市立総合病院の地方独立行政法人化に向けて

東大阪市立総合病院の地方独立行政法人化に向けて
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概要
医療制度の改正や診療報酬改定など、病院を取り巻く医療環境が目まぐるしく変化して
いくなか、東大阪市立総合病院が今後も地域の中核病院として、急性期医療を担っていく
ためには、このような変化に迅速かつ柔軟に対応していく必要があります。
平成 24 年 5 月には、地方公営企業法の一部適用から全部適用に移行し、一定の効果が見
られましたが、経営の迅速性や独立性においてまだ制限が残る状態となっています。
このような中、東大阪市立総合病院が医療環境の変化に迅速かつ柔軟に対応し、経営課
題を解決していくことができる経営形態について検討した結果、
「地方独立行政法人(非公
務員型)
」(以下、
「地方独立行政法人」という。
)への移行に向けて進めていくことといた
しました。
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東大阪市立総合病院を取り巻く環境
■大阪府中東部に位置する中河内医療圏(東大阪市、八尾市、柏原市)の中核的公立病院
■東大阪市そして中河内医療圏を中心に、急性期医療や救急医療を担うとともに、地域医療
の中核病院として市民・患者が求める医療を実現するために地域の医療施設の中心的役割
を担うことが期待されている。
■中河内医療圏においては、大学病院や国立病院がなく、人口当たりや病床当たりの医療者
数は府下の医療圏で最低である。
■医療供給体制は、十分な供給体制が確保されているとは言い難い状況にあり、特に医療人
材確保は難しく、医療機能分化も考慮されるべき地域である。
■中河内医療圏における医療需要状況は、全国平均をやや上回る少子高齢化が進み、少子化
に相まって産科需要が下がる一方、高齢者に多い肺炎等の呼吸器疾患や年齢とともに機能
低下が進む循環器疾患の入院・外来需要が増すと想定されている。
■大阪市医療圏と隣接しており、患者の来院動線を考慮すると、大阪市内の急性期病院も経
営上意識せざるを得ない関係にあり、患者流出が大阪府下最多の地域となっている。
■国立、大阪府立などの多くの病院が独立行政法人化している。
表 1 大阪府内で独立行政法人化している病院の一覧
国立
大阪府立
大阪市立
その他の市立病院
○大阪医療センター
○大阪南医療センター
○急性期・総合医療センター
○成人病センター
○母子保健総合医療センター
など
○総合医療センター
○十三市民病院
○住吉市民病院
○りんくう総合医療センター
○市立吹田市民病院
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○市立堺病院
など
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東大阪市立総合病院がめざす方向
(1)東大阪市立総合病院が抱える課題
表 2 東大阪市立総合病院が抱える課題
課題
現状
・今後の人材不足への対応、専門的な技術をもった職員の増員を行
①雇用、処遇
うために、短時間正規雇用制度など様々な雇用形態を設定するにあた
り、現行法制度の下では制約を受ける。
・実績に基づいた給与制度の構築について制約を受ける。
②職員採用
③職員定数
・採用試験の頻度、受験資格(年齢制限など)など東大阪市の制度に準
ずるため、必要な人材を迅速に雇用することが難しい。
・東大阪市の定数による制限があり、特に薬剤医療技術局職員や事務局
職員において、現場に必要な人員が確保できない。
・効率的な事務を行うにあたり、事務職員にも専門的な知識や経験が必
④人材育成
要となるが、事務職員は異動があるため、専門知識や経験をもった職
員の育成が難しい。
⑤組織・運用
・医療環境の変化に対応するために院内組織を弾力的に変更しようとし
ても、その組織への職員の配置を迅速に行うことが難しい。
(2)めざす方向
東大阪市立総合病院は、平成 10 年の開設以来、長年にわたり地域の中核病院として市民
の期待に応え、その役割を果たしてきました。平成 24 年 5 月には、地方公営企業法の一部
適用から全部適用に移行し、事業管理者に一定の権限が付与され、一部適用時と比較して
経営上の機動性・柔軟性が向上し、医師・看護師の確保や組織機構の見直しなど一定の成
果がありました。
しかし、現状の全部適用の経営形態では一定の範囲内において市から独立した運営がで
きているものの、経営の迅速性や独立性の観点を勘案すると、まだ制限が残る状態となっ
ています。
医療を取り巻く状況は大きく変化(※)しており、今後も急性期医療を継続的かつ安定
的に行い、より良い患者サービスを提供していくためには、迅速かつ柔軟に課題を解決し
ていくことができる経営形態に移行する必要があると考えたところです。
(※)医療法の改正及び診療報酬制度の見直しが継続的に行われており、これまで進めて
きた医療技術に関わる外部委託から直営化への転換が診療報酬制度上求められて
います。また、平成 26 年度から始まった病床機能報告制度により医療機能の現状
と今後の方向について大阪府に報告し、その報告を基に大阪府が地域医療ビジョン
を策定し、機能再編等を行うこととなっています。
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最適な経営形態の検討
(1)各経営形態の特徴(経営形態の比較)
①
地方公営企業法全部適用
■雇用・処遇面で地方公務員法などによる制限がある。
■事務職員は市長部局等との人事異動があり、医療に精通した人材の育成が難しい。
②
地方独立行政法人
■自治体が主体的に実施する必要はないものの、民間においては必ずしも実施されない
おそれがある公共性の高い事業について、業務の効率性とサービス水準の向上を図る
ことを目的として自治体が設立する団体で、自治体とは別の法人格で運営する経営形
態。
■中期目標の策定などは自治体主導で行われるため、政策医療などにおいて一定自治体
の意向が反映される。
■地方公営企業法の全部適用に比べ、運営上の独立性が高く、病院独自の機動的な運営
ができることが特徴。
・業績結果に基づく弾力的な人事給与制度の導入がし易くなる。
・迅速かつ柔軟に医療者や事務職員を採用し、育成することがし易くなる。
■医師の派遣元である大学病院と同じ経営形態になることで、派遣される医師が地方公
務員法による制限を受けなくなるので、派遣を受け易くなる。
■移行の際に、経営形態の移行に係る各種費用が発生する。
■出資元や長期借入先が東大阪市に限定される。
③
指定管理者制度
■患者サービスの向上と効率的な管理運営を図ることを目的として、自治体が施設を整
備・保有し、住民の財産を維持しながら、病院の運営管理全般については、議会の議
決を経て民間の社会医療法人等を指定管理者として包括的に委ねる公設民営制度。
■具体的な業務運営の責任範囲や指定管理期間等に関しては、協定により自治体と指定
管理者間で明確にする手続を取る。
■指定管理者次第で機動的な運営が可能となる(東大阪市との協定次第)
。
■移行時に、現職員の退職金など多額の移行費が発生する。
④
民間譲渡
■経営面や施設面など病院事業そのものを医療法人等に譲渡し、民間の医療機関として
医療サービスの提供を行うもの。
■病院運営においては、完全に独立的であり、業務面でも譲渡先の特色をもった運営が
なされる。
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■事業者次第で機動的な運営が可能となる(東大阪市との譲渡条件次第)
。
■移行時に、現職員の退職金など多額の移行費が発生する。
■自治体病院からの切り離しを意味する。
(2)課題解決にむけた最適な経営形態
東大阪市立総合病院が抱える課題を解決するためには、地方公営企業法全部適用から、
「地方独立行政法人」、
「指定管理者制度」、
「民間譲渡」のいずれかに移行することが適当
と考えられます。
この 3 つの経営形態について検討すると、
「指定管理者制度」、「民間譲渡」については、
(Ⅰ)業務面が、協定や譲渡条件で制限できるとはいえ受託者に委ねられることから、市立
病院における「公」としての役割の継続性に対する懸念がある
(Ⅱ)500 床以上の規模の病院を管理できる受託者の確保が難しい
(Ⅲ)現職員への退職金など多額の移行費用が発生する
という問題があります。
これらのことから、
「指定管理者制度」
、
「民間譲渡」への移行は現実的ではないと考えら
れ、
「地方独立行政法人」が課題解決にむけた最適な経営形態であるといえます。
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外部有識者からの提言
東大阪市立総合病院としては、
「地方独立行政法人」が課題解決に向けた最適な経営形態
であるという方針に至りましたが、病院内だけの議論による結論であったため、外部の有
識者からの意見も参考にすることとしました。
医師(医師会・大学・病院)
、経営層、弁護士、市民代表からなる 6 名の有識者に当院の
現状等の説明を行いながら、最適な経営形態について議論いただき、平成 27 年 2 月に、今
後の東大阪市立総合病院にとってふさわしい経営形態について、東大阪市病院事業管理者
に提言をいただきました。
(1)提言概要
■公立病院としての機能を維持し、市民にとって必要な医療を継続的・安定的に提供す
るといった東大阪市立総合病院の役割はこれまでと変わることはなく、急性期病院と
して、地域医療を支えるために機能分化を意識した病院運営を実施すること、また診
療報酬の改定や医療制度の改正など病院を取り巻く経営環境に迅速かつ柔軟に対応で
きる経営形態は何かという観点から結論を出すこととなった。
■地方独立行政法人制度は、病院が独立した法人格をもって、公共性の高い事務・事業
を効率的かつ効果的に推進させるものであり、権限が強化されたトップ(理事長)の
下で、自己決定と自己責任の原則が徹底されるとともに、財務運営や人事管理の弾力
化など、より経営改善しやすい仕組みを導入できる制度である。
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■現行の地方公営企業法の全部適用では、人事評価等における公務員制度上の制約や中
期目標の公表、業績評価の仕組みが制度化されていないといった透明性に関する課題
が残ったことと比較して、地方独立行政法人は経営の自由度や独自性という点におい
て優れている。この点で国の政策に迅速に対応できる体制となる。
■市民の視点において地方独立行政法人は、公共性は現状と変わりなく、政策医療(救
急、周産期、災害等医療)や市民の安心・期待への対応の点では現状以上の医療を提
供する体制が整えられる可能性がある点において、他経営形態より優れていると判断
した。
■本会として、議論を重ね他の経営形態と比較・検討し、公立病院として果たすべき役
割の継続性と同時に、事業環境の変化への対応が一定可能であり、迅速性・弾力性に
富むことから『地方独立行政法人への移行』を提言するとういう結論に至った。
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地方独立行政法人への移行
東大阪市立総合病院における最適な経営形態は地方独立行政法人であることが提言され
たことも受け、これまで院内で議論してきた方針のとおり、地方独立行政法人への移行を
進めることを院内決定しました。
(1)地方独立行政法人化による効果
■東大阪市立総合病院が抱える課題を解決できるとともに、今後の医療環境の変化にも
迅速に対応できるようになるため、新たな課題に対しても柔軟に対応していくことが
できる。
■医療環境の変化に迅速に対応していくことで、医療の質の向上が見込める。また、質
の高い医療を実践できる病院として、医師を確保しやすくなる。
■東大阪市及び市議会との関係により、
「公」としての役割の確保が可能。引続き政策医
療(救急、周産期、災害医療等)の提供は行われる。
■中期目標、中期計画に基づく運営と、評価委員会による第三者評価が義務付けられる
ため、経営の透明性が図られる。
■地方独立行政法人化を理由として患者負担が変わることはない。
(2)地方独立行政法人化による東大阪市及び市議会との関係
■定款…法人の設立根拠となるもので、法人の名称、業務範囲等一定の事項を定める。
■中期目標…3∼5 年の期間において、法人が達成するべき業務運営に関する目標。
■中期計画…中期目標で指示を受けた業務運営の目標を達成するための具体的な計画。
■運営交付金…全適時の繰入金に当たるもの。一般会計予算として、引続き審議の対象と
なる。
以上の項目の決定において、市議会の議決が必要となります。
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東大阪市
地方独立行政法人
市
市
議決と報告
運営交付金
議 会
各項目に対し
中期目標・中期計画
長
市立総合病院
定款
意見・評価
評価・勧告
評価委員会
(3)
移行スケジュール(案)
平成 27 年(2015 年)
4月
「地方独立行政法人化に向けて」へのパブリックコ
メント実施
平成 28 年(2016 年)
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6月
定款制定、評価委員会の設置
3月
中期目標作成
9月
中期計画作成
10 月
地方独立行政法人設立
東大阪市立総合病院の経営形態の見直しにあたり
東大阪市立総合病院の経営形態の見直しについて検討した結果、医療を取り巻く状況の
変化に迅速かつ柔軟に対応し、現在東大阪市立総合病院が抱える課題を解決していくため
の最適な経営形態は、地方独立行政法人であるとしました。
昨今の目まぐるしく変化する状況においては、なるべく早い時期に地方独立行政法人化
することが望ましく、速やかに準備を進めていく考えです。
また、外部有識者からは、法人化しただけで経営改善がうまくいくというものではなく、
その成否は、制度をいかに有効に、積極的に活用できるかにかかっており、自助努力の必
要性が増すことに違いないということも指摘されました。この点を踏まえ、経営形態の移
行後も見据えた移行準備を進めていきます。
地方独立行政法人化によって、経営の独立性がこれまでより増すことになりますが、東
大阪市立の病院であることに変わりはなく、
「公」の病院としての責務である、政策医療に
もこれまで以上に取り組んでいかなければならないと考えています。
東大阪市立総合病院が今後も中河内地域の中核病院として、急性期医療を継続的かつ安
定的に行うという役割を担い、市民の皆さんに安心してもらえる、より良い患者サービス
を提供していけるよう進めてまいります。
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