6-2-6 介護士養成コースで学ぶ学生の日本での就労に関する意識調査（澤田久美子：学校教育専攻国際理解教育領域Ｍ２）１．経緯２００４年春より継続討議されてきた日本とフィリピンの自由貿易協定（ＦＴＡ）交渉の結果、日本政府はフィリピン人看護師、介護士の受け入れを基本的に合意し、2006 年度より両国間で受け入れにかかわる制度的枠組み作りに着手することを決定した。これにより、早ければ 2007 年度中にもフィリピン人看護師、介護士が日本で働くことになる。そのことに対してマスコミ、福祉関係者の賛否は両論ある。私は、賛否以前に、日本で介護士になりたいと思い、来日するフィリピン人々はフィリピンでどのような勉強をし、何を思い、日本にやってくるか、それが知りたいと思った。今回のフィリピン調査旅行で、日本での就労を目的とした介護士の養成コースがある、マニラ市の大学 Our Lady of Fatima University を見学できる機会に、大学関係者、学生の協力を得てアンケート調査を行うことが出来た。２． Our Lady of Fatima University について Our Lady of Fatima University は 1967 年に設立されたフィリピンマニラ市にある、私立医科大学で、医学、歯学、薬学、看護学、理学療法学などの学部がある。介護士養成コースは半年間のコースで、3 週間日本語の授業がある。ここで学ぶ学生のほぼ全員が日本での就労を希望している。３．アンケートについて 2007 年１月現在、上記大学の介護士養成コースで学んでいるフィリピン人学生にご協力いただいて、アンケート調査を行った。一クラス約 50 名の学生にアンケート用紙を配布し、 39 枚の回答を回収した。４．アンケート結果１．年齢分布（平均 24.6 歳）年齢分布（ｎ=39） 7 6 5 人 4 数 3 2 1 0 6 4 3 3 4 3 3 2 3 3 2 1 19 20 21 22 23 24 25 26 年齢 27 28 29 1 1 30 33 38 ２．男女比男女比（n=38）男性 8% 男性女性女性 92% ３．最終学歴専門学校の種類（ｎ＝１５）最終学歴（ｎ＝３７） 20 5 18 4 16 14 人 12 数 10 人数 8 6 3 2 1 4 介護看護高校秘書大学商業 0 0 観光 2 P C 専門学校４．職歴５．日本への渡航経験職業（n=24）日本への渡航経験（n=39） 8 35 7 31 30 6 25 5 人 4 数 3 人数 15 10 2 8 5 1 なし工場勤務レジ係秘書会社員教師学生看護助手職種あり 0 看護士 0 20 ○有り：8 名仕事：7 名観光：１名６．日本語学習歴介護士専門学校で初めて日本語を学習した学生 34 名、以前に日本語を学習していた学生４名。以前に日本語を学習していた学生は、全員が日本で日本語を学習している。７．日本の情報の入手先（複数回答可）８．学費・渡航費用は？日本の情報の入手先（ｎ＝４９）学費・渡航費用（ｎ＝２９） 16 14 12 人数 10 8 6 4 エージェント 2 貯蓄・両親親戚両親 0 貯蓄過去の仕事家族親戚友人テレビインターネット 20 18 16 14 12 10 8 6 4 2 0 ９．海外での就業経験経験有り： 13 名海外での就業経験（n=15）職種 8 マレーシア：秘書、バンドメンバー 6 アラブ首長国連邦：会社員（２名） 4 サウジアラビア：看護師 2 レバノン：保育士ドバイ：マッサージ師ドバイ１０．介護士の経験は？レバノンアラブ首長国連邦サウジアラビアシンガポールマレーシア日本 0 １１．日本在住の知人は？有り：７名いる（フィリピン人）：９名無し： 20 名いる（日本人）：２名いない： 18 名 12．日本で働きたい期間は？ 1３．日本で一緒に働きたい相手は？日本で働きたい期間（ｎ＝３３）日本で働きたい仲間（ｎ＝３４） 25 25 20 20 人数 15 15 10 10 5 5 0 0 一生 1年∼5年 10年両方日本人フィリピン人 1４．日本で働きたい理由（複数回答可）日本、日本人が好きだから、親切、一緒に働きやすいから 19 名家族を助けるため６名他人やお年寄りの介護の職が好きだから２名日本は労働条件がいいから３名日本人が介護士を求めているから１名 1５．日本で働くことになったら心配なことは？日本語が難しい初めはカルチャーショックを受けると思う。でも日本について学べばいいと思う。日本語、日本文化やルール、人間関係日本語（漢字）が難しいことだけフィリピンにいる自分の家族についてホームシックなし日本語に対して心配（特に漢字）している人が多く、日本文化やルールについて心配している人も少なくない。一方で何も心配していない、楽しみだという回答も多く見られた。５．その後日本での介護福祉士に関して新たな問題が持ち上がっている。現在、日本では 2 年間の介護福祉士養成施設を修了すれば、介護福祉士の資格を得られるが、 2007 年 3 月に国会に上程された法改正案によると、平成 25 年 1 月実施の試験から全員が国家試験を受験する仕組みに変わるとされている。介護福祉士の国家試験を受験しなかった人、あるいは国家試験不合格となった人が「准介護福祉士」として登録することによって、「当分の間」、名乗れる資格が新たに創設されるようである。この「准介護福祉士」の資格創設は唐突で賛否両論あるところだが、この資格創設にはフィリピン人介護士受け入れ問題が絡んでいるようだ。日本とフィリピンとの EPA（経済連携協定）当時は養成施設で 2 年間学べば無条件に介護福祉士になれるはずだったが、国家試験に合格しないと介護福祉士にはなれないとなると、日本で介護士を目指すフィリピン人にとって大きな壁になるからである。