2016年1月号(PDF/602KB)

み
みず
ずほ
ほ米国経
経済
済情
情報
20016年1月号
号
◆ トピ
ピック
中国・
・資源ブ
ブーム終焉
焉で進む
む裏庭のストック
ク調整
記録的
的原油安を背景に
にカナダ・中南米と
といった、いわば米
米
国の裏
裏庭でストック調
調整が進ん
んでいる。それが、ドル高と
と
相まっ
って、米国の輸出
出悪化の主
主因となっ
っている。
。
◆ 景気
気判断
景気は
は拡大テンポが鈍
鈍化。海
海外リスクに注意
意が必要
要
原油安
安・ドル高
高、海外経
経済減速による悪
悪影響で、製造業活
活
動の低
低迷が継続し、内需
需の増勢
勢も軟化し
している。金融市場
場
不安定
定化等による景気
気の下振れ
れが懸念さ
される。
1.トピック:中国・資源ブーム終焉で進む裏庭のストック調整
1バレル 30 ドルを割り
2016 年に入り、国際金融市場は不安定さを増している。中でも、中国経済
込む原油価格は、中国・
への不安が、原油の供給過剰感と相まって著しい原油安をもたらしている。
資源ブームの終焉を象
原油価格は1バレル 30 ドルを割り込み、長らく世界経済を支えてきた中国・
徴
資源ブームの終焉を示しているようだ(図表 1)
。
経済指標をみる限り、中国経済の構造調整は緩やかなペースで進んでいる
が、国際金融協会(IIF)によれば、2015 年の中国からの純資本流出額は 6,755
億ドルと、かつてない規模に達した(図表 2)
。IIF の予想では、2016 年もほ
ぼ同規模の資金流出が続くという。
米国の裏庭で進むスト
ック調整…
中国・資源ブームの終焉によって、カナダや中南米といった、いわば米国
の裏庭でストック調整が進んでいる。特に深刻なのは、上記ブームに乗じて
設備投資を大幅に拡大してきたブラジルである(図表 1)
。GDP 統計によれば、
ブラジルの実質固定資本形成は、すでに 2013 年のピーク比で 2 割以上減少し
ている。原油価格の下落度合いを踏まえると、ストック調整はさらに長期に
わたって続く可能性がある。
同様にカナダもストック調整局面にあるとみられる。ただ、ブーム期のス
トックの積み上がりが緩やかだったことから、調整圧力はブラジルほど深刻
ではないようだ。
…米国の輸出悪化の主
因に
裏庭経済の困難は、ドル高と相まって、米国の輸出悪化の主因となってい
る(図表 3)
。裏庭経済でのストック調整が長期化すれば、米国の輸出持ち直
しも遅れてしまう。
さらに 2015 年終盤にかけて、裏庭経済以外に向けた輸出(図表 3 の「他の
太平洋地域」等)も目に見えて悪化し始めており、輸出の先行きに懸念が高
まっている。
原油安等で注目される
記録的な原油安等を背景に、連邦公開市場委員会(FOMC)が注視している
インフレ期待と雇用の
インフレ期待は低下傾向を辿るようになっている。加えて懸念されるのは、
行方
昨年 12 月の利上げを決定づけた雇用環境の良好さが失われないのか、という
点である。
セントルイス連銀によれば、金融市場で観察されるインフレ期待(5 年先ス
タート 5 年)は、1 月 4 日に 1.79%だったが、20 日には 1.54%へと急速に低
下している。当該指標がコア・インフレ率に先行する可能性は統計的に確認
できないが、FOMC 関係者らはインフレ期待の低下が現実の物価に影響を及ぼ
すリスクに警戒を怠っていない。
2015 年終盤にかけて加速感が高まった雇用の行方も気がかりである。2015
年終盤の雇用統計は、VIX 指数で表される金融市場のボラティリィが高まる中
でも、むしろ良好な結果を示してきた。来月発表される 1 月雇用統計につい
ても、大崩れはしないとみられる。とは言え、米国企業業績の低迷も伝えら
れる中、今後の下振れリスクは小さくない。
次の利上げは 6 月に
以上の状況を踏まえると、次の利上げは早くても今年半ばまで先送りされ
るのではないかと予想される。
1
みずほ米国経済情報(2016 年 1 月号)
図表 1
原油価格とブラジル・カナダの固定資本形成
(ドル/バレル)
140
120
(2005年=100)
200
固定資本形成
(ブラジル、右目盛)
180
原油価格
100
160
80
140
60
120
固定資本形成
(カナダ、右目盛)
40
100
80
20
2005 06
07
08
09
10
11
12
13
14
15 16
(年/四半期)
(注)固定資本形成は実質ベース、季節調整値。
(資料)Bloomberg、各国統計より、みずほ総合研究所作成
図表 2 新興国を巡る資金フロー
(10億ドル)
800
プラス=資金流入
600
図表 3
米国の名目輸出と国・地域別寄与度
(前年比寄与度%)
6
4
中国以外
400
2
200
0
0
▲2
▲200
▲400
▲4
マイナス=資金流出
中国
他の太平洋地域
▲6
日本
▲8
中国
▲600
▲800
EU25
▲10
米州
▲1,000
2007
2010
▲12
2015
(年)
2014
(注)資金フロー=資金流入額-民間資金流出額
+誤差・脱漏。 2016 年は IIF の予測。
(資料)IIF より、みずほ総合研究所作成
2015
(年/月)
(資料)米国商務省より、みずほ総合研究所作成
2
みずほ米国経済情報(2016 年 1 月号)
2.概況:米国経済は拡大テンポが鈍化。金融・海外リスクに注意が必要
米国経済は拡大テンポ
米国経済は拡大テンポが鈍化している。
が鈍化
製造業は引き続き、苦戦している。原油価格の下落により、石油関連産業
の生産・設備投資が下押しされている。ドル高による米国製品の価格競争力
低下や、海外経済の減速を背景に、輸出は伸び悩んでいる。製造業は、内外
の需要減退と在庫調整圧力に直面している。
労働市場が着実に改善している中で、個人消費の勢いはやや弱い。もっと
も、年末にかけては天候の影響が大きく、消費の基調は崩れていないとみら
れる。
年明け以降は、金融市場のボラティリティの高まりが、海外経済の弱さと
あいまって、米国の経済活動を下押しするリスクが懸念される状況となって
いる。軟調なマクロ環境を警戒して金融市場のリスクオフモードが長引けば、
個人消費に対する逆資産効果や、雇用・設備投資の抑制につながりかねない
点には、注意が必要だ。
生産活動は頭打ち
原油価格の下落、新規受注の落ち込みと在庫調整等を背景に、生産活動は
抑制されている。
エネルギー部門の 12 月の生産指数は 3 カ月連続で低下した。石油・ガス掘
削関連のほか、暖冬により暖房需要が減少したために、公益の生産が減少し
た。掘削関連の生産指数が連動するリグ稼働数については、足元にかけて減
少が続いている。鉱工業部門全体で見た設備稼働率は低下している。
エネルギーを除く鉱工業生産指数は前月比横ばいであった(図表 5)
。IT
関連や建設資材が増加する一方、自動車が 2 カ月連続で減少した。消費財は
横ばい程度にとどまった。
企業業況は、非製造業
企業業況は、非製造業が底堅い一方で、製造業は一段と悪化している。
が底堅い一方、製造業
12 月の非製造業ISM指数は 55.3 と前月から低下したが、事業活動や新規
は一段と悪化
受注等主要指数は上昇した。
(図表 6)
。
一方、製造業ISM指数は 48.2 と 2 カ月連続で境目の 50 を下回り、2009
年 6 月以来の低水準となった(図表 7)
。業種別では、全 18 業種中、業況の改
善を報告した業種が 6 業種(前回 5 業種)
、悪化を報告した業種が 10 業種(前
回 10 業種)で、4 カ月連続で悪化が改善を上回った。機械や一次金属等の業
種において、在庫調整を受けた業況悪化が顕著である。
製造業の業況は、1 月も芳しくない。1 月の地区連銀製造業業況指数をみる
と、ニューヨークはマイナス幅が大きく拡大した。フィラデルフィアは前月
から反発したものの、マイナス圏での推移となった(後掲図表 18)
。
なお、ニューヨーク連銀が実施した賃金に関する調査によれば、企業が見
通す今年の賃金上昇率は緩やかであると報告されている。2016 年の賃金上昇
率(中央値)について、製造業では前年比+2.8%になると見込まれている。
昨年調査された、2015 年の賃金上昇率の見通し(同+3.0%)をやや下回る結
果である。非製造業では同+3.0%となり、昨年と変わらなかった。
3
みずほ米国経済情報(2016 年 1 月号)
図表 4
実質GDP成長率
図表 5
(前期比年率、%)
純輸出
政府支出
在庫投資
8
設備投資
住宅投資
個人消費
3.8
4
2
4.6
4.3
3.0
107
106
105
104
103
102
101
100
3.9
2.1
2.0
0.6
1.1
0
▲2
79.0
78.0
77.0
76.0
14/12
▲ 0.9
▲4
2013
2014
鉱工業生産(除くエネルギー)
設備稼働率(総合、右目盛)
2015
(年/四半期)
(資料)米国商務省より、みずほ総合研究所作成
(資料)連邦準備制度理事会より、みずほ総合研究所作成
非製造業ISM指数
64
新規受注
事業活動
62
入荷遅延
総合指数
75.0
15/12
(年/月)
15/6
4~6 7~9 10~ 1~3 4~6 7~9 10~ 1~3 4~6 7~9
12
12
図表 6
(%)
(2007=100)
実質GDP
6
鉱工業生産と稼働率
図表 7
60
雇用
58
60
製造業ISM指数
新規受注
生産
雇用
入荷遅延
在庫
総合指数
56
58
54
56
52
54
52
50
50
48
48
46
14/12
15/3
15/6
15/9
15/12
14/12
15/3
15/6
15/9
(年/月)
(資料)ISMより、みずほ総合研究所作成
(資料)ISMより、みずほ総合研究所作成
図表 8
景気の全体感を示す主要統計
Q1 2014 Q2 2015 Q3 2015 Q4 2015
成長率
15/12
(年/月)
2015/8
2015/9 2015/10 2015/11 2015/12 2016/1
前期比年率、%
0.6
3.9
2.0
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
前期比年率、%
1.7
3.7
2.9
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
純輸出
寄与度、%Pt
▲ 1.9
0.2
▲ 0.3
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
在庫投資
寄与度、%Pt
0.9
0.0
▲ 0.7
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
実質GDP成長率
国内最終需要
月次実質GDP成長率
企業業況
製造業ISM指数
生産活動
鉱工業生産指数
前期比、%
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
0.1
0.6
▲ 0.1
n.a.
n.a.
n.a.
DI
52.6
52.6
51.3
n.a.
51.1
50.2
50.1
48.6
48.2
n.a.
n.a.
DI
56.7
56.5
58.7
n.a.
59.0
56.9
59.1
55.9
55.3
前期比、%
▲ 0.1
▲ 0.5
0.7
n.a.
0.1
0.0
▲ 0.2
▲ 0.9
▲ 0.4
n.a.
非エネルギー部門
前期比、%
▲ 0.3
0.4
0.8
n.a.
▲ 0.1
▲ 0.2
0.4
▲ 0.1
0.0
n.a.
鉱工業 設備稼働率
%
78.4
77.7
78.0
n.a.
78.0
77.9
77.7
76.9
76.5
n.a.
%
75.9
76.0
76.3
n.a.
76.3
76.1
76.3
76.1
76.0
n.a.
非製造業ISM指数
製造業
(資料)米国商務省、マクロエコノミック・アドバイザーズ、ISM、連邦準備制度理事会より、みずほ総合研究所作成
4
みずほ米国経済情報(2016 年 1 月号)
3.家計部門:個人消費の勢いは鈍化。住宅は横ばい圏の動き
家計部門は増勢が鈍化
家計部門は全体として増勢が鈍化している。労働市場が着実に改善する一
方、暖冬による季節商品の落ち込みから、個人消費の勢いは弱まっている。
住宅市場は横ばい圏の動きとなっている。
雇用は大幅に増加
雇用は大幅に増加した。12 月の雇用統計では、非農業部門雇用者増加数が
前月差+29.2 万人と、市場予想(同+20.0 万人)を大きく上回った(図表 9)
。
10、11 月の増加数も、累計で 5.0 万人上方修正された。12 月について業種別
にみると、サービス業の雇用増加ペースが高まったほか、財部門は建設業が
全体を押し上げた。製造業雇用も小幅ながら増加し、2015 年夏頃にみられた
雇用削減の動きが一服している。
労働需給は改善傾向
労働需給は改善傾向にある。12 月の失業率は 5.0%、不本意なパートタイ
ム労働者やディスカレッジド・ワーカーを含む広義失業率(U6)は 9.9%と、
いずれも前月から変わらず、低水準で推移した。
賃金は上昇基調
12 月の時間当たり賃金上昇率(農業を除く民間部門)は前月比ゼロ%にと
どまったが(図表 10)
、前年比では+2.5%と上昇基調が続いている。
小売売上高は失速
小売売上高は失速した(図表 11)
。12 月の新車自動車販売台数(Autodata
Corporation)は年率 1,734 万台と、2015 年 6 月以来の水準に低下した。コア
小売売上高(自動車・建材・ガソリン・外食除く)は前月比▲0.3%と、2015
年 4 月以来の前月比マイナスとなった。無店舗販売、スポーツ、建設資材等
が増加する一方、百貨店等の総合小売や衣料品の減少が全体を押し下げた。
また、NRF(全米小売業協会)は、2015 年年末商戦期(11~12 月)の小売
売上高が前年比+3.0%と、事前予想(同+3.7%)を下回ったと報告した。
暖冬による衣料品販売の押し下げや値引き合戦の激化による価格低下が影響
した模様である。
消費者マインドは高水
準
消費者マインドは高水準となっている。1 月のミシガン大消費者信頼感指数
(速報値)は 92.6 と、12 月(91.3)から小幅に上昇した。価格低下が消費者
の購買意欲を後押ししているようだ。
住宅着工は頭打ち傾向
12 月の住宅着工件数は年率 114.9 万件と前月から 2.5%減少し(図表 12)
、
先行指標である着工許可件数も 123.2 万件と前月から 3.9%減少した。しかし、
建築業者の景況感を表す住宅市場指数は引き続き高い水準を維持している。
月々の振れを均してみれば、住宅着工は春頃にかけて大幅に増加した後、頭
打ち傾向となっている。
住宅販売は伸び悩み
住宅販売は伸び悩んでいる。11 月の新築住宅販売は 2 カ月連続で増加した
が、均してみれば、年初以降、緩やかな減少傾向にある。また、11 月の中古
住宅販売は 2014 年 4 月以来の水準に減少した。全米不動産協会(NAR)は、
中古住宅販売の急減について、住宅ローンの情報開示に関する規制(10/3 施
行、
“Know Before You Owe”と呼ばれるルール)の影響で契約から引き渡し
までに時間がかっていると指摘し、住宅需要自体は落ち込んでいないとの見
方を示した。他方、住宅の供給不足や価格上昇が販売の足かせになっている
可能性もあり、今後の動向が注視される。
5
みずほ米国経済情報(2016 年 1 月号)
図表 9
(前月差、万人)
45
40
35
30
25
20
15
10
5
0
14/12
雇用統計
15/6
非農業部門雇用者数
図表 10
(%)
7.0
(前月比、%)
6.5
0.4
6.0
0.2
5.5
0.0
5.0
▲ 0.2
4.5
15/12
(年/月)
▲ 0.4
0.6
14/12
15/6
15/12
(年/月)
後方3か月移動平均
失業率(右目盛)
(資料)米国労働省より、みずほ総合研究所作成
図表 11
時間当たり賃金
(資料)米国労働省より、みずほ総合研究所作成
小売売上高
図表 12
(前月比、%)
2.0
住宅着工件数と住宅市場指数
(年率、万件)
130
70
1.5
60
1.0
115
50
0.5
40
100
0.0
30
▲ 0.5
85
▲ 1.0
14/12
15/6
コア
20
15/1
15/12
(年/月)
(資料)米国商務省、NAHB より、みずほ総合研究所作成
図表 13
家計部門の主要統計
Q1 2014 Q2 2015 Q3 2015 Q4 2015
非農業部門雇用者数
失業率
週当たり労働時間
個人消費
2015/8
2015/9 2015/10 2015/11 2015/12 2016/1
前期差、千人
259
203
208
240
153
145
307
252
292
%
5.6
5.4
5.2
5.0
5.1
5.1
5.0
5.0
5.0
n.a.
n.a.
時間
34.6
34.5
34.6
34.5
34.6
34.5
34.6
34.5
34.5
n.a.
時間当たり賃金
前期比、%
0.7
0.5
0.6
0.6
0.4
0.1
0.3
0.2
0.0
n.a.
小売売上高
前期比、%
▲ 1.1
1.7
1.1
0.2
0.0
▲ 0.1
0.0
0.4
▲ 0.1
n.a.
前期比、%
▲ 0.0
1.1
1.1
0.4
0.2
0.0
0.1
0.5
▲ 0.3
n.a.
台数、百万台
16.8
17.1
17.8
17.9
17.8
18.2
18.2
18.2
17.3
n.a.
93.3
コア小売
新車自動車販売台数
1966年Q1=100
95.5
94.2
90.7
91.3
91.9
87.2
90.0
91.3
92.6
1985年=100
101.3
96.2
98.3
96.1
101.3
102.6
99.1
92.6
96.5
n.a.
住宅着工件数
年率、千戸
978
1,158
1,158
1,133
1,116
1,207
1,071
1,179
1,149
n.a.
住宅着工許可件数
年率、千戸
1,065
1,242
1,132
1,225
1,161
1,105
1,161
1,282
1,232
n.a.
新築住宅販売件数
年率、千戸
517
497
483
n.a.
507
442
470
490
n.a.
n.a.
中古住宅販売件数
年率、千戸
4,973
5,297
5,477
n.a.
5,300
5,550
5,320
4,760
n.a.
n.a.
DI
55
57
61
62
61
61
65
62
60
60
ミシガン大消費者信頼感
カンファレンスボード消費者信頼感
住宅市場
16/1
(年/月)
住宅着工件数
住宅市場指数(右目盛)
自動車・建材・ガソリン・外食
(資料)米国商務省より、みずほ総合研究所作成
雇用環境
15/7
NAHB住宅市場指数
(資料)米国労働省、米国商務省、Autodata、ミシガン大、カンファレンスボード、NAR、NAHB よりみずほ総合研究所作成
6
みずほ米国経済情報(2016 年 1 月号)
4.企業・対外・政府部門:設備投資は概ね横ばい、輸出は低調
設備投資は、機械関連投資、建設投資とも概ね横ばいとなっている。
機械関連投資は横ばい
圏の動き
機械関連投資は横ばい圏の動きとなっている。機械関連の設備投資動向を
示す非国防資本財(除く航空関連)の 11 月の出荷額は 2 カ月連続で減少した
(図表 14)
。また、先行きをみる上で重要な受注額は 3 カ月ぶりに減少し、10
月分も大きく下方修正された。原油安の影響で、採掘・掘削のための機械の
受注等が大きく落ち込んでいる。
建設投資は頭打ち
建設投資(除く住宅)は頭打ちとなっている(図表 15)
。工場建設の減少を
主因に、11 月は 2 カ月ぶりの減少となった。
企業の投資マインドは
前向き
企業の設備投資マインドは前向きである。1 月の地区連銀・製造業調査によ
る 6 カ月先の設備投資判断DIをみると、ニューヨークは+15.0、フィラデ
ルフィアは+9.4 と、いずれもプラス圏での推移が続いている。
輸入は伸び悩み。輸出
は低調
11 月の実質輸出入はともに減少したが、
輸入の減少幅が輸出を上回った
(図
表 16)
。11 月の輸入減少は、新型 iPhone の輸入一巡の影響が大きいが、輸入
はこのところ伸び悩んでいる。輸出も引き続き低調で、ドル高や海外経済減
速による悪影響が抑制要因となっている。地域別輸出(名目値)をみると、
ウェイトが大きいカナダや中南米向けを中心に、幅広い地域向けの輸出が低
迷している。
連邦財政赤字は前年度
を上回る規模
2016 会計年度における 12 月(2015 年 10~12 月)の連邦財政の赤字額は
2,055 億ドルとなり、前年度をやや上回る規模となった(図表 17)
。
米議会予算局(CBO)は、2016 会計年度の連邦財政の赤字額が 5,440 億
ドル、対GDP比で 2.9%となり、前年度(4,390 億ドル、対GDP比 2.5%)
よりも増加する見通しであると報告した(1/19)
。赤字額の拡大は 2009 年度
以来のことである。昨年末に決定された各種減税措置の延長(一部恒久化)
等を受け、CBOは赤字額が縮小するとしていた昨年 8 月の見通しを修正し
た。さらに赤字額は 2017 年度以降も膨らみ続け、2026 年度に 1 兆 3660 億ド
ル、対GDPで 4.9%に達すると見込まれている。
7
みずほ米国経済情報(2016 年 1 月号)
図表 14 資本財出荷・新規受注
(年率、億ドル)
720
図表 15 非住宅建設投資
(年率、億ドル)
※いずれも、
航空関連を除く
4200
4000
700
3800
680
3600
3400
660
14/11
15/5
15/11
(年/月)
3200
14/11
15/5
15/11
(年/月)
非国防資本財新規受注
非国防資本財出荷
(資料)米国商務省より、みずほ総合研究所作成
(資料)米国商務省より、みずほ総合研究所作成
図表 16 実質財輸出・輸入
図表 17 累積連邦財政収支
(億ドル)
0
(2013年平均=100)
114
112
▲1,000
110
▲2,000
108
▲3,000
106
▲4,000
104
▲5,000
102
▲6,000
10
100
14/11
15/5
15/11
(年/月)
輸出
12
2
4
6
8
(月)
2015年度
輸入
(資料)米国商務省より、みずほ総合研究所作成
2016年度
(資料)米国財務省より、みずほ総合研究所作成
図表 18 企業・対外・政府部門の主要統計
Q1 2014 Q2 2015 Q3 2015 Q4 2015
企業業況
ニューヨーク(NY)連銀 現状判断
フィラデルフィア(PHL)連銀 現状判断
設備投資
▲ 8.2
▲ 9.2
▲ 12.8 ▲ 12.9 ▲ 11.4 ▲ 10.1
12.6
9.0
0.2
▲ 7.3
3.4
▲ 3.6
▲ 5.9
▲ 6.2 ▲ 19.4
▲ 5.7 ▲ 10.2
▲ 3.5
前期比、%
▲ 2.2
▲ 1.4
1.9
n.a.
▲ 1.4
0.5
0.6
▲ 0.3
n.a.
コア資本財 出荷金額
前期比、%
▲ 1.1
0.1
0.6
n.a.
▲ 0.8
0.8
▲ 1.0
▲ 0.6
n.a.
n.a.
前期比、%
3.3
9.3
0.5
n.a.
0.2
▲ 0.4
1.1
▲ 0.7
n.a.
n.a.
NY連銀 6か月先設備投資判断
22.0
17.2
16.6
13.7
17.3
11.3
12.3
12.7
16.2
15.0
PHL連銀 6か月先設備投資判断
17.0
14.1
17.5
14.0
16.7
25.3
6.8
24.6
10.7
9.4
▲ 134 ▲ 133 ▲ 134
n.a.
貿易収支
10億ドル
n.a.
▲ 49
▲ 42
▲ 45
▲ 42
n.a.
n.a.
輸出
10億ドル
562
562
559
n.a.
184
187
184
182
n.a.
n.a.
10億ドル
696
696
693
n.a.
233
229
228
225
n.a.
n.a.
実質財輸出
2013年=100
102
103
104
n.a.
102
105
103
102
n.a.
n.a.
実質財輸入
2013年=100
108
109
110
n.a.
111
110
110
108
n.a.
n.a.
財政収支
10億ドル
▲ 263
123 ▲ 123 ▲ 216
▲ 64
91 ▲ 137
▲ 65
▲ 14
n.a.
歳入
10億ドル
680
1,027
802
766
211
365
211
205
350
n.a.
歳出
10億ドル
943
904
924
981
275
274
348
270
364
n.a.
輸入
財政
2015/9 2015/10 2015/11 2015/12 2016/1
0.2
コア資本財 受注金額
非住宅建設支出
輸出入
2015/8
7.9
(資料)ニューヨーク連銀、フィラデルフィア連銀、米国商務省、米国財務省よりみずほ総合研究所作成
8
みずほ米国経済情報(2016 年 1 月号)
5.物価動向:コア・インフレ率は低い水準にあるが、基調は安定
輸入物価は大きく低下
12 月の輸入物価指数は前年比▲8.2%(11 月同▲9.5%)と、前月から下
落率が縮小した(図表 19)
。輸入物価は原油安・ドル高を背景に大きく低下し
ているが、前年同月に大幅に低下していた関係で、前年比ベースの低下圧力
が弱まった。もっとも、原油価格は足元で 1 バレル 30 ドル台を割り込む等、
下落傾向が強まっている。原油安による輸入物価の大幅な下押しが続く可能
性には注意したい。最終財(自動車、消費財、資本財)については、下落率
が拡大している。
国内企業部門の物価は
低下
12 月の最終需要・生産者物価指数(PPI)は前年比▲1.0%(11 月同
▲1.1%)と、前月から下落率が小幅に縮小した(図表 20)
。国内企業部門の
物価についても、エネルギー価格の下落を主因に低下しているが、前年比ベ
ースでの低下圧力は弱まった。サービス物価の上昇率が小幅に低下する一方
(11 月同+0.5%→12 月+0.4%)
、エネルギーを含む財物価のマイナス幅が
縮小した(11 月同▲4.3%→12 月同▲3.7%)
。
PCEデフレーターは
低い水準で推移してい
るが、基調的な物価上
昇率は安定的に推移
リテール部門では、ヘッドラインのインフレ率はゼロ近傍にある。他方、
基調的な物価上昇率は安定的に推移している。
11 月の個人消費支出(PCE)デフレーター上昇率は前年比+0.4%と、前
月(同+0.2%)から緩やかに加速した。他方、コアPCEデフレーター(食
品・エネルギーを除く)上昇率は同+1.3%と、前月と変わらなかった(図表
21)
。
コアの 3 カ月前比年率上昇率をみると、
11 月は+1.3%と 4 月
(+2.0%)
をピークに増勢が鈍化している。もっとも、基調的な物価上昇率は安定的に
推移している。ダラス連銀刈込平均PCEデフレーター上昇率は前年比
+1.7%と、
前月から上昇率は変わらなかった。
過去1 年を振り返れば、
+1.6%
から+1.7%の狭いレンジで推移している。
12 月の消費者物価指数
(CPI)
上昇率は前年比+0.7%
(11 月同+0.5%)
、
コアCPI上昇率は同+2.1%(11 月同+2.0%)と、いずれも前月から緩や
かに加速した。コアCPIの 3 カ月前比年率上昇率は+2.1%と、2015 年 8
月(+1.6%)を底に上昇基調が続いている。他方、クリーブランド連銀の刈
込平均CPI上昇率は前年比+1.8%と、前月(同+1.9%)から若干低下し
た。
このところCPIとPCEデフレーターの動きに乖離が生じている。これ
はCPIがPCEデフレーターに比べて、価格上昇が顕著な家賃等住宅関連
のウェイトが大きいことが影響しているとみられる。
インフレ期待は低下傾
向
市場取引ベースのインフレ期待は、低下傾向で推移している(図表 22)
。サ
ーベイ調査に基づくインフレ期待は緩やかな低下傾向に歯止めがかかりつつ
ある。
以上
9
みずほ米国経済情報(2016 年 1 月号)
図表 19
輸入物価
(前年比、%)
図表 20
(前年比、%)
0.5
5
(前年比、%)
3.0
0.0
0
2.0
▲ 0.5
1.0
▲ 1.0
0.0
▲ 1.5
▲1.0
▲ 2.0
15/12
(年/月)
▲2.0
▲5
▲ 10
▲ 15
14/12
15/6
輸入物価
14/12
15/6
総合
うち最終財(右目盛)
(資料)米国商務省より、みずほ総合研究所作成
図表 21
最終需要PPI
15/12
(年/月)
コア
(資料)米国労働省より、みずほ総合研究所作成
PCEデフレーター
図表 22
期待インフレ率
(%)
3.0
(前年比、%)
2.0
2.5
1.5
1.0
2.0
0.5
1.5
15/1
0.0
14/12
15/6
総合
15/12
(年/月)
物価の主要統計
Q1 2014 Q2 2015 Q3 2015 Q4 2015
2015/8
▲ 10.0 ▲ 10.0 ▲ 11.2
▲ 11.4 ▲ 11.6 ▲ 10.7
▲ 9.5
▲ 8.2
n.a.
▲ 1.4
▲ 1.6
▲ 1.6
▲ 1.6
▲ 1.6
▲ 1.6
▲ 1.6
▲ 1.7
n.a.
最終需要 生産者物価指数
前年比、%
▲ 0.5
▲ 0.8
▲ 0.9
▲ 1.2
▲ 1.0
▲ 1.1
▲ 1.6
▲ 1.1
▲ 1.0
n.a.
コア生産者物価指数
前年比、%
1.2
1.0
0.8
0.3
0.6
0.8
0.1
0.5
0.3
n.a.
消費者物価指数
前年比、%
▲ 9.5
2015/9 2015/10 2015/11 2015/12 2016/1
▲ 0.8
前年比、%
▲ 0.1
▲ 0.0
0.1
0.5
0.2
▲ 0.0
0.2
0.5
0.7
n.a.
コア消費者物価指数
前年比、%
1.7
1.8
1.8
2.0
1.8
1.9
1.9
2.0
2.1
n.a.
PCEデフレーター
前年比、%
0.2
0.3
0.3
n.a.
0.3
0.2
0.2
0.4
n.a.
n.a.
前期比、%
▲ 0.5
0.5
0.3
n.a.
▲ 0.0
▲ 0.1
0.1
0.0
n.a.
n.a.
前年比、%
1.3
1.3
1.3
n.a.
1.3
1.3
1.3
1.3
n.a.
n.a.
前期比、%
0.2
0.5
0.3
n.a.
0.1
0.2
0.0
0.1
n.a.
n.a.
前年比、%
1.6
1.7
1.7
n.a.
1.7
1.7
1.7
1.7
n.a.
n.a.
%
2.8
2.7
2.7
2.6
2.7
2.7
2.5
2.6
2.6
2.7
期末値、%
1.9
2.0
1.9
1.8
1.9
1.8
1.7
1.8
1.7
1.6
コアPCEデフレーター
刈込平均 PCEデフレーター
インフレ期待
BEI(5年先5年)
前年比、%
輸入物価指数
最終財
消費者物価
ミシガン大 期待インフレ率(5~10年先)
(資料)ミシガン大、Bloomberg より、みずほ総合研究所作成
図表 23
生産者物価
16/1
コア
(資料)米国商務省より、みずほ総合研究所作成
輸入物価
15/7
ミシガン大 期待インフレ率
BEI(5年先5年)
(資料)米国商務省、米国労働省、ダラス連銀、ミシガン大、Bloomberg より、みずほ総合研究所作成
10
みずほ米国経済情報(2016 年 1 月号)
2016年 1月 2 2 日
発行
欧米調査部主席エコノミスト 小野 亮
03-3591-1219 makoto. ono@mizuh o-ri.co.j p
欧米調査部主任エコノミスト 風間 春香
03-3591-1418 haruka. kazama@mi zuho-ri.c o.jp
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