冬 の 陽

冬 の 陽
市川茂子
冬の陽のそそぐ墓石を洗いおり君の体温かすかによぎる
つま
かえりみるひまなく過ぎし十年の歳月早し夫の命日
追憶はカレンダーめくる日々なりてすぎ来し今はわれのたそがれ
感情の起伏はげしくなるという適応障害の悩み告げくる
冬空に雲広がりて沈む陽の傾き早しビルの間に見ゆ
庭先にピラカンサの実を落しゆく何の鳥かとわからずにいて
今朝もまたピラカンサの実の散らばりて庭に来し鳥影も見せずに
年明けてわれに変われることあるや初日を仰ぎ思いめぐらす
正月の賑わい去りて冷蔵庫に余りしものはこれからの糧
寒中の風雨は春を呼びくるとコタツに入りて黙し待ちおり
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展景 No. 77
展景 No. 77
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