自己駆動粒子の運動と形状:質点結合系としてのモデリング 北畑裕之 1, 小谷野由紀 1, 住野豊 2 1 千葉大学大学院理学研究科 2 東京理科大学理学部 生物の運動を物理的に理解しようとする研究が近年盛んにおこなわれており、運動するという 生物の特徴を抽出した系はアクティブマターと呼ばれる。アクティブマターは生物を模倣した系 であるが非生物系を用いても作ることができる。非生物材料を用いたアクティブマターの一例と して、界面活性剤を周囲に放出することにより、周囲に自発的に界面張力勾配を作り運動する自 己駆動粒子が知られている。たとえば、水に浮かべた樟脳粒は、樟脳の分子を周囲の水面に放出 し、周囲の水面の表面張力が下がる。仮に自己駆動粒子の形状や場の境界に非対称性があれば、 その非対称性を反映して運動する向きが決定される[1]が、仮に形状や場が対称であっても運動す ることがある。これは、粒子が静止している時、その周囲に対称な濃度場が形成され、粒子には たらく力は対称であるはずであるが、わずかな摂動によって濃度場が変調をうけたときに、対称 な濃度場が不安定化することによって運動することができることが知られている[2]。これは、分 岐論におけるピッチフォーク分岐、あるいはドリフト分岐として理解される[3]。 系が完全に対称である場合には、以上に述べたような議論ができるが、それよりもわずかに対 称性が低い場合に、どのように系の対称性の破れが運動に反映されるかは興味深い。たとえば、 ある軸に対する鏡映対称性を保ったまま、回転対称性を破った形状を考えると、やはり自己駆動 粒子が静止する解は存在するはずである。しかしながら、静止状態がどのように不安定化するか は回転対称性がないため方向に依存する。その具体例として、これまでに著者らは、水面に楕円 形形状の樟脳粒を浮かべた場合についての挙動を調べた。その結果、楕円形の樟脳粒は短軸方向 に動くことが解析的、実験的に明らかになった[4,5]。 そこで、今回、より一般的な議論を行うために、自己駆動粒子の形状を拘束された質点系とし てとらえ、対称性のみを反映することで、粒子形状の対称性と運動に着目した解析を行った。そ の利点は、質点系としてとらえることで濃度場を Green 関数を用いて展開できるところにある。 変形と運動の結合をより一般的に扱った Ohta-Ohkuma モデル[6]とのつながりも議論できると期待 している。 [謝辞] 本研究は、文部科学省科学研究費補助金新学術領域研究「ゆらぎと構造」(No. 25103008) の補助を受けて行われた。 [参考文献] 1. S. Nakata, Y. Iguchi, S. Ose, M. Kuboyama, T. Ishii, and K. Yoshikawa : “Self-rotation of a camphor scraping o water: New insight into the old problem”, Langmuir 13, 4454-4458 (1997). 2. Y. Hayashima, M. Nagayama, and S. Nakata: “A camphor grain oscillates while breaking symmetry”, J. Phys. Chem. B 105, 5353-5357 (2001). 3. M. Nagayama, S. Nakata, Y. Doi, and Y. Hayashima: “A Theoretical and experimental study on the unidirectional motion of a camphor disk”, Physica D 194, 151-165 (2004). 4. H. Kitahata, K. Iida, and M. Nagayama: “Spontaneous motion of an elliptic camphor particle”, Phys. Rev. E 87, 010901 (2013). 5. K. Iida, H. Kitahata, and M. Nagayama: “Theoretical study on the translation and rotation of an elliptic camphor particle”, Physica D 272, 39-50 (2014). 6. T. Ohta and T. Ohkuma, “Deformable self-propelled -particles”, Phys. Rev. Lett. 102, 154101 (2009).
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