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「東北早期復興支援ファンドで AM 力が試された
汗かいて証券化されなかった案件掘り起こす」
LC パートナーズ 小山努社長に聞く
小山 努
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LC パートナーズは、東大和市を中心とした三多摩エリア及び埼玉県西部を地盤に、サブリー
スなど地主の土地有効活用ビジネスを展開するロジコムが 2009 年に設立した A M 会社。証券
化黎明期から不動産ファンドビジネスに携わってきた少数精鋭のベテランがそろい、証券化さ
れていない未開拓の地主案件を掘り起こしながら、投資案件を創出している。J リート設立経
験もある小山努社長にファンドの運営状況と事業戦略について聞いた。
会社としての特徴は?
中心に取り組んできた。不動産事業を行うなら東
小山氏――当社は東証ジャスダック上場企業
京の中心部にオフィスを構えた方がいろいろと都
であるロジコムの100%子会社であり、ファンド
合が良い面があるかもしれないが、地元とのリレー
事業、アセットマネジメント事業を手掛けることを
ションを重視しているため、本社は東大和市から
目的として 2009 年に設立された。社員は 10 名と
動かしていない。
少ないが、アセットマネジメント会社、ゼネコン、
ファンドの運用状況は?
設計事務所、証券会社、銀行などの大手企業に
小山氏――現在、私募ファンドを 4 本運営し
在籍し、
各所で実績を残してきたメンバーがそろっ
ている。A U M は約 160 億円で、このうち約 45
ている。私自身も10 年以上にわたり不動産ファ
億円は 2011年から運用する 2 本の東北早期復
ンドの AM 業務などを手掛け、国内機関投資家向
興支援ファンド。2014 年に運用を開始した LCリ
けのコア型ファンド及び DAオフィス投資法人(現
テールファンド 1 号は約 100 億円規模になり、
大和証券オフィス投資法人)の立ち上げを行った
残り15 億円はオフバランス目的で証券化した商
経験がある。不動産ファンドビジネスそのものが
業案件だ。
まだ手探りの黎明期だった頃からこのビジネスに
東北早期復興支援ファンドとは?
携わり、不動産だけでなく建築や金融の分野も
小山氏――東日本大震災が発生した当時、復
熟知している人材が集まっていることが大きな強
興事業に従事する人やボランティアの人達が泊ま
みだ。大手の AM 会社と比べても遜色ない能力を
る場所がなく問題になっていた。大手ゼネコンで
持っているのではないか。
あれば、自前で炊場のような施設を建てられたが、
親会社のロジコムについて
中堅はそこまではできない。また、仮設住宅の設
小山氏――1992年に設立したロジコムは東京
置やボランティアなど短期間で行う事業・作業で
都西部の東大和市に本社を構え、三多摩エリアと
は、大規模な宿泊場所を作ることは難しい。こう
所沢や入間など埼玉県西部一帯でサブリースビジ
したニーズのギャップを埋めることを目的に、中
ネス、不動産賃貸ビジネス、不動産管理・開発
長期滞在型のホテルを開発・運営する支援ファン
事業を展開している。前身の会社を含めればこの
ドを数社で協力して立ち上げた。1号ファンドは
地で 50 年以上前から、地主とテナントとの関係
時間がなかったためフルエクイティで組成し、当
構築を大事にしながら、とくに商業施設や倉庫を
社が全体のストラクチャリングとアセットマネジメン
トを、スパークス・アセット・マネジメントがエク
イティの投資家集めを行った。2 号ファンドはこの
スキームで新生銀行、地元の七十七銀行、横浜
銀行の 3 行からシンジケート形態でノンリコース
ローンを調達。加えて、上場企業を含めた4 社
が社債を引き受けた。
1号は宮城県名取市、
2号ファ
ンドは同じく宮城県の大崎市、東松山市の 3カ所
●プロフィール
で合計1250室の客室を提供できた。2 号ファンド
小山氏――生活密着型の商業施設を4 物件組
に組み入れた物件は、全国でホテルを10 件以上
み入れている。岐阜県本巣市にある「LCワールド
展開する価値開発に固定賃料で一括賃貸し、
「バ
本巣ウェルネス棟」は親会社のロジコムから取得
リュー・ザ・ホテル」のブランド名で展開している。
し、神奈川県内にある 3 物件は外部から取得し
関係者間の調整が難しかったのでは?
た。運用期間は 5 年。アップサイドの追求よりも
小山氏――私が今までに経験した中で、一番
安定的な収益機会を望む事業法人が出資してい
難しいプロジェクトだった。一部既存建物の使用
る。現在 2 号ファンドも準備中で、こちらも安定
や借地での新設、読みにくい客室需要など、特
収益が見込める商業施設と倉庫を投資対象に追
殊かつ複雑な状況を整理してレンダーや信託銀
加取得型で運用していく。4 月には名古屋など中
行にも理解してもらいプロジェクトを前に進めな
部圏の商業施設 3 物件を 25 億円強で取得する予
ければならず、AMとしての力量が試された。その
定で、早々に 200 億円規模まで拡大していくつも
意味で、当社の AMとしての総合力や問題解決能
りだ。Jリートの利回り水準を大きく上回る、魅力
力を発揮することができたのではないか。もちろ
的なリターンが見込めるファンドになっている。
ん当社だけでなく、関係各社が、東北のために
生活密着型の商業施設に注目する理由は?
何かしなければいけないという熱い思いを持って
小山氏――高齢化社会が進む中で消費行動
いたことも大きかった。
が変わり、住宅地に近接した商業施設が求められ
ホテルの稼働状況は?
るようになってきているからだ。あるデータによれ
小山氏――起ち上げ時は苦労したが、現在は
ば、70 歳を過ぎると免許を持っていても車に乗ら
良好な稼働が続いている。ここにきてようやく相
ない人が増える傾向にあるという。週末に大型 SC
当数の復興住宅が着工し工事が進捗しているが、
に行ってまとめ買いする消費スタイルから、日常の
復興工事は当初の計画より遅れているようだ。良
買い物は歩いて行ける範囲の店で済ませるコンビ
い意味で想定外の需要も出てきている。また、名
ニ化した消費スタイルに変わりつつある。団塊世
取市のホテルは、仙台空港と仙台市内の間に位
代が今後 10 年で 75 歳になっていくことを考えれ
置するため、仙台市内でイベントが開催されると、
ば、こうした変化はより顕著になるだろう。商圏
市内で泊まれなかったお客が流れてきている。
が 2 ~3 ㎞程度で、ドラッグストアや 100円ショッ
LCリテールファンド 1号の中身は?
プなど日用品を扱うテナントが入るネイバーフッド
1990 年㈱大京に入社、マンショ
ン開発の企画 ・ 設計業務に従
事。その後ロンドン大学 ( ユ
ニバーシティ・カレッジ・ロン
ドン ) 留学を経て、1999 年よ
り㈱クリードの草創期に於いて
デューデリジェンス業務を担
当。2000 年より㈱住信基礎研
究所 ( 現 : ㈱三井住友トラスト
基礎研究所 ) にて不動産投資
に関する調査分析及び、リー
トや私募ファンド向けのコンサ
ルティング業務を経験。2002
年㈱ダヴィンチ ・ アドバイザー
ズに入社し、私募ファンドの
企画 ・ 組成、物件取得の投資
判断を担った後、2005 年 DA オ
フィス投資法人 ( 現 : 大和証
券オフィス投資法人 ) のリート
新規上場を果たす。2007 年㈱
コロンブス ( ダヴィンチグルー
プの有価証券投資事業会社 )
の代表取締役 (CIO: 投資最高
責任者 ) に就任。2009 年㈱ LC
パートナーズ代表取締役に就
任し現在に至る。
不動産経済ファンドレビュー 2015.3.25
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「東北早期復興支援ファンドで AM力が試された
汗かいて証券化されなかった案件掘り起こす」
LC パートナーズ 小山努社長に聞く
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型の商業施設は出店ニーズが高い。
せない。地主が普通の所有権として持っている物
商業施設や倉庫も取得しにくい。
件を治癒し、証券化に相応しい物件に仕立てて
小山氏――不動産売買マーケットはどのアセッ
いくような取り組みを続けていけば、CA P レート
トでもリートが目立っているが、高値で買い過ぎ
で競争しなくても取得できる。汗をかけば、CAP
ているように見える。今はたまたま資金調達コス
レートにプレミアムが乗ってくる。こういうことに
トが安いから、4%前後の CA P レートでも一定の
気づいてくれる人が増えれば、証券化できるよう
リターンが取れているのかもしれない。しかし、
なアセットはまだまだあるはず。上場リートが裾
将来どこかで不動産市況が落ち込み保有物件が
野を広げて次のステージに上がるためには、私募
簿価割れを起こせば、売るに売れずポートフォリ
ファンドや私募リートの拡大が大切だ。
オの入替えが難しくなる。当然、築年数が古くな
地主案件はどこから?
れば収益性も悪くなる。本当にそこまで考えて取
小山氏――地主に潜在的に売るニーズがあっ
得しているのか、そのリートの投資戦略に合って
ても、すぐには売れないのでブローカーは案件を
いるのか、疑問を持たざるを得ない取引事例が
あまり持っていない。地主とつながりの深い地場
散見されるようになった。過去の教訓を振り返る
の不動産会社や地銀・信金との関係構築が重要
必要があるのではないか。
だ。アプローチする際には地方の場合でも、地
CAPレート低下が進む理由は?
主と直接顔を合わせて説明するようにしている。
小山氏――リートが取得できるような物件の供
地方ではもともと農地だったところに商業施設な
給が追い付いていないからだろう。2000 年代前
どが建てられたケースが多く、未だに農家が持っ
半は企業のオフバランスや破綻した金融機関の
ていることが珍しくないため、証券化を理解して
処理などを通じて、新規供給が結構あった。今
いる人はほとんどいない。ファンドというと怪しま
はかつて証券化された物件がマーケットの中で
れがちだが、親会社が上場しており、また地主相
キャッチボールされているだけで、新規供給は限
手に長く土地の有効活用ビジネスを手掛けてきた
られている。信託銀行によれば、実際のところ
ことを丁寧に説明すると納得してもらえる。エネ
信託案件の受注高はそれほど伸びていないとい
ルギーも使うが、手間を惜しまなければ証券化
う。当社は既存案件を取り合う過熱したマーケッ
できる不動産はまだ山ほどある。
トで勝負はしない。
中長期的な目標は?
どこで勝負するのか。
小山氏――構想段階だが、上場リートへ参入
小山氏――今まで証券化されてこなかった物
したいと考えている。私自身、リートの立ち上げ
件を狙う。地主やオーナーに直接掛け合い、丁
に関わってきた経験があるし、これだけ社歴が
寧に説明しながら、セールス・アンド・リースバッ
あるロジコムグループがリートに関わっても良い
クなどの提案を通じて案件を掘り起こしている。
のではないかと感じている。眠っている不動産
当社は大手のファンドに比べると所帯が小さいの
を掘り起こす当社のやり方を示すことで、社会貢
で、数億円規模でも苦労して汗をかくことが欠か
献にもつながっていけばいい。