小 児 耳VoL11,No.1,1990 原 著 1987 1988年における風疹流行と、 先 天 性 風 疹 症 侯 群 に よ る難 聴 都筑俊寛・加我君孝・田中美郷 1)埼 玉県立小児医療 セ ンター(耳 鼻咽喉科) 2)帝 京大学医学部耳鼻咽喉科学教室 (主任:鈴 木淳一教授) 23 cases of congenital rubella hearing loss following during 1987-1988. maternal Toshihiro Tsuzuku, Kimitaka Kaga, Yoshisato Tanaka 1) Department of Otolaryngology, Saitama Children's Medical Center. 2) Department of Otolaryngology, School of Medicine, Teikyo University 23 cases of congenital hearing loss following maternal rubella during 1987-1988 were reported. These mothers except one case had not been vaccinated. The relationship between hearing loss and periods of infection, in our cases, from 10th to 20th weeks of gestation, hearing loss was found. The degree of hearing loss was more than 80 dBHL except one case who had vaccinated before pregnancy. In Japan, all girls are given rubella vaccine at the age of 14, since 1977. And in 1989, the rubella vaccine new program also started, this program calls for immunization of boys and girls between the age of 15 months and puberty in oder to prevent prevalence of rubella. Even these program started, pregnant women of unimmunized will be remained, as loss of a immunized chance or decreased antibody titer, and the congenital rubella syndrom will occur. We proposed that, as a otologist, we must pay attention to this problem. 1は る 日の 属 す る年 度 の末 日に いた る期 間」す な わ ち じ め に 中学2年 の年 齢 の 女子 を対 象 に定 期 接 種 と して 行 なわ れ て い る。 この年 齢 の女 子 に風 疹 ワクチ ンを 先 天 性 風 疹 症 侯 群(congenitalrubellasyndrome;CRS)は 、1941年 オ ース トラ リア の眼 科 接 種 す れ ぽ 、 妊娠 可能 な年 齢 の 間 は確 実 に 抗 体 が 医Greg91)が 報 告 した症 侯群 で 、 妊 娠 中 の風 疹 ウ 持 続 しCRSの イ ル ス感 染 に よ り難 聴 、 白 内障 、 心奇 形 な ど、 多 きる。 出 生 は ほ とん どな い こ とが期 待 で 本 邦 に おい て は 風 疹 の 流 行 は約10年 周 期 で あ り 彩 な先 天 奇形 を呈 す る こ とが 知 られ て い る。 風 疹 ワ クチ ンの接 種 方 式 は 米 国 で は、 流 行 の媒 今 回 は1985年 頃 よ り流 行 期 に 入 り1987年 に は全 国 体 とな る のが 小 児 で あ る こ とを 考 慮 し「小 児 に広 的 に流 行 が見 られ る よ うに な った。 今期 の 風疹 流 く接 種 を 行 な え ぽ流 行 規 模 を 縮 小 し、 局地 の流 行 行 と先 天 性 風 疹 症 侯 群 に よ る難 聴 は 、1988年 わ れ に と どめ 、CRSの わ れ は4例2)、 川 城 らが6例3)報 告 して い る。 わ 発 生 減 少 に つ な が る」と の 考 え よ り、1969年 接 種 が 広 範 囲 で実 施 され 、CRS れ わ れ の経 験 した症 例 は23例 にお よん だ の で 、 今 の 出生 の減 少 を見 る に いた った 。 他 方、 英 国 では 期 流 行 の 風疹 に よる難 聴 発 生 の問 題 点 に つ い て 検 経 済 性 、 有 効 性 を考 慮 し、 思 春 期 の 女性 に接 種 し 討 し報 告 す る。 て先 天 異 常 を 防止 し よ う と して い る。 本 邦 で は、 英 国 方 式 に 準 じて1977年 よ り、「13 歳 に達 す る 日の属 す る年 度 の初 日か ら15歳 に達 す 一54一 小 児 耳V◎L11,No.1,1990 五 1)対 罹 患 したた め 、 先 天 性 風 疹 症 侯 群 に よ る難 聴 を 疑 対 象 と方 法 われ 紹 介 され た1987年 お よび1988年 出 生 児 で、左 象 記 の先 天 性 風 疹 症 侯 群 の 診 断 基 準(表1)の1も 症 例 は 埼 玉 県立 小 児医 療 セ ンタ ー耳鼻 科 お よび 帝 京 大 学 小 児 難聴 外 来 を、 母 体 が妊 娠 中 に風 疹 に 表1先 天 性 風 疹症 候 群 の診 断 基 準 し くは 皿を み た した23例 で あ る。 1症 例 の プ ロ フ ィール(表2) 性別 男 性11名 、 女 性12名 。 受 診 年齢 生 後1ヶ 感 染 経 路1例 (RubellaandcongenitalrubellaUnitedStates1983) 月 ∼2歳8ヶ 月。 のみ感 染 源が 判 明 してい る が 、 他 は不 明 で あ った。 2母 体 の罹 患 年 令 母 体 の年 令 分 布 は 図1に 示 す よ うに24才 か ら32 才 で、26才 の1例 を 除 いて 、 風 疹 ワ クチ ン未 接 種 で あ った。 本i邦に お い ては1977年 よ り中 学2年 生 女 子 に 風 疹 ワ クチ ンを 接 種 して い るた め24-25才 以下 の女 性 は 風 疹 ワ クチ ンを 持 って い る可 能 性 が 高 い 、 この24才25才 の2症 例 は 接 種 の 機 会 を 失 っ た症 例 で あ った 。 2)方 法 小 児 発 達 神 経 学 的 検 査 お よ び 側 頭 骨 レ ン トゲ ン、 側 頭 骨 ・CT検 査 の 他 に次 の2種 類 の検 査 を 行 な った。 1聴 表2症 例 の プ ロフ ィール 力検 査:聴 性 脳 幹 反 応 を主 と して、 聴 性 行動 反 応 検 査 も併 せ て実 施 した 。 聴 性 脳 幹 反 応 は 2000Hz、0.1msecク リッ ク刺 激 を 用 い て 閾 値 検 査 お こな った 。 2平 衡 機 能 検 査:回 転 検 査 お よび 温 度 眼 振 検 査 を お こな った 。 回転 検 査 は4。/sec2で 等 角 加 速 度 で 加 速 後160。/secに な っ た 瞬 間 急 停 止 を さ せ 眼 振 を 電 気 眼振 計 に て 記 録 した。 温 度 眼 振 検 査: 0℃4mlの 氷 水 を 横 側 臥 位 で 外 耳 道 に 満 た し1 秒 後側 臥位 でFrenzel眼 図1母 一55一 鏡 に て 眼振 を 観 察 した。 体の罹患 年令 と人数 小 児耳Vo1.11,No.1,1990 表3風 疹 罹 患 時 間 とABR上 あ った 、 の聴 力閥 値 3)生 理 学 的平 衡 機 能 検 査 回 転検 査 お よび 温 度 眼 振検 査 は23例 中10例 に 施 行 で きた。 全 例 、 回 転 検 査 で は回 転 中 眼振 、 回 転 後 眼 振 と も年 齢 相 応 の 解 発 を認 め 、 温 度 眼振 検 査 では 眼振 の解 発 が 良好 で あ った. rv考 察 1977年 よ り風 疹 ワ クチ ンの接 種 が お こな われ て い る が 、 今 回 の風 疹 流 行 に お い て も、CRSの 発 生 を 認 め、 それ に よ る先 天 性 感 音 難 聴 児 の 出生 を み た 。 この原 因 の一 つ と して、 風 疹 ワ クチ ンの予 防 接 種 以前 で、 か わ 風疹 抗体 を持 た な い 妊娠 可能 な女 性 が存 在 した た め と考 え られ る。 風 疹 罹 患 時 期 とCRSの 発 生 頻 度 お よび 、CRS に よ る難 聴 の 発 生 に つ い て は 、Rendle・Shortの 推 計4)に よれ ば 妊 娠1ヵ 月:50%以 月:35%、 妊 娠3ヵ 月:18%、 上 、 妊 娠2ヵ 妊 娠4ヵ 月:8% で あ り頻 度 は さ らに低 くな るが、 妊 娠5ヵ 月 まで はCRSは 発 生 し、 どの 時 期 に おい て も先 天 性 感 音 難 聴 を 生 じうる とい う報 告 が あ る.難 聴 の発 生 につ いて は 、 この報 告 と同 様 に 、 われ わ れ の症 例 で も妊 娠20週 に お い て も難 聴 が 発生 した。 難 聴 の程 度 に つ い て は 、Uedaら の罹患時期に 無 関係 に妊 娠5ヵ 月 までは 難 聴 が 発生 しか つ 高 度 の 難聴 で あ る とい う報 告5)があ る。 わ れ わ れ の 症 例 に つ い て も、妊 娠 前 に風 疹 ワ クチ ンを接 種 した 皿 結 1)風 果 に もか か わ らず 難 聴 児 の 出生 を み た1例 80dBHL以 疹 罹 患 時 期 と聴 力(表3) CRSに 風 疹 罹 患 時 期 は 、妊 娠20週 以 下10週 まで さま ざ を除 き 上 の閾 値 上 昇 を 示 した、 よる難 聴 が 高 度 で あ るの はCRSの 内耳 ま で あ っ た が 、 症 例23を 除 い て 聴 性 脳 幹 反 応 で 病 理 学 的 研 究 に よ る とcochleo-saccular 80dBnHL以 displasiaが 生 じ る こ とが指i摘6)され て い る こ と と 上 の閾 値 上 昇 を 示 した。 症 例23は 母 体 が 風 疹 ワ クチ ン を 接 種 して あ る に もか か わ ら 関 連 が あ ろ う。 ず 、妊 娠 中 に風 疹 に 罹 患 した症 例 で あ った。 2)粗 大 運 動 の発 達(図2) 児 は、 ほ とん ど母 体 が予 防 接 種 を 受 け てい な い症 今 期 流 行 の風 疹 に よ るCRSの 先天性感音難聴 例 であ った 。 次 の 本邦 に おけ る風 疹 の流 行 は10年 定頸 、平 均3ヵ 月 、 お座 り、 平 均6ヵ 月 、 ハ イ ハ イ 、平 均8ヵ 月 、 処 女 歩 行 、 平均12、5ヵ月 。 で 後 と考 え られ るが 、1989年 春 よ り、 風疹 そ の もの の発 生 を予 防 す る 目的 で 、麻 疹 ・ム ン プス ・風疹 三種 混 合 ワ クチ ンの 接種 が 開始 され た の で流 行 は あ って も小 さ な も のに な る と期 待 され て い る、 し か しな が ら、予 防 接 種 率 を 高 め な い と年 長 にな っ てか らの 発病 の危 険 性 が あ る こ とや 、 抗体 緬 の 低 下 が10数 年 後 に起 こ る可能 性 が あ る7)とい った 問 図223症 例 の糧 大 運動 の 発達 ○平均 一 一分 散 題 点 が あ り、 わ れ われ は 今 後 もCRSの 一 協 一 発生お よ 小 児 耳V◎L11,No。1,1990 び、 そ れ に よる 難聴 に関 して 関 心 を払 う必 要 の あ 文 る こ とを 強調 した い。 V要 1) 約 1埼 玉 県 立 小 児 医 療 セ ン ター耳 鼻 科 お よび 帝 京 大 学 小 児 難 聴 外 来 に お い て、 今期 流 行 の風 疹 が 原 因 で先 天 性 風 疹 症 候 群 に よ る 難 聴 と診 断 した 1987年1988年 出 生 児 は23例 で あ った 。 2先 2)加 我 君 孝,酒 井 利 忠,中 村 良 博:先 群 に よ る 難 聴 を 疑 わ れ た 昭 和62年 小 児 耳,9;29-33,1988.・ 3)川 城 信 子,古 賀 慶 次 郎,荒 天 性 風疹 症 侯 群 が 今 期 流 行 に お い て もみ 持 た な い 女性 が母 体 とな った こ と。1977年 よ り開 始 され た 予 防接 種 法 が 、 風 疹 の 流 行 を抑 え る こ と が 目的 の予 防接 種 で な い こ とや 、 風疹 ワ クチ ンの 3全 Gregg, N. McA.: Congenital cataract following German measles in the mother. Trans. Ophthalmol Soc. Aust., 3; 35-46, 1941. 天 性風疹症 侯 度 出 生 児4症 木 昭 夫,他:今 例. 期 流行 の 風 疹 症 侯 群 症 例 に つ い て.AudiologyJapan,31; られ た こ とは 、 風疹 ワ クチ ン未 接 種 で 風疹 抗体 を 効 果 が100%で 献 な い こ と等 が 、 考 え られ た. 症 例 、 補 聴 器 を 必 要 とす る感 音 性 難 聴 で あ った。 653-654,1988. 4) Rendle-Short, J.: Maternal rubella, The practical management of a case. Lancet, ii; 373-376, 1964. 5) Ueda, K., Nishida, Y., Oshima, K. et al.: Corigenital rubella syndrome: Correlation of gestational age at time of maternal rubella with type of defect. J. Pediat., 94; 763-765, 1979. 6) Lindsay, J., Caruthers, D., Hemenway, W., et al.: Inner ear pathology following maternal rubella. Ann. Otol. Rhino'. Laryng., 62; 1201, 1953. タ 7)出 (本症 例 の 主 旨は 第90回 日本 耳 鼻 咽 喉 科 学 会 総 会 口雅 経:風 疹 ワ ク チ ン の 特 性 と 問 題 点.小 児 内 科21;84-89,1989. に て 口述 発 表 した。) 日本小児耳鼻咽喉科研究会常任運営委員会議事録 日 時:平 の継 続 を 依 頼 し、 そ の意 志 の確 認 中 で あ る 成2年5月22日(火) こ と、 また 、 新 運 営委 員 の推 薦 を 会長 、運 6:30∼8:00PM 場 所:ニ ュ ー 新 橋 ビ ル318号 室 営 委 員 に お 願 い した い 旨、報 告 が あ った。 堀 口運 営 委 員 長 が 次 回 の運 営 委 員 会 を も っ 日本 臨 床 ア レ ル ギ ー 研 究 所 出 席 者:堀 会 長)、 外 迫 、古 賀(会 計)、 鈴 鹿(第 て退 任 の 強 い ご希 望 の あ る こ とか ら、 会 則 の一 部 変 更 を 行 い 名 誉 会 員 とな って頂 け る 23回 会 長 代 理)、 鈴 木(庶 よ うに した い こ と、 次期 運 営委 員 長 に は 名 口(運 営 委 員 長)、 市 村(第22回 務)、 中 、新 納 、長 谷 川 、堀 、加 我(幹 田 事) 越 好 古 顧 問 を 推 薦 した い こ とな どが提 案 さ れ た。 (50音 順 、 敬 称 略) 6.編 〈議 題> 1.第22回 大 会 の 件:市 演 題 に 、 教 育 講 演1、 特 別 講 演1の プログ 7.そ ラ ム を 予 定 して い る 旨 、 報 告 が あ っ た 。 2.第23回 大 会 の 件:鈴 を「小 鹿 会 長 代 理 よ り、 主 題 児 の 動 部 の 腫 脹 と腫 瘤」と の 申 込 み は10月15日 集 の件:新 納 編 集委 員 長 よ り、 原 著 論 文 には 次 号 よ り英 文 抄 録 を 追 加 し、 海 外 へ の 村 登 寿 会 長 よ り、 一 般 配 布 に配 慮 す る 旨、報 告 が あ った。 の他1 1)国 を 締 切 り とす る 予 定 で 大 会(平 成3年7月20日)の 件:帝 2)日 本 耳 鼻 咽喉 科 学 会 の「関 連 す る学 会 京 大 耳 鼻 咽 喉 科 ・鈴 木 淳 一 教 授 が 推 薦 さ れ の 集 り」で 、学 術 会 議 の 次期 会長 選 挙 た。 に あ た って は 、「感 覚 医 学」の 4.第25回 大 会(平 成3年12月14日)の 件:近 た。 員 改 選 に つ い て:鈴 分野 に 属 す る こ とに な っ た と の 報 告 が あ っ 畿 大 耳 鼻 咽 喉 科 ・太 田 文 彦 教 授 が 推 薦 さ れ 5.役 ∼9日 に 開 催 され 、 当 運 営 委 員 会 で推 薦 した 会 員 らが パ ネ リス トと して参 加 す る。 あ る との報 告 が あ った。 3.第24回 際 小 児 耳 鼻 咽喉 科 学 会 が ベ ル ギ ーの ゲ ン トで6月5日 し、 演 題 た。 文責 木 委 員 よ り、 従 来 の 運 営 委 員 諸 氏 に 、 委 員 お よび 常 任 運 営 委 員 一57一 鈴木 淳 一(庶 務) 古 賀慶 次郎(会 計) 加我 君 孝(幹 事)
© Copyright 2024 ExpyDoc