SIG-SWO-035-05 介護現場におけるコト・データベースによる モノ・コト

SIG-SWO-035-05
介護現場におけるコト・データベースによる
モノ・コトづくり支援
A Data Collection and Management framework in Eldery Care Facility
福田賢一郎 1 渡辺健太郎 1 西村拓一 1
Ken Fukuda1, Kentaro Watanabe1, and Takuichi Nishimura1
1
独立行政法人 産業技術総合研究所サービス工学研究センター
Abstract: In this paper, the authors introduce a set of technologies to collect various types of service
process data in elderly care-facilities. The data come from a variety of different sources such as sensor
network, time study data, and text data. To handle the data, the authors propose a database framework,
called COTO database, to manage the collected data with different formats as Linked Data.
はじめに 介護や支援を必要とする人口が,高齢化が進むに
つれ増加し,家族の負担や国家負担が増加している
[1].このためサービス品質を高めながら,同時に業
務効率化と従業員満足度の向上を実現することが急
務となっている.介護施設において職員の業務プロ
セス調査を行った結果,間接業務である記録と情報
共有に関する業務時間が全体の25%を占めているこ
とが分かっている[2].筆者らは,このような背景か
ら申し送り業務の支援システムを構築してきた[3].
介護施設には多種多様な定形・非定形の業務が有
り,また連携する職員も看護,介護など様々な専門
性を持つ.さらに,サービス受益者である顧客(要
介護者やその家族関係者)にも様々な症状,嗜好が
存在し適切な介護方法には多様性がある.
このため筆者らは,サービス品質・業務効率・従
業員満足度の向上を目指して,発生した業務の文脈
や従業員のスキル・考え方,顧客の状況にもとづい
て,現場コミュニティが主体的に業務を評価し改善
していく現場参加型[4]の業務改善を支援する方法
を提案してきた.
本発表では,職員の主観を含むさまざまな業務情
報を記録する方法とその情報を集約するコトデータ
ベースへの取り組みについて報告する.
コト・データベース基盤について データに基づいて現場コミュニティの行動変容を
促し,サービスを改善するためには,収集されたデ
ータを自ら評価分析し,コミュニティ全体で改善策
図 1.コト・デーバベース基盤
を設計する必要がある.そこで,本発表では図 1 に
示すコト・データベース基盤を提案する.サービス
遂行の場に様々なセンサーネットワーク,申し送り
などの情報共有システム,ロボット機器を導入し,
得られる様々な「コト」に関するデータを Linked
Data としてコト・データベースに収集する(図 2).
すなわち,コト・データベースは様々な「コト」デ
ータのウェブとして実現される.振り返りの場に業
務可視化・分析ツール,主観表現ツールなど,振り
返りを支援する各種システム群と現場参加型の開発
を促すワークショップデザインを導入し,必要に応
じてコト・データベースの情報を参照しながら職員
自ら業務の評価分析,改善プロセスのデザインを遂
行する.
コトのデータベース化技術 業務遂行の場におけるコトを収集する技術は,サー
ビス要素の直接的な計測・観察で収集する技術と間
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解を深めることが求められる.例えば,ワークショ
ップ等を通じた職員間の相互理解の醸成[12]はその
ような取り組みの一環である.このようなワークシ
ョップをより手軽に職員間で開催し,また,ワーク
ショップの結果を形式化・知識化し広く職員間で共
有することを支援するために,筆者らは表現ツール
DRAW(Design Rep-resentation for Autonomous
Workspaces)を開発している[10].DRAW はコト・デ
ータベースからワークショップの題材となるデータ
を素材として取り出して議論に活用できる.
コト・データベースの利用 図2. 試作中のコト・データベース
接的な効果を観察する技術に分けられる.前者は職
員の行動計測技術,センサデータ分析,アンケート
などである.後者は,申し送りメッセージなど情報
共有システムのデータやアンケートの分析などによ
り得られる.
直接的な計測データ
直接的な計測データとしては,従業員,顧客の位
置情報などセンサーデータに基づく行動観測データ
と,第 3 者が連続的もしくは間欠的に対象者の行動
を観察するタイムスタディ[6][7]やタイムスタディ
を発展させてサービス品質まで計測可能にした筆者
らによるクオリティスタディ[8]のデータを利用す
ることができる.また,観測対象となる介護施設従
業員の行動分類コード[9]を利用可能である.
職員による業務分析を支援するために,コト・デー
タベースはデータ分析・可視化の機能を備えている.
図 3 は収集したコトを統計的に分析して表示して
いる例である.図 4 は申し送り情報のテキストマイ
ニングによりキーワードの共起ネットワーク表示し
ている例である.このように収集されたコトデータ
の分析結果を定期的に職員に提示しワークショップ
で振り返った結果,すでに,施設利用者および家族
関係者に向けたサービスの向上,介助方法の再検
討・統一,介助方法の意識合わせ,そして業務の効
率化など様々な状況について,データ分析結果を現
場職員が直接把握することによって新プロセスを設
計する事例が出始めている[11].現状は試作段階だ
が, DRAW で作成する振り返りデータによって有
用なデータへのアノテーションを可能にしたいと考
えている.
関節的な計測データ
業務遂行の状況や活動の記録としては,行動とそ
の理由や気持ちを含めた業務の記録と情報共有を支
援 す る シ ス テ ム DANCE (Dynamic Action and
kNowledge assistant for Collaborative sErvice fields)[3]
のデータを利用可能である.DANCE は介護施設に
おいては申し送り支援システムとして利用されてお
り,職員が何を感じ,どのような理由で,どのよう
にしてサービス提供をしたかが生の声として記録さ
れている.
ワークショップ支援ツール
図 3. コト分析例(統計情報) 自律的に業務改善サイクルを回すためには,業務
に対する職員の理解と,異なる職種の職員間への理
05-02
“Participatory Interaction Design for the Healthcare
Service Field”, HCII2013, pp.435-441, 2013.
[5] 西村拓一, 渡辺健太郎, 福田賢一郎, 内平直志, 小早
川真依子, 須永剛司, 山田クリス孝介, 阪本雄一郎,
麻生英樹, 本村陽一, “コト DB に基づく非定型業務
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Vol.2014-ICS-176 No.8, 2014.
[6] Pigage, L. C., Tucker, J. L., “Motion and time study”,
The University of Illinois Bulletin, Vol. 51, No 73, 1954.
図 4. コト分析例(キーワード共起ネットワーク) まとめ 本発表では,介護現場の業務遂行の場において生
成される様々なコトの情報を,従業員主導の業務改
善サイクルに活かすためのデータ基盤,コト・デー
タベースを提案した.現在はDANCE, クオリティス
タディ,DRAWのデータを扱うことが可能となって
いる.将来的には,センサーデータからテキストデ
ータ,ワークショップの振り返りデータまで様々な
意味合いの業務遂行情報を検索可能な形式で「コト」
として蓄積し,業務改善サイクルの中で様々な分析
ツールから利用可能にしく予定である.
[7] 笠原聡子, 石井豊恵, 沼崎穂高, 浦梨枝子, “タイム
スタディとはその背景と特徴”, 看護研究, Vol. 37, No.
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[8] 三輪洋靖, 渡辺健太郎, 長尾知香, 福原知
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05-03
[9] 三輪洋靖, 渡辺健太郎, 福原知宏, 中島正人, 西村拓
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[10]
渡辺健太郎,藤満幸子,原田由美子,山田クリ
ス孝介,須永剛司,小早川真衣子,新野佑樹,阪本
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務経験の表現・共有支援システムの開発”,情報処理
謝辞
学会論文誌,Vol. 56,No. 1,pp. 137-147,2015.
本研究の一部は,経済産業省ロボット介護機器開
発・導入促進事業および科研費(24500676, 25730190)
で実施されました.また,本研究にご協力頂きまし
た介護老人保健施設 和光苑,佐賀大学医学部附属病
院,有料老人ホーム スーパーコートの皆様に御礼申
し上げます.
参考文献
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報), http://www.mhlw.go.jp/topics/kaigo/osirase/jigyo/10/,
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[3] 福原知宏, 中島正人, 三輪洋靖, 濱崎雅弘, 西村拓一:
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Sakamoto,
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Motomura,
Y.:
[11]
福田賢一郎, 濱崎雅弘, 福原知宏, 藤井亮嗣,
堀田美晴, 西村拓一, "介護現場における申し送り情
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114, no. 211, NLC2014-20, pp.11-16, 2014.