Miyake newsletter 労働法No.3

弁護士法人
三宅法律事務所
Miyake & Partners
Miyake newsletter 労働法No.3
お客様 各位
労働法最新情報のご案内
拝啓
時下益々ご清祥のこととお慶び申し上げます。平素は格別のご高配を賜り、厚くお
礼申し上げます。
さて、弊事務所の労働事件分野を扱う専門チーム(三宅労働法研究会を略しまして、
「ミ
ラー研究会」と呼称しております。
)では、労働事件分野における時事的なテーマに関する
情報を発信させていただいておりますが、今回は、
「専門的知識を有する有期雇用労働者等
に関する特別措置法の施行について」をご案内させていただきます。
ミラー研究会では、継続的に労働事件分野における情報を発信させていただきたいと考
えておりますので、今後とも宜しくお願い申し上げます。
敬
具
平成27年4月16日
弁護士法人 三宅法律事務所
* 本ニュースレターに関するご質問・ご相談、その他労働法分野のご相談がございましたら、
下記にご連絡ください。
三宅労働法研究会
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弁護士 猿 木 秀 和
同
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弁護士 黒 田 清 行
同
井 上 響 太
同
森
同
大 浦 智 美
ミラー研専用メールアドレス:[email protected]
1
進
吾
専門的知識を有する有期雇用労働者等に関する特別措置法の施行について
弁護士 黒 田 清 行
第1
はじめに
労働契約法18条の規定1の適用に関する特例等について規定した「専門的知識を有
する有期雇用労働者等に関する特別措置法」
(以下「本特別措置法」といいます。)2は,
平成26年11月28日に公布され,平成27年4月1日から施行されておりますが,
平成27年3月18日に厚生労働省から「専門的知識を有する有期雇用労働者等に関
する特別措置法の施行について」と題する通達が発出されたため,その内容について
ご説明します。
第2
特例の概要
本特別措置法は,有期労働契約の通算期間が5年を超えた場合に発生する無期転換
申込権(労働契約法18条)の特例を定めるものですが,特例の適用対象者は大きく
二つの類型に分かれ,各類型ごとに特例の効果が定められています。
一つ目の類型
適用対象者: 「5年を超える一定の期間内に完了することが予定されている業務」
に就く高度専門的知識等を有する有期雇用労働者
※本特例法では,一つ目の類型の適用対象者を「第一種特定有期労働
者」と呼んでいます。
特例の効果:
一定の期間内に完了することが予定されている業務に就く期間(上
限10年間)
,無期転換申込権は発生しない。
1
労働契約法18条は,同一の使用者との間で有期労働契約が繰り返し更新され,通算5年
を超えた場合は,労働者の申込みにより,無期労働契約に転換できるとする,いわゆる無
期転換申込権について定めています。なお,5年の通算期間は,平成25年4月1日以後
に契約期間の初日を迎える期間の定めのある労働契約からカウントされることから,平成
25年4月1日を初日とする1年の期間の定めのある労働契約が毎年更新された場合,平
成30年4月1日に上記無期転換申込権が発生することになります。
2 平成25年12月13日に交付された国家戦略特別区域法附則第2条において,
産業の国
際競争力の強化及び国際的な経済活動の拠点の形成の推進を図る観点から,高収入かつ高
度な専門的知識等を有する有期雇用労働者等について,無期転換申込権発生までの期間の
在り方等について検討を行い,平成26年の通常国会に所要の法案の提出を目指す旨が規
程されたとの経緯をふまえ,専門的知識を有する有期雇用労働者等に関する特別措置法が
制定されました。
2
二つ目の類型
適用対象者: 定年後に有期契約で継続雇用されている高齢者
※本特例法では,二つ目の類型の適用対象者を「第二種特定有期労働
者」と呼んでいます。
特例の効果: 定年後引き続き雇用されている期間,無期転換申込権は発生しない。
第3
第一種特定有期労働者
第一種特定有期労働者は,大別して三つの要件を充足する必要があり,一つ目は専
門的知識等を有すること,二つ目は一定額以上の賃金を得ていること,三つ目は当該
専門的知識などを必要とする業務(5年を超える一定期間に完了することが予定され
ていること)に就くことです。
1 専門的知識等3
次のいずれかに該当することが必要とされています。
①
博士の学位を有する者
②
次に掲げる資格を有する者
a
公認会計士
b
医師
c
歯科医師
d 獣医師
③
e
弁護士
f
一級建築士
g
税理士
h
薬剤師
i
社会保険労務士
j
不動産鑑定士
k
技術士
l
弁理士
ITストラテジスト試験に合格した者若しくはシステムアナリスト試験に合格
した者又はアクチュアリーに関する試験に合格した者
④
特許発明の発明者,登録意匠を創作した者又は登録種苗を育成した者
⑤
科学技術に関する専門的応用能力を必要とする事項についての計画,設計,分析,
試験若しくは評価の業務に就こうとする者,情報処理システムの分析若しくは設計
の業務に就こうとする者又は衣服,室内装飾,工業製品,広告等の新たなデザイン
3
本稿は概要を記載するに留めておりますので,正確には,「専門的知識等を有する有期雇
用労働者等に関する特別措置法第2条1項の規定に基づき厚生労働大臣が定める基準」
(平
成27年厚生労働省告示第67号)をご参照ください。
3
の考案の業務に就こうとする者で,次のいずれかに該当する者
a
大学(短期大学を除く)において就こうとする業務に関する学科を修めて卒業
した者であって,就こうとする業務に5年以上従事した経験を有するもの
b
短期大学又は高等専門学校において就こうとする業務に関する学科を修めて
卒業した者であって,就こうとする業務に6年以上従事した経験を有するもの
c
高等学校において就こうとする業務に関する学科を修めて卒業した者であっ
て,就こうとする業務に7年以上従事した経験を有するもの
⑥
事業運営において情報処理システムを活用するための問題点の把握又はそれを
活用するための方法に関する考案若しくは助言の業務に就こうとする者であって,
システムエンジニアの業務に5年以上従事した経験を有するもの
⑦
国,地方公共団体,一般社団法人又は一般財団法人その他これらに準ずるものに
より,その有する知識,技術又は経験が優れたものであると認定されている者(①
から⑥に準ずる者として厚生労働省労働基準局長の認める者に限る。
)
2 一定額以上の賃金
事業主から支払われると見込まれる賃金の額を1年間当たりの賃金の額に換算した
額が1075万円以上である者に限られます。
※名称の如何に関わらず,あらかじめ具体的な額をもって支払われることが約束さ
れ,支払われることが確実に見込まれる賃金は全て含まれる一方,所定外労働に対
する手当や労働者の勤務成績等に応じて支払われる賞与,業績給等その支給額があ
らかじめ確定されていないものは含まれません。
なお,賞与や業績給でもいわゆる最低保障額が定められ,その最低保障額につい
ては支払われることが確実に見込まれる場合には,その最低保障額は含まれると解
されています。
3 専門的知識等を必要とする業務
専門的知識等を必要とする業務に就くもの,ただし,その業務は5年を超える一定
の期間内に完了することが予定されているものに限られます。
第4
第二種特定有期労働者
第二種特定有期労働者は,定年後(60歳以上に限る)も事業主4に引き続き継続雇
用されている有期雇用労働者です。
4
事業主には,高年齢者雇用安定法9条2項に定める「特殊関係事業主」(当該事業主の経
営を実質的に支配することが可能となる関係にある事業主その他の当該事業主と特殊な関
係のある事業主として厚生労働省令で定める事業主)を含むとされています。
4
第5
特例の適用を受けることができる事業主
事業主が本特別措置法の特例を受けるためには,第一種特定有期労働者については,
第一種計画を,第二種特定有期労働者については第二種計画を作成し,都道府県労働
局長に提出し,適当であるとの認定を受けなければなりません。
※
本特別措置法では,第一種計画の認定を受けた事業主を第一種認定事業主,第二種
計画の認定を受けた事業主を第二種認定事業主と呼んでいます。
1 第一種計画
第一種計画には次の掲げる事項を記載しなければならないものとされています。
①
計画対象第一種特定有期雇用労働者が就く特定有期業務の内容並びに開始及び
完了の日
②
計画対象第一種特定有期雇用労働者がその職業生活を通じて発揮することがで
きる能力の維持向上を自主的に図るための教育訓練を受けるための有給休暇の付
与に関する措置その他の維持向上を自主的に図る機会の付与に関する措置その他
当該事業主が行う計画対象第一種特定有期雇用労働者の特性に応じた雇用管理に
関する措置の内容
※通達にある第一種計画の申請書を添付します(添付資料1)。当該申請書によれば,
上記②の第一種特定有期雇用労働者の特性に応じた雇用管理に関する措置の内容は,
例えば□教育訓練を受けるための有給休暇又は長期休暇の付与(労働基準法第39条
の年次有給休暇を除く)の欄に✔したうえで,その実施を裏付ける資料(職業能力開
発計画,労働契約書のひな形,就業規則等)を添付することになります。
2 第二種計画
第二種計画には,計画対象第二種特定有期雇用労働者に対する配慮,職務及び職場
環境に関する配慮その他の当該事業主が行う計画対象第二種特定有期雇用労働者の特
性に応じた雇用管理に関する措置の内容を記載しなければならないものとされていま
す。
※通達にある第二種計画の申請書を添付します(添付資料2)。当該申請書によれば,
例えば□高年齢者雇用推進者の選任の欄に✔したうえで,その実施を裏付ける資料(契
約書のひな形,就業規則等)を添付することになります。
第6 最後に
本件特別措置法は,労働契約法18条の特例を定めるものとして当初注目されてい
ましたが,具体的な適用要件からすると,実務上活用できる場面は殆どないと言わざ
るを得ません。
まず,第一種特定有期労働者については,年収1075万円以上との要件があるこ
とによって,一般の事業主にとって検討対象にさえならないでしょう。
また,第二種特定有期労働者についても,定年後も事業主に引き続き継続雇用され
ている有期雇用労働者といっても,高年齢者雇用安定法によって義務付けられている
継続雇用期間は65歳までですから,5年を超えて継続雇用することは殆どないでし
5
ょう。もっとも,企業によっては,65歳を超えても高年齢者の労働力を活用したい,
あるいは特定の能力を有する高年齢者について5年以上継続するプロジェクトに従事
してもらいたいといったことも考えられ,かかるニーズがあれば第二種特定有期労働
者を活用することを検討することになろうかと思います。
なお,第一種特定有期労働者を活用できる制度にするためには,少なくとも年収要
件1075万円を半額程度まで減額する必要があると思われます。そのことを意識し
てかどうかわかりませんが,年収要件は,「厚生労働省令で定める額以上」とあり,厚
生労働省令の定めに権限委譲し,少なくとも年収要件を減額するために法改正まで必
要ないことになっており,今後の年収要件が変更されるのかについては,注目してい
きたいと考えております。
以上
6