例の把握がしやすく、またご家族から要望を伝えて頂くこと でご家族のニーズの把握が出来たのではないかと考える。また、住環境 調査と外泊、家族指導を通して、実際に症例の問題を一緒に把握してい く事で「介護に対する不安」を埋めていく作業が出来たのではないかと 考える。また、在宅後の生活を考え、ケアマネージャーやサービスの担 当者、在宅で問題となりそうな点を伝えることができたことも在宅で安 心して生活するうえで大事な作業だったのではないかと考える。 1)中頭病院 リハビリテーション部 作業療法部門 【はじめに】 当院では平成 26 年 5 月から心臓血管外科手術後(以下、心外術後)の クリニカルパスに「作業療法依頺」が追加されたが、それに対して術後 の OT 介入基準は不明瞭であった. 【目的】 中頭病院における心外術後の作業療法の介入基準の作成. 【対象と方法】 調査方法:後方視的調査 期間:平成 24 年 4 月~平成 26 年 4 月 対象:心外術後の患者 方法:データベース及びカルテから情報収集.クリニカルパス導入以前の OT 未介入群と OT 介入群を比較検討した (PT は術後全例で介入している) . 統計学的手法:両群の変数比較にはχ2 検定、Mann-Whitney の U 検定を用 いた.除外項目:死亡退院、欠損データ、90 日以上の長期入院患者. 【結果】 期間中に心外術後の患者は 136 人.除外項目に該当する患者を除くと 112 人(OT 未介入群は 92 人,OT 介入群 20 人). 全て自宅から入院していた. a) n b)中央値±標準偏差 *P<0.05 IQR=四分位範囲 <OT 介入群(n=20)> OT 依頺理由(件数,重複あり):身体機能低下 12.認知機能低下 9(術後譫妄 や認知症等の評価は未実施).ADL 低下 14.入浴指導 6.その他 1. 性別(男)a):12(60%) 年齢(歳)b):75±9.8(min45,max81) 術式 a):CABG:4(20%) 弁膜症:7(35%) 大血管:8(40%) その他:1(5%) 緊急 OPEa):5(25%),全て大血管 在院日数(日)b):31.5±19.9(min11,max74,IQR20.5-55)* ICU/HCU 在室日数(日)b):8.5±10.1(min2,max44,IQR5.5-16.5)* 人工呼吸管理(日)b):2±2.3(min1,max10) ST 介入 a):13(65) 初回介入時 FIM(点)b):68±42.5(min18,max126,IQR39.8-122.3)* 退院時 FIM(点)b):106±26.1(min50,max126,IQR68-122.3)* 転帰先(自宅)a):16(80%),回復期 4(大血管 3).退院前訪問は 3 件実施. ICU/HCU 在室日数が中央値以上の患者や ST 介入している患者の殆どが FIM115 点以下と ADL 低下していた.退院時 FIM の認知項目で 30 点未満の 患者は 9 人(45%). <OT 未介入群(n=92)> 性別(男)a):64(70%) 年齢(歳)b):69.5±11.9(min41,max85) 術式 a):CABG:41(45%) 弁膜症:26(28%) 大血管:20(22%) その他:5(5%) 緊急 OPEa):7(8%),全て大血管 在院日数(日)b):19±10.9(min11,max79,IQR14-24)* ICU/HCU 在室日数(日)b):4±3.6(min2,max24,mode4)* 人工呼吸管理(日)b):1±0.8(min0,max5) ST 介入 a):14(15) 初回介入時 FIM(点)b):126±26.6(min18,max126,IQR124-126)* 退院時 FIM(点)b):126±9.7(min79,max126,IQR124-126)* 転帰先(自宅)a):91(99%),回復期 1. 【考察】 本邦において心外術後の OT 介入についての報告は、術創部を考慮した ADL 指導等が散見されるが、介入基準に関する報告は尐ない.しかし、近 年では ABCDE バンドルで示されているように早期リハビリテーションの 重要性が謳われており、OT も積極的に参入していく必要がある. 当院の結果から、ICU/HCU 在室日数が長く術後管理が長期化した重症患 者に対して OT は介入していることが多く、ADL 低下が遷延していた為と 考えられた.特に術後の侵襲性が大きい大血管の緊急 OPE 後の患者は回 復期リハビリテーションを目的に転院しており、早期介入の必要性が示 唆された.OT 依頺理由の一つにあった認知機能低下に関しては、その詳 細な評価は未実施だが退院時 FIM では低下している患者が多い.術前や 術後に認知機能低下が生じている患者には早期から評価を実施し、適切 な支援を行うことが ADL 改善には重要であると考える.また、嚥下障害 を発症している患者は ADL 低下と関連しており、嚥下障害の有無も確認 する必要がある. 今後、前述した内容を介入基準として活用する為には関連職種との連 携を強化していく必要があり、その方法についても併せて検討していき たい. B2-1 認知症治療病棟における生活機能訓練 OT の実践報告 ~退院支援でみえてきた OT の役割~ ○小林隆史 1) 比嘉寿香子 1) 1)医療法人和泉会 いずみ病院 【はじめに】 2013年より、 「認知症施策推進5カ年計画(オレンジプラン)」が策定さ れ、早期の地域への「退院支援」が求められているが、当院認知症治療 病棟においての「退院支援」は、諸事情により後退し、1~3年以上と入 院が長期化している現状がある。施設などへの退院が可能となった患者 もいるが、その多くは対象者(以下Cl)のディマンド(=望む生活)が 反映されずに退院先が決まってしまい、その場所が「終の棲家」となる ことが殆どである。そこで、作業療法士(以下OT)の視点から、Clの望 む生活が中心となるような退院支援を担うことができないかを模索した。 その模索の過程を一事例を通して、以下に報告する。 【対象と方法】 自宅退院困難な、平成26年4月以降の新規入院患者数名を対象とし、 1)CIの「その人らしさ」を評価した上で、2)うるま市全ての認知症グル ープホームや老人ホームなどの特徴を評価、3)Clに適合する可能性の高 い施設を家族カンファレンスや退院支援者会議にて提案する。 【事例紹介】 数年前にアルツハイマー型認知症を発症し、右大腿骨骨折の加療後、 当院入院となった80代の女性A氏。退院後は家族が決めた老人ホームに 入所予定。歩行はキャスター付歩行器で軽介助レベル。ADLは見守り~ 軽介助。短期記憶低下(HDS-R:9/30)はあるが、コミュニケーショ ンは情緒的な会話が可能。環境変化に伴う心気的訴え、悲観的発言、意 欲・自発性の低下などの行動・心理症状(以下BPSD)も出現。10代よ り、両親の影響で教会に通い、賛美歌を歌うことを生活の一部としてい た。キリスト教に入信後は、約60年に渡り、クリスチャンとしての社会 的役割が生活の中心であった。独身独居生活を長年続けてきたA氏にとっ て、「馴染みの教会で友や牧師と共に賛美歌を歌い、聖書を読み、語ら うこと」が大切な作業(生き甲斐)である可能性が高いことが推察され た。よって、当面は環境変化に伴う心理的不安定さの緩和を目標に、① 散歩の休憩中にOTと共に賛美歌を歌う、②教会でのクリスチャン活動な どの作業を治療手段として導入した。①では、OTも知っている讃美歌を 歌唱し、歌唱後に「合唱はいいね。神は私をひとりぼっちにしないんだ ね」と語った。②では、事前にOTが教会に行き、牧師と面談をし、教会 での活動が可能か提案した。実際の教会での外出では、牧師と共に讃美 歌を歌い、聖書を読み、語り合い、何度も涙を流しては「生きていてよ かった」と語った。それらの介入と並行して、退院先である老人ホーム も評価し、A氏にとって大切な作業の導入が可能か提案した。また、家族 にはA氏に適合する認知症対応型グループホームも選択肢の一つとして 提案した。その束の間、Clは脳卒中を発症し、救急搬送退院となった。 【考察】 当介入は上記の事情により頓挫したが、A氏の今後の人生を考える上 で、退院先施設や地域の関わりの深い人物との連携の重要性、そしてOT がその連携の橋渡し的役割を積極的に担っていく必要性を強く感じた。 認知症を持つ人にとって、環境(人、物、作業)は最重要事項といって も過言ではないと考える。何故ならば、「その人らしさ」を理解した上 でそのひと特有の個別のケアを努めてくれる支援環境は、BPSDの緩和は もとより、その人の残された晩年の大切な時間をよりよく生きることに 繋がるのではないかと考えるからである。 【今後の課題】 OTが単独で関わったことで孤立してしまったことや、また地域では説 明不足から介護支援専門員に不信感を抱かせる場面が多々あった。今後 は、病院内・地域ともにスムーズな連携ができるように努めていきたい。 B2-2 GoRiLla の取り組み ~誰でも取り組める就労支援を目指して~ ○木下 匠 1)2) 石川明子 1) 1)株式会社 NSP 就労移行支援事業所 GoRiLla 2)沖縄県精神科作業療法研究会 【はじめに】 沖縄県では企業における障がい者の雇用件数が平成 17 年度で約 490 件、平成 26 年度で約 1.677 件と大幅な上昇率を見せており、中でも平成 26 年度における精神障がい者の雇用件数は 757 件で最多となっている。 今後も精神障がい者の雇用のニーズは増加の傾向にあり、そのニーズに 適した就労支援の在り方は福祉サービス従事者の重要な課題の一つにな ってくることが予測される。本発表では当事業所における精神障がい者 を対象とした就労支援の取り組みを紹介し、取り組みから見えた可能性、 今後の課題などに若干の考察を加えて報告する。 【事業所概要】 当事業所は平成 26 年 2 月 1 日に開所した指定就労移行支援事業所であ る。開所から現在までの利用登録者述べ人数は 32 名で、その内約 8 割が 統合失調症の診断を受けており、中には評価上重度とされる方も多く、 共通する特徴としては「今まで働きたいと思っていたが、中々きっかけ が得られなかった」という方が多く在籍している。多くの方が精神科病 棟、デイケア、訪問看護等の医療機関からの紹介で、現在も医療機関等 を併用しながら当事業所を利用されている。 【支援内容】 作業訓練として㈱ナガイ産業と業務契約を結び、企業が運営する飲食 店舗での作業訓練に取り組んでいる。そのような作業訓練と並行し、利 用者一人ひとりのニーズに応じた個別対応を行っている。個別支援では 就労に関することのみではなく、受診の同行や生活面に関する直接的支 援なども行なっている。これらの支援に関しては、対象者の多くが医療 機関等を併用されているため、関係機関との情報共有や、それぞれの役 割分担なども積極的に行うことで、本人が安心して就労に向けて取り組 めるような環境づくりという点も強く意識をしている。ご本人から就職 についての希望が聞かれた際には、本人の「強み」を活かした実習地開 拓、職場開拓を行い、それに応じた履歴書作成、面談練習なども行なっ ている。就職後も支援を継続して行い、企業訪問などの定着支援、面談 や電話対応などの企業外での定着支援も継続して行なっている。 【結果】 開所から現在までの利用終了者状況は以下の通りである。 ・一般企業への就職(障がいを開示しての就職):9 名 ・一般企業への就職(障がいを非開示での就職):3 名 ・その他:3 名(デイケア等利用希望) 就職者の内、5 名は半年~1年程で退職されており、その内 2 名は当事 業所を再利用して現在も就職活動に取り組まれている。 【考察】 当事業所の利用者には長期間の入院やデイケア利用などの経 緯のある方が多く、今まで働きたいと思っていても、その機会を 得ることが出来なかった方が多く在籍している。従来の就労移行支援事 業所は作業訓練、就職に向けた一般的な社会スキルの習得などが主な役 割と考えられているが、当事業所の対象者像を考慮した場合、単に作業 スキルの向上を図るのではなく、一人ひとりの「強み」を活かした就職 の在り方を考えることや、就職活動、もしくは就職後の生活を安心して 過ごせるための関係性作り、環境づくりもとても重要な要素だと考えら れる。そのため、一人ひとりのニーズに応じた個別支援、関係機関との 連携と、就職に向けた作業訓練とを並行して行なうことはとても重要で あり、結果からもわかるように、支援体制が整備されていることで、重 度の精神障がい者の方でも一般企業への就労は十分可能なものだと考え られる。しかしそのような支援体制を整備するにはマンパワーや支援者 自身の支援スキル、就職後の定着支援など、多くの課題があることも事 実である。当日は当事業所の抱える課題や、今後の展望についても併せ て報告させていただく。 B2-3 精神療養病棟の作業療法士の役割を探る C1-1 関節リウマチ患者に対する治療経験 ○新門 ○德里隆次 貴子 吉嶺綾乃 澤田祥子 仲本裕香理(PT) 下里綱 いずみ病院 1) 1)大浜第一病院 【はじめに】 筆者は、平成 26 年4月に精神療養病棟(以下療養病棟)の作業療法士 として配属された。療養病棟での業務は病棟や精神科作業療法の環境に 大きく左右されていること、診療報酬上、業務が不確定であるがために、 着任当初から業務を遂行することの難しさに直面した。改めて療養病棟 での作業療法士の役割を探るために、当病棟の状況を調査し、その傾向 を示すことができた。今回は、その中から障害・既往歴に焦点を当て、 作業療法士の役割について考えたので報告する。 【はじめに】 関節リウマチにより手指の変形が進行し、徐々に日常生活関連活動(以下; IADL)の低下、趣味活動の制限をきたした症例を担当させて頂いた。生 活の質(以下;QOL)向上を主目的に第 2~5 指 MP 関節に対し関節形 成術・腱移行術と第 1 指の再建術を施行した。在宅生活の復帰を念頭に IADL、趣味活動の再開に着目し早期運動療法、スプリント療法を展開した。 治療経過、症例の満足度、QOL の変化に考察を加えて報告する。 【症例紹介】 80 代女性。70 代で関節リウマチと診断され、約 3 年前より変形が顕著になり、 字を書くと疲れる、裁縫が出来ないなど次第に手が使いにくくなってい た。疾病とうまく付き合っていくために、県外で教育入院を受けるなど自 ら情報収集し意欲的な方である。入院前は一人暮らし。移動はややフラツキが あるが独歩自立、入浴、買い物、調理の下ごしらえでヘルパーを利用。元々、教 師をしていた事もあり、手紙を書くことを趣味としており、思うような字 を書くことが出来なくなったことで、手術を受けることを決断した。 【術前評価】 術前評価は、Q‐DASH スコアでは、機能障害スコア:65,6、症状スコア:16,6、仕 事:81,2、芸術:18,75.ピンチ力は、右0㎏/左 0,4kg。握力(水銀血圧計使用): 右 24mmHg/左 42mmHg。手の変形は、右第 2~5 指、MP 関節尺側偏移+ 掌側脱臼あり、母指はボタンホール変形を認めた。 【手術記録】 右母指 MP 関節固定術: 右短母指伸筋は変性し断裂、長母指伸筋が尺側脱臼していた。基節骨の 掌側脱臼を整復し、短母指伸筋を掌側へ固定。長母指伸筋腱を正中化。 右第 2~5 指 MP 関節脱臼整復、腱の正中化: 右第 2~5 指伸筋腱は尺側へ脱臼し小指の伸筋腱は脱臼なし。MP 関節の 関節包を切開し掌側脱臼した基節骨を整復、総指伸筋腱を正中化した。 【術後リハビリテーションおよび経過】 入院中(術後)の目標として、安静度に応じた手の管理が出来き、ADL が 遂行できる、二次障害の予防、スプリントの管理をあげた。長期的な目標を腱 の変性や断裂の予防とし、最終目標を満足できる書字の獲得と質の高い 在宅生活の獲得とした。退院後も継続したリハビリの必要性が予測され、入 院中より外来リハビリスタッフとの情報亣換を行いながら協業を行った。 術後 1 日目より、示指~小指の PIP・DIP 関節と肘・肩関節の自動での関 節可動域練習を開始。浮腫・腫脹・疼痛あり。術後 4 日目、第 2~5 指のワイヤー を抜去し、アウトリガースプリントを開始した。スプリント作成時の工夫として、橈側へ 牽引しながら、尺側偏位を予防するように調整した。また母指は対立にて MP 関節を固定し腱の断裂を予防できるようにした。術後 1 週で、病棟 ADL は上衣・入浴以外は修正自立。MP 伸展:第 2・3 指/−30 度、第 4・指/−20 度、5 指/−10 度。術後 2 週目から手指の拘縮と伸筋腱の lag 防止を図るた め、ナイトスプリント作製し、手指伸展位と母指対立位での良肢位保持を図った。 術後 4 週目に二次障害を予防でき、スプリントの管理が可能となり自宅退院。 患肢の管理を行う中で入浴動作以外の ADL は自立し、外来リハビリへ移行 した。術後 18 週目に書字評価実施。満足できる書字が可能となった。 【考察】 症例は「手紙を書きたい」との QOL 向上にむけて手術を施行した。80 代と高齢であったが、手術を決断された思いを受け止め、急性期より目標 に向け、関節リウマチの病態を考慮しリスク管理、useful hand の獲得に向けて リハビリ介入をした。右第 2~5 指の MP 関節に対し、関節拘縮・腱の癒着予防 に対するリスク管理として関節可動域練習やスプリント療法を行った。関節可動 域練習では、運動方向が尺側へ向かないよう注意し、屈筋腱と伸筋腱及び、 内在筋との腱・腱バランスを整えることが重要である。また、スプリント管理や、 自主トレーニングを十分に行えたため、二次障害の予防に繋がり早期運動療法 が奏功した。生活指導の中で、手の管理を踏まえた ADL 指導の実践が、患 肢の安静度を守りながら日常で手を使うことに繋がったと考える。また、 外来リハビリスタッフとの連携・協業により症例の状態把握と目標の共有が行え たことで、書字獲得でき、QOL の向上が図れた。 今回の治療経験で身体機能面へのアプローチ・リスク管理以外にも、対象者の 思いを支えるために useful hand、に繋がるような評価視点や治療技術の 向上が重要と感じた。症例にとって書字とは、思いを伝える手段であり、 他者と繋がる重要な作業であった。その人にとって意味のある作業を提 供できるようその人らしさを引き出す作業療法を提供していきたい。 【目的】 療養病棟での作業療法士の役割を探る。 【方法】 図は以下の項目でそれぞれまとめたものである。 1)平成 26年4月及び平成 27 年 11 月現在の療養病棟に在院してい る患者の性別、疾患別、在院年数別(図1)。2)平成 26 年 4 月及び平 成 27 年 11 月現在の療養病棟に在院する患者の障害別及び既往歴別(図 2)。3)平成 26 年 4 月に在院している患者の現在の転出先(図3)。4) 平成 27 年 11 月現在まで転入してきた患者の転入先(図 4)。5)平成2 6年4月から療養病棟の作業療法士に期待されている業務、実施してい る業務。 【傾向】 1)基本属性の図1からは平成 26 年と平成 27 年の男女及び疾患別で は大きな変化はない。2)障害・既往歴別の図 2 からは平成 27 年になり、 歩行障害を患う患者の増加に伴い車椅子、杖や歩行器利用者が増加した。 3)平成 26 年の男女の転出先の図3からは、退院する高齢の女性患者が 多く、再燃や身体症状悪化のために転出及び転院した男性患者の割合が 多かった。4)平成 27 年の転入先別の図4では自宅からの入院は女性が 多く、急性期病棟からは高齢の女性患者が転出した。また、急性期病棟 から転出してきた男性患者の年齢のは幅は広く、退院先の目途が経たな い患者であることが分かった。5)主に看護の補助、環境美化、レクリ エーション及び行事の企画運営、身体的なアプローチが期待されている。 日頃の関わりを通して患者の状態を関係スタッフに報告、橋渡しを行な う。 【障害・既往歴(図2)の背景】 ①整形外科的な基礎疾患に由来する歩行障害と抗精神病薬の影 響を受けている歩行障害がある。②便秘症を患う患者も多く、 薬の副作用として考えられる。③心疾患を患う患者には薬物の 調整や経過観察が行われている。④脳血管性疾患は中年のヘビ ースモーカー、食事が偏っている患者に見られた。 【まとめ】 1) 身体的な観点からの観察、評価やアプローチへのニーズが 増加している。精神科といえども、患者や生活環境へのアプローチを行 うために、日々の工夫、努力を継続すると共に作業療法士自身の技能の 向上が課題である。また、薬物の影響も、知見として必要になってくる であろう。 2) ファシリテーターとしての役割(事例をあげて当日発表)。 C1-2 上肢機能改善・座位 ADL への適応を目指した症例の治療経 験 ~早期からの高次脳機能障害アプローチの重要性~ ○辺土名 祐紀 1) 1)中頭病院リハビリテーション部 作業療法部門 【はじめに】 今回、初めて人工呼吸器管理下の脳挫傷患者様を担当させて頂いた。 受傷直後は日常生活動作(以下 ADL)全介助レベル。身体機能改善に伴い、 徐々に介助量が軽減してきたが病識低下にて短絡的・関心の低さが目立 ち能動的な ADL に結びつきにくいまま転院となった。高次脳機能障害へ のアプローチに苦慮した事例を以下に報告する。 【症例紹介】30 歳代男性。シェアハウスにて友人と同居、仕事は飲食業 を掛け持ち。友人と飲みに行く事が楽しみで酒豪家でもあった。家族背 景は、父は施設入所。母は他界されている。弟(次男・三男)とは疎遠。 【現病歴】 8 月(台風時)、商業施設にて転倒。他病院へ搬送されたが異常なしに て帰宅。翌日、屋外で倒れている所を発見され当院に搬送。到着時の意 識レベルは JCSⅡ-1。頭部CTにて右急性硬膜下血腫と右側頭葉挫傷。数 時間後、癇癪発作出現し意識レベル低下 JCSⅢ-2。CTにて血腫増大・ヘ ルニア所見を認め、開頭血腫除去術・外減圧術を施行。 【初期評価】 術後(以下 POD)7 日、意識レベル:JCSⅢ-2。全身状態:人工呼吸器管 理、BP 128/95mmHg、HR 80bpm、SpO2 99%。身体機能:Br-s:両上下肢・ 手Ⅰ~Ⅱ.感覚精査困難。動作能力:全介助。ADL:FIM 18/126 点。 コ ミュニケーション:気管切開にて理解・表出困難。 【治療・経過】 POD.14 安静制限解除となりウィーニング開始。定頸困難で2人介助に て端座位実施。POD.29 主治医より屋外散歩許可があり、リクライニング 車椅子にて屋外へ。S)外は気持ちいいね。5 日ぶりに出たよ。携帯ショ ップに行きたいなどの発言があり、現状理解の乏しさ・記憶障害の疑い あり POD.39 頭蓋形成術施行。POD.52 コース立方体・タブレット(遂行機 能や見当識等の高次脳訓練ソフト)実施。コース立方体は色・方向に変 化で遂行難。修正等の声かけするも切り替えできず。見当識は日によっ て誤答。場所の認識は可。 【最終評価】 (POD.56)意識レベル JCSⅠ-2。呼吸循環動態安定。著明な可動域制限な し。Br-s:左上肢Ⅱ~Ⅲ・手指Ⅱ・下肢Ⅱ~Ⅲ.右上肢Ⅴ~Ⅵ・手指Ⅵ・ 下肢Ⅵ.感覚:表在・深部ともに重度鈍麻。基本動作:軽~中等度介助。 移動:リクライニング車椅子。精神機能:意思疎通は筆談にて可。病識 の欠如認める。ADL:FIM46/126 点(運動 23 点/認知 23 点)。 【考察】 開始時は全身的に低緊張状態であった。また、人工呼吸管理下では定 頸困難で 2 人介助にて端座位実施。経過と共に定頸が可能になり、呼吸 器離脱後は座位安定性向上を認め、起立・移乗動作介助量軽減。しかし、 徐々に上肢管理の粗雑さ・関心の低さがみられた。その為、①現状の状 態②何を目的にしているのかを随時説明した。納得する事はあったが意 識的な持続は乏しかった。身体機能改善・介助量軽減は認めたものの、 能動的な ADL・活動性拡大に繋がらなかった要因として、発言・行動が粗 雑で短絡的な面が表面化してきた事が考えられる。当初から空想的な発 言は目立ち最終的には残存。関心の低さや保続も見られ工程が増すこと で理解が困難になり、パターン化された動作に繋がったのではないかと 考えた。麻痺の影響もあるがそれ以上に意識的な取り組みが不十分であ った。初期は全介助レベルで ADL 面を改善させるために身体機能面にば かり目がいき、高次脳機能が最終的には大きな壁になった。石合氏は『病 識欠如を意識させるには麻痺の認識へのアプローチを行っていくが、そ の場での効果はあっても持続は乏しく、感覚や知能等の再評価が必要』 と述べており、コース立方体を実施。遂行できないことが目立ったが、 繰り返すことで日に日に変化は見られた。動作能力だけではなく、高次 脳機能障害も予測しながら治療計画・段階を考えていかなければならな いと感じた。今後はこの経験も活かしながら関わっていきたい。 C1-3 プッシャー症状のある重度片麻痺者の起居動作への介入 ~支持面上での重心移動が楽に行えるために~ ○新垣明利 1) 新里順治 1) 1)大浜第二病院 【はじめに】 症例は気管切開と胃瘻を施術され、ADL 全般に重介助を要していた。起 居動作においては非麻痺側の押し付けを強めるため症例、介助者共に負 担が大きく、その後の移乗時の介助量増大にも影響していた。今回は介 助量の軽減と楽に起き上がれることを目標に介入。その結果、若干の変 化が得られ、離床頹度も向上したので、考察を含めて以下に報告する。 【症例紹介】 80 歳代、女性。診断名は左被殻出血。意識状態は JCSⅠ-2、B-stage は上肢Ⅱ、手指Ⅰ、下肢Ⅱ、感覚障害は観察より表在、固有感覚ともに 重度度鈍麻。右半盲と失語症あり。視線を合わせる事やコミュニケーシ ョンに時間を要す。 【ADL 状況】FIM 24/126 点 起居、移乗動作重介助。特に移乗は 2 人介助。座位は中等度介助。生 活場面ではリクライニング車いす使用。主にリハ場面にて離床している。 【介入前の背臥位~起き上がり動作】 体幹は左側屈、右回旋位。骨盤も右回旋し、前傾位を認め、腰背部が 支持面から若干浮いている。また非麻痺側上肢で麻痺側前腕部を掴みな がら胸の前に位置させており、両側肩甲帯も支持面から浮いている。そ の他、非麻痺側股関節や踵部での押し付けを認め、麻痺側股関節は外旋、 膝関節は屈曲し、膝関節後面が浮いている。全体的に支持面を押し付け、 動かないように踏ん張っている印象。 麻痺側から左側への寝返りを誘導。その際、頭部や非麻痺側肘関節を 中心に押し付けを強めるため、抵抗感が強くなる。誘導を継続すると頸 部が伸展し、骨盤は右回旋を強めて全体的に反り返った姿勢となる。そ の後、起き上がりを誘導すると非麻痺側上下肢での押し付けと頭頸部の 伸展や胸郭、骨盤の右回旋が強まり、誘導に対する抵抗感も最大となる。 その後の座位でも非麻痺側上肢の押し付けなど固定要素残存し、右後方 への傾きが著明。視線は左側へ向けており、声かけするが合わせにくい。 座位保持は中等度の介助を要す。 【問題点】 1)不安定な背臥位姿勢 2)非麻痺側上下肢の過剰性 3)支持面上での重心移動に伴う感覚情報の変化が捉えにくい 4)重心移動に伴う感覚情報の変化に基づいた運動反応の低下 【治療経過】 非麻痺側を下方にした側臥位にて、セラピストが症例の背部へ位置し、 麻痺側肩甲帯と腋窩部から支持面に向かって圧情報を与え、安定性を補 償。またセラピストの大腿部にもたれてもらうことや症例の両側下肢の 間に枕を設置し、接触面を多くすることで非麻痺側での過剰固定の軽減 を図った。当初は非麻痺側上下肢での押し付けにより背臥位方向への抵 抗感を認めたが、支持面に対する圧情報を継続することで徐々に抵抗感 が減尐。その後、側臥位から背臥位へと誘導し、支持面との接触部位が 非麻痺側肩甲帯や体幹側面から背部へと移動する情報を強調。その中で 胸椎の屈曲固定が軽減し、両側肩甲帯がベッド面へ接触するなど、支持 面の広がりを認めた。 次に起き上がり動作へ介入。セラピストは症例の非麻痺側へ位置し、 麻痺側肩甲帯から誘導。その際、麻痺側大腿部から骨盤に対して圧情報 を与え、寝返る方向を明確にし、非麻痺側の押し付けが生じないように した。その後、側臥位までの誘導が可能となり、起き上がりを誘導。そ の際、症例には床面を覗くよう促し、起き上がる方向に対する頭頸部の 自律的反応を促した。また非麻痺側上肢の押し付けが生じないように骨 盤への圧情報が途切れないよう注意した。それにより非麻痺側上肢での 押し付けが抑制でき、抵抗感が減尐。楽に誘導が可能になった。 【結果】 背臥位では体幹の非対称性が減尐。両側肩甲帯も支持面へ接触するな ど固定的要素が軽減。寝返りから起き上がり動作の誘導に対し、非麻痺 側での押し付けや体幹がそり返る反応は減尐し、介助量が軽減。起き上 がり後の座位は見守りにて姿勢保持可能。視線も合わせやすくなった。 【考察】 今回の介入において重要であった点は症例に対して支持面からの反力情 報を強調して提供し、その情報を受容してもらえたことにより、支持面 上で安定できたことが挙げられる。その上で起き上がり動作などを誘導 することで、重心移動に伴う情報の変化についても能動的に見つけるこ とができ、非麻痺側での押しつけと介助量の軽減を実現できたと考える。 C1-4 先天性橈尺骨癒合症に対する授動術後に作業療法を行っ た1例 ~琉大式プロトコールと ADL 評価表を用いて~ C2-1 在宅持続静注療法を導入した症例に対する退院支援 ~入浴動作を中心とした取り組み~ ○鈴木咲 1) 喜納俊介 1) 田場辰典 1) 山城真理子(PT)1) ○宮城若子¹⁾金城政樹²⁾(Dr.)長嶺多喜児¹⁾渡久地かおり¹⁾ 金谷文則¹⁾²⁾(Dr.) 1)琉球大学医学部附属病院 リハビリテーション部 2) 琉球大学医学部大学院医学研究科整形外科学講座 【はじめに】 先天性橈尺骨癒合症は橈尺骨間が軟骨性もしくは骨性に癒合する比較 的まれな疾患である.当院では血管柄付き有茎筋膜脂肪弁を用いた授動 術(金谷法)を行っており,4 歳以上を適応としている.先天異常疾患の ADL を評価する際,疾患特有の評価法が必要である.先天性橈尺骨癒合 症では前腕強直位の生活から経験したことのない動作を引き出さなけれ ばならないため,幼児が興味をもてる遊びを積極的に取り入れ,家族に も指導することが重要である。それらを踏まえて当院では琉球大学医学 部附属病院のプロトコール(以下琉大式プロトコール)および,術前後の評 価法として家族のアンケートを基に作成した琉球大学医学部附属病院の ADL 評価表(以下琉大式 ADL 評価表)を用いている.本発表にあたり症例 および保護者に承諾を得ている. 【症例紹介】 5 歳男児,右利き.1 歳頃に左手での機能障害を疑われ近医を受診し, 左近位橈尺骨癒合症と診断され,4 歳で当院を紹介され受診した.初診時 の主訴は茶碗の把持ができない,右手のみで洗顔していることであった. 術前 ROM 左肘関節伸展-15˚屈曲 140˚右肘関節伸展 10˚屈曲 140˚,左回内 60˚強直位,右回内 80˚回外 90˚,X 線像と CT で橈骨頭後方脱臼を認めた. 手術は分離授動術(橈尺骨分離,橈骨矯正骨切り,回外再建,有茎脂肪 弁移植尺骨回旋骨切り)を施行し,術中獲得可動域 20˚/70˚であった. 琉大式プロトコールに沿って入院での作業療法開始,術後 5 週目で外来 作業療法へ移行した. 【プロトコール内容】 術後 3 週はギプス固定,3 週目に橈尺骨を固定した K-wire を抜釘し夜 間シーネを装着した.自動・他動 ROM を開始し,上腕二頭筋腱の再縫 着により回外再建しているため肘伸展-30˚までに制限した.年齢に応じた 遊具を選択して回旋運動を促した.4 週目より前腕回旋装具を装着し,肘 関節伸展を許可した.5 週目より夜間シーネ終了,ADL 制限を解除した. 8 週目より制限なく肘関節他動伸展を行い,12 週目は全てのスポーツを 許可した.前腕回旋装具装着は,1 日 3 回以上装着,各回内外 1 回装着 につき 15~30 分程度,1 年装着とした. 【琉大式 ADL 評価内容】 家族からのアンケートを基に正常発達などの項目を参考に ADL 評価 表を作成し評価を行った。に作成した。術前後日常生活動作 22 項目、社 会生活動作 16 項目、スポーツ 7 項目と大分類し、また日常生活動作にお いては、さらに食事・整容・更衣・トイレ・入浴と 5 項目に分けた。評 価としては 5 段階評価にて作成し,5 点を「普通にできる」とし 1 点は 「できない」とした.術前・術後 12 週以降に行うこととしている。 【経過と結果】 3 週目 ROM は自動肘関節伸展-45 ˚屈曲 110 ˚,回外-5 ˚回内 40 ˚,他動 肘関節伸展-40 ˚屈曲 130 ˚, 回外 20 ˚回内 40 ˚,徐々に左肩を左手でスム ーズに触れるようになった.12 週目の ROM は肘関節伸展-25 ˚ 屈曲 155 ˚,回外 25 ˚回内 50 ˚,1年後の現在もレ線上問題なく可動域を維持して いる.ADL は 4 週目後半より両手で顔を洗うようになり,食事は左手の お椀を保持できるようになった.1 年後の現在も左手の使用は認められる. 琉大式 ADL 評価では,手術前→1 年後の平均点の変化は日常生活動作が 2.4→3.3,社会生活動作が 2.3→3.5,スポーツが 2.3→3.4 であった. 【まとめ】 先天性橈尺骨癒合症に対して授動術を施行され,作業療法には琉大式 プロトコールと ADL 評価表を用い作業療法を行った.術後 1 年経過し前 腕回外 25°回内 60°を維持し,食事・整容面は回外位で茶碗を持つこと, 洗顔も両手で行うことが可能となった.先天性橈尺骨癒合症の作業療法 では,前腕回旋動作を学習し,習得するため可動域訓練とは別に前腕回 旋動作を促す必要があり,年齢や経過に応じた遊具を用いながら行って いく必要がある. 1)社会医療法人敬愛会 中頭病院 【はじめに】 日本において肺動脈性肺高血圧症(以下 PHA)に対してフローラン持続静 脈内注入療法を実施している患者はまだ尐なく県内でも 7 名程度である。 当院においては今回 2 例目となり、初めて在宅復帰へ繋げることが出来 た。入浴動作訓練・呼吸状態評価を中心とした作業療法を実施し在宅生活 までの経過を追うことが出来たので報告する。 【対象と方法】 対象 70 歳代 男性 自宅(妻と同居、2F に長男夫婦) 既往歴:#.COPD H26/12にHOT導入(安静時2L、労作時3L) #.肺高血圧症 #.高血圧症 #.脂質異常症 身体機能面:ROM著明な制限なし MMT上肢5、下肢4 呼吸:酸素 安静時3L 労作時5L SPO2 80%前後となることあり 認知機能:歳相応の理解力あり.明らかな認知機能低下なし. 臨床検査: <血液検査> 入院時 PH 7.465 PCO2 26.6 PO2 64.3 HCO3 18.9 ABE -2.8 NT-proBNP 6767 pg/ml <心エコー>入院時:心臓超音波 LV EF:72.3%(B-mode)右心系拡張(+) PH(moderate) PR(mild~moderate) 方法 <OT目標>安定した呼吸状態で入浴が実施出来ること 全身状態に応じて入浴動作訓練を実施し動ける範囲の確認や呼吸状態 評価、呼吸抑制を防ぐ入浴動作指導、休息の取り方やカテーテル・オキシマイザ ー管理の指導を症例・介助者へ実施。呼吸状態に合わせた介助方法を確 立し徐々に入浴回数を増やしていき在宅での入浴介助対応を踏まえて 病棟スタッフへ介助を引き継ぐ。入浴時の主観的評価はBorg scaleを使用。 医師指示は目標SPO2 85%以上。 【結果】 その日の呼吸状態に合わせて休息の取り方や呼吸抑制を防ぐ入浴動作 方法によって安定した酸素化で一部自己にて動作を行いオキシマイザー 7L で SPO295%前後だったが、介助者によっては一時的に SPO280%前半とな ることあり。労作時の低酸素状態を回避する方法としてオキシマイザー 7L とマ スク 5L の併用酸素療法を実施し SPO290%以上維持可能となった。Borg scale 平均 11(楽)、所要時間 15 分前後。カテーテル抜去などの緊急時対応の リスクを踏まえて自宅での入浴は訪問看護とヘルパーの 2 人で全介助(基本動 作は自立、髭剃りは別で実施、背もたれにもたれて楽に座る)、入浴時の 移動手段は車椅子を選択。現在、自宅で週 3 回の入浴実施中。 【考察】 PHA により右心不全を合併した症例であったが、持続静注療法を導入 した結果徐々に選択的肺血管拡張作用の影響で呼吸状態の安定がみられ た。治療効果に比例して OT では入浴負荷量を調整し耐久性の向上も認 められた。呼吸状態が不安定でリスクの高い症例に対して自身の出来る動作 を取り入れた積極的な訓練が行えたのは、元々の身体能力が高かったこ とや理解力が良好だったからだと考える。さらに病院という環境で緊急 時対応が即座に可能であるという安心感から積極的な負荷を取り入れら れたと考えている。また酸素化不良を招く原因としては、慣れない介助 者の場合その日の本人の体調や呼吸状態を評価し的確に動作指導を実施 することが難しかったことが挙げられる。その為在宅では誰が介助して も安定した酸素化で入浴を実施することが可能であるオキシマイザー 7L とマスク 5L の併用酸素療法の導入、2 人での全介助が適していると判断するに至 った。今回、ハード面を考慮した介助方法の立案や高リスク患者の退院支援方 法を学ぶ貴重な経験となった。 C2-2 当院における特発性正常圧水頭症患者の認知機能評価に ついて C2-3 がんリハにおける家族支援の重要性 ~造血器腫瘍患者との関わりを通して~ ○池宮城諒 ○祖堅繁人 1) 宮城徹 中松典子 浦添総合病院リハビリテーション部 【はじめに】 当院では特発性正常圧水頭症への腰椎穿刺髄液排除試験(以下タップ テスト)について、作業療法士がタップテスト前後に歩行評価、認知機 能検査を行い、医師の診断の一助を担っている。正常圧水頭症ガイドラ インではタップテスト後の指標について歩行障害が改善するか観察する のが確実であると述べているが、認知機能評価については具体的な評価 方法の明確な記載は見られない。今回、当院での認知機能評価の項目に 着目し評価内容の検討を目的とし調査した。 【対象と方法】 2013 年 1 月~2015 年 10 月に当院でタップテストを行った患者 37 名の うち、シャント造設術を行った 23 名を対象とした。 タップテスト前日、翌日の評価について 1)各個人の前後の比較、2) 項目ごとに比較した。MMSE8 名と HDS-R15 名で個人間の差も検討する。 <評価バッテリーと項目> MMSE:①見当識、②記銘、③計算・逆唱、④遅延再生、⑤物品呼称、⑥ 文章復唱、⑦3 段階の口頭命令、⑧書字理解、⑨自発書字、⑩図形模写 HDS-R:①年齢、②時間の見当識、③場所の見当識、④記銘、⑤計算、⑥ 逆唱、⑦遅延再生、⑧5 つの物品記銘、⑨流暢性 FAB:①概念化、②知的柔軟性、③行動プログラム、④反応の選択、⑤ Go-No-Go、⑥自主性 評価内容は 2014 年より認知機能評価は HDS-R から MMSE へ、歩行評価 は 10M 歩行から 6mTUG に変更している。 t検定を用い比較し有意水準は 5%未満とした。 【結果】 今回の結果として歩行では有意差が見られたが認知機能については必 ずしも有意に改善したとは言えず個人差があった。 HDS-R、MMSE の方が有意差が見られた項目が多く、MMSE では合計点数 (0.003883)や①見当識(0.046696)、④遅延再生(0.047945)、⑥文章 復唱(0.033146)に、HDS-R では合計点数(0.009429)や⑧5 つの物品記 銘(0.011603)に変化がみられやすく、FAB では合計点数(0.000124)や ①概念化(0.037393)、②知的柔軟性(0.082814)、④反応の選択(0.029815)、 歩行では TUG の歩数(0.003734)に有意差が認められた。 (P<0.01 P<0.05) 【考察】 今回の調査結果で、歩行が改善した群はほぼシャント造設術に至って いるが、認知機能評価のみ向上した患者でシャント造設術に至った患者 はいない事がわかった。そのため認知機能が向上したためシャント造設 術に至ったとは言い難く水頭症ガイドラインで述べられている通り、歩 行障害の改善が重要な指標だという事がわかった。また、人数別、項目 別に見ても MMSE が HDS-R より感度の高い評価と言える。 認知機能評価を項目ごとに見たところ、結果に記載した項目に有意差 が見られた。 大槻らは水頭症患者の認知機能障害の特徴として視覚性注意の低下や 前頭葉機能低下が示唆されたと述べている。また、小海らは神経心理学 的検査に関する体系表として MMSE での①見当識、④遅延再生、⑥復唱は、 大脳皮質全般、左海馬、脳梁膨大部、ウェルニッケ・ブローカ野、前頭 前野が、HDS-R での⑧5 つの物品記銘では右海馬での視覚記銘、前頭側頭 連合野が、FAB では①概念化、②知的柔軟性、④反応の選択は前頭葉背外 側面や前頭前野、前頭連合野、線条体が主に関連する脳の部位として述 べていることからその脳の関連部位に当てはめると特発性水頭症患者の タップテストでの改善は海馬や線条体、前頭葉の機能との関連が深いと 考える。そのため上記内容について現在の評価内容である MMSE、FAB、歩 行評価は妥当であるが、より詳細な評価を行うことで制度を高める事が 出来るのではないかを考える。しかし、タップテスト前後での比較とな るため今後簡便な評価方法を検討していく必要がある。 田場辰典 1) 當間智史(PT)1) 1)社会医療法人敬愛会 安里幸健(PT)1) 中頭病院 【はじめに】 当院リハビリテーション(以下,リハ)部では、昨年度よりがん患者 リハビリテーション料施設基準を取得し、がん患者に対するリハに取り 組んでいる。今回、造血器腫瘍(以下,HM)患者とその家族との関わり を振り返り、そのなかで見えてきたことについてまとめたので報告する。 【対象と方法】 60 歳代の男性、診断名は悪性リンパ腫(以下,ML)。妻と二人暮らし、 家族で飲食店を営んでいた。診断後、外来や入院での治療を継続してい たが、腹痛と食思低下を主訴に入院。入院 2 週間後より作業療法(以下, OT)開始。 (本人・家族ともに診断の告知済み) 初回評価時の Performance Status(以下,PS) :4(まったく動けない。 自分の身のまわりのことはまったくできない。完全にベッドか椅子で過 ごす。 )BP:110/68。SpO2:RoomAir にて 98%。KT37℃台。WBC30/ μl、Hb8.3g/dl、PLT2.4 万/μl にてエンベラ対応中。Alb2.0。BMI:16.5。 塩酸モルヒネ 0.3ml 持続皮下注射中。苦悶表情みられ、声かけに対して は頷きで返答可能も最小限のコミュニケーションのみ。基本動作/日常生 活動作(以下,ADL)ともに全介助レベル。味覚異常や口腔内潰瘍の影 響強く摂食困難。全身倦怠感著明。感染リスク高く、Dr からは安静度個 室内との指示。妻からは「今の状況から先のことは考えられない、ちょ っとでも楽になったらいいけど」という思いが聞かれた。短期目標とし て安楽な肢位/動作の獲得と座位レベル ADL の向上を挙げ OT を進めた。 個室対応であり、ほぼ一日中ご家族(主に妻、長女)が付き添いされ ていたため、日々の状況確認やリハの目的などを話す等、家族との関わ りも意識しながらベッドサイドリハから開始し、福祉用具の利用、環境 調整、家族への動作指導などの支援をおこなっていった。 【結果】 家族の協力を得られることができ、共同で支援していくことができた ことや、福祉用具の使用も効果的におこなえたことで、座位レベルでの ADL 訓練や移動動作を含めた病棟トイレでの排泄訓練まで取り組むまで になり、ADL も段階的に向上。できることが増えてきたことで達成感を 共有でき、さらに本人、家族ともに「またお家に戻れるかもしれないね」 という希望を持てるようになった。また、付き添いの家族ともコミュニ ケーションが取れたことでリハ時間以外での ADL サポートが得られた。 しかし、病態の進行や化学療法の副作用の影響によって身体機能の低 下、精神機能の低下がみられ、再獲得した ADL は低下していった。経過 のなかで精神機能、ADL ともに幾度か向上と低下を繰り返していったが、 その後急激な状態悪化により永眠。 【考察】 入院の長期化により、患者だけでなく寄り添う家族も心身ともに疲弊 していく。本症例の家族においても、亣代をしながらほぼ一日中患者の 苦痛を目の当たりにしながらも付き添われ患者と多くの時間を過ごされ ていた。その家族に対しても支援する必要性があると感じた。 本症例においては、円滑に家族とも関わりを持つことができ、達成感 だけでなく喪失感も含めさまざまな思いを共有することができた。この ことから、早期からリハが関われる環境づくりを行っていくことが重要 であると感じた。 また、このような経過をたどる患者に対し、どの時期に患者自身や家族 からの希望を引き出すことが適切であったのかという疑問が残った。思 いを汲み取り、それをチームで共有することでさらに多くのアプローチ ができたのではないかと思われる。ちいさなゴールの達成を目指してい くことで、残された時間を意義のある支援に変えていくことができると 思う。OTとしてそのような活動を提供していけるよう努力していきた い。 C2-4 急性期におけるアルコール性肝障害患者への関わり ○島袋真生美 D1-1 作業療法士間の連携についての現状 ~日本作業療法士協会パイロット事業アンケートより~ 宮城徹 中松典子 ○土田真也 1)2) 1)社会医療法人仁愛会 浦添総合病院 リハビリテーション部 【はじめに】 アルコール性肝障害とは、長期にわたる過剰の飲酒が原因となって引き 起こされる肝障害の総称であり、飲酒歴が長い患者の中では入退院を繰 り返す者も尐なくない。当院でもアルコール性肝障害と診断され、複数 回の入退院を繰り返している患者へ、治療・リハビリテーションを実施 していくが、死亡を転帰とする患者も経験する。今回、担当症例を振り 返り、急性期病院における作業療法士の関わり方についてまとめたので 報告する。 【対象と方法】 対象は Child‐pugh 分類 classC のアルコール性肝障害で、過去数年間で 同疾患を起因とし 5 回以上の入退院を確認できた 5 名を調査した。 症例の経過、入院時の生化学データから Hb、赤血球、血小板、アルブミ ン値を参照した。 【症例と経過】 症例 5 名は、53 歳~74 歳で平均年齢 62 歳。全て男性であった。 独居は 3 名。家族と同居が 2 名。最終入院前の ADL は自立レベルであっ た。 症例のうち 3 名は当院への入院前に断酒していたが、2 名は飲酒を継続 中であった。 入院中に永眠した症例は 3 名、自宅退院は 2 名。 生化学データ:( )内の基準値は、当院の基準を記載した。 ・ヘモグロビン:5.5~10.7g/dl 中央値:8.0 (基準値:13.4~17.6) ・赤血球:131~328 ×104/μl 中央値:295 (基準値:425~571) ・血小板:3.4~7.0 ×104 /μl 中央値:5.5 (基準値:13.2~ 36.8) ・アルブミン:1.7~2.3 g/dl 中央値:2.0 (基準値:3.6~5.3) 5 症例に共通した特徴として、重度腹水、下肢浮腫、倦怠感がみられ、入 院中の腹腔穿刺・利尿薬・アルブミン製剤投与の治療を受けていた。 リハビリテーションはベッドサイドでの介入を中心に、下肢ストレッチ や vital をもとに徐々に離床をすすめること、腹水に配慮したベッド上の 姿勢調整など、比較的軽負荷の訓練内容を実施したが、離床や運動に対 する意欲の低さがみられた。 【考察】 文献では Child-pugh classC における生命予後として、3 年生存率 40% と報告されている。3 名の永眠例については終末期リハビリテーションに 位置づけされる状態であったと考える。 5 症例ともに生化学データの結果が基準値を下回っており、身体機能の著 しい低下を伴っていた。運動負荷を中止とする基準の患者もおり、著明 な腹水・下肢浮腫も伴っているが、退院に向けて廃用症候群改善を目的 にリハビリテーションで関わっていた。 アルコール性肝障害について、入退院を繰り返す中で身体機能の低下が 著しくみられることが多いが年齢や疾患からも介護保険の適応や回復期 病院への転院には該当しがたく、独居や住宅環境の問題など退院にあた り社会背景の整備が難しい症例を経験する。 作業療法士として、食事時間の腹水に配慮した姿勢調整や、トイレ移動 に向けた安全性とベッド位置の調整、離床に対して意欲を引き出すため に日中の活動量と時間帯を確認して関わるなど工夫を行っているが患者 状態に合わせた対応の線引きと認識が難しかったと振り返る。 【まとめ】 作業療法士として、アルコール性肝障害を呈する症例を経験し、身体機 能としての不可逆的な要素や、社会背景の調整の難しさを痛感している。 また、症例自身の意欲も引き出しがたいことから訓練方法や対応の在り 方など葛藤もあった。 今後も生化学データや vital、身体機能・意欲に合わせた対応を模索する が、病期に合わせた作業療法について急性期病院での取り組み方を考え ていきたい。 1)平成 25 年度日本作業療法士協会パイロット事業アンケート 担当 2) おもろまちメディカルセンター 【はじめに】 沖縄県作業療法士会では平成 25 年度の日本作業療法士協会パイロット 事業として、 「対象者の生活支援をより具体的なものにするために~対象 者の生活圏域における作業療法士同士の意味ある連携を作る」というテ ーマに取り組んだ。この一環で、作業療法士間の連携状況についてのア ンケートを実施したので、限られた紙面ではあるがその一部を報告する。 【対象と方法】 本事業開始時の平成 25 年 6 月と事業年度末の平成 26 年 2 月に沖縄県 作業療法士会会員が所属する施設宛にアンケートを送付。当該施設に所 属する作業療法士に回答を求めた。回答いただく作業療法士については 当会の入会有無は問わなかった。6 月は 539 名、2 月は 476 名の作業療法 士より回答を得た。 【結果】 ①対象者情報のやり取りについて(6 月調査) 電話で情報を受けることは「ほとんどない」が 94.7%、直接顔を合わ せて情報を受けることは「ほとんどない」が 85.0%。紙面で情報を受け ることが「ほとんどない」は 31.7%で、多くは紙面に依存している様子 が伺われた。但し紙面での情報受けも「ほぼ全ケース」19.8%、「8 割程 度」14.1%と決して高い値ではなかった。 施設別にみると紙面で情報提供を「ほぼ全ケース」でしているのは身 障急性期で 67.7%、身障亜急性期で 68.8%、身障回復期で 87.6%、発達 障害 63.6%、精神科入院では 5.8%であった。対象者を「受ける」こと が多い身障外来では 58.3%、精神科デイ/ショートケアでは 7.1%、訪問 リハ 44.4%、通所リハ 28.1%、通所介護 11.1%、老健入所 59.1%、特 養入所 0.0%と低めの値が並び、反映するかのように紙面での情報提供を 「ほぼ全ケース」 「8 割程度」で受けるとした身障急性期は 22.6%、精神 科入院は 0.0%と、同条件でみた身障亜急性期 40.6%、身障回復期 63.6%、 精神科デイ/ショートケア 7.1%などを下回る数値であった。 ②事業前後での変化 ①で提示した全体の傾向は著変なかった。領域別には紙面情報提供実 施割合「全ケース」 「8 割程度」しているが、身障急性期で 81.2→86.3%、 身障亜急性期で 87.6%→96.4%、身障回復期 91.3%→95.1%と伸びてい た。2 月調査回答の 476 名中 95 名は本事業での研修会・会議等に参加し ており、そのうちの 75.8%は「自ら情報を集めるようになった」 「意識し てサマリーを書けるようになった」「職場で連携に関する話題が増えた」 などの変化があったと回答している。研修会・会議等への参加はしてい ないが上記のような変化があったとした回答は 59 名で、うち 45 名 (76.3%)は同じ職場に参加者がいた。一方、本事業について取り組ん でいるのは知っているが内容は知らない 133 名、取り組みを知らない 111 名と回答者の約半数が事業内容を知らなかった。 【考察】 対象者情報のやり取りについての結果で、対象者の流れの「川上」に あたる急性期側の施設で情報を受けることが尐ないのは当然のようにも 見えるが、今回のアンケートでは「対象者に作業療法士が関わっていた ことが分かるケースで」との条件を付けており、対象者の状態悪化など での入院の際に情報提供が尐ないことが示唆される。 事業前後での変化については、単年度では大きな変化が生み出せなか ったことを示しているが、研修会・会議への参加(同僚参加も含む)が 何らかの変容を生む可能性も示唆された。今回は研修会・会議内容が身 障系に寄っており、身障系でやや変化の兆しが確認された原因かもしれ ない(6 月・2 月のアンケート回収数に差があるが、急性期・亜急性期・ 回復期の回収数に大きな差はなく、回答者の分母差ではないと考える)。 今回のアンケートでは「連携」を法人内での連携を除く、作業療法士 間での連携と限定したため、領域、施設によっては実際業務の連携と乖 離した結果となっている可能性はある。また、設問自体が成人・身体障 害領域の連携のイメージで作られており、精神科や発達領域の連携状況 がうまく反映されていない可能性もある。 D1-2 当院における外来作業療法の取り組み ~対象者の地域生活支援に向けて~ ○松田 祐樹 1) 1)医療法人天仁会 D1-3 地域包括ケアシステムにおける住民主体の場づくりにつ いて ○花木泰弘 1)2)3), 田村浩介 1)2)3)4), 古堅理枝子 4) 天久台病院 【はじめに】 「入院医療中心から地域生活中心へ」の方針から精神科病床の平均在 院日数は減尐傾向にある。訪問支援による援助が盛んに行われるように なり、対象者の地域生活支援に重点が置かれている。当院においてもそ の流れは顕著で、精神科訪問看護へのOT配置。OT増員による外来作 業療法プログラムのスタートと、対象者の地域生活支援に力を入れてき た。今回はこれまで取り組んできた当院における外来作業療法の紹介と、 治療を通して地域生活支援を実感できた一事例の発表を行う。 【当院の外来作業療法】 2006 年より、対象者の要望に応える形で一名からスタート。勉強会や 研究会の場を通して、OTスタッフ間の知識、コメディカルへの認知度 を高めていった。しかし、治療内容が不十分、システム不備、スタッフ の不足欠員、病院改装により利用者が定着せず一時は実施数が落ち込む。 システムを整備し環境を整え、2014 年にはOTを増員し外来作業療法の プログラムをスタート。精神科デイケアとは異なる外来治療の一つとし て広がりをみせている。 【事例紹介】 女性 30 代 SC 元来内向的な性格。医療従事者として数年勤務。結婚し二児を出産、そ れを機に退職。夫の転勤で○県へ。慣れない土地での生活育児から被害 妄想出現し発症。以降数回の入院治療を受ける。夫の転勤により再び転 居。当院にて治療中、希望により外来作業療法スタートとなる。 【まとめ】 2014 年度より外来作業療法プログラムを開始。結果、実施数が大幅に アップした。この事は当院においても外来作業療法の需要は高く、プロ グラムを開始したことが有効であると言える。今後は効果の有無を評価 していき妥当性について検討していく必要がある。事例紹介から。ケー スは入院することなく状態の改善を図ることが出来た。当院での外来作 業療法の構造でも、対象者が「地域生活」を送りながら治療を行う事が 可能であると言える。 外来作業療法の開始から約 9 年。利用者も増え、支援の環境は整いつ つあるが、男性患者の利用率が低い、他部門との連携が不十分と課題は まだ多い。今後も研究を続けていき質の向上を目指していきたい。 1) 2) 3) 4) 株式会社いきがいクリエーション 沖縄県作業療法士会地域包括ケア推進委員 沖縄県臨床作業療法実践研究会 沖縄市民生員児童委員 【はじめに】 厚生労働省は,2025年(平成37年)を目途に,高齢者の尊厳の保持と自 立生活の支援の目的のもとで,可能な限り住み慣れた地域で,自分らしい 暮らしを人生の最期まで続けることができるよう,地域包括ケアシステ ムの構築を推進している1).また,市町村が主体的に総合事業に取り組み, 生活支援,介護予防に努めることが必要である1)とされている.今回沖縄 市において,民生委員児童委員である古堅氏といきがいクリエーション の恊働で住民主体の通いの場づくりを実施することとなった. 住民主体の通いの場づくりには,人づくりが鍵となると考えた.そこで, 古堅氏の想いを明らかにするため、インタビューを実施した.以下に報告 する. 【対象と方法】 ○事例紹介 古堅理枝子氏(以下古堅氏),女性,沖縄市民生員児童委員.家族構成は 夫,長男(20 代),次男(中学生)の 4 名.夫の稼ぎで生計を立てていた. ○やりたいこと 子どもから高齢者まで,どんなしがらみにも捕らわれず,みんなが自己 選択できる能力を養える場所を作って,私が関わる事でみんなを元気に したい. ○今後の夢について 地域のみんなが羽を休める場所,一緒にご飯を食べられる場所,第二の 実家のように,集まれる場所を作りたい. ○作業歴について 両親と 2 男 4 女の 8 人家族,次女.父親は教員をしていた.父親を見て, 子どもと関わることに憧れを持っていた.小中高と学校から帰り,家事を しながら,時間がある時は自宅のきび畑できびを育てていた.小学校高学 年で,人に貢献できる事をする,と自身で決めた.そこで,保育の学校へ入 学.保育の教育実習で,施設の子ども達,職員と出会ったことをきっかけ に,子どもに対しての想いがより強くなった.その後,赤十字奉仕団に入 団し,保育士としても働いた.保育士として働くにつれ,子ども達の母親 とも関わるようになった.その後,民生員児童委員となり,学校の地域コ ーディネーターの仕事にも従事.この仕事に対し「子どもの性格や,特徴 も知っていないとできないから,難しかったけど,本当にやりがいがあっ た」と話した. 現在は,ボランティアや民生員児童委員として,地域住民に貢献. 【まとめ】 古堅氏の作業に焦点を当てインタビューする事で,作業歴より地域住 民に貢献したいという想いが分かった.古堅氏のやりたいことは「みんな が自己選択できる能力を養える場所を作って,私が関わる事でみんなを 元気にしたい」であった.また,作業歴より「人のために」という内的期 待としての意味を持っていた.それが動機づけとなり,地域のボランティ ア活動,民生員児童委員として,役割を獲得していた.株式会社いきがい クリエーションの理念はいきがいを一緒につくる」である.古堅氏の想い と一致し,住民主体の通いの場を恊働で実施することとなった. 古堅氏 にとって住民主体の通いの場を作り地域住民に貢献するという新たな作 業の形態や機能に,「人のために」という作業の意味が加わる事で,大き な効果をもたらすと考えた.さらに,住民主体の通いの場を作り,地域貢 献するためには,古堅氏のような地域住民の作業に焦点を当て,人づくり, 人材育成していくことが重要であると考えた. この度,平成 27 年 12 月 14 日に「夢空間たんぽぽ」を開所予定.開所に 向け,現在準備中である.経過について,学会当日に報告したい. 【引用・参考文献】 1)厚生労働省「介護予防・日常生活支援総合事業の基本的な考え方」 www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou.../0000074692.pdf 2)吉川ひろみ:作業って何だろう.医歯薬出版.2008
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