薄肉伝熱管製液膜降下型蒸発缶による省エネルギー技術

薄肉伝熱管製液膜降下型蒸発缶による省エネルギー技術
1.
薄肉伝熱管製液膜降下型蒸発缶の概要
新開発した薄肉伝熱管を使用した新型液膜降下型蒸発缶を、自己蒸気機械圧縮型蒸発装置(MVR:
Mechanical Vapor Recompression)に適用させることによる省エネルギー技術を提案する。
薄肉伝熱管を適用することにより、下がったコスト分を伝熱面積に転嫁することにより、従来と同
じイニシャルコストで伝熱面積をより大きくすることが可能となる。
伝熱面積を大きくした結果、装置のエネルギー効率は改善し、ランニングコストを従来よりも画期
的に抑えることが出来る。
MVR 型蒸発装置とは、自己蒸発蒸気を機械圧縮機で圧縮昇温して、蒸発のためのエネルギー源と
して循環使用する省エネルギー型蒸発装置である。
従来方式の単効用型蒸発装置では、加熱源としてスチームを使用し、発生した蒸気を冷却水で凝縮
し廃棄する。この発生した蒸気は、温度が低いだけで、加熱スチームとほぼ同じ潜熱エネルギーを有
しており、従来方式では未利用エネルギーを有効に利用していないことがわかる。
<<単効用蒸発装置>>
<<MVR 型蒸発装置>>
1
この MVR 型蒸発装置に、薄肉伝熱管製の液膜降下型蒸発缶を適用した場合は、さらに省エネルギ
ー性が向上する。具体的な例として、下図の比較を行った。
機械圧縮機で
13℃昇温
機械圧縮機で
蒸発量=1000kg/hr
6.5℃昇温
蒸発量=1000kg/hr
50kW
25kW
M
M
薄肉伝熱管製
薄膜降下型蒸発缶
を適用
薄肉伝熱管製薄膜降下型蒸発缶
従来伝熱管の蒸発缶
伝熱面積=
50m2
伝熱面積=
100m2
蒸発装置の能力である蒸発量を、1000kg/hr と一定として比較した場合、従来伝熱管と薄肉伝熱管
を使用した場合の夫々の伝熱面積及び運転条件をまとめた。従来伝熱管の肉厚を 1.6mm とすると、
薄肉伝熱管の肉厚は、0.8mm であるので、薄肉伝熱管を使用した場合には、従来の 2 倍の伝熱面積
を同じイニシャルコストで確保することが出来る。その結果、伝熱に必要な加熱側と被加熱側の温度
差は、薄肉伝熱管では従来伝熱管の半分の温度で良いため、ブロワーの消費動力も半分で済む結果と
なる。
以上の検討結果より、薄肉伝熱管を使用した薄膜降下型蒸発缶を MVR 型蒸発装置に適用させた場
合、従来伝熱管を用いた場合に比べて 50%のランニングコストを削減することが出来る。
これは、既設の MVR 型蒸発装置の改造案件において、蒸発缶を薄肉伝熱管製薄膜降下型蒸発缶に
入れ替えるあるいは追加することで、既設機械圧縮機の必要所要動力を低下させ、ランニングコスト
を削減することが出来る。
薄肉伝熱管の薄膜降下型蒸発缶を適用して、省エネルギーが実現できるプロセスは下記項目のよう
に列挙できる。(下記項目(1)、(2)は、前述の通り)
(1)
新設 MVR 型蒸発装置への薄肉伝熱管製薄膜降下型蒸発缶の適用
(2)
既設 MVR 型蒸発装置の蒸発缶の薄肉伝熱管製薄膜降下型蒸発缶の適用
(3)
既設単効用蒸発缶の MVR 化
既設単効用蒸発缶を改造し、薄肉伝熱管製薄膜降下型蒸発缶を適用し、ブロワーを設置することに
より、MVR 化すれば、加熱用スチームを電気エネルギーに転換することが出来る。その時の運転バ
ランスは下記となり、この改造によって、ランニングコストを1/10に低減することが可能となる。
2
蒸発缶の改造
蒸発量=1000kg/hr
スチーム
1200kg/hr
25kW
蒸発量=1000kg/hr
M
薄肉伝熱管製
薄膜降下型蒸発缶
を適用
薄肉伝熱管製薄膜降下型蒸発缶
従来伝熱管の単効用蒸発缶
伝熱面積=
(4)
22m2
伝熱面積=
100m2
2 重効用蒸発缶の MVR 化
既設 2 重効用蒸発缶を MVR 化する場合には、下記の 2 つの案が考えられる。
さらにこの時、既設蒸発缶を薄肉伝熱管製薄膜降下型蒸発缶に改造することにより、既設設備を有効
に利用しながら省エネルギー型 MVR 蒸発装置を構築することが出来る。
どちらのタイプを選定するかは、蒸発量や運転条件により最適なフローを選定することが可能であ
る。
M
蒸発缶の改造
スチーム
薄肉伝熱管製
薄膜降下型蒸発缶
を適用
薄肉伝熱管製2重効用薄膜降下型MVR蒸発缶
M
従来伝熱管の2重効用蒸発缶
薄肉伝熱管製単効用薄膜降下型MVR蒸発缶
3
2.
開発及び実用化の経過
我社の MVR 型蒸発装置の歴史は古く 1980 年から数多くの納入実績を有する。
また、昨今の原油高を反映して、化石燃料を必要とするスチームから電気エネルギーへの転換が市場
の要求となっているのが実情である。
そこで、電気エネルギーを主として使用する MVR 型蒸発装置の拡販に努めるとともに、さらに薄
肉伝熱管を使用した薄膜降下型蒸発缶を開発し、低圧縮型の機械圧縮機を適用して、画期的にランニ
ングコストの低い、省エネルギー型蒸発装置を実用化するに至った。
3.
機器の技術的特長
①技術の独創性
従来の薄肉伝熱管では、肉厚 1.2mm∼1.6mm が最小であり、JIS 規格の規定する伝熱管外径と肉
厚を下表に示した。
今回開発した薄肉伝熱管の製作可能範囲を下表に比較するが、JIS 規格に規定がない範囲において
も製作可能であることがわかる。
薄肉伝熱管の製作可能範囲と JIS 規格
外径
薄肉伝熱管肉厚
JIS 規格 (JIS G 3463)
0.8mm
1.2mm
1.6mm
19.0mm
○
○
○
25.4mm
○
○
○
31.8mm
○
○
○
34.0mm
○
N.A.
○
38.1mm
○
N.A.
○
42.7mm
○
N.A.
N.A.
48.6mm
○
N.A.
N.A.
50.8mm
○
N.A.
N.A.
N.A. : None Available
伝熱管の肉厚を薄くするという観点は、常に蒸発装置メーカーであれば、議論されている。
しかしながら、これまではなかなか実現しなかったのが実情であり、今回開発するに至ったこと
は、我社にとって画期的な要素技術開発といえる。
前述の実用化の経過にもあるように、既設改造という難易度の高い技術力を得意とする我社が、
今回の薄肉伝熱管製薄膜降下型蒸発缶という汎用性の高い要素技術を開発したことにより、その
適用範囲はかなり広いといえる。
今後ますます、高騰するであろう原油を背景としたエネルギー事情が、ユーザーでの本件の採
用を後押しすることは間違いないといえる。
4
②省エネ性、効率性
蒸発装置の能力を示す蒸発量を、1000kg/hr と一定として代表的な蒸発装置を比較した。
単効用蒸発装置は、エネルギーロスが多いが、比較的小型な蒸発装置への適用が多い型式である。
省エネルギー装置である多重効用蒸発装置においては、2 重効用または 3 重効用蒸発装置の導入
が最も多いが、より省エネ性の高い 4 重効用蒸発装置を比較する対象として挙げた。
MVR 型蒸発装置では、従来の伝熱管を用いた場合と、本件で開発した薄肉伝熱管を適用した
場合を比較する対象とした。
単効用蒸発装置では、イニシャルコストは最も小さいが、蒸発蒸気を冷却水で凝縮させて廃棄
してしまうために、エネルギー損失は最も多く、ランニングコストは比較にならないほど高くな
っていることがわかる。
省エネルギー効率が高い、4 重効用蒸発装置においても、単価の高いスチームを使用している
ことと、最終缶の蒸発蒸気は、単効用と同じく冷却水で凝縮させて廃棄してしまうために、MVR
型蒸発装置に比べるとエネルギー損失は多くなり、ランニングコストが高くなっていることがわ
かる。
MVR 型蒸発装置の従来伝熱管と薄肉伝熱管の比較においては、やはり伝熱面積の大きな薄肉
伝熱管製 MVR 型蒸発装置の方が、省エネ性が高く、ランニングコストも格段に低くなっている
ことが顕著にわかる。
蒸発量 1000kg/hr 当たりの各蒸発装置の比較
単効用
4 重効用
MVR 型蒸発装置
MVR 型蒸発装置
蒸発装置
蒸発装置
(従来伝熱管 t1.6)
(薄肉伝熱管 t0.8)
温度差(間接加熱)
30℃
10℃(各缶)
13℃
6.5℃
総括伝熱係数
1163W/m2℃
1163W/m2℃
1163W/m2℃
1163W/m2℃
(※1)
(1000kcal/m2hr℃)
(1000kcal/m2hr℃)
(1000kcal/m2hr℃)
(1000kcal/m2hr℃)
伝熱面積
22m2
65m2
50m2
100m2
スチーム使用量
1200kg/hr
300kg/hr
−
−
電気使用量(※2)
−
−
50kW
25kW
冷却水使用量
130Ton/hr
32Ton/hr
−
−
CO2 排出量(※3)
278kg/hr
69.6kg/hr
18.5kg/hr
9.3kg/hr
ランニングコスト
3,640 円/hr
910 円/hr
750 円/hr
375 円/hr
(※4)
※1)総括伝熱係数は、比較のために全て、1163W/m2℃(1000 kcal/m2hr℃)とした。
※2)電気使用量には、ポンプ動力及び計装用電力は含まない。
※3)CO2 の単位排出量は、下記とした。
・スチーム
:
232 CO2-kg/Steam-Ton
・電気
:
0.37 CO2-kg/kW
※4)ランニングコスト算定根拠は、下記とした。
・スチーム
:
3,000 円/Steam-Ton
・電気
:
15 円/kWhr
・冷却水
:
0.3 円/CW-Ton
5
③環境への影響
蒸発装置の能力を示す蒸発量を、1000kg/hr と一定として代表的な蒸発装置の CO2 排出量を
比較した。CO2 排出量を、前述にて規定した CO2 算定根拠により算出し、各蒸発装置について
比較した。やはり化石燃料を必要とするスチームを加熱源とする 4 重効用蒸発装置よりも、電
気エネルギーにより蒸発させる MVR 型蒸発装置のほうが CO2 排出量をかなり削減できること
がわかる。その実際の数値としては、薄肉伝熱管を用いた MVR 型蒸発装置においては、4 重効
用型蒸発装置のおよそ1/7以下に削減可能であり、従来伝熱管を用いた MVR 型蒸発装置との
比較においても1/2に削減可能であった。
以上のように、薄肉伝熱管製薄膜降下型蒸発缶を用いた MVR 型蒸発装置を適用させた場合に
は、省エネルギー性及び CO2 排出量ともに画期的に向上することがわかる。
4.
経済性
イニシャルコストを同等とした、従来伝熱管と薄肉伝熱管を用いた夫々の場合の MVR 型蒸発
装置を比較すれば、薄肉伝熱管製 MVR 型蒸発装置は従来型に比べてランニングコストは約半分
であるので、その減価償却期間も半分で済むということが明らかである。
従って、薄肉伝熱管製薄膜降下型蒸発缶を適用した場合には、同じ MVR 型蒸発装置で比較し
ても、イニシャルコストに対するその投資効果と経済性の高さが顕著である。
5.
まとめ
薄肉伝熱管製薄膜降下型蒸発缶の納入実績は、まだないが、我社が既に納入した MVR 型蒸発
装置や、他社にて納入した同様な MVR 型蒸発装置の既設蒸発缶を改造して、薄肉伝熱管製薄膜
降下型蒸発缶に転換することにより、現状ユーザーのランニングコストを低減することが可能で
ある。
我社の蒸発装置は、一品一様であり、標準品が少ないのが実情である。そのため、我社のその
ような状況で培われた企業力は、我社が納入した既設設備だけではなく、他社の納めた設備を含
めた、既設改造という難易度の高い JOB に対応できる優れた技術力を有しており、いかなる状
況にも対応する適用能力に秀でている。
従って、まず我社としては、このような MVR 型蒸発装置ユーザーへ向けて、薄肉伝熱管を用
いた薄膜降下型蒸発缶の改造 PR を行っていき、既設設備の省エネルギー化に貢献する所存であ
る。
以上
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