商流コーディネーション(決済条件の工夫による市場開拓力

商流コーディネーション(決済条件の工夫による市場開拓力の強化)について
みずほ銀行 外為営業部 山本 雄大
図表2. 2012年8月を基準とした東南アジア各国の通貨変動(対日本円)
拡大する日本企業の海外市場開拓
日本企業の海外拠点は2006年10
(%)
110
月の段階では約32,000拠点であった
100
が、
2014年10月現 在では約69,000
インドネシアルピア
マレーシアリンギ
90
拠点と、
多少の増減はありつつも増え
80
続けている
(出所:外務省)
。従来は割
安な労働力を求めての生産拠点設立
70
が中心であったが、
市場開拓を狙って
60
2012年
8月
の進出も相次いでいる。
また、
輸出につ
いても円高推移のあおりを受けて一時
山本 雄大
インドルピー
タイバーツ
2013年
2月
2013年
8月
2014年
2月
2014年
8月
2015年
2月
2015年
8月
(作成)
みずほ銀行の公表レートに基づき外為営業部が作成
減速したものの、
2013年頃からの円安推移を受けて回復してきた。
せるために①価格以外の取引条件面のメリッ
トの提供、
および②為
日本企業の海外市場開拓の課題
替変動リスクの軽減の2点、
つまり実商売以外の
「お金の流れをより
海外進出する日本企業が増え続ける一方で、
各企業さまざまな課
上手につくり上げていくこと」
が非常に重要となる。
これを
「商流をコー
題を認識している
(図表1の中小企業庁調査ご参照)
。
そのうち、
直接
ディネーションする」
と呼び、
後段で説明していくことにする。
投資を行う企業・
(日本から)
輸出を行う企業の最重要課題はいずれも
商流コーディネーションのポイント
「販売先の確保」
が挙げられている。依然として日本企業のモノ
・サー
「商流をコーディネーションする」際の検討ポイントとしては、
以下の
ビスは高く評価されているものの、
存在感を増す中国・韓国等と競合
2点が挙げられる。
することが増えてきたのも事実である。
そこで、
品質・価格はもちろんの
① 取引条件面でより優位性を発揮すること=決済条件面に
こと、
取引条件面でより優位性を発揮することも重要となってきた。
おいてメリットを如何に構築するか
一方、
直接投資を検討している企業の課題
(図表1の左)
2番目の
② 為替変動リスクの軽減=現地サイドの為替リスクを如何に
軽減し、
かつ自身でコントロールするか
「採算性の確保」
に対してのアプローチの一つとして、
現地サイドを
為替変動リスクから解放することが挙げられる。
日本企業が海外での
①決済条件面におけるメリッ
トの構築とは、
取引相手国の金融事情
取引・海外との取引
(以下、
「海外関連取引」
)
を行う場合、
現地サイド
を踏まえ、
実質的に資金融通することである。特に進出・輸出のターゲッ
で日常的に使用する通貨は現地通貨であるものの、
他方、
日本への
トとなりやすい東南アジアの経済は図表3のとおり
「高成長」→
「輸入
支払いは日本円・米ドル建てが多い。
したがって、
新興国等での現地
拡大」
→
「貿易赤字」
→
「通貨安」
の構図となりやすく、
結果、
先進国に
通貨安が進行すると、
結果として、
日本からの仕入値が割高となり、
相
比べて金利が高い
(東南アジア諸国の金利水準は図表4をご参照)
。
対的に日本の競争力が低下することもある。
その点を踏まえ、
輸入者側の金利負担を軽減することを指す。
以上より、
海外関連取引においては販売先を確保し事業を安定さ
②現地サイドの為替リスクを如何に軽減していくか、
とは、
海外関
図表1. 直接投資を検討している企業の課題
(左)
・輸出を行う企業の課題
(右)
為替リスクを日本サイドで引き
販売先の確保
販売先の確保
受けることにより、決済条件
為替変動のリスク
採算性・事業の
見通しの確保
現地の市場動向・ニーズの把握
面の負担を軽減することを指
採算性の維持・管理
必要資金の確保
海外展開を主導する人材の確保
信頼できる提携先・
アドバイザーの確保
信頼できる提携先・アドバイザーの確保
す。為替リスクの観点からは、
2009年 頃から2013年 頃に
経済情勢の変化のリスク
海外展開を主導する
人材の確保
販売機能
現地法制度・商習慣の把握
生産機能
政情不安・自然災害のリスク
現地法制度・商習慣の把握
(%)0
連取引において現地サイドの
かけての超円高の進行を経験
していること等もあり、
日本企
知的財産・技術流出のリスク
10
20
30
40
(作成)
中小企業庁データをもとに外為営業部が作成。
なお、数値は複数回答アンケートを集計したもの
20 mizuho global news | 2016 JAN&FEB vol.83
(%)0
20
40
60
業においてはかかるリスクのコ
ントロールの重要性が十分に
図表3. 東南アジア諸国の経済の構図
高成長
輸入拡大
通貨安
貿易赤字
図表4. アジア各国の政策金利
(%)
10.0
8.0
6.0
理解されている
本側が負担できれば取引を優位に進めることができる可能性もある。
が、新興諸国等
しかしながら、
現地通貨
(とりわけ新興国通貨)
には取引制限がある
の海外企業では
場合もあり、
たとえばインドネシアルピアは国外での取引が制限されて
未だ認 識 不 十
おり、
結果、
日本企業が輸出サイドの場合は使用することはできないこ
分であることも多
とがあり留意が必要である。
い。また、
日本企
なお、
上記の取引イメージを図表5、
および各者のニーズおよびそ
業であっても現
の対応フローについてを図表6にまとめたので、
併せてご確認いただき
地子会社等の限
たい。
られたスタッフ全
まとめ
てが財務関係に
商流コーディネーションとは聞きなれない言葉かもしれないが、
つま
精 通していると
るところ、
海外関連取引における取引の相手方に対して、
相手側の
は限らず、為替リ
事情を踏まえ、
より取引をしやすくなるよう
「思いやる」
ことに尽きる。
こ
4.0
スクが業績に与
れは決してリスクを一方的に引き受けることを意味するのではない。
そ
2.0
えるインパクトを
れぞれの国の事情も踏まえ、
それぞれが最も扱いに慣れたリスクを引
十分に理解して
き受けることを意味し、
結果、
最適なリスクテイクを実現することで取
いないことがある
引全体の経済合理性を極大化させようという試みである。各企業が
点にも留意する
海外でのビジネスを拡大していく過程において、
モノ
・サービスそのもの
必要があろう。
およびその価格だけでなく、
これまで以上に
「どのように商流をコーディ
0.0
2013年6月
2014年6月
2015年6月
インド
マレーシア
ベトナム
インドネシア
タイ
米国
(作成)
Bloombergデータに基づき外為営業部が作成
商流コーディネーションの具体的な手法
ネートしていくか」
というのは重要になってくる。
〈みずほ〉
としても、
そう
①決済条件面において如何にメリッ
トを構築するか、
については上
いったお客さまに対してアドバイスさせていただきたく考えており、
お取
述のとおり実質的に資金融通することが挙げられる。伝統的な日本
引部店までぜひお問い合わせいただきたい。
企業の決済スタンスであった前受決済から、
たとえばL/C発行による
図表5. 取引イメージ
(タイとの取引と仮定した場合)
ユーザンス供与や後受決済に変更することで現地の輸入者側の金
利負担を軽減する場合などである。他方、
その場合は取引相手に融
通したことに伴う自身の資金調達、
および代金回収をより確実なもの
にする方法、
についても並行して検討せねばならない。対処法として、
輸出者
or 親会社
L/Cベースの取引であれば輸出債権の流動化
(L/Cフォーフェイティ
③代金支払
At Sight/日本円
③’
代金支払
ユーザンス付/タイバーツ
輸入者
or 現地法人
①売買契約
ング)
、
送金ベースの取引であれば売掛債権の売却
(ファクタリング)
②モノ・サービス
が挙げられる。
また、
代金回収をより確実なものにする方法として貿易
保険制度を活用することも検討できるだろう。現地子会社等との親子
間取引においては、現地での販
図表6. 商流コーディネーションのまとめ
売実態に合わせた決済条件に
日本企業の課題
負担を軽減し、
本業に専念させる
何に軽減するか、
については、
たと
輸出
②現地サイドの為替リスクを如
課題①
ことができる。
取引相手側の課題
解決方法
直接投資
変更・マッチングさせることで資金
日本側での資金調達
販売先の確保
自国が高金利で
あるため、資金調達
コストに負担がかかる
低金利である日本側で
融通する
(=ユーザンスを付与する)
貿易保険制度の活用
課題②
直接投資・輸出
通貨建ての取引に変更・マッチン
ら解放することが挙げられる。対
外貨建て債権流動化
(L/Cフォーフェイティング)
売掛債権の売却
(ファクタリング)
えば日本側との取引通貨を現地
グさせ、
現地サイドを為替リスクか
対策
採算性の確保
通貨安等を受けて、
通貨安を許容できない
取引相手国の
自国通貨建て取引に
変更する
為替予約
ノン・デリバラブル・
フォワード
(NDF)
顧取引であれば、
為替リスクを日
mizuho global news | 2016 JAN&FEB vol.83 2 1