日本取引所自主規制法人 2015 年度考査計画 2015 年3月 31 日 日本取引所自主規制法人 考査部 I. 基本方針 当法人は、金融商品取引所の自主規制を担うわが国唯一の自主規制法人とし て、資本市場の公正性と信頼性を守り、その機能の十全な発揮を確保するため、 東京証券取引所及び大阪取引所の取引参加者における法令及び取引所諸規則 (以下「法令等」といいます。)の遵守状況並びに業務及び財産の状況につい て考査を行っています。 当法人は、取引参加者の信用を確保し、公益及び投資者の保護に資するため、 マーケットに密接した自主規制法人としての高い専門性を発揮し、中立的な立 場で以下の項目を基本方針として考査を実施します。 1. 市場一体型考査 取引所の市場運営部門及びシステム部門並びに清算機関との連携を最大 限活用して、マーケットの実態及び取引所市場における諸課題を的確に把 握し、適時適切かつ効果的に考査を実施します。これにより、取引参加者 が取引所市場のゲートキーパーとして売買、決済及び引受等の業務を誠実 に遂行することを促し、取引所市場の公正性及び信頼性を確固たるものと します。 2. リスク・ベース・アプローチ (1) 機動的な考査対象先の選定 取引参加者の過去の考査結果、他機関の検査結果、取引所市場での 売買状況、清算機関におけるリスク評価、並びに取引参加者の業務及 び財産に関するオフサイト・モニタリング等に基づき、取引参加者の 業態やその時々の状況等を踏まえ、潜在的な問題やリスクがあると考 えられる取引参加者に対して優先的に考査を実施します。 (2) 深度ある実効的な考査の実施 近時のマーケットの実態及び各取引参加者の業務の状況等を踏ま えて、取引所市場の運営の観点からリスクが高いと考えられる項目に ついて重点的に考査を行うとともに、実地考査においても広く関係部 門に対してヒアリングを行うこと等により業務実態を多角的にかつよ 1 り深く把握し、深度のある考査を実施します。 また、法令等に違反する行為や市場運営にかんがみて不適当な業務 の状況を発見した場合には、その背景にある内部管理態勢を分析し、 発生原因の本質を見極め、改善を促します。 3. 内部管理態勢整備の促進 取引所の市場機能にかかわる不適正行為等が未然に防止されるよう、取 引参加者の業容の拡大による多様な業務展開に伴う各種のリスクの把握及 びその管理に留意し、社内規程や社内組織等の枠組みの整備状況に留まら ず、実態として法令諸規則を遵守し投資者の利益に適う業務運営が確保さ れているか検証を行います。その際には、取引参加者の経営陣も含めた双 方向の対話によって業務運営上の問題点等に係る認識を共有し、望ましい 内部管理態勢を提示するなど、取引参加者の適切な内部管理態勢の整備を 促進します。 これらに際しては、法令等に違反する事実を指摘する「注意喚起」のみ ならず、内部管理態勢に不備が認められた場合に行う「勧告」又は「要請」 を活用するとともに、取引参加者に望ましい内部管理態勢を提示する「助 言」を積極的に実施します。 II. 2015 年度における取組み 1. 取引参加者の業務に係る環境変化等 (1) 高速かつ高頻度な取引(いわゆる「HFT取引」)の比重の高まり システムを活用して高速かつ大量の発注を行う取引の拡がりが引き 続き見られており、その多くは海外の投資者によるものとなっていま す。また、昨年には、海外投資者による短時間に大量の発注を行う形 態による相場操縦行為が認められました。 本年9月には、東京証券取引所の株券等の売買システム(arrowhead) のリニューアルが行われ、処理能力の向上、リスク管理等の機能追加 及び売買制度の一部見直し等が予定されています。これに伴って、各 取引参加者においてもシステム対応や業務面での対応等を要すること となります。 (2) デリバティブ市場に係る状況の変化 市場デリバティブ取引は引き続き高水準で推移しており、昨年 11 2 月にはJPX日経インデックス 400 先物取引が開始されるなど、商品 の多様化が進められています。こうした中、昨年にはデリバティブ取 引における相場操縦行為が行われ、取引参加者におけるデリバティブ 取引に係る売買審査態勢が不十分であった状況も認められています。 (3) IPO件数の増加 企業の業績改善を背景に、IPO件数が5年連続で増加しています。 一方で、新規上場会社が上場後間もなく過年度の決算修正や業績予想 の下方修正を行い、株価が大きく変動する事例も認められています。 新規産業への資金供給と市場の活性化を図る観点から、わが国におけ るIPOについて、質を維持しつつ継続的に行われることが求められ ており、主幹事取引参加者等が適切にその役割を果たすことが期待さ れています。 (4) ライツ・オファリングの健全な普及に向けた取組み ライツ・オファリングについては、大幅な希薄化を伴う増資が相次 いで実施されたことなどを契機に制度整備が進み、実例が積み重なり つつあります。しかしながら、中には、従来の増資方法では資金調達 が困難と思われる上場会社が、増資の合理性について十分な検討を行 うことなくライツ・オファリングを実施し、株主の利益を損なう懸念 のある事例も散見されました。 こうしたことから、上場制度が改正(昨年 10 月 31 日施行)され、 新株予約権証券の上場に際して、取引参加者が増資の合理性を審査す る仕組みが導入されており、取引参加者がライツ・オファリングの健 全な普及に向けて適切に対応することが求められています1。 (5) インサイダー取引に係る規制の整備 金融システムの信頼性及び安定性を高めるため、金融商品取引法が 改正され、投資法人の発行する投資証券等の取引に対するインサイダ ー取引規制及び会社関係者による情報伝達・取引推奨行為に対する規 制が導入されるなど、インサイダー取引に係る規制が整備されました (昨年4月1日施行)。 1 制度改正後の事例では、同時に導入された株主総会決議を行う方法によりライツ・オファ リングが実施され、専門性を有する取引参加者による審査は行われていません。 3 2. 重点考査項目 上記の環境変化等を踏まえ、2015 年度は、以下の事項を重点考査項目と します。 (1) 注文管理態勢の整備状況 arrowhead のリニューアル等に関連して、取引参加者の発注システ ムについて、発注制限値が適切に設定されているかを、昨年度に引き 続き検証します。 また、システムを活用して高速かつ大量の発注を行っている取引形 態に関して、大口注文に係る発注制限値の設定についてのみならず、 多量の小口注文の発注に係る管理態勢、自己勘定及び顧客勘定のポジ ションに係る管理態勢、発注システムに係るリスク管理態勢及びアル ゴリズムに係る管理態勢についても検証を行い、リスク管理等の面で 問題が認められる場合には改善を求めます。 (2) 不公正取引に係る売買管理態勢の整備状況 システムを活用して高速かつ大量の発注を行っている取引形態や市 場デリバティブ取引に関して、当法人が行う売買審査の状況等を踏ま え、各取引参加者の業容に応じた売買管理の態勢(銘柄及び顧客の抽 出状況並びに売買審査の実施等)が整備されているか検証します。 (3) IPOに係る引受審査態勢の整備状況 取引参加者が行うIPOに係る上場適格性に係る調査、新規上場会 社に対する各種助言等の引受審査に係る業務の適正性について、当法 人上場審査担当等とも連携しつつ検証を行います。 (4) ライツ・オファリングに係る対応状況 ライツ・オファリングの健全な普及に向けて、取引参加者として、 上場会社に対してライツ・オファリングの実施に係る判断が株主の利 益に配慮した適切なものとなるよう促しているか、またその増資の合 理性について適切に調査を行っているか等について、当法人上場審査 担当等とも連携しつつ、その体制面や実際の運用状況について検証を 行います。 4 (5) 法人関係情報管理態勢の整備状況2 取引参加者が業容に応じた適切な法人関係情報管理態勢を整備して いるかについて、昨年度に引き続き検証します。考査に際しては、当 法人が行う売買審査の状況等を踏まえ、法人関係情報に多く接する可 能性のある法人営業担当者又は投資銀行部門担当者等に対するヒアリ ングを行うなど、管理実態を多角的に検証します。 3. 考査実施会社数 考査の予定実施会社数は、一般考査、フォローアップ考査、特別考査を 合わせて 30 社程度を目途とします3。 4. 関連諸機関との情報交換・連携 取引参加者に対する監視機能の総体としての向上に貢献するため、金融 庁、証券取引等監視委員会、日本証券業協会及び他の取引所等と、引き続 き緊密な連携を図ります。 5. 考査業務に関する情報発信 考査上の観点や考査で認められた不備の状況を共有することで取引参加 者の適切な対応を促すことや、取引所市場の信頼性確保の観点から当法人 の考査業務についての理解を得ること等を目的として、考査の考え方、考 査実施状況、措置の状況等について広く情報発信を行います。 6. 考査の実施・内部管理態勢改善のサポート活動 その他の考査の実施に係る具体的な要領及び取引参加者へのサポート活 動については、別添資料を御参照ください。 今後も、以上の計画を踏まえ、わが国の最も中心的なマーケットである東 京証券取引所及び大阪取引所の「品質管理センター」として、わが国の資本 市場の公正性と信頼性を守るべく、実効性の高い考査を行ってまいります。 以 2 上 法人関係情報に係る不公正な取引の防止管理についても、売買管理態勢の考査の一環とし て重点的に検証を行います。 3 2014 年度の考査実施会社数は、30 社でした。 5 別添資料 1. 考査の実施要領 取引参加者に対する考査は、原則として以下の要領により実施します。 (1) 考査の種類 過去の考査結果や前回一般考査からの経過日数等を勘案し、考査を 行う必要性がより高いと判断される取引参加者に行う「一般考査」、考 査終了後、必要に応じて1年程度以内をめどに改善状況を確認するた めに行う「フォローアップ考査」又は各種状況に基づき特定の事項に 焦点を当てて行う「特別考査」により行います。 (2) 他の機関との合同検査4 日本証券業協会及び他の金融商品取引所と同時に臨店して一体的に 行う合同検査を今後も継続して実施します。 (3) 考査の事前通知等 考査を実施する場合には、原則として、4週間程度前に考査の開始 日及び方法等を、2週間程度前に担当考査員の氏名等を、書面により 取引参加者代表者あてに通知します。 考査に当たっては、当法人から考査対象会社の検査部門担当者に、 考査に必要な各種資料の作成を事前に依頼します。5 (4) 考査方法6 取引参加者の本店等に臨店して行う「実地考査」又は取引参加者か らの提出書類に基づいて行う「書類考査」により行います。 実地考査では、帳簿書類等の各種資料を調査するとともに、取引参 加者の役職員との双方向の対話によって、業務実態を多角的に分析し、 業務運営上の問題点等を検証します。 (5) 考査期間及び考査員数7 取引参加者の規模や実態等、その特性を踏まえて、考査期間及び考 査員数を決定します。 (6) 考査結果の説明等 考査終了後、考査の結果や内部管理態勢の整備状況等について、取 引参加者代表者及び内部管理統括責任者等に説明するとともに、考査 結果を書面により取引参加者代表者あてに通知します。 4 2014 年度の総合取引参加者の一般考査は、全て合同検査により実施しました。 事前に作成を依頼する既定の資料のフォーマットは、Target より入手可能です。 6 2014 年度の考査は、全て実地考査により実施しました。 7 2014 年度に終了した総合取引参加者に係る一般考査1社当りの平均数値は、考査日数が 12.2 日、考査員数が 6.2 人です。 5 6 (7) 考査結果に基づく措置 考査の結果、法令等に係る違反行為等が認められた場合は、取引参 加者に対して処分又は注意の喚起等の措置を行います8。 法令違反等 社内管理体制の不備等 取引資格の取消し 処分等 売買等の停止又は制限 過怠金の賦課 勧告 戒告 注意の喚起 等 担当理事による注意 考査部長による注意 要請 担当考査員による注意 (8) 実地考査終了時の意見交換及び意見の申立て 実地考査終了時の意見交換等により、取引参加者と考査員との間で の事実認定に関する認識の一致に努めます。万一認識が相違する場合、 取引参加者は、当法人に対し書面にて意見を申し立てることができま す9。 (9) アフターケア 考査において指摘した事項については、考査後も担当考査員が継続 的に当該事項の改善状況の確認を行い、また御相談に応じる等のサポ ートを行っていきます。 (10) 考査に関するサーベイ 当法人が実施した考査の状況等について幅広く御意見をお聞きし、 考査業務の改善に役立てるべく、考査結果通知を送付した取引参加者 の検査担当責任者等に、メール又はヒアリングによるサーベイを行い ます。 2. 取引参加者へのサポート活動 以下のセミナーや出版物等を通じ、考査の着眼点や指摘事例等をわかり やすく公表・説明してその理解を促し、取引参加者における内部管理態勢 の自主的な改善のサポートに努めております。 (1) 考査実務者セミナーの開催 取引参加者におけるコンプライアンス担当者の法令等規制に係る理 8 措置の決定に際しては、当該取引参加者の役員又は従業員の故意又は過失の有無及びそ の程度、社内管理態勢の状況等を総合的に勘案します。 9 意見の申立てを受けた場合は、当該取引参加者から提出される書面等を踏まえ、必要に 応じて事情を聴取し、公正に審理します。 7 解の向上を目的として、考査事例や規制内容等を解説する考査実務者 セミナーを開催します。 (2) コンプライアンス説明会の開催 取引参加者に当法人の社員を派遣し、最近の考査における違反事例 等の紹介等のコンプライアンス説明会を実施します。 (3) 社内点検要請の実施10 考査で認められた違反事例等のうち、他の取引参加者においても発 生の可能性が高く、その未然防止が必要と考えられる事例等について は、 「社内点検要請事項」としてその内容を掲げ、各取引参加者に社内 点検を実施するように要請します。 なお、考査において、当該社内点検要請事項に係る対応が十分に為 されていない状況が認められ、かつ当該事項に係る違反行為等が認め られた場合は、当該事情を勘案して措置内容を決定します。 (4) ケーススタディの充実 取引参加者からの問合せや、考査において認められた違反事例等に 対する対応策を取りまとめたケーススタディハンドブックの改訂を適 宜行います。 (5) 取引参加者の内部管理態勢に係るチェックポイントの充実 取引参加者の内部管理態勢を整備するうえでの参考として、引き続 き、主要な考査項目における規制上の留意点及び各項目別の管理態勢 上のチェックポイントを整理したものをホームページ等にて公表しま す。 (6) 考査結果集計及び事例集の報告 考査結果を集計し、指摘事例とともに、取引参加者代表者及び検査 担当責任者あてに報告します。 以 10 上 「社内点検要請事項」は、違反行為の性質、発生件数、社内点検の実行可能性等を考慮 して決定します。 8
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