Title 結核免疫に関する研究: 第16報 結核菌菌体蠟質の免疫学的性状に関 する研究 [第2篇] 抗体産生能およびツベルクリン・アレルギー賦与 能について (ウサギを用いての実験) Author(s) 宮森, 正孝 Citation 金沢大学結核研究所年報 = Annual report of the Research Institute of Tuberculosis, Kanazawa University, 16(1): 17-22 Issue Date 1958-06-20 Type Departmental Bulletin Paper Text version publisher URL http://hdl.handle.net/2297/41208 Right *KURAに登録されているコンテンツの著作権は,執筆者,出版社(学協会)などが有します。 *KURAに登録されているコンテンツの利用については,著作権法に規定されている私的使用や引用などの範囲内で行ってください。 *著作権法に規定されている私的使用や引用などの範囲を超える利用を行う場合には,著作権者の許諾を得てください。ただし,著作権者 から著作権等管理事業者(学術著作権協会,日本著作出版権管理システムなど)に権利委託されているコンテンツの利用手続については ,各著作権等管理事業者に確認してください。 http://dspace.lib.kanazawa-u.ac.jp/dspace/ 17 結核免疫に関する研究 第16報 結核菌菌体蝋質の免疫学的性状に関する研究 第 2 編 抗体産生能及びツベルクリン・アレルギー賦与能について鵜 (ウサギを用いての実験) 金沢大学結核研究所細菌免疫部(主任:柿下正道教授) 宮 森 正 孝 (受付:昭和33年1月6日) 緒 結核菌菌体脂質の抗体産生能に関しては既に 言 とを確認している. 多くの先人によって認められて居る.当教室に 私はWaxの抗体産生能及びツベルクリン. おいても先に秋山')がAnderson2)による諸分 アレルギー(以下「ツ・ア」と略記す)賦与能 画の内,特に燐脂質に抗体産生能のある事を報 をWax単独の場合とSchlepperを用いた場 告した.又一方武田3)は蝋(WaxD)にも抗原 合に就いても検討を加えると共に菌体の其の他 性が存在し,且つこのWaxDを水解して得 のフラクシヨンの抗体産生能及び「ツ・ア」賦 られる多糖体には明かな血球感作能の存するこ 与能との比較を行ったので報告する. 実験方法 1)免疫原及び反応原の製法:c)旧ツベルクリン(OT):人型結核菌H2株を a)Wax;Wax抗原の製法は前編4〕に報告した.Sauton培地に10週培養し,培養ろ液より型の如 b)菌体蛋白(PF),菌体蛋白I(PFI),菌体多く作製した. 糖体(CF),菌体多糖体I(CFI)菌体多糖体II2)実験動物:体重2,000∼2,500gmの雄性健康ウ (CFII),の拙出法びに性状: サギで10倍OTO、1mlによる皮内反応陰性のもの PF並びにCFは夫々蔵5),秋山6)の方法に準10頭を使用した. じて抽出し,得られたPF,唖、は更に浅見等7)の3)免疫方法:10頭のウサギを5群に分ち,各群に夫 方法によって夫々三塩化錯酸沈殿法及びアルコー々Wax(40mg),PF(30mg),Wax(40mg)+PF ル沈殿法によりPFI,PFI,及びCFI,CF,,に分(30mg),Wax(40mg)十ブタ血清(以下PSと略 画した.それ等の各々10mgをとりPF,PFIは記す)(1ml)を2mlの流バラに浮遊したものを1週 0.1N-NaOH1mlに,CF,CFI,CFI,は蒸溜水間隔で2回臂筋内に注射した.対照群にはH2株加 1mlに溶解して定性反応を行った.熱死菌40mgを前記同様2mlの流バラに浮遊し同 第1表はその成績である.様の方法で注射した. *本論文の要旨は昭和31年11月4日日本細菌学会北陸地方会で発表した. 111 宮 18 森 d)結核菌に対する喰菌現象:結核菌浮遊液の製 法,反応術式及び成績の判定法は大山9)の方法に 4)反応術式 a)OT感作血球凝集反応,東風沈降反応伽Wax 従った. を抗原とした補体結合反応並びに沈降反応等の術 e)吸収試験 式は前編4)記載の通りである. i)OT或はCFによるそれぞれの感作血球遠心 洗浄沈澄2m1ii)菌体及び脱脂菌体(乾燥菌 体)2mgをそれぞれ1mlの抗血清に加え,37。C に2時間放置する.この操作を2回繰り返して b)CF,CFI及びCF,,感作血球凝集反応:CF, CF,及びCF,,の各々2mgを生理的食塩水1ml に溶解し,pH7.0に修正した後,型の如く健常ウ サギ血球を感作して用いた. c)PFI感作タンニン酸処理血球凝集反応:PFI 吸収の完全を計りそれぞれOT感作血球吸収血 2mgを0.1N-NaOH1mlに溶解し,pH7.0に修 清,CF感作血球吸収血清,菌体吸収血清及び 脱脂菌体吸収血清として反応に供した. 正した後,タンニン酸処理血球遠心沈澄0.05ml f)ツベルクリン反応:10倍OTO、1mlを皮内に (Boyden8)法に準じた)を加え型の如く感作して 注射し48時間後の発赤及び硬結を観察した. 用いた. 実験成 1)OT感作血球凝集反応(第1図) PF注射群ではほとんど抗体産生が認めら れなかったがWax,Wax+PF,Wax+PS 及び死菌注射群ではいずれも5∼6週にて抗 体価最高となり,Wax群は最高129倍,Wax 績 Wax+PS群及びWax群の最高抗体価はい ずれも8倍でPS混合による抗体価の上昇は 認められなかった. 5)東風沈降反応(第4図) Wax群,Wax+PF群及びWax+PS群 +PF群では最高64倍,Wax+PS及び死菌群 の3群では前記のWaxを抗原とした沈降反 では最高1,024倍を示した.すなわち,Wax 応よりも一般に低い抗体価を示し,かつPS とブタ血清を混合して注射することにより 混合による抗体価の上昇は認められなかっ Wax単独注射時よりも強くOT感作血球凝 た. 集素の産生する事を認めた. 2)PF,Wax+PF及びWax+PS群におけ るPF,感作タンニン酸処理血球凝集反応(第 2表) 本反応はPF,Wax+PF及びWax+PS 群において共に殆んど陰性で特にWax+PS 6)結核菌に対する喰菌現象(第5図) PF群では4週まで軽度に低下しその後漸 次回復し8週で軽度の上昇を示した. 死菌群では漸次上昇を示し6週にて一時復 旧傾向を示したが8週目には再び上昇した. Wax群及びWax+PF群では6週迄上昇 群においても陰性成績を示した事はまことに し8週には軽度の下降を認めた.Wax+PS 興味ある所見である. 群のみ8週まで上昇し終始他群に比し高い喰 3)Waxを抗原とした補体結合反応(第2図) PF群では観察期間中陽性を示さず,他の 群では何れも5週にて最強となり,死菌群で は最高160倍陽性,Wax群,Wax+PF群, Wax+PS群ではそれぞれ40倍陽性を示した. 4)Waxを抗原とした沈降反応(第3図) PF群ではほとんど陰性に終始し,Wax群, 菌能を示した.すなわち,ブタ血清を混合す る事により白血球の喰菌力も他の免疫群に比 し増強するものと考えられる. 7)Wax免疫血清の吸収試験(第3表) 吸収前後におけるOT,CF,CF,及びCF I'感作血球凝集反応を比較した.すなわち吸収 前,OT感作血球に対する凝集価は64倍,CF Wax+PF群,Wax+PS群及び死菌群では 及びCFII感作血球に対する凝集価は16倍, いずれも4∼6週後最高の抗体価を示したが CFI感作血球に対する凝集価は2倍陽性であ 結核免疫に関する研究 つたが菌体及びOT感作血球による吸収血清 19 8)ツベルクリン反応(第4表) ではいずれの感作血球を以ってする凝集反応 死菌群及びWax+PS群では同程度の強い も陰性となり,脱脂菌体による吸収ではOT. 硬結発赤を伴なった「ツ」反応が惹起された CFII感作血球凝集価は2倍に低下し,CF感 作血球による吸収血清ではOT感作血球凝集 がWax群では硬結は伴なわなかつたが著明 反応のみ軽度に残存し(凝集価4倍)CF, 2乃至4週で陽性,6週以後は陰性となり, CFI及びCFII感作血球凝集反応は陰性となっ 他の1頭は終始陰性であった.此の件に関し な発赤が認められた.Wax+PF群の1頭が た . ては現在尚検討中である. 考 武田3)は菌体から抽出したWax中免疫原性 接 PF+Wax注射群についてPFI感作タンニン酸 を有するものはWaxDであり,此のWaxD 処理血球凝集反応を行ったが,PF+Wax群の を水解すると血球感作原性を有する多糖体が証 一頭にのみ抗体産生が認められたに過ぎな・かつ 明されると述べまた抗WaxD血清はOT感作 た.Waxの混合がPFに対する抗体産生を促 血球,多糖体感作血球と反応するが蛋白感作血 進したと確言出来る所見は得られなかった. 球とは反応しないと報告している.前編4)にて Waxの「ツ・ア」賦与能に関してはMyrvik 報告したNollu・Bloch'0)の12週培養WaxD ら'2)はWaxは「ツ・ア」を賦与すると言い, に近似せるWaxを免疫原として行った私の成 柳沢'3)は人型菌青山B死菌体よりAnderson 績もまた僚壁これと一致した.た野武田ら3)の 2)の方法で抽出せるWax(蛋白反応陽性)は 成績に比して一般にCFに対する抗体価が低か 強い‘「ツ・ア」賦与能を有するが,H37Rv生 ったが,これは反応原として用いたCFが私の 菌体よりAnderson及びSchargafrl4)法を併 場合は菌体に,武田の場合はツベルクリンに由 用して抽出した蛋白反応陰性のWaxには「ツ 来した為かも知れない. ・ア」賦与能なく,蛋白は弱い「ツ・ア」賦与 Robert等11)は1955年egg-albuminに結 能を示すと報告した.私の場合もPF注射群 核菌Waxを混じて免疫すればegg-albumin はWax群よりR6mer反応弱く柳沢の成績に 単独免疫時よりも抗egg-albumin抗体の増産 一致した. されることを報告しているが,私はPF及び 結 ウサギを用い前編4)にて報告したWaxの抗体 = 同冊 産生能及び「ツ・ア」賦与能の検討を行った. 混合して注射した場合はOT感作血球凝集反 応のみに対する抗体産生の著しい昂進が認めら 重要な知見を摘記すると次の如くである. れた. 1)Wax単独注射によってOT感作血球 及びCF感作血球凝集反応,東風沈降反応, Waxを反応原とする沈降反応及び補体結合反 応等に対する抗体産生が認められたが,PFI感 作タンニン酸処理血球に対する抗体産生は認め られなかった. 2)WaxにSchlepperとしてブタ血清を 3)Wax注射により白血球の喰菌能は昂進 したがブタ血清をSchlepperとして混合して 注射すると昂進は一層著明となった. 4)PF単独注射ではOT感作血球,東風 沈降反応,Waxを抗原とした補体結合反応及 び沈降反応に対する抗体の産生は認められなか った. 宮 20 森 一 5)Waxは著明な「ツ・ア」賦与能を有す 文 るが,PFのそれは弱かった. 献 1)秋山舜一:金大結研年報,10(下),147,1952. 大結研年報,8(上),121,1949.10)Noll, 2)AndersOn,R、J、:J.Biol・Chem.,83, H・andBloch,H.:Am・Rev.TUb.,67,828, 505,1929.3)Takeda,Y・etal.:J.J. 1953.11)Robert,G、,Albert,H・and Tub・,2(4),361,1954;16(上),11,1958.2 Jeanne,M、:J・Exp・Med.,102,83,1955. (2),216,1954.4)宮森正孝:金大結研年 12)Myrvik,Q・andWeisser,R,S、:J. 報,5)藏尚之:金大研結年報,8(上),113, Immunol,68,413,1952.13)柳沢謙:ア 1949.6)秋山舜一:金大結研年報,10(上), 1,1952.7)浅見望,他:日本細菌学雑誌, E・andSaidel,H.F、:J・Biol・Chem.,177, 9(4),271,1954.8)Boyden,S、V、:J. 417,1949. レルギー.,4(2),73,1955.14)SchargaH, Exp・Med.,93,107,1951.9)大山馨:金 第1表 第1図 PF,PFI,CF,CFI,CFIIの定性反応 各種免疫群におけるOT感作血球凝集反応 ー PFI i − コンB − 11I + + + ‐ │ I ’’11−111 + + + くす) CFII CFICF, | ’ 11 ’ 冊 │ ' 〃 ’ - │ ! ≠ │* + + + + ’ 十’十 + + + ’ 。 ー ウ 隼 一 .………‘、WaX − Wax+PF 一 一 一 一 一 一 一 PF 昏T心 一.→一一一・・,●‐‘。。,‐‐ WaX+豚血清 一・・・■一・・⑨一・‘・一 死 菌 結核免疫に関する研究 21 第2表 第3図 PF,Wax+PF及びWax+ブタ血清 各種免疫群においてWaxを抗原と 免捜群におけるPFI感作タンニン酸処 する沈降反応 00 00 00 00 00 00 00 や0 00 0 0 ‘(平均値を示す) ● 00 PF 00 ● 34 56 78 ●O ● 0 ●O ● 0O 0 N N NN NN 鶉、勇 618 42 血清稀釈401 理血球凝集反応 00 伽十W 0 00 00 1;2 1;2 1;2 00 00 00 00 00 脆十 全 一 0 一一毛一一一一 ‘■・‘DC一一・・一ー 一 WaX+PF 死 菌 Wax+豚血清 ブタ血清 第4図 各種免疫群における東風沈降反応 (平均値を示す) 16 血清稀釈411 842 第2図 0 一 一菌 諏↑ 一一 一一死 罪一一清 鋤率一峠 一部 一F 一畔 一 一 争 る補体結合反応 ● 各種免疫群においてWaxを抗原とす 第5図 各種免疫群の結核菌に対する喰菌現象 血清稀釈 ) 4 喰菌率 32 61111 10 ↑ 前 1 2 3 4 5 6 7 8 一 F↑菌 一 一 P一死 一一 一・清 半一一側 週一↓一附 11 過. 経 |︽恋 一隅 Wax+PFWax+豚血清死菌 一 −.‐・・・-→‘・・−o一・一一。■■■−−−■■o−D−今 一 −−経過11数(週)−> ‐-.‐‐----wax−ー一一一一PF 第3表Wax免疫血清の吸収後におけるOT,CF,CFI及びCFII感作血球凝集反応 ●● ●● 一一一一 1111 H十一十 一一一一 一一一一 一一一一 一一一一 一一一一 一一一一 一一一一 ロワー・900■■0■■■U90亘印bIhⅡ■ⅡⅡ!Ⅱi0l0Id■fq■■■■0r■■Id0n940■iⅡⅡⅡ凸■﹃■0■4 一一一一 一一一一 凸︲’’11.11.5 一一一一 61 、1.日ⅡⅡⅡU0Ⅱ171ⅡIⅡlⅡV日■10f6jf1r0■■81■■ⅡⅡⅡⅡⅡ■■019 一一一一 ローI IPIⅡl4ll1dH9Ⅱh︲11.0日10,1●0Ⅱ71111jⅡ1111可401■910 一一一一 一一一一 一一一一 一 31 9 56 1 ×× ×× ん壷Q〆 44 1 1 00 05 ×× 04 111 94 00 ×× ×× 94 24 2 1 ×× 61 5 2 80 1 1 ×× 71 0 1 19×181i) l9×211il 一 一一一一 一一一一 一心一一一 I︲ 一一一一 一一一一 I︲111| 一一一一 00 25×20(i) ︵Un﹀ ×× 19×201il 00 ×× 00 ’ ’1116■l■qDrlbIIIII0■4■8110。 ●● 冊十 一 十 士一一士 00 ×× 00 22×20(i) 恥十畔 18×17(il ︲1 1 ●● 一一一一 11 冊什士州 00 ×× 00 22×261i) ’ ●● lIllIIIl 22×20{i) 死菌 jPIj 一一一 PF 一一一一 + 週 8 ゞ ’ 免疫群動物脈且'免疫前i'週‘ゞI‘ 11 2 34 56 78 9加 1 ●O ● 0 ●O ● 0 ●O ● 0 ●O ● 0●O 今● 0 N N N N N N NN N N Wax 十一士十 感作 PF 一一一一 11 感作 24×25(il | │ , 0 × 1 3 ( i l 1 14×12’ ’15×18 鯛I 15×15{i) ’ 0×0 ’ 10×12 10×11 12×15’ 14×15{il 10×0 ’0×0 ’ 0 × 1 2 ( i ) 1 1 3 × 1 5 1 i )’ − 1 8 × 1 7 1 Ox,0 21×211 1 0×O 士 十 + + CF 冊州 十 冊 吸(」 ●● − − I 困体吸加 − 128 1 1 1 2 1 ; 口山’ ’ 口 ’ 口 ’ ’口 一 ー C I I ▽ Wax 十 十 ’ 1:64 32 1 I 8 1 ’ ’ 言稀湫 ∼、 森 宮 22 第4表各種免疫群におけるツベルクリン反応 (10×OT48時間判定) (註)iは硬結を示す. ’
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