ディマンドリスポンスについて - 資源エネルギー庁

総合資源エネルギー調査会
⻑期エネルギー需給⾒通し⼩委員会(第5回会合)
資料5
ディマンドリスポンスについて
資源エネルギー庁
平成27年3月
ディマンドリスポンスとは
 これまでのエネルギー政策は、基本的にはエネルギー需要を所与のものとして、エネルギー供給をどのよう
に行うべきかという視点からの施策が中心となっていた。
 しかしながら、東日本大震災では、エネルギー供給の制約や集中型エネルギーシステムの脆弱性が明らか
となった。また、再生可能エネルギーの導入拡大に伴い、電圧、周波数などの電気の品質の確保が課題と
して顕在化しつつある。
 こうした状況を背景として、エネルギーの供給状況に応じてスマートに消費パターンを変化させる取組(=
「ディマンドリスポンス」)を、需給バランスを一致させるという意味で、新たな電源(=「ネガワット」)として活
用するための技術実証や制度整備が進められている。
【震災前の需給イメージ】
【震災後の需給イメージ】
kW
kW
火力発電の焚き増し等
=
供給力
等価
節電等
需要
朝
昼
夜
需要のスマートなコントロール
によるピークカットも重要に
朝
昼
夜
1
ディマンドリスポンスの種類
 ディマンドリスポンスは、需要制御の方法によって、①電気料金設定によって需要を制御しようとする電気料
金型と、②電力会社と需要家の契約に基づき、電力会社からの要請に応じて需要家が需要を制御するネガ
ワット取引の大きく二つに区分。
電気料金型ディマンドリスポンス
ネガワット取引
概 要
ピーク時に電気料金を値上げすることで、各家
庭や事業者に電力需要の抑制を促す仕組
概 要
電力会社との間であらかじめピーク時などに節
電する契約を結んだ上で、電力会社からの依
頼に応じて節電した場合に対価を得る仕組
メリット
比較的簡便であり、大多数に適用可
メリット
契約によるため、効果が確実
デメリット
時々の需要家の反応によるため、効果が不確
実
昼間時間
電力需要
23:00
夜間時間
7:00
17:00
デメリット
比較的手間がかかり、小口需要家への適用が
困難
ディマンドリスポンスにより
電力需要をスマートにコントロール
(kW)
昼間時間
ピーク時間
10:00
ピーク時は
節電しよう!
2
ディマンドリスポンスの意義
 ピーク時間帯にコストの高い電源で焚き増しが行われている場合、ディマンドリスポンスによってピーク時間
帯の電力需要を抑制することで、コストの高い電源の焚き増しを抑えられる可能性がある。
 また、年間のわずかな時間に発生するピーク需要を満たせるように電源が確保されている場合、ディマンド
リスポンスによって年間のピーク時間帯の電力需要を抑制することで、電源開発投資を抑えられる可能性
がある。
ディマンドリスポンスの意義のイメージ
意義①
需要抑制電力量(kWh価値)
発電所の稼働が不要になる
5,093
万kW
電力供給設備量
(イメージ)
×
電力需要(万kW)
発電所の維持管理・更新が不要になる
384万kW
ll
最大電力需要
の7.5%
ミドル電源
2013年の東京電力における電力需要
を例に取ると、1年間(8,760時間)の
1%にあたる上位88時間のピーク需要
がディマンドリスポンスによって抑制さ
れた場合・・・
ベースロード電源
機械的に計算すると、最高ピークの5,
093万kWの約7.5%にあたる384万
kWの電力供給設備の稼働・維持管理・
更新が不要になる可能性がある。
ピーク電源
0
意義②
需要抑制容量(kW価値)
上位88時間
ll
年間時間の1%
時間(h)
8,760時間
【出典】 東京電力「でんき予報」の需要データ
をもとに資源エネルギー庁作成
3
効果①:電気料金型ディマンドリスポンスのピークカット効果
 家庭部門における電気料金の多様化によるピークカット効果は、時間帯別料金(TOU)が約10%、ピーク別
料金(CPP)が約20%とする実証結果がある。
 ただし、CPPの普及は、需要家の心理的な抵抗感や手間等から容易ではないと考えられることから、2030
年においては全家庭でTOUが採用されるものと仮定する(※)。
(※)ほぼ全世帯にスマートメーターが導入済みのイタリアでは、TOUがデフォルトの電気料金となっている。
 この結果、全電力需要の約3割を占める家庭部門がTOUを採用することによって、ピーク需要の約3%(=約
10%×約3割)のピークカットが可能と考えられる。これが、夏期(7~9月)及び冬期(12~2月)のピーク時間
帯(4時間/日)の合計720時間程度(=6ヶ月×30日/月×4時間/日)で実施可能とする。
 なお、電力需要の約7割を占める業務・産業部門については、既に自由化されており、全ての需要家が一律
料金ではない、季節や時間帯等によって変動する電気料金を採用している。
時間帯別料金(Time of use: TOU)・・・時間帯に応じて異なる料金を課すもの
ピーク別料金(Critical Peak Pricing: CPP)・・・需給がひっ迫しそうな場合に、事前通知をした上で変動された高い料金を課すもの
TOUのピークカット効果
ピークカット
効果
事業内容
事業者
関東平均: 9.1%
関西平均: 10.7%
一般家庭等にスマートメーターを設
置し、需要家がTOUを採用した場合
のピークカット効果を検証
○北九州市
CPPのピークカット効果
2012年度夏
2012年度冬
2013年度夏
—18.1%
—18.7%
—21.7%
—22.2%
-19.3%
-19.8%
-18.1%
-21.1%
-20.2%
-19.2%
-18.8%
-19.2%
CPP=50円
CPP=75円
CPP=100円
CPP=150円
○けいはんな学研都市
東京電力、関西電力
CPP(40円上乗せ)
—15.0%
-20.1%
-21.1%
参加世帯
関東約600世帯、関西約300世帯
CPP(60円上乗せ)
—17.2%
-18.3%
-20.7%
料金体系
TOU
CPP(80円上乗せ)
—18.4%
-20.2%
-21.2%
ピーク時間帯単価2倍
【出典】経済産業省「負荷平準化機器導入効果実証事業」
【出典】経済産業省「次世代エネルギー・社会システム実証事業」
4
【参考】 スマートメーターの導入
 家庭部門において、電力使用量の見える化や、きめ細かな料金メニューの設定のためには、電力会社・需要
家へ双方向の通信機能を備えた「スマートメーター」の導入を進めることが必要。
 平成25年9月、全ての電力会社は、スマートメーターの設置を希望する需要家等についてスマートメーター
への交換を遅滞なく行うことを表明。さらに、平成26年3月までに、各電力会社は導入完了時期を前倒した
計画を公表。
スマートメーターの導入計画
北海道
高
圧
東北
東京
中部
北陸
関西
中国
四国
九州
沖縄
導入
完了
2016
年度
完了
完了
2016
年度
完了
2016
年度
2016
年度
2016
年度
完了
2016
年度
本格
導入
開始
2015
年度
2014
年度
下期
2014
年度
上期
2015
年
7月
2015
年度
開始済
2016
年度
2014
年度
下期
2016
年度
2016
年度
導入
完了
2023
年度末
2023
年度末
2020
年度末
2022年 2023年 2022年 2023年 2023年 2023年 2024年
度末
度末
度末
度末
度末
度末
度末
低
圧
5
ディマンドリスポンスのピークカット効果② (ネガワット取引)
 米国では、ネガワット取引の導入から10年強で、業務・産業部門におけるネガワット取引によって全需要の7.
5%のピークカットが可能との推計がある。
 これをもとに日本と米国の法人・家庭需要の比率から調整を行うと、日本では、業務・産業部門におけるネガ
ワット取引の普及によって、全需要の9%のピークカットが可能と考えられる。これが、合計60時間程度で実
施可能とする(※)。
(※)米国ISOの一つであるPJMでは、ピークカット用途のネガワット取引の年間発動時間の上限が60時間となっている。
 なお、家庭部門におけるネガワット取引については、一つ一つが小規模な取引をアグリゲートする手間等から
容易ではないと考えられるため、2030年においてはこれを見込まないこととする。
米国におけるDRのピークカット効果推計(2019年時点)
日米の法人・家庭需要の比率(2012年)
(GW)
100%
200
家庭
150
80%
法人
98
(10.2%)
1.8%
60%
34.5%
40%
22
(2.3%)
7
(4.0%)
31
(3.3%)
59
(6.2%)
運輸
業務
35.2%
産業
72
(7.5%)
90
(9.4%)
20%
23.5%
33.9%
0%
0
Business As Usual
家庭他
0.2%
66
(6.9%)
100
50
29.7%
41.2%
Expanded Business As Achievable Participation
Usual
Full Participation
【出典】 FERC資料(2009年)より作成
米国
日本
【出典】 Energy Balances of OECD Countries、総合エネルギー統計
6
【参考】ネガワット取引の活用に向けた取組
 ディマンドリスポンス(DR)など需要抑制の取組により生み出された供給力(ネガワット)を活用する動きが既に
始まっており、その活用を促す制度的対応も進めているところ。
(1) ネガワット取引の活用の動き
 一般電気事業者は、アグリゲーター(※)を活用するなどしてネガワット取引の活用可能性に関する実証を行っ
ているところ。
(※)アグリゲーター:多数の需要家の需要削減量を束ね、まとまった規模の供給力として提供する事業者
 また、一部の新電力は、既にネガワット取引を展開。例えば最大手のエネットはマンション入居家庭を対象に、
需給逼迫時に節電要請メールを送信し、節電に協力した消費者にはポイント還元するサービスを実施。また、
法人向けでは「デマンドレスポンス特約」を平成26年度に0.5万kW分契約。
ベースラインの考え方
(2) ネガワット取引に関するガイドラインの策定
(MW)
 需要削減量の基準(ベースライン)や測定方法等に関するガ
イドラインを策定。
実負荷
2
(負荷)
 ガイドラインの活用により、ベースラインの設定などにおいて
標準的な手法が確立され、事業者や需要家がネガワット取
引に取り組みやすくなることが期待される。
DR要請時間
2.5
ベースライン
1.5
1
DR報酬の
DRによる
= 支払い対象
負荷削減量
0.5
0
1
5
9
13
17
21
(時間)
(3) ネガワット取引に関するインバランス調整制度の導入
 ネガワットについても、発電した電気と同様に、送配電事業者によるインバランス調整の対象とする制度を、今
回の電気事業法改正で新たに導入。
 これにより、ある小売事業者から供給を受けている需要家が自らの需要を抑制することで生み出した供給力
を、他の小売事業者に対して卸市場で円滑に販売できるようになり、ネガワットの卸取引の活性化が促される。
7
【参考】 米国におけるディマンドリスポンスの状況
 米国におけるディマンドリスポンスの需要削減ポテンシャルは、報告されているものだけであっても、2006年
の3,000万kWから2010年には5,300万kW、2012年には6,600万kWと拡大。全体のピーク需要の
10%近くを占めるに至っている。
ディマンドリスポンス別の需要削減ポテンシャル
系統ピーク応答型託送料金
ピーク帯リベート
制御付きCPP
CPP
RPP
商業・産業
家庭
電気料金型
卸市場
その他
時間帯別料金
その他
周波数制御サービス
運転予備力
瞬動予備力
需要入札・買戻し
緊急時需要応答
直接負荷制御
遮断可能負荷
供給力負荷
インセンティブ型
0
500
1,000
万kW
1,500
2,000
2,500
[出典] FERC、“2012 Assessment of Demand Response and Advanced Metering Staff Report”、2012年12月
8
効果③:ディマンドリスポンスのピークシフト効果
 ディマンドリスポンスによるピークカットは、電力需要量の減少(省エネ)によるものではなく、ピーク時間帯等
の電力需要を他の時間帯に変更するピークシフトによるものであるとの実証結果がある。
 この特徴を活用して、年間需要の上位をピークカットによって引き下げるだけでなく、年間需要の下位をピー
クシフトによって引き上げることで、需要を平準化し、定格に近い稼働による効率的な発電が可能になると期
待される。
ディマンドリスポンスの省エネ効果
一般的な省エネ効果は確認されない
○北九州市
1日電気使用量
省エネ効果
(平均)
(通常日との比較)
通常日
15.0kWh
-
ディマンドリスポンス実施日
14.8kWh
▲1.3%
○けいはんな学研都市
通常日
14.4kWh
-
ディマンドリスポンス実施日
13.8kWh
▲ 4.2%
通常日
14.1kWh
-
ディマンドリスポンス実施日
14.6kWh
+3.5%
○豊田市
(注) 上表のディマンドリスポンスは、ピーク時間帯別料金(CPP)によるもの。
【出典】経済産業省「次世代エネルギー・社会システム実証事業」
9
将来のディマンドリスポンスの効果
2030年の時点では・・・

太陽光発電等の再エネの導入が増えた場合には、電力需給が逼迫する時間帯が変化する可能性はある
が、ディマンドリスポンスにより需給逼迫時の需要を抑制できれば、引き続きディマンドリスポンスの意義は
大きい。

実証結果等と同様の効果が出れば、年間の需給逼迫時の需要を抑制することで、コストの高い電源の焚
き増しを抑え、また、年間のわずかな時間のための電源開発投資を抑えることができる可能性がある。
(効果①+効果②により、最大で▲12%程度のピーク需要の抑制が期待される)。
 なお、将来的に再エネの導入が増大した場合には、自然変動電源の出力次第で供給過多・過少になり得る
が、ディマンドリスポンス(のうちファストDR)によるアンシラリーが期待され得るのではないか。
ディマンドリスポンスの効果のイメージ
容量
(万kW)
▲12%
ピークカット
(効果①+効果②)
デュレーションカーブ
(365日=8760時間の需要の年間最大から最小までのグラフ)
ピークシフトによる
需要の引き上げ
(効果③)
時間
8760
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【参考】 我が国におけるディマンドリスポンスの取組事例
 一部の新電力は、①電力市場価格高騰時の電力の市場調達コストの抑制、②インバランスの回避、③電力
小売サービスとしての他社との差別化等を目的として、既に法人向けのサービスとしてネガワット取引を展
開しつつある。
新電力によるネガワット取引の取組の例
エネットの例
F-Powerの例
約500件の特高・高圧の需要家(主に業務用)向けに
「EnneSmart」を平成24年度に開始。エネットからの節電
要請時に節電可能な需要家に、その対価としてリベート
を提供するプログラム。
業務・産業用需要家向けの「デマンドレスポンス特約」を平成
25年度に開始。F-PowerはJEPXの市場価格が高騰するタ
イミングに登録需要家に対して節電要請を行う。
従量料金単価
需要家発電コスト
電源調達コスト
【出典】 エネット
【出典】 F-Power
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【参考】 需要家のニーズに合わせた電力小売に向けた動き
 需要家のニーズに合わせて、再生可能エネルギーや地産エネルギー等の供給に特化した電力小売が展開
されることが期待。
 また、需要家の複合的なニーズ(例.お財布にも環境にもやさしい電気)にも対応するため、需要家に代わっ
て複数の電力会社から電力を購入し、需要家が求める電力を供給するサービスも展開されることが期待。
需要家のニーズに合わせた電力小売に向けた動きの一例
中之条電力(地域新電力)の例
エナリスの例
町が出資を行う地域新電力が、中之条町にあるメガソーラー
から電力を購入し、町内の公共施設に販売。地産エネル
ギーの供給に特化。
需要家のニーズに合わせた電力を供給。例えば、自らが住む
街のごみから発電するバイオマス発電、自分の田舎で事業を
している電力会社、環境に配慮した再エネをメインとする電力
会社等を様々に組み合わせて購入することが可能になる。
【出典】 中之条町
【出典】 エナリス12
【参考】 電力利用データの活用による新たなサービスの展開
 2014年度からスマートメーターの本格導入が進められている。また、国内四地域実証によって、ECHONET
Lite(HEMSと家庭内機器との間の通信規格)等の通信インターフェイスが確立。
 この結果、提供される電力利用データの活用による新しいサービスの創出が期待。
データ
プラットフォーム
家 庭 内
クラウド
通 信
スマートメーター
データ
取得
太陽光発電
EV用充電器
制御対象機器
ガス・石油
給湯器
蓄電池
制 御
エアコン
多様な機器・
メーカー
照明機器
データ
取 得
データ
取 得
ホームゲートウェイ
(HEMS等)
サービス提供
燃料電池
ディマンドリスポンス
生活関連サービス
新しいサービス
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【参考】 電力利用データの活用により期待されるサービス例
屋内環境コンシェルジュ
見守りサービス
ヘルスケア
・ 電力データの分析により、保守・修理
サービスや更なる省エネ機器を提供。
・ 創・蓄・省エネ機器導入の有効性やリ
フォームの必要性を診断し、最適なソ
リューションを提案。
・ 冷蔵庫の開け閉めや、トイレ照明の点
け消しでトラブルを検知。
・ カメラ等で直接監視する必要性がな
く、また高齢者が自ら操作する必要性
がなく、プライバシーを保護しながら安
心安全を提供。
・電力利用データに加え、天候情報や
健康情報を用いることで、家電を最適
に制御。
・例えば、猛暑が予定されている日に、
エアコン等を自動制御することで、老
人や子どもの熱中症を予防。
分析
ソリューション
 保守・修理
 省エネ機器紹介
 リフォーム
電⼒データを⽣活判
定アルゴリズムで分
析し、異常を検知。
(参考) 諸外国の関連する動き
Apple
○2014年2月、 Googleは家庭用室
温制御装置(サーモスタット)等の
メーカーのNestを32億ドルで買収。
○同年6月、Googleは、NESTをハブと
して様々な機器を制御するソフトの
開発プログラムを提供開始。
○2014年6月、Appleは施錠・照明
・サーモスタット等を制御するホ
ームオートメーション関連アプリ
ケーションの開発プラットフォーム
であるHomeKitを提供開始。
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