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教 育格 差 と家庭 環 境
201lHP063
河村綾 乃
今 日、教 育格 差 が 社 会 問題 化 す る中で 、 生活 困難層 とそ うで な い 層 で は、子 ども
の進 路
のだ
に大 きな違 い がみ られ る と考 え られ る。 この よ うな格 差 は、 どの よ うに して生 まれ る
ろ うか 。 本研 究 で は、親 の 社 会 階層 が子 どもの 教 育 達成 に どの よ うな プ
ロセ スで影 響 を及
ぼす のか 、家庭 環 境 の 経 済 的 な側 面 と文化 的 な側 面 に注 目 して検討 した 。
l章 で は、現 代 の 教 育格 差 の 実態 を検 証 し、親 の学歴 や 所 得 とい つた社 会 階層 が子 ども
の 学力 に影 響 を与 えて い る こ とを明 らか に した。 さ らに、再 生 産理 論 を も とに教 育格差
の
再生産 モ デ ル を作成 した 。 このモ デ ル の検 証 は、 2章 と 3章 で行 つた 。
2章 で は、親 の 教 育期 待 や 教 育投 資 、 子 どもの通 塾 の 効果 と学 習 時 間 とい つた 、家庭 の
経 済的 な側 面 に注 目 して 、親 の 社 会 階層 が子 どもの 学 力 に影 響 す る過 程 を検 証
社 会階層 が 高 い 場 合 、 子 どもに も 自身 と同等 の 高 い 教 育期 待 をか け、そ
した。 親 の
の 教 育期待 や経 済
的 な豊 か さか ら、 よ り多額 の 教 育投 資 を して い る こ とが わ か つた 。 親 の 教 育投 資 に
よ つて
の
ス
子 どもが学習 塾 に通 う こ とで 、学 習 時 間 が 増 加 す る とい うプ ロセ を通 じて 、子 ども 学
力 が 向 上す る こ とが確 か め られ た 。
3章 で は、 家庭 で の 学 習 活 動 や しつ け、子 どもへ の 支 出や 教 育 戦 略 とい つた 、家庭 の文
化 的 な側 面 に注 目 した。 社 会 階層 の 高 い 親 は、子 どもに家 庭 学 習 や 読 書習慣 を身 に
つけ さ
せ 、学校 に適 応 的 な しつ け を して い る。 また 、将来 を見据 え 、教 育 的 な戦 略 を も つて 子 ど
の
もへ の 支 出 の 仕 方 を 工 夫 し、 多様 な経験 を子 どもに させ て い る。 そ の よ うな家庭 文化 的
な側 面 も、子 ども の 学 力 向 上 に影 響 して い る こ とが わ か つた。
つ
この よ うに して 、 1章 で示 した教 育格 差 の 再 生産 モ デ ル の 妥 当性 が 確 か め られ た。 ま
り、親 の 社 会 階層 が あま り高 くな い 家庭 の 子 どもは、学力 向上 に困難 を抱 え る こ とにな る。
そ の よ うな子 どもに は、学 習 会 を開 い て子 ども の 学 習 時 間 を増 や した り、落 ち 着
い て 学習
へ
ロー チ と、読 書 の機 会 を増
す る場 を提供 した りす る こ とで学 力 向 上 を図 る学力 面 の アプ
やす こ とや 、芸術 的 な体験 を取 り入 れ る こ とで子 どもの 視 野や 興 味
の 幅 を広 げ る とい つた 、
い
の
文化 面 へ のア プ ロー チ が 考 え られ る。そ の 2つ の 面 を意識 して 、家庭 環 境 困難 さを補 、
子 どもの 教 育 達成 を引 き上 げ るた めの実践 に取 り組 ん で い きた い 。
不登校 についての社会認識 とそ の問題点
201lHP070 4ヽ 林 里奈
子 どもが長期にわた つて学校 に通 わな くなるケース には さまざまな ものが あ り、そ の 中に
はい わ ゆる 「不登校 」 と呼 ばれ るものが ある。「不登校」 とい う言葉は、一般的に、子 ども
の心理的な要因によ り長 期 に学校 を欠 席す る こ とを想定 して用 い られ る こ とが 多い。 しか し
「不登校」 を もつぱ ら、その よ うなタイ プの長期欠席 として とらえてよいの だろ うか。本論
文では、「不登校」に対す る現在 の社会認識 に問題 が ある と考 え、そ の問題点を明 らかに し
てい きたい。
第 1章 では、文部科学省 の長期欠席統計を用 いて、小・ 中学校 の長期欠席者数 の推移 と、
「不登校 Jに 対す る社会 の関心 の変化 を、新聞記事 を用 いて検討 した。現在 の長期欠席者数
は、長期欠席者数 の調査開始直後 の、長期欠席 が最 も問題視 されて いた ころと同程度 に高 い
水準であるに もかか わ らず、新聞記事数 か らみた社会 の 「不登校」 に対す る関心は薄れ てき
ているこ とが分か つた。第 2章 では 、「不登校 Jに 対す る現在 の社会認識 に至 るまで、長期
欠席 に対す る社会認識 が 、 どの よ うな変遷 をた どってきたのかをみた。高度経済成長 の過程
で貧困 とい う視点が長期欠席 へ の認識か ら抜 け落 ちていき、代わ つて心 の病 によってお きる
長期欠席 が 「学校恐怖症」、「学校 ぎらい」、「登校拒否」な どと呼ばれ 、社会的に認識 されて
いった。 そ して、「不登校」は誰 にで も起 こ り得 る もので あ り、何 らかの理 由で登校 に苦痛
を感 じている子 どもが持 つ選択肢 のひ とつ と認 め られ 、「無理に登校 しな くて もよい」 とい
う社会認識 が強まっていた。第 3章 では、「不登校 Jに 対す る現在 の社会認識 の問題点 を考
察 した。「不登校 」 を経験 した子 どもは学歴取得や就職 とい う面で、そ の後 の進路に不利 を
背負 うこ とが多 い。 また 、特 に貧 困層 の子 どもに 「不登校」傾 向が 高 い ことがわかった。貧
困層 の子 どもが学校 に行かない こ とは 、学歴取得や就職 の 面で不利 を被 ることにな り、貧因
の連鎖 につ なが る可能性 が ある。 この点で 「不登校」に対す る今 日の社会認識 には、貧困な
どといつた子 どもの家庭 の基盤 とい う背景へ の視点 が欠 けて い るとい う問題点 があ る こ とが
指摘 された。
以 上の こ とか ら、現在 の 「不登校」に対す る社会認識 には、問題 点があることが明 らかに
された。 もちろん 「不登校」 のケースの 中には、「無理 に登校 しな くて もよい」 とい う認識
が適切な もの もあるだろ う。 しか し、その認識 を、貧因層 を含 むす べ ての 「不登校 」 の子 ど
もに一律に適用す る こ とは問題 であ り、その よ うな社会認識は改め られ る必要がある。
生 活 困難層女性 の ライ フ コー ス
ー 結婚・ 出産 を中心 に一
201lHP085
三 浦桃子
近年 、女性 の進学や就職状況 に変化 が起 き、それ に伴 い 、結婚・ 出産 を中心 とした女性
の ライ フ コー ス も多様性 が増 して きて い る。 そ して 、 これ らの変化 は 女性間 に格 差 を生み
出 して い る。本研 究 では 、 この よ うな状況 にお ける生活 困難層 の女性 たち の 多 くが歩む ラ
イ フ コー ス につい て 、特 に結婚・ 出産 を中心 に検討す る。彼女た ちの結婚・ 出産 に対す る
思 いや 、結婚後 に起 こ り うる リス クについ て考察 し、 生活 困難層 の女性や そ の 子 どもた ち
が 安定 した生活 を送 るため の方策 を考 えて い く。
第 1章 では 、近年 の女性 の ライ フ コースの 多様化 と、それ に伴 っ て生 じて い る、女性 間
の さま ざまな格差 につ い て整理 した。女性 の 大学進 学率は
40%を 超 え、学 歴 の 高 い女性 は
正 規雇用 の 高 い賃金 を得 る一 方 で 、低学歴 な女性 は低 賃金 で生活 も安定 してい な い非 正 規
雇用 で ある こ とが 多 い。結婚 の場 面 にお いて は、以前であれ ば、所得 の高 い 夫 を持 つ 妻 は
働 く確 率が低 く、逆 に 、所得 の低 い 夫 の妻 は働 く確 率 が 高 くな るとい つた傾 向 があ り、家
計所得 分配 の 平等性 が維持 され て い たが 、 い まや変化 して 、夫婦 とも高所得 のスー パ ー カ
ップル が生 まれ て きて い る。
第 2章 では 、 この よ うな女性 間 の格差 が存在す る社会 で 、弱者 とな る生活 困難層 の女性
た ち の実態 を明 らかに し、彼女 たちの結婚や 出産 に対す る意識 につ いて検討 した。 生活 貧
困層 の 女性 は 、低 い学歴達成 によ り、安定 した職 に就 くこ とが難 しく、将来的 にはホー ム
レス にな つて しま う可能性 もあ り、単身 で生 きて い く こ とは困難 であ る とい える。彼 女 た
ちの 中 には早 婚願 望 を持 つ ものが 多 く存在 し、そ の背 景 には 「しん どい 」状況 か ら抜 け出
したい とい う思 いが ある こ とか ら、結婚や 出産 は消極的 な選択 として捉 え られて い る こ と
が確認 され た。
第 3章 では 、前章 の 内容 か ら、少 な い選択肢 の 中か ら消極 的 に選 んだ結婚 に起 こ り うる
リス クについ て考察 した。 そ こには 、経済的 な不安定 さか ら離婚 し、それ に よつて さらに
貧 困 に陥 る とい う負 の連鎖 が 存在す ることがわか った。 さらに、そ の貧困 が子 ども虐待 に
繋 が る可能性 も高 い。 生活 困難層 の女性 が 消極 的な選択 として結婚 をす るこ とは 、本人や
そ の 子 どもた ちに とつて 、 リス クの 伴 うもので ある こ とが明 らか とな つた。
以 上 をふ まえ、生活 困難層 の 女性や そ の子 どもたちが安定 した生活 を送 られ るよ う、多
くの 人が彼 女 た ちの置 かれ て い る状 況 を知 り、理解 を示す こ とが必要であ る と考 える。
大 学進学 の意義
201lHP102中 野亜実
近年 、大学進学率が上昇 し、昨今 では大 学 に入 るこ と自体 がか つ て と比 べ て容易 になってい る
こ とは 、社会的 に も共通 の認識 が ある。 そ の ため、一 部有名 大 学以外 の大 学 を出た ところで 、意
味がな いの では とい う社会認識 も生 まれ て きて い る。大卒学歴 を取 得すれ ば 、 いい仕 事 に就 く こ
とがで き、 いい 人生が送れ る とい う道 が もはや保証 され るわ けではな い。 そ の一 方 で 、学歴 を、
就職後 に仕事 で発 揮 され る能力 の シグナル とみ る考 え方 は依然 として根強い。 大学進 学 に どれ ほ
どの効用 が今 日あるのか 、改 めて考 えてみ る必要がある。
学歴 の効用 に 関す る これ までの研 究 は 、労働賃金や教 育投資 に対す る収益率 を明 らか にす る研
究が主流 で ある。本研 究では、 も う少 し視野 を広 げ、経済的 に得 られ るメ リッ トをベ ー ス に 、非
経済的 で個人 の 幸福 につ なが るよ うな見 えに くく、理 解 され に くい 大学 教育 の効用 を明示 す るこ
とを 目的 とした。
第 1章 では 、そ もそ も大学卒業者 はなぜ 高 い所得 を得 るのであろ うかについ て 、代表的 な二つ
の経済学 の理 論 を用 い て説 明 した。 そ の経済学 の理論 とは 、 シュル ツや ベ ッカ ー に よ つ て 開発 さ
れ た 「人的資本 論」 と、 スペ ンス に よって生 み出 され た 「シグナ リン グ理 論」 であ る。 人的資本
論 とは、大学教育がそれ を受 けた者 の知識や技能 を増大 させ 、それ に よって彼 らの生産 能力 が上
が る とい う考 え方 であ る。 それ に対 し、 シグナ リン グ理 論 は 、教育機 関 が個人 の能力 を全 く向上
させ る機能 を もつ ていなか った として も、個人 は 自分 の能力 の 高 さをア ピール す るた めに、大学
あるいは有名 大学 に進 学 しよ うとす る とい う考 え方 である。
第
2章 では、第 1章 で説 明 した理論 が実際 のデ ー タに どの程度 あてはま るのか を見た。 大学進
学す るこ とで得 られ る経済的 メ リッ トについ て 、生涯 賃金 と内部収益率 とい う観 点か ら検証 した。
家庭 の負担 が大 学進学 の メ リッ トを下げてい る ものの 、大学進学 には一 定程度 の経済的 メ リッ ト
があるこ とが明 らか とな っ た。 さらに 、女子 の 大学進学 には男子 とは異 な る見方 が必 要 であ るた
め、女子 の場合 の経済的効用 は分 けて考 える。女子 の場合 は主 に結婚す るこ とで得 られ るメ リッ
トが大 きい とい うこ とがわか った。
第
3章 では、大学進 学 の非経済的 メ リッ トに着 日し、直接的 には所得 に結びつ かないが 、大学
進学が豊 かな人生、 幸福 な人生 につ なが っ て い るのか ど うか 、学習習慣や家庭生活 、 ライ フス タ
イ ル に着 日して検証 した。 そ の結果 、大学 に行 けば 幸せ になれ る とい う因果 関係 はないが 、大学
進学 が個人 の豊かな人生 につ なが ってい る とい うこ とがわか った。
大 学 進 学 と人 生
201lHP133白
石敦 巳
「
戦 後 か ら今 日に至 る ま で 、大 学 に進 学 す る人 び とが 男 女 問 わず 増 えて き て い る。 学校 基
本 調 査 」 に よれ ば 、 2014年 にお け る高 等 学 校 卒 業者 の 大 学進 学 率 は 53.8%と な つ てお り、
高 等 学校 卒 業 者 の
2人 に 1人 が 大 学 に進 学 して い る状 況 で あ る。 しか し、 そ の よ うな高 い
進 学 率 とは 対 照 的 に 、 大 学 に進 学 して も必 ず し も明 る い 将 来 が 開 け る わ けで は な い と考 え
る人 び とが い る よ うに 、 大 学進 学 の 効 用 に 疑 間 を抱 い て い る人 び とが い る こ とも事 実 で あ
る。 しか し、本 当 に大 学進 学 の 効 用 は 、 疑 われ る べ き効 用 しか 人 々 に及 ぼ さな くな っ た の
だ ろ うか 。 ま た 、 人 び とは本 当 に 大 学 進 学 の 効 用 を理 解 して い る の だ ろ うか 。
そ こで 本 論 文 は 、 大 学 進 学 が 、 個 人 の 人 生 に と つて どの よ うな影 響 を及 ぼ す か を明 らか
に して ゆ く こ とを 目的 とす る。
まず 第 1章 で は 、戦 後 か ら現 在 に至 るま で の 大 学 進 学 率 の 推 移 、 そ の 推 移 の 背 景 に は 、
人 々 が 学歴 に対 す る考 え方 が 関連 す る と して 、人 々の 学 歴 に対 す る考 え方 の 現状 を述 べ た。
男 女 ともに 、進 学 率 は戦 後 か ら現 在 ま で ほ ぼ 一 貫 して 上 昇 し、現 在
50%以 上 に達 して い る
こ とを確 認 した 。 しか し、 そ の 一 方 で 現在 、 大 学 に進 学 し、 大 卒 学歴 を得 る こ との 効 用 に
疑 い を持 つ 人 も多 い こ とが 分 か つ た。
第
2章 で は 、 大 学 進 学 の 経 済 的 効 用 を述 べ た 。 賃 金 面 にお い て は 、 男 女 とも大 卒 が 、他
の 学 歴 と比 べ て 有利 な状 況 に あ り、 それ は 一 時 的 な も の で は な く、 生 涯 に わ た る も の で あ
る こ とが わ か った 。ま た 、
近 年 で は 学歴 間 の 賃 金 格 差 は若 年 期 か ら生 じ始 め る傾 向 が あ り、
大 学 進 学 の 経 済 的効 用 が 早 く享 受 で き る こ とも分 か つ た。 職 業 面 にお い て は 、学 歴 に よ つ
て 就 く職 に違 い が 生 じてお り、 大 卒 は オ フ ィ ス な どの 労働 環 境 の 整 っ た ホ フイ トカ ラ ー の
職 業 や 、 大 企 業 に就 職 す る機 会 に も恵 まれ る こ と も分 か っ た 。
第
3章 にお い て は 、 4年 間 の 大 学 生 活 にお け る学 習 経 験 や 課 外 活 動 が 、 そ の 後 の 個 人 の
人 生 に、 どの よ うな効 用 を及 ぼ す の か とい う、 大 学進 学 の 非 経 済 的効 用 を述 べ た 。 大 学 時
代 の 学 習 経 験 は 、直 接 にそ の 個 人 の 将 来 に影 響 す るわ けで は な く、大 学 時代 の 学 習 経験 を
継 続 して初 め て 効 用 が 生 じる も の で あ る こ とが 分 か つた 。 ま た 、大 学 卒 業 時 に知 識 能 力 獲
得 の 度 合 い が 高 く、 卒 業 後 の 現 在 も知 識 能 力 獲 得 の 度 合 い を高 く評価 して い る人 び とが い
る こ とか らも、 大 学 時 代 の 学 習 経 験 を しつ か り と身 に つ け て 、継 続 した者 ほ ど、 大 学進 学
の 学 習 の 効 用 を所 得 だ けで な く、それ 以 外 の 側 面 で も感 じる こ とが で き る の だ と分 か つた 。
また 、 大 学 時 代 の 部 活 動 や サ ー クル 活 動 な どの 課 外 活 動 は 、 社 会 で必 要 と され る常識 や 、
対 人 関係 を 円 滑 にす る ス キル を身 に つ け る こ とに つ な が る も の で あ る こ とが分 か つた め
大 学 に進 学す る こ とは 、個 人 の そ の 後 の 人 生 に 、経 済 的 、非 経 済 的 効 用 を与 えて くれ る
も の で あ り、個 人 の 人 生 にお い て 大 学進 学 は 多 大 な る価 値 を もつ も の で あ る とい え る。
家族形成 の リス ク と効用
201lHP174
横井優介
国 立社会保 障 。人 日問題研 究所 が 2012年 に実施 した調 査 で 、結婚や子 どもを持 つ こ とを避 け
よ うとす る若者 が増 えて きて い る こ とが示 され た。 この よ うな傾 向は、出生率の低 下等 、現代 日
本 が抱 える人 口問題 に拍車 をかけるもので ある。本研 究では、家族形成 が リス ク化 した ことによ
り、家族形成 を避 ける傾 向 が 強ま つてい るので はな いか と考 え、現代社会 が抱 える問題 を深刻化
させ かね ない傾 向 が生 じた背景 を理 解 し、解決策 を考 えるために も、家族形成 の リス ク と効用 を
検討す るもの であ る。
第 1章 では 、戦後 日本社会 に広 がった 「近代 家族」 の安定性 と、そ の役割 につい て述 べ た。 高
度経済成長 を経 て 、平等化 が進む 中で、20代 で結婚 した男 女 に 、2∼ 3人 の子 どもとい う構成 と、
強 い性別役割分業規範 といっ た性 質 を持 つ 「近代家族」が大衆化 した。 そ して 、「近代家族」 が 、
手厚 い企 業福祉 に支 え られ 、個人 を経済的 。心理 的 に包摂す る役割 を担 った ことを確認 した。
第 2章 では 、この よ うな 「近代 家族」が 、社会変動 に伴 って崩れ てい つた こ とを確認 した。1990
年代以降 に起 きた、雇用 の不安定化・ 個人 の選択性 の増大 ・ ライ フ コースの 多様化 とい つた変化
は 、「近代 家族」 に打撃 を与 え、家族 の安定性 は揺 らい だ。家族 は、 1990年 代以降 の社会変動 に
よ り、個人 が選 択す る もので あ り、そ の形成 。維持 には相 当な努力 が必 要 な集 団 とな った。
第
3章 では、家族形成 が忌避 され る傾 向が強 ま つて きた こと確認 し、家族形成 の リス クについ
て検討 した。 現代 では 、様 々 な選択 がで きるよ うにな る中で、多様 な リス クを比 較検討 して 、個
人 の 責任 に よつて 自分 の人生 を形成 していかなけれ ばな らな い。 この よ うな中で、家族形成 に伴
うリス クは 、人 々 に強 く意識 され るよ うにな ってい ることを確認 した。
本研究では、社会変動 とともに家族形成 が リス ク化 して きて い ることを述 べ た。本研 究 の議論
を踏 まえて 、家族形成 につ い て言 えるこ とは、我 々 は今や 、家族 に 、 自身 に対す る性別役割分業
に依 拠 したケアを、多 くは期待す るこ とができな くな つた とい うことで ある。 そ のため 、家族成
員 同 士が依存 し過 ぎず 、家族 内で ミニマ ム なケア のや り取 りをす る ことこそ、現代 に適応 的な家
族 の在 り方だ と考 える。
そ して 、家族 を持 つ ことで しか得 る事 の で きな い効用 を考 えれ ば、それ は 、次世代 の再生産 を
介 して 、他者 との情緒的関係 を築 くこ とができる、 とい うもので ある。家族 であれ ば、そ の よ う
なケア のや り取 りを、次世代 の再生産 を介す る ことで形成 され る強 い情緒的 関係 の もとで行 うこ
とができ、 ここに、家族形成 に特 有 の効用 をみ ることがで きる と考 える。