浅ノ川総合病院打田喜義先生パブリックコメント[PDF 172KB];pdf

医法研・「被験者の健康被害補償に関するガイドライン」改定案に関する意見
名
前: 打出 喜義
所
属: 浅ノ川総合病院 産婦人科部長・産科センター長
意見:
1.補償ガイドライン改正案中諸処にある「被験者に生じた健康被害」を修飾する「治験
に係る」は、省かれるべきです。
理由:
「健康被害」が被験者に生じたとき、それが治験に係るものかどうかの判断が難しい場
合もあることが考えられます。そうなると、その健康被害が治験に係ったものであること
を「被験者」が証明しなければならないこととなり、それは素人の被験者には非常に困難
な作業になります。
もし、
「治験に係る」を省けないのなら、その代わりに、当該箇所に「その健康被害が治
験に係らないと証明されたもの以外の」とすべきです。
2.2-3 の「
「治験に係る被験者に生じた健康被害」とは、被験者に生じた有害事象のうち 治
験薬及び治験実施計画書に定めた計画の実施と因果関係の認められるものをいう」の
下線部は「因果関係の完全な否定が出来ないもの」とすべきです。
理由:
被験者に有害事象が生じた場合、治験依頼者は、それと治験薬及び治験実施計画書に定
めた計画の実施との因果関係は、認めようとしない(認めたくない)のが一般です。そう
なると、被験者にその因果関係の証明が必要となりますが、上述の如く、素人の被験者に
は、その証明は非常に困難なものとなるでしょう。
したがって、被験者に生じた有害事象が治験薬及び治験実施計画書に定めた計画の実施
と明々白々に因果関係がないことを治験依頼者が証明出来る場合を除いては、
「治験に係る
被験者に生じた健康被害」は「治験に拠るもの」と見なすべきです。
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3.「3-2 治験依頼者は、補償規定を求めに応じて被験者に提供することとし、 」につい
ては、下線部を「求めがなくても」と変更すべきです。
理由:
治験の被験者となる患者は、担当医から治験の被験者とならないかとの申し出を受けた
段階では、未だ、治験に係わり健康被害が生じることにまでは考えが及ばず、したがって、
被験者が自発的に補償規定を求めることは稀だと考えられるからです。
4.4-1-1 の「治験薬及び治験実施計画書に定めた計画の実施と健康被害との間に因果関係
が認められない場合。治験依頼者が治験薬及び治験実施計画書に定めた計画の実施と
被験者に生じた健康被害との間の因果関係が認められるかどうか判断する。
(以下略)
」
の下線部「認められるかどうか判断する」は「認められないことを証明する」にすべ
きです。
理由:
この項は「治験薬及び治験実施計画書に定めた計画の実施と健康被害との間に因果関係
が認められない」ことが前提ですから、それであれば、因果関係が認められないことの合
理的理由を被験者に示し、その健康被害には因果関係がないと納得してもらうことが必要
だからです。
5.4-2-2 の「その他、補償金を減額すること又は補償しないことに合理的な理由のある場
合」は、平成21年補償ガイドラインの 4-2 に戻すべきです。
理由:
補償ガイドライン改正案のこの項は、著しく具体性に欠け、これを読む被験者に余計な
不安や疑惑が生じかねないと思料されるからです。
6.5-4-1 の「抗がん剤、免疫抑制剤等の治験
抗がん剤、免疫抑制剤、希少疾患や難病
を対象とする薬剤の場合には、個々の治験実施計画書ごとに、被験者の受ける便益や
負担するリスクを評価し、治験の相や対象となる被験者の状態なども考慮の上で、補
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償金の額を減額するか支払わないことができる。この場合、治験審査委員会の承認を
得るとともに、被験者に対し十分に説明し同意を得る。」 の初めの下線部は「被験者
の受けるかもしれない便益や負担するリスクを評価」とし、次の下線部は「治験審査
委員会の承認を得て、被験者に対し、補償金の額を減額するか支払わないことのある
可能性を十分に説明し同意を得る。
」とすべきです。
理由:
補償ガイドライン改正案のこの項からは、治験薬の被験者には「便益」があるのだから
多少の「リスク」は負担すべきであるとの文意が汲み取れます。しかし、当該治験薬に、
はたして期待された便益があるのかどうかは、その治験が終了して初めて証明されるので
すから、治験進行段階において生じた有害事象の補償では、被験者の便益を前提とする補
償減額は前提とすべきではないと考えられるからです。
7.5-4-2 の「予防を目的としたワクチンの治験」の中では、治験ワクチンによる死亡や障
害、障害児養育の際の給付額を、当該ワクチンが対象とする予防接種法に定める対象
疾病分類(A 類、B 類)によって差別していますが、この差別は撤廃すべきです。
理由:
予防接種のためのワクチンであれ、疾病治療を目的とした薬であれ、両者は共に治験段
階では「新規(開発)化合物質」と言えます。したがって、殊更に治験ワクチンで生じた
有害事象を区別する合理的理由は考えにくいと思われますから、況や A 類、B 類による差
別をやでしょう。
ここに、医法研・
「被験者の健康被害補償に関するガイドライン」改定案に関する意見を
記しました。
わたしは、以前、私の勤務した大学病院で行なわれたところの「同意なき臨床試験」の
被験者側医師として意見書等をしたためた経緯(http://ja.wikipedia.org/wiki/打出喜義)
もあり、このような意見を提出させて頂いた次第です。
(http://pub.maruzen.co.jp/book_magazine/book_data/search/9784621084953.html)
以上
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