PDFファイル - ドラッグストア研究会

「ネットの攻勢に対するリアル店舗の戦略」
Excell-K
(株)ドムス・インターナショナル
代表 松村 清
1916 年にピグリー・ウィグリーというグローサリーストアはそれまでの小売業の対面販売に代わ
るセルフサービス販売方式を導入した。その後多くの小売業が豊富な品揃えと低価格を実現して成
長したが、対面販売は衰退していった。現在の主要業態スーパーマーケット、スーパーセンター、
ホームセンター、ホールセールクラブ、ドラッグストア及び各種カテゴリーキラーの成長は、この
セルフサービス販売方式に負うところが大きい。そして今 100 年振りに、それ以来の大変化が米国
の小売業で起きている。それはネット販売に牽引された無店舗販売の成長で、現在米国の小売業総
売上げの 10%を占めるようになった。
無店舗販売の中でもネット市場の成長は著しく、2000 年に小売業に占めるシェアは 1%であっ
たが、現在は 6%近くを占めるようになっている。2013 年の第一&第二 4 半期を見てみると、
小売業トータルの成長は 3.9 及び 4.7%だが、ネット市場はその 4 倍近い 16.4 及び 18.4%の成長
をしている。
【トータル小売業と E コマース】
2013 年第 2 四半期
2013 年第 1 四半期
2012 年第 4 四半期
2012 年第 3 四半期
2012 年第 2 四半期
2012 年第 1 四半期
小売トータル
売上高
(億ドル)
11262
11165
11068
10919
10770
10801
E コマース
売上高
(億ドル)
648
617
595
570
549
531
小売に占める
E コマース
シェア(%)
5.8
5.5
5.4
5.2
5.1
4.9
小売
売上前年比
(%)
4.7
3.9
4.0
4.6
4.3
6.2
E コマース
売上前年比
(%)
18.4
16.4
15.6
17.4
15.5
15.3
資料:US Census
そしてネット販売の代表格であるアマゾンは、
米国小売業ランキングで 2011 年は 10 位になり、
2012 年は 8 位に躍進した。
【米国小売企業売上高ランキング 2012】
順位
企業名
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
ウォルマート
CVS ケアマーク
コストコ
クローガー
ホームデポ
ターゲット
ウォルグリーン
アマゾン
ロウズ
ベストバイ
売上高
金額
前年比(%)
469,152
5.0
123,133
15.0
99,137
11.5
96,751
7.1
74,754
6.2
73,301
4.9
71,633
▲0.8
61,093
27.1
50,521
0.6
45,085
11.1
純利益(税引後)
金額
前年比(%)
16,999
8.3
3,877
12.3
1,709
16.9
1,497
148.7
4,535
16.8
2,999
2.4
2,127
▲21.6
nc
▲39
1,959
6.5
nc
▲441
無店舗販売の今後はネットに負うところが大だが、下記の表を見ても分かるように非常に明るい
ものがある。
米国小売業の成長性は、2010 年~2015 年は年率平均 4.3%、2015 年~2020 年は 4.7%
だが、無店舗販売はそれぞれ 14.7%&11.7%で、小売業全体より大幅な成長が予測されている。
【米国業態成長予測】
業態
アパレル
ホールセールクラブ
専門店
コンビニエンスストア
百貨店
ディスカウントストア
ドラッグストア
スーパーセンター
量販店
無店舗販売
スーパーマーケット
合計
2010~2015 年
4.4%
6.3
3.4
4.0
0.5
7.9
3.8
3.4
▲1.4
14.7
3.8
4.3
2015 年~2020 年
5.1%
5.9
3.7
4.0
1.6
7.4
4.1
3.1
▲0.5
11.7
4.2
4.7
資料:Kantar Retail Analysis 2012
ネット販売は店舗をショールームとして活用し、実際の購入はアマゾンなどのネットショップで
行う「ショールーミング」という消費者購買行動を常態化した。それにより米国では家電、書籍、
CD、玩具、スポーツ用品、アパレル、オフィス用品などの小売業態にネガティブインパクトを
与えた。実際に書籍店や CD ショップの多くが街から消え、家電チェーンも不振で大型店舗を閉
鎖している。最近「大型店の死(Death of Big Box)
」という言葉を米国の新聞や雑誌で目にす
る。これまでウォルマートに代表されるスーパーセンターやカテゴリーキラーは、圧倒的な品揃
え数によるワンストップショッピング機能と、ローコストオペレーションによるエブリデーロー
プライスを実現して消費者から支持されてきた。しかしネットの無限の品揃えと、店舗を持たな
いことによる低販売経費が可能にするロープライスは、今までの小売業の勝ち組に暗雲を与えて
いる。
こうした状況下、小売業は自分たちの城(キャッスル)を守ろうという意味も込めて、「CASTLE
戦略」をとっている。この戦略の基本には「ネットは価格競争、店舗は CS(顧客満足)競争」
という考え方があり、顧客満足に再度力を入れ、ネットの不得意とする分野を攻勢しようとする
やり方だ。
「C」= Convenience
「A」= Assortment
「S」= Specialty
「T」= Treatment
「L」= Loyalist
「E」= Excitement
CASTLE 戦略
ネットに無い便利性
品揃え
専門性
顧客サービス
ロイヤルカスタマー創り
エキサイトメントな売り場
それでは「CASTLE 戦略」の個々の戦略について説明しよう。
1) 「C」= Convenience(便利性) ··································· 「より便利な買い物機能の提供」
a) 小商圏&ショートタイムショッピング機能の提供
ネットには便利なようで不便な点もある。注文してから商品を手に入れるまで 1 日以上時
間がかかることだ。そこで、商圏や店舗の小型化/待たせないレジ/配達サービスによる
便利さ等の提供により、ネットの不便さを攻撃する戦略だ。例えば世界一の小売業である
ウォルマートは、300~400 坪程度のスーパーマーケット「ウォルマートエキスプレス」を
テスト的に展開している。またネットに対抗して 365 日 24 時間営業店も増加している。
b) 頻度の多い来店目的の提供
小商圏ビジネスの場合は特定客の来店頻度をアップする必要がある。そのためにラインロ
ビングにより来店目的を多くしている。例えば、多くの業態が食品の取扱い及びイートイ
ン機能、レンタルビデオ、クリーニング、来店ポイントや来店特典の提供、銀行や郵便局
機能の設置をしている。米国 No.1 のドラッグストアウォルグリーンでは、店舗コンセプト
を HBC(ヘルス&ビューティーケア)から HDL(ヘルス&デイリーリビング)に変換さ
せ、食品特にファストフートや惣菜に力を入れている。顧客の来店頻度を高めるのに一番
効果的なのは食品だからだ。絶好調のスーパーマーケット・トレーダージョーでは、店内
の奥の新製品紹介カウンターで、コーヒーの無料サービスをしている。コーヒーを飲みに
立ち寄り、ついでに食料品を購入する客も多くいる。
c) マルチ/オムニチャネルリテーラーへ移行
今まで通りに店舗を運営しながら、自分たちのサイトを立ち上げてネット販売するという
マルチチャネル形式からさらに一歩進んで「オムニ(店舗・ネット・モバイル・SNS 総合
活用型)チャネル」リテーラーに転換している。かつてのマルチチャネル形式では、ネッ
トとリアル店舗と別々の運営で、消費者にとって使い勝手が悪かった。しかしオムニチャ
ネルは総括的なチャネル形式なので、消費者は店頭でネット商品のサンプルのチェックや
説明、ネット購入商品の店舗での受け取りや返品、店舗購入商品のネットでの注文など、
消費者が一番便利な方法で両方の機能の活用が出来る。またネットで注文した後 1 時間程
度で店舗で受け取れるウェブピックアップ機能の提供は店舗を持つが故の強みだ。
2) 「A」= Assortment(品揃え) ·················································································
「見て、触って、感じて(STF:See, Touch, Feel)買える商品の提供」
a) フレッシュな商品/惣菜/ファッション品の強化
人によっては自分の目で実物を見てから買いたい商品がある。例えば刺身、肉、果物、惣
菜、生花、ファッション品等はその典型だろう。そのように、見て購入したい傾向の強い
商品の充実を図っている。
b) ネットの欠点である組み合わせ販売の強化
ネットは単品を購入するには便利であるが、組み合わせ販売は不得意だ。例えば風邪のシ
ーズンに風邪薬を購入するには便利だが、風邪を一分一秒早く治すためには、うがい液、
栄養剤、ビタミン C、マスク等も必要だ。店舗は単品売りで勝負するのでなく、顧客の問
題を解決する「ソリューション提案と陳列」が重要だ。
c) 価格比較されない商品の強化
アマゾンは常に小売店頭価格を下回るか同じ価格を提供している。小売店がアマゾンを下
回る価格を出せば、彼らはそれに合わせてくる。際限のない価格競争だ。そこで小売業は
アマゾンに価格比較されない価格戦略をとっている。まず PB 商品や専売商品の強化だ。ま
た「マイプライス」というプログラムも実験しており、顧客のロイヤリティ度に応じて顧
客に店頭価格とは別に特別価格を提供している。特別価格の「マイプライス」が、店内に
いる顧客のスマホに直接送られてくるのでアマゾンも追いかけようがない。
3) 「S」= Specialty(専門性) ····························································· 「専門性の強化」
a) カウンセリングの強化
ネットでのカウンセリングは、顔を見ながらのワン・ツー・ワンカウンセリングにはかな
わない。言葉だけで充分なコミュニケーションをする難しさがあるからだ。店舗の専門家
のカウンセリングを受けたい人は、店に来てくれる。
b) 消費者啓蒙の強化
健康作り/身体や環境に優しい食材の選び方/美味しい料理の作り方など、店内での啓蒙
活動やプログラムを実施する。それを学ぶための来店を促し、店舗に対する信頼を高める。
c) ヘルス/ビューティー/ファッションのワンストップショッピング機能の提供
店内にクリニック/コスメティシャン/スタイリスト/栄養士/コック等プロを配置し、
物販及び専門サービスを提供する。ネットは商品を販売することが出来ても、サービス機
能を提供することが出来ない。そこで小売業はサービス機能をネットの差別化の道具とし
て活用している。例えばドラッグストアでは、クリニックの店内への導入、メーキャップ、
マニキュア、ヘアセット、マッサージ等の機能を提供している。
4) 「T」= Treatment(カスタマーサービス) ······················· 「気分の良い接客・サービス」
a) フレンドリー接客
「価格は一日、品揃えは三日で真似できるがサービスは一生真似できない」という言葉があ
る。ネットは無機質だ。一方店舗には従業員という人間が従事している。気に入った従業
員がいるから店に来る顧客がいるが、高齢社会ではますます増加している。その従業員と
ちょっとした会話をするのが楽しみな顧客がいるから、スマイル/挨拶/お客の名前で呼
べる接客/柔軟な対応/心からの感謝/プラスワンのケア等の提供を徹底している。
b) 満足保証の提供
ネットでは購入した商品が気に入らなければ返品が比較的やり易い。リアル店舗も満足保
証をしており、返品のし易さを強化しており、満足しなければ使用後でも返品 OK をして
いる。スーパーマーケット・ラルフスでは、果物がおいしくなければいつでも返品 OK、生
花も購入後一週間以内にしおれた場合はお金を返却する満足保証をしている。お客に後悔
させるような買い物をさせたのではネットに流れてしまうからだ。
c) お取り寄せの強化
リアル店舗の品揃えは、ドラッグストアで 2 万アイテム、スーパーマーケットで 3 万 5 千
アイテム程度だ。一方ネットはロングテールの商品をも大事にするために、莫大な品揃え
数だ。ウォルマートのスーパーセンターの約 20 万アイテムの品揃えでも比較にならない程
の多さだ。リアル店舗でお客の求める物を全て品揃えすることは、店舗サイズに限りがあ
るため不可能だ。しかし品揃えされていない商品に要望があった場合「ありません」とい
ったのではネットに顧客を追いやることになる。そのため現在では「客注(品揃えされて
いない商品の取り寄せサービス)
」を強化している。
5) 「L」= Loyalist······························································· 「ロイヤルカスタマー創り」
値段だけを買い物の絶対条件としない顧客をロイヤルカスタマーにすることを再度強化
a) ロイヤリティカードの一歩進んだ活用
メンバー対象セールや貯めたポイントによる特典などの今までのやり方から、顧客情報か
らの商品開発/レイアウト/陳列/販促に活用をしている。
b) マインドシェアの向上
顧客別に最適な情報を常時メールで提供することにより、お客の頭の中に自店を強く刷り
込んでもらえるマインドシェア戦略を高めている。そのために顧客のスマホにはお買い得
情報など各種を頻度多く流している。また企業の信頼構築のために積極的な企業広告をし
て、コーポレートブランドの確立つまりブランディングを強力に進めている。
6) 「E」= Enjoyment ································································ 「楽しい買い物の提供」
a) エキサイティングな売り場
お客は単に買い物のためだけでなく、気分転換や楽しみのためにも店に来ている。だから、
......
ネットの無機質さに対抗して、わくわくする売り場の提供(試食・試飲・試着など体験コ
ーナーの充実)を実施している。
b) コミュニティーの集まりの場
買い物だけでなく、コミュニティーが集まれるような教室/催し/パーティー/食生活改
善/節税などの各種相談会の実施をしている。スーパーマーケットホールフーズでは、店
舗をコミュニティーの集合の場にしており、地域の行事などの情報、お客同士の情報交換、
料理未経験者や子供への料理教室、子供のバースデーパーティー、女性だけのワインパー
ティー、ファッションショー等を行っている。
c) ミックス&マッチ/エシカル販促
販促のスタイルも一個単位のディスカウントが減少している。それはアマゾンと直接価格
比較されるからだ。そこで登場したのが「3 個目無料」
「2 個目 50%引き」
「4 個購入すると
6 ドル引き」などバンドル系の価格販促が増加。また「ワインとステーキ肉で 5 ドル引き」
のようなペアリング販促も増加している。又エシカルつまり社会貢献型販促が増加してい
る。買い物を通して社会貢献したいと考えるお客の気持ちを汲んだ販促で、
「ピンクリボン」
「恵まれない子供に 5 百万食の提供」など多く組まれている。
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