梅 雨 明 け 市川茂子 この町に住みて老いつつ遠き日の山里を恋う 行くこともなし テレビ見て来たるスーパーの棚の前そこだけ空いて押し麦の場所 押し麦の効用テレビで見し人と棚の前にて言葉を交わす 暮れてゆく彼方に棚引く雨雲をかすかに染めて赤き陽沈む 明け方の青空広がる梅雨明けの暑き陽今し昇りくるなり 梅雨明けを待ちいしごとく木立より蟬の声はす今朝の散歩に 夏風邪に臥す十日余はいささかも休まらず過ぐ咳き込みながら な 売薬で治る風邪とは思いしが危ぶみながら並めて臥しおり この川を渡らんとして目覚めたり熱に出でくる汗まといつつ 明け方の夢に流れる灯籠を追いてつかめず此岸に佇てり 12 展景 No. 83 展景 No. 83 13
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