憲法①・② 答案力養成講義 〔第 1 問〕 予習用問題集 憲法第1回 辰已作成問題 日本に生活の本拠を持ち永住資格を有するアメリカ人Aは,B国へ旅行する目的で出入国管理及 び難民認定法26条1項に基づく再入国の許可を申請した。しかし,法務大臣は,Aが在留中に日 米安保条約反対等のデモや集会に参加していたことを理由に,再入国不許可処分を行った。そこで, Aはこの処分を不服としてその取消しを求めて出訴した。 問1 あなたが,Aの訴訟代理人だとすれば,この訴訟において,どのような憲法上の主張を行 うか,述べよ。 問2 問1で述べられたA側の主張に対する国側の反論を想定しつつ,憲法上の問題点について あなた自身の見解を述べよ。 なお,出入国管理及び難民認定法の違憲性については,主張を要しない。 (参照条文) 出入国管理及び難民認定法26条1項 法務大臣は,本邦に在留する外国人(仮上陸の許可を受けている者及び第14条から第18条 までに規定する上陸の許可を受けている者を除く。 )がその在留期間(在留期間の定めのない者に あつては,本邦に在留し得る期間)の満了の日以前に本邦に再び入国する意図をもつて出国しよ うとするときは,法務省令で定める手続により,その者の申請に基づき,再入国の許可を与える ことができる。この場合において,法務大臣は,その者の申請に基づき,相当と認めるときは, 当該許可を数次再入国の許可とすることができる。 -1- 辰已法律研究所 予習問題 〔第 2 問〕 立命ロー平成 22 年 国家公務員法102条1項は一般職の国家公務員に対して人事院規則で定める「政治的行為」を 行うことを禁止しており(違反には刑罰が科される。同法110条1項),人事院規則14-7は, 特定の政党を支持するという政治的目的を有する文書の配布を,禁止される政治的行為の一つとし て指定している(5条3号,6項13号) 。しかるに,税務署において窓口での税務相談を業務とす る国家公務員であるXは,休日に,A政党(野党)の安全保障政策を訴えるビラ約200枚を高層 アパートの集合ポストに投函した。当該高層アパートのある地域は,Xの勤務する税務署の管轄外 であり,また,Xの居住する地域でもない。また,Xは,ビラ配布にあたり国家公務員であること を明らかにしておらず,アパートの住民でXが国家公務員であることに気づいた者は誰もいなかっ た。しかし,後日,このXのビラ配布が捜査当局の知るところとなり,Xは,国家公務員法違反で 起訴された。 Xを国家公務員法違反で処罰することの憲法適合性について論じなさい。 <関連条文> 国家公務員法 102条1項 職員は,政党又は政治的目的のために,寄附金その他の利益を求め,若しくは受領 し,又は何らの方法を以てするを問わず,これらの行為に関与し,あるいは選挙権の行使を除く 外,人事院規則で定める政治的行為をしてはならない。 110条1項 次の各号のいずれかに該当する者は,3年以下の懲役又は100万円以下の罰金に 処する。 十九 第102条第1項に規定する政治的行為の制限に違反した者 人事院規則14-7(政治的行為) (政治的目的の定義) 5 法及び規則中政治的目的とは,次に掲げるものをいう。 ・・・ 三 特定の政党その他の政治的団体を支持し又はこれに反対すること。 (政治的行為の定義) 6 法第102条第1項の規定する政治的行為とは,次に掲げるものをいう。 十三 政治的目的を有する署名又は無署名の文書,図画,音盤又は形象を発行し,回覧に供し, 掲示し若しくは配布し又は多数の人に対して朗読し若しくは聴取させ,あるいはこれらの用 に供するために著作し又は編集すること。 辰已法律研究所 -2- 憲法①・② 〔第 3 問〕 旧司平成11年第1問改 受刑者Aは,刑務所内の処遇改善を訴えたいと考え,その旨の文書を作成して新聞社に投書 しようとした。刑務所長は,Aの投書が新聞に掲載されることは刑務所内の秩序維持の上で不 相当であると判断して,刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律129条1項3号に 該当することを理由に,文書の発信を不許可とした。 この事案に含まれる憲法上の問題点について論ぜよ。 (参照条文) 刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律(抜粋) (発受を許す信書) 第126条 刑事施設の長は,受刑者(未決拘禁者としての地位を有するものを除く。以下 この目において同じ。 )に対し,この目,第148条第3項又は次節の規定により禁止され る場合を除き,他の者との間で信書を発受することを許すものとする。 (信書の検査) 第127条 刑事施設の長は,刑事施設の規律及び秩序の維持,受刑者の矯正処遇の適切な 実施その他の理由により必要があると認める場合には,その指名する職員に,受刑者が発 受する信書について,検査を行わせることができる。 2 (略) (信書の内容による差止め等) 第129条 刑事施設の長は,第127条の規定による検査の結果,受刑者が発受する信書 について,その全部又は一部が次の各号のいずれかに該当する場合には,その発受を差し 止め,又はその該当箇所を削除し,若しくは抹消することができる。同条第2項各号に掲 げる信書について,これらの信書に該当することを確認する過程においてその全部又は一 部が次の各号のいずれかに該当することが判明した場合も,同様とする。 一 暗号の使用その他の理由によって,刑事施設の職員が理解できない内容のものである とき。 二 発受によって,刑罰法令に触れることとなり,又は刑罰法令に触れる結果を生ずるお それがあるとき。 三 発受によって,刑事施設の規律及び秩序を害する結果を生ずるおそれがあるとき。 四 威迫にわたる記述又は明らかな虚偽の記述があるため,受信者を著しく不安にさせ, 又は受信者に損害を被らせるおそれがあるとき。 2 五 受信者を著しく侮辱する記述があるとき。 六 発受によって,受刑者の矯正処遇の適切な実施に支障を生ずるおそれがあるとき。 (略) -3- 辰已法律研究所 予習問題 〔第 4 問〕 辰已作成問題 A自治会は,「地縁による団体」(地方自治法第260条の2)の認可を受けて地域住民への利便 を提供している団体であるが,長年,地域環境の向上と緑化の促進を目的とする団体から寄付の要 請を受けて,班長らが集金に当たっていたものの,集金に応じる会員は必ずしも多くなかった。 そこで,A自治会は,班長らの負担を解消するため,定期総会において,自治会費を年5000 円から6000円に増額し,その増額分を前記寄付に充てる決議を行った(以下, 「本件決議」とい う。 ) 。 これに対して,本件の寄付に反対のXは,本件決議に基づく自治会費増額分の負担義務の不存在 確認を求めて出訴した。 なお,A自治会は,強制加入団体ではないものの,対象区域内の全世帯の90パーセントが加入 する地縁団体であり,自治会未加入者に対しては,①災害,不幸などがあった場合,協力は一切し ない,②今後新たに設置するごみ集積所やごみステーションを利用することはできないこととされ ていたものとする。 問1 あなたが,Xの訴訟代理人だとすれば,この訴訟において,どのような憲法上の主張を行 うか,述べなさい。 問2 問1で述べられたX側の主張に対するA自治会側の反論を想定しつつ,憲法上の問題点に ついてあなた自身の見解を述べなさい。 辰已法律研究所 -4- 憲法①・② 〔第 5 問〕 旧司平成16年第1問改 13歳未満の子どもの親権者が請求した場合には,国は,子どもに対する一定の性的犯罪を常 習的に犯して有罪判決が確定した者で,請求者の居住する市町村内に住む者の氏名,住所及び顔 写真を,請求者に開示しなければならないという趣旨の法律が制定されたとする。 この法律に含まれる憲法上の問題点を論ぜよ。解答に当たっては,誰のどのような権利が侵害さ れているのかを具体的に指摘すること。 -5- 辰已法律研究所 予習問題 〔第 6 問〕 旧司昭和63年第1問改 受刑者Aは,刑務所当局が法律上の根拠のないままに法務省令によって受刑者の喫煙の自由を認 めないことは,憲法の保障する基本的人権を侵害する違憲・違法のものであると主張して,裁判所 に国家賠償を請求する訴えを提起したと仮定する。 この事例に含まれる憲法上の問題点について,閲読の自由の制限の場合と対比しながら,論ぜよ。 辰已法律研究所 -6- 憲法①・② 答案力養成講義 〔第 7 問〕 予習用問題集 憲法第2回 旧司平成15第1問 以下の場合に含まれる憲法上の問題点について論ぜよ。 1 再婚を希望する女性が,民法の再婚禁止期間規定を理由として婚姻届の受理を拒否 された場合 2 女性のみに入学を認める公立高等学校の受験を希望する者が,男性であることを理 由として願書の受理を拒否された場合 -7- 辰已法律研究所 予習問題 〔第 8 問〕 旧司平成2年第1問 ある市において,一般職員の採用に関し,身体障害者については健常者に優先して一定の割合で 採用すること,男性については肩までかかる長髪の者は採用しないこと,を内容とする条例を定め たとする。この場合の憲法上の問題点について論ぜよ。私企業が同じ取扱いをした場合についても 論ぜよ。 辰已法律研究所 -8- 憲法①・② 〔第 9 問〕 予備平成23年 多くの法科大学院は2004年4月に創設されたが,A大学(国立大学法人)は,2005年4 月に法科大学院を創設することとした。A大学法科大学院の特色は,女性を優遇する入学者選抜制 度の採用であった。A大学法科大学院が女性を優遇する入学者選抜制度を採用する主たる理由は, 法科大学院・新司法試験という新しい法曹養成制度の目的として多様性が挙げられているが,法曹 人口における女性の占める比率が低い(参考資料参照)ことである。A大学法学部では,入学生に おける女子学生の比率は年々増え続けており,2004年度には女子学生が約40パーセントを占 めていた。A大学法科大学院としては,法学部で学ぶ女子学生の増加という傾向を踏まえて,法科 大学院に進学する女性を多く受け入れることによって,結果として法曹における女性の増加へ結び 付けることができれば,法科大学院を創設する社会的意義もある,と考えた。 A大学法科大学院の入学者選抜制度によれば,入学定員200名のうち180名に関しては性別 にかかわらず成績順に合格者が決定されるが,残りの20名に関しては成績順位181位以下の女 性受験生のみを成績順に合格させることになっている(このことは,募集要項で公表している。 ) 。 男性であるBは,2007年9月に実施されたA大学法科大学院2008年度入学試験を受験し たが,成績順位181位で不合格となった。なお,A大学法科大学院の2008年度入学試験にお ける受験生の男女比は,2対1であった。 〔設問1〕 あなたがA大学法科大学院で是非勉強したいというBの相談を受けた弁護士であった場合,ど のような訴訟を提起し,どのような憲法上の主張をするか,述べなさい(なお,出訴期間につい て論ずる必要はない。 ) 。 〔設問2〕 原告側の憲法上の主張とA大学法科大学院側の憲法上の主張との対立点を明確にした上で,あ なた自身の見解を述べなさい。 -9- 辰已法律研究所 予習問題 【参考資料】法曹人口に占める女性の比率(2004年までの過去20年のデータ) 辰已法律研究所 女性割合 女性割合 女性割合 ( 裁判官) (検事) (弁護士) (%) (%) (%) 昭 和 60年 1985年 3.3 2.1 4.7 昭 和 61年 1986年 3.5 2.0 4.8 昭 和 62年 1987年 3.9 2.1 5.0 昭 和 63年 1988年 4.1 2.5 5.2 平成元年 1989年 4.5 2.9 5.3 平 成 2年 1990年 5.0 3.5 5.6 平 成 3年 1991年 5.5 3.8 5.8 平 成 4年 1992年 6.0 4.1 6.1 平 成 5年 1993年 6.7 4.6 6.3 平 成 6年 1994年 7.2 5.0 6.5 平 成 7年 1995年 8.2 5.7 6.6 平 成 8年 1996年 8.9 6.4 7.3 平 成 9年 1997年 9.7 7.1 7.8 平 成 10年 1998年 10.2 8.0 8.3 平 成 11年 1999年 10.4 8.4 8.9 平 成 12年 2000年 10.9 9.2 8.9 平 成 13年 2001年 11.3 10.6 10.1 平 成 14年 2002年 12.2 11.6 10.9 平 成 15年 2003年 12.6 12.6 11.7 平 成 16年 2004年 13.2 12.8 12.1 - 10 - 憲法①・② 〔第 10 問〕 旧司平成10年第1問改 公立A高校で文化祭を開催するに当たり,生徒からの研究発表を募ったところ,キリスト教のあ る宗派を信仰している生徒Xらが,その宗派の成立と発展に関する研究発表を行いたいと応募した。 これに対して,校長Yは,学校行事で特定の宗教に関する宗教活動を支援することは,公立学校に おける宗教的中立性の原則に違反することになるという理由で,Xらの研究発表を認めなかった。 右の事例におけるYの措置は,Xらの信教の自由を侵害しないかについて論ぜよ。 なお,いわゆる部分社会の法理について論じる必要はない。 - 11 - 辰已法律研究所 予習問題 〔第 11 問〕 辰已作成問題 Aは,反戦平和を掲げる市民団体の構成員であるが,その団体が共催する「市民平和の集い」な る集会の案内ビラ(A4サイズで両面印刷されたもの,1枚)を配布する目的で,B市内の公営団 地(5階建て)に,管理者及び居住者の承諾を得ないで立ち入り,各階住戸の玄関ドア・ポストに ビラを投函したところ,当該立入行為が住居侵入罪にあたるとの容疑で逮捕・起訴された。 問1 あなたが,Aの弁護人であったとして,裁判においてどのような憲法上の主張を行うか, 具体的に論じなさい。 問2 Aの主張に対して,検察側はどのような憲法上の反論を行うか,具体的に論じなさい。 辰已法律研究所 - 12 - 憲法①・② 〔第 12 問〕 辰已作成問題 芸術家Xは,昭和天皇の写真を題材にしながら,それに東西の名画・解剖図・家具・裸婦・頭蓋 骨等の素材を貼り合わせた,いわゆる「コラージュ」作品(以下,「本件作品」という。 )を制作し た。Y県立近代美術館の館長Zは,これを購入・収蔵し,一般展示していたところ,Y県議会議員 が本件作品の展示を観て不快感を覚えたとして問題にして以来,非公開派により,本件作品が不敬 であるとして,その廃棄等を求める抗議が殺到し,さらに,美術館周辺で本件作品の廃棄と館長の 辞任を要求する街宣活動も連日なされた。ただ,非公開派の抗議行動は,実際に本件作品を破棄し ようとしたり,周辺住民や美術館職員に危害を加えるといった態様のものではなかった。こうした 抗議運動を受けて,Zは本件作品を非公開とした。Xは,Zに,本件作品の展示を要求したが,Z はこれを拒絶した。そこで,XはY県に対して損害賠償を求めて訴訟を提起した。 問1 あなたが,Xの訴訟代理人だとすれば,この訴訟において,どのような憲法上の主張を行 うか,述べなさい。 問2 問1で述べられたX側の主張に対するY県側の反論を想定しつつ,憲法上の問題点につい てあなた自身の見解を述べなさい。 - 13 - 辰已法律研究所
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