「医法研 被験者の健康被害補償に 関するガイドライン」について 医薬品企業法務研究会(医法研) 平成19年・20年度 特別研究部会 2009年6月 1 ≪新ガイドラインについて≫ 1.策定の背景 現行ガイドラインは、治験補償の事実上のスタンダードとして治験保険の 商品化、補償業務に貢献したが、以下の点から見直しを行う必要があった。 (1)治験補償の考え方 - 補償責任の考え方において、治験の現場で齟齬が生じている場合があ る - 補償の内容・範囲を公的制度に一律に準じる運用のあり方に対して、 “制限的運用がまかり通っている”との厳しい批判がある。 (2)治験環境の変化への対応 - 国民の疾患構造の変化や医薬品・医療技術の進展等に伴って、治療 満足度の高い疾患がある一方で、アンメット・メディカルニーズに対応した 新規医薬品への要請が高まってきており、健康人対象か患者対象かの 二者択一的ではない補償のあり方が求められてきている。 - 被験者の権利が重視され、特に第Ⅰ相臨床試験の被験者層の変化が 生じており、これに対応しうる補償のあり方が求められてきている。 (3)企業への補償に関する実態調査(アンケート調査)からの課題 - 具体的にどのように補償すればよいのか、定められていない点が多い。 2 - 自社の補償制度を明確に定めていない治験依頼者も存在する。 2.新ガイドラインの策定方針 (1)省令GCPに基づき実施する臨床試験における健康被害の補償を再定 義する。 (2)どのような健康被害が対象になるか、対象とならないかを明確に記載 する。 (3)現行ガイドラインの補償内容(補償基準)は変更せず、新薬開発の多 様性や社会的な要請に対応できる内容を盛り込む。 (4)治験依頼者自らが補償制度を定め、運用できるよう具体的な手順・基 準を記載する。 (5)被験者への補償内容の説明、すなわちインフォームドコンセントを重視 する。 3 3.新ガイドラインの位置付け、考え方 (1)新ガイドラインにおける補償とは、「治験に起因して被験者に健康被害 が発生し、その健康被害に関して被験者がだれにも賠償責任を問う ことができない場合に、治験依頼者が被験者を救済すること」である。 (2)新ガイドラインは、治験依頼者が治験開始に先立って自ら設定する補償 制度の目安として提示するものである。 (3)補償制度は、新ガイドラインの趣旨に沿って、治験依頼者が治験の内 容・特性等を鑑みて自ら定める必要がある。 (4)治験依頼者は、治験実施施設に対して、治験開始前に「補償の概要」等 を用いて補償制度について十分な理解を得た上で、被験者に対する 十分な説明をお願いし、理解を得ておくことが肝要である。 4 ≪新ガイドラインの主な変更点≫ 形式・構成面の変更 ‐ ガイドライン本文、解説版、参考資料の三部構成とし、問題点や不明点について説明を加えた。 ‐ ガイドラインの冒頭に「目的」を追加し、補償責任を果たすためのガイドラインであることを明確にした。 第1章 補償の原則 ‐ 「本ガイドラインに従って補償する」を「自ら定めた補償制度にしたがって補償する」に変更した。 ‐ 補償内容は、同一の治験実施計画書の下では一律となることを明確にした。 第2章 補償の対象とならない場合(除外) ‐ 健康被害が治験依頼者や治験実施施設の責に帰すべき場合には、補償責任の対象ではなく、賠償責任の 問題であることを明確にした。 ‐ 「第三者の違法行為・不履行」、「被験者の故意」による健康被害は、第3章(補償の制限)から補償対象外を 規定する第2章に移した。 第4章 補償の内容(補償基準) ‐ 健康人対象治験における若年層被験者への補償内容を見直すべく、現行GLの「政府労災給付」に加えて、 「予防接種健康被害救済制度(一類疾病)」も補償基準として参考にできることとした。 ‐ ワクチンの治験に関する補償の項目を新設した。 第5章 補償の支払いに対する原則 ‐ 「医療費・医療手当」と「補償金」を支払う時期についての考え方を整理した。 5 ≪現行ガイドラインについて≫ ご参考 任意の研究団体である『医薬品企業法務研究会』(医法研)が、平成11年 3月に公表した、治験補償に関するガイドライン 1.策定の背景 ‐ 平成10年当時、省令GCP(平成9年3月27日:厚生省令第28号)で規定された治験 依頼者の治験健康被害に対する補償義務に関して、何の基準・ルール もなかったことから、その策定が望まれていた。 ‐ 特に、賠償責任(違法性を前提とする責任)と補償責任(違法性は ないが被害の損失を補填する責任)の違いについての理解が浸透 せず、治験現場が混乱していた。 ‐ 省令GCPが例示する「治験保険」を商品化するためには、補償の ための業界基準を策定することが必要不可欠であった。 6 2.現行ガイドラインの概要 ご参考 (1)補償責任の履行 製薬会社は、法的責任がなくても、被験者の健康被害が治験に起因する 場合(因果関係が否定できない場合を含む)には、補償責任を果たす。 (2)補償の概要 ①健康人対象治験の場合 ・医療費、医療手当、補償金を支払う。 ・補償金は、政府労災1級~14級の補償基準に倣って一括払いする。 ・死亡例に対しては、葬祭料、遺族補償金を支払う。 ②患者対象治験の場合 ・医療費、医療手当、補償金を支払う。(医療費は被験者の自己負担額) ・補償金は、医薬品副作用被害救済制度の1級、2級に該当する健康被 害に対して、同制度の補償基準に倣って一括払いする。 ・死亡例に対しては、葬祭料、遺族補償金を支払う。 ③抗がん剤の治験の場合 ・医療費のみ補償する。 7
© Copyright 2024 ExpyDoc