水産糖脂質の抽出・精製とその特性を活かした多機能食品素材の開発

道総研
産業技術研究本部
食品加工研究センター
Forestry Research Institute
●重点研究
水産糖脂質の抽出・精製と
その特性を活かした多機能食品素材の開発
平成21~23年度(3年間)
食品加工研究センター
共同(協力)機関
Abstract
概
北海道大学 ((株)釧路厚生社、(株)ケルプ研究所)
要
動物、植物組織に存在する糖脂質の一種であるスフィンゴ糖脂質(グルコシルセラミド)は 、皮膚の保湿・
美白効果、免疫力の向上(免疫賦活活性)、腫瘍の増殖抑制(抗腫瘍活性)などの機能があるとされ、機能性
食品や化粧品の素材として、主に米糠やトウモロコシ、キノコなどから抽出されたものが利用されていますが、
生産規模が小さく需要に対する供給が不足しています。また、道内ではヒトデなどの水産廃棄物が年間約20万
トン排出され、その処理が大きな社会問題になっています。
そこで、本研究では新たな多機能食品素材の開発と水産未利用資源の有効活用を目的に、ヒトデやナマコなど
に含まれるグルコシルセラミドに注目し、抽出・精製方法の検討、機能性の評価を行い、さらにグルコシルセ
ラミドが水に分散したもの(乳化物)の安定性などを高める微細乳化技術の利用により、新規食品・化粧品素
材の製造技術を開発しました。現在、道内企業において、研究成果の実用化に向けた技術移転、共同研究を
行っています。
Results
1
成
果
グルコシルセラミドの抽出・精製法の確立
■乾燥したヒトデ、ナマコ内臓には、スフィンゴ糖脂質(グルコシルセラミド)それぞれ約15mg/g含
まれ、グルコシルセラミドの抽出源として有望であることがわかりました(表1)。
■ヒトデ及びナマコ内臓から、グルコシルセラミドを抽出・濃縮する方法を確立し、原料1kgからグル
コシルセラミドを50%以上含む濃縮物を、ヒトデでは2.8g、ナマコ内臓では2.3g、それぞれ得るこ
とができました(表2、図1、2)。
表1 グルコシルセラミドの含量
部位
全体
内臓
胚芽
パルプ
搾汁残渣
グルコシルセラミド
14.55 (mg/g乾燥物)
14.98
0.20 *
含量が
0.45 *
高い
0.94 *
ヒトデ
ナマコ
グルコシル
セラミド
不純物の除去
試料
ヒトデ
ナマコ
米糠
ビート
リンゴ
*北海道農業研究センターの分析値
表2 グルコシルセラミドの抽出・精製
ヒトデ ナマコ内臓
冷凍試料
1,000g
1.乾燥粉末
187g
2.エタノール抽出物
18g
3.グリセロ脂質除去物 9.9g
4.濃縮物
2.8g
Hokkaido Research Organization
1,000g
192g
20g
10g
2.3g
A
A:
B:
C:
B C
A B C
エタノール抽出物
グリセロ脂質を除去したもの
グルコシルセラミド濃縮物
図1 グルコシルセラミド濃縮物
の脂質組成分析
図2 グルコシルセラミド
の抽出・精製工程
地方独立行政法人
北海道立総合研究機構
道総研
Results
2
産業技術研究本部
食品加工研究センター
Forestry Research Institute
成
果
グルコシルセラミドの機能性評価
■ヒトデ及びナマコから抽出・精製したグルコシルセラミドは、腫瘍細胞培養試験において濃度が増える
ほど腫瘍細胞の増殖を抑制し、その効果はナマコよりもヒトデが高いことがわかりました(図3)。
■実験動物(マウス)を使った抗腫瘍活性評価でも、これらのグルコシルセラミドを与えることにより、
有意な生存期間の延長、腫瘍組織の縮小、腹水及び腫瘍細胞の減少が確認され、明らかな抗腫瘍機能が
認められました(図4)。
120
ナマコ
ヒトデ
延命効果!!
100
生 残 率 %( )
腫瘍細胞生残率(
%)
120
100
80
80
60
60
24時間
48時間
72時間
40
20
対照
ナマコ
ヒトデ
40
20
1.5625 31.25 6.25 12.5 25.0
2
1.5625 31.25 6.25 12.5 25.0
4
8
6
図3 腫瘍細胞の増殖におけるグルコシルセラミドの影響
3
10
12
14
16
18
20
22
経過日数(日)
グルコシルセラミド添加量(μM)
図4 グルコシルセラミドによるマウスの延命効果
グルコシルセラミド乳化物の安定性評価
■ヒトデ及びナマコ内臓由来のグルコシルセラミドを、高圧乳化装置を用いて微細乳化処理を行いました。
その結果、粒子平均径が0.1μm(※1μm=1/1000mm)となり、透明感があり、均一な乳化物とな
りました(図5、6)。
■乳化物を、37℃、暗所で30日間静置したところ、透過度や酸化的劣化の指標に大きな変化が認められ
ないことから、安定性が比較的高いことがわかりました(図7)。
■このことから、微細乳化技術を使うことで、透明で見た目がよく、安定性の高い商品の製造が可能とな
りました。
30
高圧乳化
(100MPa) (200MPa)
乳化粒子0.1μm以下
25
体積(
%)
未処理
高圧乳化
(100MPa)
泡レス
ミキサー
高圧乳化
(200MPa)
20
15
10
5
0
0.04
図5 ヒトデ・グルコシルセラミド
の微細乳化物
Activities
業
4
粒系(μm)
高圧乳化(100MPa)
高圧乳化(200MPa)
100
透過度(%、600nm)
未処理
泡レス
ミキサー
400
図6 ヒトデ・グルコシルセラミ
ドの微細乳化物の粒度分布
80
60
40
未処理
泡レスミキサー
20
10
0
0
10
20
30
保存期間(日、37℃、暗所)
図7 ヒトデ・グルコシルセラミド
の微細乳化物の安定性
績
【発表論文等】
佐々木茂文・田中 彰・梅田智里・能登裕子(2012)水産糖脂質の抽出・精製とその特性を活かした多機能食品素材の開発。食品加
工研究センター平成23年事業報告書
Dissemination
普
及
■FOOMA JAPAN 2012 アカデミックプ
ラザで研究成果を発表し、食品関連企業
にPRしました。
■道内食品企業において、研究成果の実用化
に向けた技術移転、共同研究を行っています。
Hokkaido Research Organization
Contact
問い合わせ
産業技術研究本部 食品加工研究センター
食品開発部 食品開発グループ
【電話】 011 –387 – 4115
【メール】[email protected]
【ウェブ】http://www. food.hro.or.jp
地方独立行政法人
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