フォトポエムによる詩の創作学習 — 単元の開発と実践に関する研究 — 鬼 澤 敦 子 ( 千 葉 市 立 山 王 小 学 校 ) [ 研 修 先 千 葉 大 学 大 学 院 教 育 学 研 究 科 ] 本研究では、写真と詩で表現をする、 「フォトポエム」という新しい形の詩の創作学習を扱うこととする。低学年児童に詩を指導 する際の新しい手段として、1人1台タブレット端末を活用することにより、対象物を繰り返し見ることや、小さな物を拡大して見 ることなどができる。また、写真と言葉を往復しながら詩を創作することにより、発見したときの感動や五感で得た体験を、視点を 変えて表現することができる。日常生活や体験的な学習活動の中で自然の変化を発見し、動植物と触れ合う中で感じ取ったことを表 現する力、何かになりきって物を見つめる想像力を児童に身に付けさせたいと考えた。完成した作品に対する達成感を得ることは、 次の学習への意欲につながる。朝の時間や休み時間を活用し、読書やアンソロジー作りを継続的に行い、1人1台タブレット端末を 活用してフォトポエムの制作を繰り返し行うことで、児童が主体的に学習に取り組み、発見した感動を言葉として切り取り表現する 力を身に付けることができた。詩の創作学習において、フォトポエムという新しい形で行うことは、表現力の向上として効果的であ ることが示唆された。 1 問題の所在 触ったこと、 話したことなど五感を使って得たこと、 学習指導要領(2008)では、 「生きる力」を育むこと 感じたことや想像したことなど、思考したことを短 を目指し、 「創意工夫を生かした特色ある教育活動を い言葉で表現する習慣を、低学年で身に付けること 展開する中で,基礎的・基本的な知識及び技能を確 により、日常生活の中でのちょっとした感動を書く 実に習得」させること、 「思考力,判断力,表現力そ 力、伝える力が身に付く。 の他の能力をはぐくむとともに,主体的に学習に取 見付けたことを話すことができても書くことが苦 り組む態度を養い,個性を生かす教育の充実に努め 手な児童、感動したことを表現したくても語彙が少 なければならない」ことが示されている。 なく表現する言葉が思い浮かばない児童への手立て また、中央教育審議会答申(2008)には、我が国の として、読書や視写が有効である。 言語文化に触れて感性や情緒を育むことが重要であ 知識の習得として読書や視写を行い、知識の活用 ること、言葉の美しさやリズムを体感させることが としてフォトポエムという新しい形の詩の創作学習 必要であることが記されている。また、コミュニケ を扱うことは、国語科の学習を基盤とし、生活科で ーションや感性・情緒の基盤という言語の役割に関 の体験活動や図工科での創作学習と合科的に扱うこ して重視する内容として「体験から感じ取ったこと とで、 情報活用能力の育成として有効であると考え、 を言葉や歌、 絵、 身体などを使って表現する (音楽、 本学習計画を立案した。 図画工作、美術、体育等) 、体験活動を振り返り、そ 詩の創作学習では、体験活動を行った後に、発想 こから学んだことを記述する(生活、特別活動等) 」 の支援として写真を扱う。低学年児童は、見たこと と、述べられている。 や体験したことを忘れてしまうことが多いが、写真 低学年児童が平仮名、片仮名を覚えた時期から、 を活用することで記述の支援になる。また、写真を 日常生活や体験的な学習活動の中、特に自然の変化 見ることで、情景を思い出し、詳しく記述すること を発見し、 動植物と触れ合う中で感じ取ったことを、 ができる。 児童には、 写真を撮影した時の気持ちや、 文章で表現できる力を身に付けることが必要だと考 写真を選んだ時の気持ちを大切にして記述をさせた える。見たこと、聞いたこと、においを嗅いだこと、 い。 鬼澤—1 児童が、感動したことや、発見したことを自ら撮 報活用能力「必要な情報を主体的に収集・判断・処 影したり、たくさんの写真の中から選んだりする活 理・編集・創造・表現・発信・伝達できる能力等」 動を行うことで、意欲が向上するのではないか。ま が必要だと記述している。 た、詳しく写真を見るようになり、情景を描写する 創作詩の学習において、題材の収集を行い、詩を 力が生まれるのではないかと考えた。 創作する中で表現活動を行うこと、フォトポエムを 本研究は、詩の創作学習で付ける力を、写真と詩 制作する中で写真と詩の編集を実施し、発信を行う で表現をする、フォトポエムという新しい形の詩の 学習を実践することにより、低学年児童にも情報活 創作学習で身に付けることとする。 用能力が身に付くのではないかと計画をした。 2 研究の目的と方法 ②フォトポエムを扱う意義 (1)研究の目的 表現力の向上のために、フォトポエムを題材とし 本研究の目的は、フォトポエムという新しい形の て扱う。デジタル表現研究会(D-project)には、フ 詩の創作学習の単元開発と実践による効果を明らか ォトポエムのプロジェクトがある。 にすることである。低学年児童を対象として、フォ プロジェクトの説明として、写真と言葉を組み合 トポエムを制作する学習指導の在り方について、有 わせた「フォトポエム」という詩を、写真と言葉を 効性と課題を明らかにする。 往復させながら創作していく中で、言語活動の充実 (2)研究の方法 を目指すと記述されている。 ①研究主題に関する基礎的理論研究 また、視点を変えて対象を見つめ直し、児童に新 ア ICT を活用する意義 たな気付きを促したり、五感で得た感動を意識化し イ フォトポエムを扱う意義 表出したりする手立ての一つとして写真を活用する ウ 詩を身近に感じる環境づくり ことや、写真から言葉を引き出し、写真と照らし合 エ 創作する楽しさを学ぶ詩の翻作表現法 わせながら言葉を吟味させ、表現力を向上させる効 ②検証授業の計画・実施 果があるとも述べられている。 ③検証授業の分析および考察 つまり、言葉と写真とを照らし合わせることで、 3 研究内容 新たな発見が生まれ、言葉を吟味することで表現力 (1)研究主題に関する基礎的理論研究 が高まるのである。五感で得た感動や、発見したこ ①ICT を活用する意義 とを人に伝えたいと思ったときに、写真を撮り、そ 文部科学省(2013)は「世界最先端 IT 国家創造宣言」 の気持ちを文章に表す。文章に書いた後で、もう一 の中で、 「学校の高速ブロードバンド接続、1人1台 度その写真を見直し、視点を変えて対象を見つめ直 の情報端末配備、 電子黒板や無線 LAN 環境の整備、 すこともできる。 デジタル教科書・教材の活用等、初等教育段階から フォトポエムの学習は、熊本や松山での先行研究 教育環境自体の IT 化を進め、児童生徒等の学力の があり、実践授業が行われている。今までは、デジ 向上と情報の利活用力の向上を図る。 」と、記述して タルカメラで写真を撮影し、PC で画像を編集して いる。予算の問題もあり、なかなか IT 環境が学校 いたが、タブレット端末が普及すると操作が簡単に 現場では整わない現状だが、今後の方向性として、 なり、低学年でも瞬時に制作することができるので 児童生徒等の学力の向上と情報の利活用力の向上が はないかと考え、本実践を計画した。 必要であると示されている。 1人1台タブレット端末を活用できる環境になれ また、「教育の情報化ビジョン」(2011)では、21 ば、生活の中で気付いた発見や感動を写真に撮り、 世紀を生きる子どもたちに求められる力として、情 いつでも瞬時にフォトポエムを制作することができ 鬼澤—2 るようになる。また、撮った写真や作品を同期する ね合わせることで、利用者の活動を支援する技術で ため、iCloud1に保存して、友達の写真や作品を共有 ある。拡張現実は現実の空間を前提にし、それをコ することができる。同じ風景や対象物を、違った視 ンピュータで補足する。有名な物では、スマートフ 点から捉えていることに気付き、新たな物の見方が ォン用アプリである「セカイカメラ」が話題となっ できるのである。 た。2013 年には、千葉市で防災用の AR アプリケー 本実践では、まず体験活動を重視する。写真だけ ションソフトが開発されている。 を見て表現するよりも、自分の五感で得た感動を表 本実践では、詩を身近に感じる環境を整え、詩の 現することが低学年には有効だと考える。感動を見 本を読みたくなるきっかけ作りとして AR を扱う。 付け、表現する手立てとして、写真の撮影を行い、 詩の本の面白さ、詩の音読を繰り返すことによりリ フォトポエムの制作を実践する。 ズムの楽しさを味わい、詩の本を友達に紹介する活 ③詩を身近に感じる環境づくり(AR の活用) 動から、主体的な学びへ発展すると考えたためであ 詩を身近に感じる環境づくりを、卯月(2006)が実 る。 践している。卯月は、4月に校庭の桜の詩を書き、 ④創作する楽しさを学ぶ詩の翻作表現法 詩画集を作った後、詩人の書いた詩の音読、暗唱、 書くことが苦手な児童、どうやって考えればよい 視写、挿し絵を描く活動を行った。また、児童向け のか悩んでいる児童に、創作の楽しさを感じさせる の詩が書かれた本を教室にたくさん揃えて、詩を身 ことは難しい。首藤(2004)は、 「翻作表現法」のよさ 近に感じるように指導を行っている。 を述べている。詩を読み味わい、原作を作りかえて 筆者も、詩の本をたくさん読むことができるよう 楽しむ学習指導法である。翻作について、首藤は以 に、中央図書館より児童向けの詩の本を 100 冊借り 下のように記述している。 て、教室に準備をした。朝の時間や休み時間を利用 「何らかの原作をもとに、それをなぞったり変え して詩の本を読み、気に入った詩を見付け付箋を貼 たりして表現することを、私は『翻作』あるいは『翻 り、視写をしてアンソロジー作りを行う。 作表現』と呼んでいる。 (中略)まったくオリジナル また、千葉市地域文集『ともしび』を活用するこ な『創作』ではなくて、何らかの作品をもとにして とにより、自分と同じ千葉市の、同じ年代の児童が 表現することである。 」 書いた詩の鑑賞を行う。地域や年齢が同じというこ つまり、原作をなぞったり(視写したり) 、一部を とで、 より身近に感じると考えたためである。 また、 引用したりして、創作のきっかけ作りをすることで フォトポエムの制作では、筆者の制作した見本を鑑 ある。書くことが苦手な子、詩が思い浮かばない子 賞する。見本があることで、学習の見通しが立てや が、授業中何も書かないで終わってしまうことは、 すく、制作への意欲が高まると考えたからである。 苦痛である。気に入った文章を真似しても良い、原 しかし、詩の本を揃え紹介をしても、本を手に取 文を変えて書いてもよいと、助言をすることで、選 ることができない児童も多い。そこで、AR を活用 ぶという思考が働く。まずは、書くことへの抵抗感 して、 お気に入りの詩の本を紹介できるようにした。 を減らすことから取り組みたい。しかし、今後の学 AR2とは、拡張現実(AR: Augmented Reality) 習において、コピー&ペーストに慣れてしまうこと のことである。現実世界の映像にデジタル情報を重 は問題である。どの原文の真似をしたのかわかるよ うに記述すること、引用元をわかるようにすること 1 Apple 社のクラウドサービス。データをインターネットの サーバーに保存、管理できる。 2授業で使用したアプリケーションソフトは「Aurasma」で ある。 の指導と作品のチェックを行う。 フォトポエムの制作では、詩を創作できない児童 の支援として、自分の撮影した写真に、その写真に 鬼澤—3 合ったお気に入りの詩を選んで入力する翻作表現法 ウ「発信 作品を発表する実践」 4時間 を活用する。フォトポエムの制作を行う中で、詩の 楽しさを味わい、詩を創作する意欲へ発展すると考 家の人への発表 (手紙) えたからである。 5年生との発表会 また、翻作表現法に慣れるため、 「あいうえおのう フォトポエムの本作り た」の詩の翻作表現や、詩の穴埋めの学習を行い、 合 計 自分たちの「のはらうた」を制作するために、作者 (3)検証授業の分析および考察 を当てるクイズを行う学習を朝の時間に計画した。 ①ICT を活用する意義 (2)検証授業の計画・実施 創作詩の学習において、題材の収集を行い、詩を ①単元名: 「かんじたことを詩に書こう」 創作する中で表現活動を行う。生活科や図工科の手 ②対 象:千葉市立山王小学校 第2学年 (1学級) 立てとして、写真を活用する。フォトポエムを制作 ③時 期:4月〜2月(30 時間) する中で写真を選び、写真と詩の編集を行う。文字 ④単元の実際 の大きさや、 色、 バランスなど編集作業を行う中で、 全体の単元計画 30 時間 情報活用能力が身に付いたと考える。 (国語 22 時間+生活 6 時間+図工 2 時間 本実践では、千葉大学藤川研究室で管理をしてい +朝の時間 15 分×13+常時活動) るタブレット端末(iPad31 台)を使用して、検証授 合計時数 国語 生活 朝の時間 1 4 3 1 4 4 3 1 5 ※ 朝の時間は時数として数えていない。 ア「活用 フォトポエム制作3の実践」24 時間 合計時数 国語 生活 1 実践1 春(予備実践) 4 3 実践2 やご(嵐) 2 2 実践3 シャボン玉 2 1 1 実践4 ミニトマト 2 1 1 実践5 のはらうた 6 4 実践6 秋 4 3 1 実践7 冬 4 3 1 24 17 5 合 計 図工 2 業を行う。 [図 1] タブレット端末を使う学習は好きですか4 2 し嫌い」という児童が3人いたが、9月には、見ら イ「習得 基礎基本を身に付ける実践」2時間 国語 4月は、タブレット端末を使う学習が「嫌い」 「少 朝の時間 常時活動 読書指導 1 実施 視写の指導 2 実施 ことば遊び 1 穴埋め 1 れなくなっている。最初はタブレット端末の操作方 法に慣れておらず、写真の選び方がよくわからなか った児童や、文字の入力方法が不安だった児童もい AR を使った本の紹介 2 合 計 2 たが、フォトポエムの制作を継続的に行うことによ り、 意欲的に学習を行い情報活用能力が身に付いた。 タブレット端末を活用することにより、意欲の向上 を図るとともに、創作への手立てを行うことができ 5 た( [図1] ) 。 3 フォトポエムの制作に使用したアプリケーションソフト は、「Phonto」である。 4 表の数字は人数を表す。表の数字は人数を表す。(以下の 図も同じ) 鬼澤—4 ②フォトポエムを扱う意義 エムを扱うことにより、詩を創作する手立てとなっ フォトポエムを扱うことにより児童がどのように たと考える。 変化をしたか、分析をする。 ③詩を身近に感じる環境づくり 本実践では体験活動と写真があることで、創作の 友達にお気に入りの詩の本を紹介するために、好 手立てになるのではないかと計画をした。 きな詩を選び、音読をしている姿を動画で撮影をす 図1を見ると、 「詩を考えるときに参考にしたもの」 る。友達のお気に入りの詩を知ることにより、詩の として、7月はタブレット端末で写真を見る児童が 本に興味を持つことができるように環境を整えた。 6人だったが、10 月には 22 人に増えている( [図 「Aurasma」というアプリケーションを使い、現実 2] ) 。 環境にある本の表紙から、バーチャルに友達が出て くるようにセッティングをして学習を行った。 [図2] 詩を考えるときに参考にしたもの また、詩の評価は客観性を高めるために、評価規 [資料1] お互いの動画を撮影している様子 準を話し合い、担任や指導主事など4人に評価をお お気に入りの詩を紹介するためには、まず本を読 願いした。詩に対する好みもあるが、評価規準を明 まなければならない。読みたくなるきっかけ作りが 確にすることで、評価に大きな差は見られず、客観 必要である。そのきっかけ作りとして、本の表紙に 的な評価ができたと見なすことができたため分析を タブレット端末をかざすと、友達がおすすめの詩を 行った。 紹介する動画が AR で飛び出す仕組みを準備した。 これは、詩の題材を見付け対象物を写真に撮る取 まず、お互いがお気に入りの詩を紹介する姿を動 材の力と、感動を言葉で切り取り表現する力が身に 画撮影して、紹介したい本にリンクを貼った( [資料 付いている作品を3点、作品を制作できなかった場 1] ) 。お互いの動画撮影をするうちに、詩のリズム 合を0点として評価を行った。4段階で評価をした の楽しさに気付き、詩を暗唱して発表する児童が増 平均を比べると、春の作品の平均が 1.53、秋の作品 えてきた。また、自分の動画を再生して確認するこ の平均が 2.41 である。春より秋の作品の方が、数値 とで、もっと大きな声で撮影したい、周りの静かな が大きくなっていた。 場所で撮影したいと、児童が主体的に活動するよう また、児童の詩の表現として広がる言葉、感動を になった。タブレット端末を本にかざすと友達が詩 切り取った光る言葉で表現している作品を数えたと を紹介するという仕組がおもしろくなり、友達の紹 ころ、春は4つの作品のみだったが、秋はほとんど 介する詩を聞いて「この詩おもしろいね。 」と言い、 の作品に表現の工夫が見られた。 本を自ら読むようになった。この学習を行うことに フォトポエムの制作を継続的に行うことにより、 より、友達の紹介した詩や本に興味を持ち、 「○○君 写真をよく見て言葉を推敲し、 吟味することにより、 の紹介した本を、次貸してね。 」と声を掛け合うこと 表現力が向上したと考えられる。つまり、フォトポ ができるようになった。 鬼澤—5 この学習の後には、教室の児童向けの詩の本と千 すか」の質問に、4月は「真似が多い」 、 「少し真似 葉市地域文集『ともしび』を、朝や休み時間に手に をした」児童が合わせて 14 人いたが、10 月には「少 取り、好きな詩に付箋を貼り視写をする、アンソロ し真似をした」児童4人に減っている( [図3] ) 。 ジー作りを熱心に行う児童が増えた。また、 「△△君 が書いた詩と、△△君の好きな詩は、ここが似てい ておもしろいね。 」と、長音符の使い方や、表現の工 夫について比較する児童もいた。詩を身近に感じる 環境を整え、フォトポエムの制作を継続的に行った ため、児童が主体的に学ぶ姿が見られるようになっ た。 ④創作する楽しさを学ぶ詩の翻作表現法 予備実践として、実践1を行ったときには、詩を 創作できない子には手立てとして翻作表現を行って よいと話をした。事前に配布をして音読をした、春 の詩(4つの詩)を真似してよいことを説明した。 その結果、自分の言葉で創作をした児童が 15 人、 春の詩の原文をそのまま抜き出して、フォトポエム の作品を制作した児童が 12 人、写真のみの児童、 作品のない児童などが3人いた。 この実践では、詩を創作できない児童への手立て として、翻作表現法を扱いフォトポエムという作品 を完成した達成感をほとんどの児童が味わうことが できたが、翻作表現法の楽しさまでは感じていなか [図3] 詩は自分で考えたものが多いですか これは、4月は原文をそのまま抜き出して真似を した作品が多かったが、10 月には落ち葉を踏んだ音 「カサカサ」だけを、 「少し真似した」のだと考えら れる。 また、 「詩を書くことは好きですか」という質問に は、4月は「嫌い」と「少し嫌い」を合わせると 13 人いたが、10 月は「少し嫌い」1 人だけとなり、明 らかに減っている。これは、翻作表現法から詩の書 き方を学び、自分で創作できる楽しさを感じたため だと考えられる( [図4] ) 。 った。そこで、原作をそのまま抜き出すだけではな く、文章の一部を変更する翻作表現法を朝の時間に 行った。 「あいうえおのうた」の原文の書き換えを、 リズムを感じながら行う、ことば遊びの翻作表現法 である。この学習を行った結果、書くことが苦手な 児童が 「これはおもしろい。 「 」もっと書きたい。 」 と、 意欲的に学習する姿が見られた。 実践2のヤゴの学習では、原文をそのまま真似を する「なぞり翻作」を行った児童が2人いたが、そ [図4]詩を書くことは好きですか の後すべての児童が創作できるようになった。 (4)作品の変容から 最初は詩を真似する翻作学習法から取り組んだ児 作品の変容を見るために、 1人の児童を抽出した。 童も、フォトポエムを制作する学習を繰り返すうち A 児は、書くことが嫌いだった児童である。 に、生活の中から感動を見付ける力が育ち、自分の 実践1「春」では、A 児はタブレット端末で写真 言葉として詩を創作できるようになった。 を撮ることは好きだが、詩を考えることは嫌いだと 質問紙調査では、 「詩は自分で考えたものが多いで 話していた。面倒で、よくわからないという感想で 鬼澤—6 ある。春の作品は、アルファベットで文字が並んで のどちらでもよいと話をし、大型 TV で「ヤゴ」の いた。意味を尋ねると、 「適当にやった。 」と答えて 写真や「嵐」の動画を映した。A 児は「窓の近くだ いる( [資料2] ) 。 からよく見える。 」と、意欲的に学習に取り組むこと ができた( [資料3] ) 。その後、タブレット端末のカ Tkutmjytdtytrjtyffjuhhhhhhhhjhhhhh メラ機能を積極的に活用し、作品の制作にも、熱心 jjjjjjjjjjjjjjjjjjjhhhhh に取り組むようになった。 実践5「のはらうた」では、鉄棒の上に図工の時 間に制作をした紙粘土のヘビを置いて、意欲的に写 真を撮影していた。途中で、小雨が降り出し、みん なが雨宿りをしていたときにも、朝礼台の下に隠れ [資料2] 春 ながら1人で一生懸命に作業をしていた。 作品が仕上がらなかった児童に声をかけて、休み 「嵐」や「のはらうた」の作品を確認すると、A 時間に春のフォトポエムの制作を行ったが、A 児は 児は、 「ビュービュー」 「ザアザア」 「にょろにょろ」 「外で遊びたい。 」と言って、行わなかった。 など、オノマトペを使って詩を書くことができてい しかし、朝の時間にことば遊びとして「あいうえ る。 また、 友達が欲しいという A 児本人の気持ちが、 おのうた」を学習し、翻作表現を行ったときには、 ヘビという対象物になりきったことで、素直に表現 「これはおもしろい。いくらでも思い浮かぶ。 」とつ できた作品となっている( [資料4] ) 。 ぶやき、意欲的に取り組んでいた。他の子が1つの へびさん 作品を考える間に、3つの作品ができていた。 にょろにょろおさんぽだ 実践2「ヤゴ」のときには、ヤゴの水槽が小さく、 みんな ぼくのことを 30 人が同時に写真を撮ることが難しいため、教師の こわがるのかな 準備した写真を活用するように話をした。自分で思 こわがるのが、ふしぎ うように写真を撮影することができないため、A 児 なんでこわがるのか、わからん はあまり興味がわかないようであった。この日は天 友だちほしいな。 気が悪く、突然大雨が降り始め、嵐のようだった。 窓側に座っていた A 児は、窓の外の校庭の様子を食 [資料4] のはらうた い入るように観察し、 「すごい雨だ。 」とつぶやいて 実践6の「秋のフォトポエム」では、 「かれはのじ いた。そこで、 「ヤゴ」より「嵐」でフォトポエムを ゅうたんできるかな」 「かれはのおふとんも、できる 制作したいか確認したところ、 「嵐」でつくりたいと かな」と、繰り返しの言葉でリズムのよい作品を制 の返答だった。他の児童にも題材を「ヤゴ」と「嵐」 作した( [資料5] ) 。 す ご す ぎ さ い あ く タ イ フ ウ ビ ビ あ め も ザ ア ザ ア 今までの活動を振り返った感想では、 「嵐のときに あ ら し フォトポエムづくりが楽しくなった。だから、嵐の 作品が一番好き。 」と記述をしている。A 児にとって、 嵐の日の感動を表現できたことが、フォトポエム制 作のきっかけになり、詩の本の音読、アンソロジー 作りで詩を身近に感じた結果、主体的に制作できる ようになったと考えられる。 [資料 3] 嵐 鬼澤—7 も と か れ は よ ふ て こ い か れ は の お ふ と ん も で き る か な か れ は の じ う た ん で き る か な も と か れ は が あ れ ば エムを扱うことにより、詩を創作する手立てとなっ か れ は が い たと考える。 ④フォトポエムという作品の制作だけではなく、視 写、アンソロジー作り、紹介文、五感のメモ、詩の ぱ い き れ い だ な 下書き、手紙、本作りなど、書く学習を行うことで、 書く力を身に付けることができた。 また、1人1台タブレット端末を活用することに より、情報活用能力が身に付いた。詩の題材となる 写真の収集を行い、意欲的に詩を創作すること、フ ォトポエムを制作する中で写真と詩の編集を実施し、 [資料5] 秋 友達や家族への発信を行うことができるようになっ 4 本実践を行った成果と課題 た。 (1)成果 ①フォトポエムの制作を行うことにより、児童の学 習への意欲が高まり、表現力が向上した。これは、 写真を撮ること、写真を選ぶことで何を表現したい のかがはっきりと確認でき、詩を創作する手立てと なったからである。題材となる対象をしぼる、繰り 返し見る、拡大する、対象になりきるなど、タブレ ット端末を活用することによる効果が見られた。ま た、継続的な学習を行うことにより、詩の創作とタ ブレット端末の操作に慣れ、一人一人の成長を確認 (2)課題 ①創作詩の指導と、翻作表現法の指導、情景を描写 することや、何かになりきって書くことなど、いろ いろな表現を行ったため、分析が難しくなってしま った。 一つ一つのことを、 丁寧に分析できるように、 目標と評価を明確にするべきだった。 ②タブレット端末の準備や片付けが、担任1人では 大変である。1人1台タブレット端末の環境になっ た時には、児童が操作方法に慣れるまで、支援員が 必要である。また、写真を見ながら縦書きで入力で することができた。 ②日常生活や体験的な学習活動の中で、自然の変化 を発見し、感じ取ったことを、詩として創作し表現 できるようになった。見たこと、聞いたこと、にお いを嗅いだこと、触ったこと、話したことなど五感 を使って得たこと、 感じたことや想像したことなど、 思考したことを短い言葉で表現する習慣が身に付き、 日常生活の中でのちょっとした感動を見付け、友達 き、保存した後にも簡単に修正できるアプリケーシ ョンソフトの開発が望まれる。 【主な引用・参考文献等】 ○桑原隆監修 首藤久義・卯月啓子編著『作って演 じて楽しい国語-ことばが生きるプロジェクト単元-』 東洋館出版(2006) ○首藤久義著『書くことの学習支援』東洋館出版社 (2004) にも伝えることができるようになった。 ③作品を比較すると、春に比べ秋の作品は直接的な 表現ではなく、想像の広がる言葉や、感動を切り取 った光る言葉を使用した作品が増えている。フォト ポエムの制作を継続的に行うことにより、写真をよ く見て、言葉を吟味して記述するようになり、創作 する詩の表現力が向上したと考えられる。フォトポ ○中央教育審議会答申「幼稚園、小学校、中学校、 高等学校及び特別支援学校の 学習指導要領等の改 善について(抄) (2008) ○文部科学省「学習指導要領」(2008) ○文部科学省「教育の情報化ビジョン」(2011) ○文部科学省「世界最先端 IT 国家創造宣言」(2013) 鬼澤—8
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