リサーチ TODAY 2016 年 1 月 21 日 2014年3点セット再来、追加緩和・消費税先送り・景気対策 常務執行役員 チーフエコノミスト 高田 創 年初来の世界的な株安が金融市場を揺るがしている。2016年前半のアベノミクス第2ステージの経済政 策の行方は今後の政治日程の中で考える必要がある。同時に、2016年前半は、2014年後半と類似した政 策パッケージが検討される可能性があることにも注意が必要だ。2014年後半の政策3点セットをまとめたの が下記の図表である。2014年10月30日にハロウィン緩和と称された黒田バズーカ第2弾が飛び出した。政 治面では、2015年10月に予定されていた消費増税の先送りが決定され、解散総選挙が12月に行われた。 財政政策では、3兆円の景気対策を行うべく補正予算策定が行われた。2016年前半は、世界的金融市場 の不安定さが増し先行き期待が低下するなかで、アベノミクス第2ステージに踏み出す重要な年との位置 づけから、図表のような3点セットが繰り返される可能性があるのではないかというのが本論の問題意識だ。 それらは、第1に日銀の追加緩和、第2は7月の同日選挙も含めた解散総選挙とその「大義」としての消費 増税先送り、第3は5月後半の日本で開催されるサミットに合わせて日本が先頭で国際貢献の名のもとに 景気対策を行うというものだ。 ■図表:2014年の3点セットとの比較 2014 年 2016 年前半 金融政策 追加緩和 政治・消費税 財政政策 解散総選挙、消費税引き上げ先送り 3 兆円景気対策 追加緩和? 政府との新たな共同声明 解散総選挙、消費税引き上げ先送り? サミット国際貢献景気対策? (資料)みずほ総合研究所作成 今日の内外環境を勘案すれば、来週にも日銀が追加緩和を実施する可能性があるが、その実施の日 程は、いかに効果的なタイミングとするかの政治判断、つまり最も有効にカードを切るにはいつがいいかと の判断で決められるだろう。追加緩和にあたっては、2012年1月当時の日銀の白川総裁がインフレ目標を 政府と共同声明の形で結んだのと同様、今回も日銀が政府と新たな形で共同声明を打ち出すという選択 肢もある。この場合、物価目標に合わせて、賃金目標に近いものも加えられるのではないか。同時に、日銀 は付利の引き下げ等も含め、2018年までを視野に入れた長期戦に踏み出すと展望される。昨年の日銀の 株式市場での対応はわかりにくかったが、追加緩和を視野に入れた準備とみるべきだ。日銀の追加緩和 は1月から6月までの政治日程のなかで判断されよう。 TODAYではこれまで財政金融政策の「2018年問題」を議論してきた1。2018年は、政治的に安倍首相の 自民党総裁の任期であり、黒田日銀総裁の任期でもある。アベノミクスの後半戦、「アベノミクス2.0」の対象 期間は2016年から2018年の3年間と考えることができる。日銀にはオペレーションを続ける上で時間的な制 約があるなか、昨年12月18日の日銀の追加措置は、2018年までの時間的制約をクリアーさせる効果があっ 1 リサーチTODAY 2016 年 1 月 21 日 た。すなわち、国債の買入れ平均残存期間を7年~10年から7年~12年程度に長期化したことは、国債購 入の時限性の制約を2018年程度まで伸ばすことが目的と評価される2。 今日、日銀は長期国債を発行量以上に購入し、市場の国債残高を縮小させているが、この措置は市場 機能を麻痺させる「劇薬」に近い。このような「劇薬」がどこまで続くのかを考える上で、下記の図表で国債 発行残高に占める日銀の国債保有量の推移を試算する。この試算は日銀の国債買い入れが今日の年間 80兆円増額ベースを続ける一方で、国債の発行については2016年計画ベースがその後も続くと仮定した ものである。2020年には残存1年超5年以下の国債の100%近くを日銀が買い占めることになる。 ■図表:国債発行残高に占める日銀保有割合 100 (%) 90 84% 80 70 72% 60 50 40 30 残存1年超5年以下 残存10年以下 20 全体 (暦年) 10 2015 2016 2017 2018 2019 2020 (注)日銀の国債買入れは年間 80 兆円増額ペースで想定。年限別の買入れ額は 2015 年 1 月実績を踏まえ想定。 国債発行額は 2016 年度計画ベース。 (資料)みずほ総合研究所作成 銀行を中心とした金融機関は5年以下ゾーンを中心に担保ニーズで一定量の国債を保有する必要があ ることから、残存1年超5年以下のゾーンでは2年程度、つまり2018年以降に購入方法の変更を余儀なくさ れる可能性があった。昨年12月の買入れ期限の延長は、この制約を2018年以降まで伸ばすことで時限的 制約をクリアーすることになった。この措置は、2016年前半における追加緩和のための準備だったと評価す べきだ。今後、1月、3月、4月のどこで追加措置があってもおかしくない。 ■図表:日銀以外の民間投資家の国債保有残高 600 (兆円) 全体 残存10年以下 残存1年超5年以下 500 400 推計担保需要: 101兆円 300 200 100 0 2015 2016 2017 2018 2019 2020 (暦年) (注)日銀の国債買入れは年間 80 兆円増額ペースで想定。年限別の買入れ額は 2016 年 1 月計画を踏まえ想定。 国債発行額は 2016 年度計画ベース。 (資料)みずほ総合研究所作成 1 2 「財政・金融政策の『2018 年問題』とはなにか」(みずほ総合研究所 『リサーチ TODAY』 2015 年 12 月 17 日) 今回の試算は、野口雄裕「危機感を強める日銀」(みずほ総合研究所 『みずほインサイト』 2016 年 1 月 15 日)によるもの。 当レポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり、商品の勧誘を目的としたものではありません。本資料は、当社が信頼できると判断した各種データに基づき 作成されておりますが、その正確性、確実性を保証するものではありません。また、本資料に記載された内容は予告なしに変更されることもあります。 2
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