7. 電子物理工学科における安全

7. 電 子 物 理 工 学 科 に お け る 安 全
7.1
一般的心構え
電子物理工学科では種々の手段を用いて新しいエレクトロニクス素材の開発を行っており、危
険物を取り扱うことも多い。そこで、常に安全に十分配慮して実験を行わなければならない。こ
のためには次のような基本的な心構えが重要である。
1.扱う危険物の性質を十分に知っておくこと。
2.起こり得る危険を想定して、十分な予防策をとっておくこと。
3.自分の安全は自分で守ること。
4.実験に集中して、小さな異常も見逃さないこと。
5.通路に椅子などを放置しないこと。
以上のことを十分守らなければならない。
以下、電子物理工学科で扱う危険物とその取扱について具体的に記していく。
実験を行うにあたりテキストの次の項目は必ず頭に入れておくこと。
・取り扱う危険物に関する項目。(本文:第7.2節)
・緊急時対策と緊急連絡網。(本文:第13章及び第8章付録)
7.2
学生実験における安全
実験中は以下のことに注意して安全に実験を行うこと。
7.2.1
一般的注意
・実験台とその周囲の整理、整頓に努めること。実験に必要な以外のものは実験台に置かない
こと。
・動きやすい服装をすること。実験室では上履きにはきかえること。
・事故が起きた場合の対策を考えておくこと。
・実験操作の意味を理解して実験を行うこと。
・配線はしっかり行い、ショ-トや断線のないようにすること。
・グル-プで実験を行う時は安全を確認してからスイッチ等を入れること。
・異常のある時には、すぐに担当教官に連絡すること。
・実験が終了した時には、担当教官にその旨を伝え、指示を受けること。
・実験終了後は器具等をもとの位置にもどし、実験台の整理、整頓を行うこと。
7.2.2
注意を要する実験
・すべての実験で感電の可能性がある。
(本文:電気情報システム工学科)
93
・以下、特に注意すべき点を記す。
◎電気物理工学実験Ⅱ
実験題目
電気伝導と
危険物の名称
液体窒素
安
全
対
策
教員の注意に従うこと (本文:11.2節を参照)
・凍傷に注意
帯磁率
手袋、服等しみこむものにかけないこと。少量の飛沫
は危なくないのであわてないこと。
・窒素容器を倒さないこと。
・蒸発窒素ガスを吸わない。(Heガスのダッグボイスを
まねて窒素ガスを吸う学生がいた)
永久磁石
小さな磁石だが予想以上に強力なの で注意すること。
・力学的な点(手をはさんだり、鉄製品は吸引される)
・磁気カ-ド、時計を近づけないこと。
◎電子物理工学実験Ⅲ(4年次前期)
上記の一般的な注意、および感電に対する注意以外特になし。
7.3
各研究室における安全
各講座では最先端の研究を行っており、学生実験に比べて危険性も大きい。十分に確立してい
ない実験も行うため、自分の行う実験に対してどのような危険性があるかを予想することが非常
に重要となる。
これまでの本文の内容に加えて、各研究室の実状に合わせてさまざまな安全対策がなされてい
る。これらの具体的な内容は担当教員の指示に従わなければならないが、ここでは各研究室で実
際に取り扱っている危険物とその安全対策について簡単に記しておく。
7.3.1
量子物性(第1)研究グループ
危険物の名称 取り扱う危険物の具体例
高 圧 ガ ス ヘリウム回収設備
安
全
対
策
危害予防規定 (高圧ガス取締法第26条の1項)
(高圧ガス製造所)
保安検査(高圧ガス取締法第35条の1項)
(年1回、大阪府)
保安教育(講習の聴講義務等)
その他、細部にわたり高圧ガス保安法、一般
高圧ガス保安規則の規制をうける。
(本文:11.3節を参照)
94
(本文:9.2.6項を参照)
酸素、水素、窒素、
アルゴン、ヘリウム
(本文:11.2節を参照)
液 化 ガ ス 液体窒素(77K)
ヘリウムは回収配管で回収。
液体ヘリウム(4.2K)
(本文:11.3節を参照)
放
射
(本文:6.3.3.1項を参照)
線 X線発生装置
フィルムバッジ
放射性物質
健康診断
高
薬
磁
場 超伝導マグネット
防護枠
品 エッチング液
(本文:7.4.1項を参照)
(硝酸、フッ酸等)
洗浄用有機溶剤
(アセトン)
所定の場所で、必ず排気ファンをまわして
レ ジ ス ト レジストの塗布
行うこと。
試料がしっかりとチャックに固定されてい
ることを確かめること。
ポンプのベルトに注意すること
必ずドラフトの中で行うこと。
レジストの現像
ポジ型フォトレジスト
水性のアルカリ性溶液。廃液はA排水に流
す。
その他のレジスト
有機溶剤。廃液は所定の有機溶剤の廃液の
場所にすてる。
ガスバーナー はんだ、銀ろうづけ、
ガラス細工
電
熱 はんだごて、ヒートガン
安全 眼 鏡を 着用 す る。
レ ー ザ ー ガス レ ーザ ー等
光路 を なる べく 低 くす る。
ビームが予定した光路を出ないようにす
る(本 文:7.3.2項を参 照)。
95
光を 反 射す るア ク セサ リー 類 はは ずす 。
ビームを不用意に肌に当てないようにす
る(特 に紫 外光)。
高
電
圧 X線電源、高周波電源、
(本文:8.1.1項を参照)
ガイスラ-用高圧トラン
ス
工 作 道 具 ボ-ル盤、グラインダー、 (本文:11.1節を参照)
ダイヤモンドカッター
7.3.2
ナノ光物性(第2)研究グループ
危険物の名称
取り扱う危険物の具体例
安
全
対
策
・ビ-ムをのぞきこまない。
レ - ザ - 高出力レ-ザ-
・保護眼鏡を使用する(レ-ザ-の波長、強
パルス-レ-ザ-
度に応じて適切なものを使用する)。
・ビ-ムの高さを低くし、視線との間に十分
距離をあける。
・レ-ザ-には常時保護カバ-を装着する。
・レ-ザ-を使用する時は、ビ-ムを反射す
るおそれのある貴金属類を身につけない。
・レ-ザ-を作動させる時、ビ-ムを遮り、
かつ出力強度の測定できるパワ-計測器を
レ-ザ-の前に設置する。
・必要最小限の出力で実験することが望まし
い。
・ビ-ムの通過場所には可能な限り囲いを設
ける。
液 化 ガ ス 液体窒素(77K)
(本文:11.2節を参照)
薬
(本文:7.4.1項を参照)
品 エッチング液
(硝酸、フッ酸等)
洗浄用有機溶剤
(アセトン)
高 圧 ガ ス 酸素、窒素
(本文:9.2.6項を参照)
96
7.3.3
有機半導体工学(第3)研究グループ
危険物の名称
薬
取り扱う危険物の具体例
安
全
対
策
・手 袋 を着 用す る(素 手で は 触ら ない)。
品 有機 物 全般
・ ド ラ フ ト 内 で 取 り 扱 う (こ れ 以 外 の と こ
有機 溶 剤
ろで使用する時には換気に十分注意す
るこ と)。
・眼 鏡 また は安 全 眼鏡 を着 用 する 。
・手 袋 を着 用す る 。
・必 要 時以 外は 容 器を 開放 し ない 。
・所定の位置に転倒、転落しないように
保管 す る(本文 :7.4.1項を 参照)。
・必 ず ドラ フト 内 で使 用す る 。
酸・ ア ルカ リ
・使 用 時は 常に 水 を流 して お く。
・手 袋 を着 用す る 。
・使用後は容器を所定の場所に戻し、ビ
ーカー等は水洗いしはもとの場所に戻
すこ と 。
・ フ ッ 酸 は 特 に 注 意 す る ( 本 文 : 7.4.1項
を参 照)。
・安 全 眼鏡 を着 用 する 。
レ ー ザ ー ガス レ ーザ ー等
・光 路 をな るべ く 低く する 。
・ビームが予定した光路を出ないように
する(本文 :7.3.2項を参 照)。
・光を反射するアクセサリー類ははず
す。
・ビームを不用意に肌に当てないように
する(特に 紫外 光)。
・ ボ ン ベ の 移 動 は 極 力 避 け る (や む を 得 な
高 圧 ガ ス 窒素 ・ アル ゴン
い場 合 は2 人以 上 で作 業す る)。
7.3.4
界面物理工学(第4)研究グループ
危険物の名称 取り扱う危険物の具体例
安
高 圧 ガ ス ・特殊高圧ガス
全
対
策
・取扱い時は教員が立ち会う。
(シラン、ホスフィン、
97
・必ず2人以上で操作する。
・ボンベは所定の場所にしっかりと固定す
ジボラン等、特に危険
る。
なガスで法律で定めら
・取扱の詳細は高圧ガス取締り法に準拠した
れたもの。)
「取扱い説明書」に準じる。
・必ず2人以上で操作する。
・他の高圧ガス
・ボンベは所定の場所にしっかりと固定す
る。
・ボンベその他のバルブ類は全開にしないこ
と。
・取扱の詳細は高圧ガス取締り法に準拠した
「取扱い説明書」に準じる。
・必ず2人以上で操作する。
C V D 装 置 ・熱CVD装置
・その他「取扱い説明書」に準じる。
・ECRプラズマCVD
装置
・使用時には換気に注意する。
液 化 ガ ス 液体窒素
・直接体に触れないようにすること。
(本文:11.2節を参照)
・必ずドラフト内で取り扱う。
品 ・酸、アルカリ等
薬
・必要時以外は容器を解放しない。
・ゴム手袋の下に薄いナイロン手袋を着用す
る。
・所定の位置に転倒、転落しないように保管
する。(本文:7.2.1項を参照)
・有機溶剤
・できるだけドラフト内で取り扱う(これ以
外のところで使用する時は換気に十分注意
すること)
。
・必要時以外は容器を解放しない。
・所定の位置に転倒、転落しないように保管
する。(本文:7.4.1項を参照)
・安全眼鏡を着用する。
レ - ザ - He-Cdレ-ザ-等
・光路をなるべく低くする。
・ビ-ムが予定した光路を出ないようにす
る。(本文:7.4.2項を参照)
(本文:7.3.2項を参照)
そ
の
・定期的に安全訓練を行う。
他
98
7.3.5
半導体プロセス工学(第5)研究グループ
危険物の名称 取り扱う危険物の具体例
薬
安全対策
品 ・酸、アルカリ
・必ずドラフト内で使用する。
(各種エッチング液、
・使用時は常に水を流しておく。
ウェ-ハの洗浄液)
・手袋を着用すること。
・使用後は容器を所定の場所に戻し、ビ-カ
等は水洗してもとの場所に戻すこと。
・フッ酸は特に注意する。
(本文:7.4.1項を参照)
・有機溶剤
・できるだけドラフト内で取り扱うこと。
・取り出した溶剤は必要な時以外はアルミホ
イルで蓋をする。
・使用後はすぐに所定の場所に
すてる。(本文:7.4.1項を参照)
レ ジ ス ト レジストの塗布
・所定の場所で、必ず排気ファンをまわして
行うこと。
・試料がしっかりとチャックに固定されてい
ることを確かめること。
・ポンプのベルトに注意すること
レジストの現像
必ずドラフトの中で行うこと。
・ポジ型フォトレジスト
水性のアルカリ性溶液。廃液はA排水に流
す。
・その他のレジスト
有機溶剤。廃液は所定の有機溶剤の廃液の
場所にすてる。
高 圧 ガ ス 酸素、窒素、アルゴン、
・所定の場所に必ず固定しておくこと。
CF4,CHF3 , SF6 等
・ボンベの交換は教員が行う。
(本文:9.2.6項を参照)
・必ず、排気ファンをまわす。
各 種 装 置 ・RFプラズマ装置
・シ-ルドを忘れないこと。
・操作に熟達した者が立ち会う。
・高出力の高周波を使用するので感電に注意
すること。
・ポンプのベルトに注意する。
・操作に熟達した者が立ち会う。
・イオン照射装置
99
・高出力高周波を使用するので感電に注意す
ること。
(本文:8.1.1項を参照)
・ビ-ムラインに注意する。
レ - ザ - He-Cdレ-ザ-
(できるだけ定板の外にビ-ムが出ないよ
うにする。
)
・周囲に注意してビ-ムの偏向を行う。
(本文:7.3.2項を参照)
7.3.6
量子・光デバイス工学(第6)研究グループ
危険物の名称 取り扱う危険物の具体例
安
全
対
策
・ビ-ムをのぞきこまない。
レ - ザ - 高出力レ-ザ-
・保護眼鏡を使用する(レ-ザ-の波長、強
パルス-レ-ザ-
度に応じて適切なものを使用する)。
・ビ-ムの高さを低くし、視線との間に十分
距離をあける。
・レ-ザ-には常時保護カバ-を装着する。
・レ-ザ-を使用する時は、ビ-ムを反射す
るおそれのある貴金属類を身につけな
い。
・レ-ザ-を作動させる時、ビ-ムを遮り、
かつ出力強度の測定できるパワ-計測器
をレ-ザ-の前に設置する。
・必要最小限の出力で実験することが望まし
い。
・ビ-ムの通過場所には可能な限り囲いを設
ける。
(本文:11.2節を参照)
液 化 ガ ス 液体窒素(77K)
(本文:7.4.1項を参照)
薬
品 エッチング液
(硝酸、フッ酸等)
洗浄用有機溶剤
(アセトン)
(本文:9.2.6項を参照)
高 圧 ガ ス 窒素
100
7.3.7
機能デバイス物性(第7)研究グループ
危険物の名称 取り扱う危険物の具体例
安
全
対
策
(本文:11.2節を参照)
液 化 ガ ス 液体窒素(77K)
液体ヘリウム(4.2K)
放
射
(本文:6.3.3.1項を参照)
線 X線発生装置
できるだけドラフト内で取り扱うこと。
品 酸、アルカリ
薬
(フッ酸、アンモニア等) 使用後はすぐに所定の場所にすてる。
(本文:7.4.1項を参照)
洗浄用有機溶剤
(アセトン)
(本文:9.2.6項を参照)
高 圧 ガ ス 酸素、窒素、アルゴン
電
高
電
熱 はんだ、ガラス細工
(本文:8.1.1項を参照)
圧 X線電源、高周波電源、
(本文:11.1節を参照)
ガイスラ-用高圧トランス
・ビ-ムをのぞきこまない。
レ - ザ - 高出力レ-ザ-
・保護眼鏡を使用する(レ-ザ-の波長、強
パルスレ-ザ-
度に応じて適切なものを使用する)。
・レ-ザ-には常時保護カバ-を装着する。
・レ-ザ-を使用する時は、ビ-ムを反射す
るおそれのある貴金属類を身につけない。
7.4
7.4.1
危険物とその取り扱いについて
薬品
使用経験のない薬品を扱う場合、その薬品の性質および危険性を必ず調べておくこと。
化学同人の「実験を安全に行うために(4訂)」のテキストにある危険な薬品の分類を表1に
示す。ここにあるペ-ジは必ず熟読しておくこと。
使用経験のある薬品でも他の薬品と混合すると思わぬ危険性を生じることがあるので注意する
こと。
101
表
分
毒
1
類
テキストのペ-ジ
性
pp.16~21, p.91
引火性、発火性、爆発性
pp. 4~16, p.90
混合する時の注意
pp.92~93
薬品の一般的な取扱いを次に示す。
◎酸、アルカリ
(i) 取扱い法
・A排水のあるドラフト内で取り扱うこと。
・水を常に流しておくこと。
・耐薬品性の手袋を着用すること。
・身体に付着および目に入った場合、すぐに大量の水で洗い流すこと。その後、担当教員
に連絡し、医師の診断を受けること(むやみにに中和しようとすると中和熱のため損傷
が大きくなることがある)。
よく使用する薬品についての取扱い注意を示す。
○フッ酸
・皮膚と呼吸の両方に有毒である。
・Si等の半導体のエッチングによく利用される。
・ガラスがエッチングされるので、必ずプラスチック容器を用いること。
・蒸気も有毒であるから、必ずドラフト内で排気を行いながら使用する。
・ドラフトの窓から半径2m以内の金属、ガラスを腐食すると考えよ。
・エッチング中に反応が加速度的に起こった場合、試料を取り出さずに大量の水をビ
-カ内にいれるか、試料ごと別の水の入っているビ-カに流し込む。
○硫酸
・水等の溶剤で希釈する時発熱するので、溶剤の中に硫酸を少しずつ、かきまぜなが
ら加える。場合によっては外から冷却する。
・身体に付着した場合、軽く拭き取ってから大量の水で洗う。
○硝酸
・エッチング中にNO2を発生して褐色の発煙をすることがある。
・濃硝酸はほとんどのプラスチックを侵す。
(ii) 使用後の処理
(本文:第12章を参照)
・十分に希釈した後A排水に流す。
・使用後の空き瓶は十分水洗した後に捨てる。
◎有機溶剤
(i) 取扱い法
・気化しやすく、有害で引火しやすいものが多いので注意すること。
・局所排気のあるところで使用する。(ドラフト内等)
102
・ビ-カもふたをしておく。
(アルミホイルをかぶせる等)
・プラスチック容器を使用する時は薬品に対する耐性を調べる。
・ベンゼン、メタノ-ル、クロロホルム等は有毒である。
(ii) 使用後の処理
(本文:第12章を参照)
・塩素をふくまない溶剤は指定の場所に集める。
・塩素を含む溶剤は各自で処理、保管を行う。
・ビ-カ等に放置しないこと。
・使用後の空き瓶はアセトン等で洗浄、蒸発させてから捨てる。
◎その他、特に危険な薬品を扱う場合は教員の指示に従うこと。
7.4.2
高圧ガス
(本文:9.2.6項を参照)
7.4.3
液体窒素、液体ヘリウム等の寒剤
(本文:11.2節を参照)
7.4.4
高温装置
・やけどに注意すること。
・他の実験者が触れないように特に注意すること。
・高温装置に水は禁物である。高温物体への水の混入による水蒸気爆発に注意する。
7.4.5
電気装置
感電に注意すること。
(本文:8.1.1項を参照)
7.4.6
レ-ザ-
(本文:7.4.2項の電子物理工学科ナノ光物性研究グループの注意に詳しく述べられている)
7.4.7
X線、放射性物質
(本文:6.3.1.1項を参照)
7.4.8
ガラス細工
(本文:9.2.3項を参照)
103