凍害危険度 4~5 地域の山間部における橋台の凍害

凍害危険度 4~5 地域の山間部における橋台の凍害調査
論文
遠藤
裕丈 *1,
田畑
浩太郎 *1,
浩二 *2,
川村
葛西
隆廣 *3
The Frost Damage Investigation of Abutment on
Degrees of Frost Damage Risk in 4-5 Areas
Hirotake ENDOH*1, Kohtaroh TABATA *1, Kohji KAWAMURA*2 and Takahiro KASAI *3
要旨:二種類以上の凍害形態(本研究ではスケーリングとひび割れを対象)が複合した場
合の耐久性能の評価法の確立に向け,その一環として構造物の凍害の進行性の把握を目的
に凍害危険度 4~5 の山間部の道路橋の橋台にて調査を行った.スケーリングの進行性は凍
害危険度より凍結防止剤散布の影響が卓越する等の知見を得た.さらに既研究に基づく簡
易なモデルを利用して,調査で取得した実測値をもとに試行的に凍害の進行予測を試みた.
キーワード:凍害,凍害危険度,橋台,スケーリング,ひび割れ,予測
1.はじめに
②
③
コンクリート構造物の損傷の進行や老朽化に
○の数値は凍害危険度
伴う維持更新費の増加により,新たな構造物へ
の投資余力は減少傾向にある.このため,構造
④
物の機能増進,長寿命化を合理的に図るための
⑤
設計法の整備が求められる.とりわけ寒冷地で
②
は,凍害が発生した場合の耐久性等の機能を適
切に評価する技術が必要となる.
③
路線3
①
路線1
②
③
④
① 路線2
凍害の予想程度
①
②
③
④
⑤
ごく軽微
軽微
やや大きい
大きい
極めて大きい
②
現在,耐久性照査で行われる凍害の評価は単
一の凍害形態(ひび割れ)の進行を前提として
いる
1)
図-1
凍害危険度マップ(北海道) 2)と調査路線
.しかし,現実的にはスケーリングとひ
び割れの複合など二種類以上の形態が同時に進
の耐久性能の評価法の確立に向け,その一環と
行するケースが殆どであり,単一形態の照査で
して構造物の凍害の進行性を定量的に把握する
は実態に即した構造物の寿命に影響する耐久性
ことを目的に,本研究では凍害危険度 4~5 の山
等の機能やライフサイクルコストを適切に評価
間部の道路橋の橋台を対象に剥離度およびコア
することができない.また,凍害の形態や進行
採取による相対動弾性係数の測定を行った.
性は地域によっても異なるため,合理化な設計
法を確立するには地域性も考慮する必要がある. 2.調査概要
そこで,二種類以上の凍害形態(本研究ではス
ケーリングとひび割れを対象)が複合した場合
2.1
調査箇所
図-1 に凍害危険度マップと調査路線,表-1
*1
独立行政法人土木研究所
寒地土木研究所
耐寒材料チーム
研究員
*2
独立行政法人土木研究所
寒地土木研究所
寒地技術推進室
研究員
*3
独立行政法人土木研究所
寒地土木研究所
寒地技術推進室
道北支所
研究員
2
3
5
凍結
防止剤
散布量 ※
1
圧縮強度
剥離度
剥離
発生
基本的に
剥離なし
表面
1cm
1
凍害
危険度
21cm
路線
経過
年数
36
45
53
45
55
48
39
27
28
42
39
30
24
17
6cm
調査箇所
架設
橋名
年次
1-1
1976
1-2
1967
1-3
1959
1-4
1967
1-5
1957
1-6
1964
2-1
1973
2-2
1985
2-3
1984
2-4
1970
2-5
1973
2-6
1982
3-1
1988
3-2
1995
外見上健全な箇所
凍害発生箇所
12
4
動弾性係数Edn
(1cm間隔)
30~35cm
調査した道路橋の諸元
剥離面から
表-1
および
動弾性係数Ed0
3
※2003 年度の値.路線 1 の散布量を 1 として比で表示.
採取コア
動弾性係数Ed0
(最深位置)
※コアの直径は
いずれも10cm
図-2
写真-1
調査項目
外観調査の状況(道路橋の橋台)
に調査した道路橋の諸元を示す.凍害危険度は
長谷川
2)
が最低気温や凍結融解日数などの気象
データを基に凍害の発生の危険性を地域ごとに
グレード分けしたものである.調査部位は橋台
とした.調査は著者ら 3)が過年度に外観調査(写
写真-2
コア採取の状況
真-1)を行った凍害危険度 5 地域の路線 1 に架
かる 34 橋と凍害危険度 4 地域の路線 2 に架かる
の圧縮強度の測定と,凍害の程度を把握するた
25 橋から外見上,凍害による損傷が大きかった
めの剥離度ならびに相対動弾性係数の測定を行
橋を 6 橋ずつ計 12 橋選定し,これに凍害危険度
った.図-2 に調査項目,写真-2 に現場でのコア
4 地域の路線 3 に架かる 2 橋を加えた計 14 橋で
採取の状況を示す.以下に調査手順の詳細につ
行った.橋は山間部に位置している.2003 年度
いて述べる.
における路線全線の凍結防止剤散布量は,路線
(1)
1 を 1 で表すと路線 2 は 12,路線 3 は 3 である.
2.2
調査内容
現場ではコンクリートの物性を把握するため
圧縮強度(コンクリートの物性の把握)
調査に先立ち,橋台のコンクリートの物性の
把握を行った.ここでは,外見上健全な箇所か
らφ10×30~35cm のコアを採取し,表面から深
枠(50×50cm)
平均約24MPa
30
(スケーリングの程度が
大きい箇所に据え付け)
20
剥離面積
S(cm2)
平面
圧縮強度(MPa)
40
10
(スケーリング発生箇所)
0
1-1 1-2 1-3 1-4 1-5 1-6 2-1 2-2 2-3 2-4 2-5 2-6 3-1 3-2
橋名
橋台の圧縮強度
さ 0~1cm と深さ 21cm 以降をコンクリートカッ
平均剥離深さ
D(mm)
断面
図-3
(10箇所の平均)
ターで切り落としてφ10×20cm 寸法の試料を
図-4
作製し,圧縮強度の測定を行った.図-3 は測定
剥離度の測定要領
結果を示している.調査対象に選定した橋台の
圧縮強度の平均は約 24MPa であった.多少のば
E dn  4.0387V n 2  14.438V n  20.708
らつきはあるものの,顕著な差はさほど見受け
RE d 
られなかった.
(2)
E dn
 100
Ed 0
(2)
ここに,Edn は凍結融解を n 年受けた時の動弾
剥離度(スケーリングの評価)
室内実験では一般的に剥離片を採取し,その
性係数(GPa),Vn は凍結融解を n 年受けた時の
質量(スケーリング量)を調べることで評価を
超音波伝播速度(km/s),REd は凍結融解を n 年受
行うが,構造物においては不可能である.この
けた時の相対動弾性係数(%),Ed0 は供用開始直
4)
ため式(1)に示す剥離度 により評価を行うこと
後の動弾性係数もしくは供用開始直後の測定値
とした.
がない場合は供用中のコンクリート構造物にお
D m  D  As  D 
S
50 50
(1)
いて健全とみなせる箇所の動弾性係数(GPa)で
ある.
ここに,Dm は剥離度(mm),D は平均剥離深
緒方らは,動弾性係数が 7.0~41.5GPa の範囲
さ(mm),As は剥離面積率,S は 50×50cm の枠
のデータの解析結果をもとに式(2)を導いてい
2
内における剥離面積(cm )である.
る
5)
.今回調査対象に選定した道路橋の橋台か
図-4 に剥離度の測定要領を示す.はじめに調
ら採取したコア試料の動弾性係数は 13~35GPa
査箇所に 50×50cm の枠を据え付け,剥離深さ
の範囲にあった.このため,式(2)はこの調査の
を枠内で 10 点測定し,その平均(D)を求めた.
適用範囲に含まれると判断し,今回の調査では
次に,枠内のコンクリート面をデジタルカメラ
式(2)を用いて相対動弾性係数の分布を調べる
で撮影し,画像解析により剥離面積(S)を求め,
こととした.剥離度を測定した箇所の近傍から
これを枠の面積で除して剥離面積率(As )を求
φ10×6cm のコアを採取し,コアを挟み込む形
めた.そして,両者の積から剥離度を求めた.
でコアの両側面に超音波測定器(周波数 28kHz)
(3)
の発・受振子をあてて,剥離面から深さ 1,2,
相対動弾性係数(ひび割れの評価)
この調査では,剥離面から深さ 0~5cm の範
…,6cm の超音波伝播時間を測定し,その結果
囲における相対動弾性係数の分布について調べ
を式(2)に代入して各深さの相対動弾性係数を
た.
求めた.
緒方らは,超音波伝播速度から相対動弾性係
5)
数を求める式(2) を提案している.
なお,Ed0 については,供用開始直後の動弾性
係数が不明である理由から,式(2)の定義に従っ
ASTM C 672 による目視評価
平均約28GPa
点数
30
20
10
0
1-1 1-2 1-3 1-4 1-5 1-6 2-1 2-2 2-3 2-4 2-5 2-6 3-1 3-2
橋名
図-5
橋台の Ed0
路線1
35
30
剥離度(mm)
剥離なし
1
深さ 3mm 以下の剥離(粗骨材の露出なし)
2
評価 1 と評価 3 の中間程度の剥離
3
粗骨材がいくつか露出する程度の剥離
4
評価 3 と評価 5 の中間程度の剥離
5
粗骨材が全面露出する程の激しい剥離
路線2の
最小値(2-5橋)
25
20
15
10
5
0
0
路線3
路線2
a橋
c橋
b橋
d橋
e橋
f橋
A橋
B橋
C橋
D橋
E橋
F橋
a橋
b橋
36年
45年
1-1 1-2 1-3 1-4 1-5 1-6 2-1 2-2 2-3 2-4 2-5 2-6 3-1 3-2
36年
45年
53年
45年
55年
48年
39年
27年
28年
42年
39年
30年
供用
供用
供用
供用
供用
供用
供用
供用
供用
供用
供用
供用
供用
供用
(36年)(45年)(53年)(45年)(55年)(48年) (39年)(27年)(28年)(42年)(39年)(30年) (24年) (17年)
5
4
3
2
路線3
1
0
0
橋名および架設後の経過年数
図-6
6)
コンクリート表面の状況
ASTM C 672による目視評価点
動弾性係数Ed0(GPa)
40
10
20
30
剥離度(mm)
剥離度の測定結果
図-7
剥離度と ASTM C 672 の目視評価の関係
て供用中のコンクリート構造物において健全と
みなせる箇所の値をあてることとした.ここで
調査した橋は,路線に架かる橋のうち,外見上,
は,同じ橋台の中で外見上健全な箇所から採取
凍害による損傷が大きい橋の中から選定してい
したφ10×30~35cm のコアの最深部の動弾性
ることから,路線 1 の道路橋の橋台の剥離度は
係数と,凍害発生箇所から採取したφ10×6cm
全体的に 5mm 未満と推察される.今回の調査
のコアの深さ 1,2,…,6cm の動弾性係数の中
の範囲では,スケーリングの進行性は凍害危険
で最も大きい値を Ed0 とすることとした.
度より凍結防止剤散布の影響が卓越する傾向が
図-5 に各橋台の Ed0 を示す.多少ばらつきは
示された.一方,路線 3 の橋台は路線 1,2 に比
あるものの,今回調査対象とした橋台の Ed0 は
べると供用年数は若いものの,剥離度は全体的
約 28GPa であることを確認した.
に大きかった.図-7 に今回の調査で得たデータ
の範囲で整理した剥離度と ASTM C 672 による
6)
との関係を示す.路線 1 と路線 2
3.調査結果・考察
目視評価点
3.1
については概ね規則性がみられたものの,路線
剥離度
図-6 に剥離度の測定結果を示す.調査路線の
3 のデータはこれから逸脱する形でプロットさ
中で凍結防止剤の散布量が最も多い路線 2 の道
れた.写真-3 は路線 3 の橋台の外観を示してい
路橋の橋台の剥離度の最小値は 2-5 橋の約 5mm
る.表面には健全なペーストが広く残存してい
で,今回調査した路線 2 の橋台の剥離度は 5mm
たものの,ポップアウトが多く確認された.供
以上であることが確認された.一方,路線 2 よ
用年数が比較的若い路線 3 の橋台は,全面的に
りも凍害危険度が 1 ランク大きく,凍結防止剤
激しいスケーリングは見受けられなかったもの
の散布量が少ない路線 1 は,6 橋のうち 2 橋が
の,ポップアウトが顕著に発生していたために,
5mm 以上で残りの 4 橋は 5mm 未満であった.
剥離度が大きい一方で,目視評価点が小さい領
3-2 橋
回帰線は( )のデータを除外して引いている
100
剥離面から深さ1cmの
相対動弾性係数(%)
3-1 橋
写真-3
90
( )
80
70
60
50
路線1
路線2
路線3
( )
40
路線 3 の道路橋の橋台の外観
0
10
20
30
40
剥離度(mm)
平均欠損範囲
平均剥離深さ
100
路線1
図-9
相対動弾性係数(%)
80
60
40
100
1-1
1-2
1-3
(36年)
(45年)
(53年)
がプロットされているグラフもあるが,これは
コンクリートが部分的に残存しており,測定が
80
可能であったため,測定したものである.相対
60
40
0
2
4
1-4
1-5
1-6
(45年)
(55年)
(48年)
6 8 0 2 4 6 8 0 2 4
建設当初の表面からの深さ(cm)
平均欠損範囲
平均剥離深さ
100
6
動弾性係数は,2-3 橋,2-6 橋を除くと,表面側
8
ほど小さい結果が概ね示されており,凍害は先
ず表面側で発生し,その後,凍害が内部へ進展
路線2
している傾向が見て取れる.2-3 橋,2-6 橋につ
いては,コンクリート内部に欠陥が存在してい
80
相対動弾性係数(%)
剥離度と剥離面直下(剥離面から深さ
1cm)の相対動弾性係数との関係
60
40
100
2-1
2-2
2-3
(39年)
(27年)
(28年)
る可能性も疑われるものの,内部の相対動弾性
係数が小さかった理由については不明で,原因
の特定には至らなかった.今回調査した橋台に
80
60
40
0
2
4
2-4
2-5
2-6
(42年)
(39年)
(30年)
6 8 0 2 4 6 8 0 2 4
建設当初の表面からの深さ(cm)
6
おける平均剥離深さ以降の相対動弾性係数は,
いずれも一般的な耐凍害性の下限とされる
8
60%1)を概ね上回っていた.
相対動
弾性係数(%)
図-9 は剥離度と剥離面直下(剥離面から深さ
平均欠損範囲
平均剥離深さ
100
図-8
路線3
のである.路線毎にみると,ばらつきはあるも
80
60
40
1cm)の相対動弾性係数との関係を整理したも
0
3-1
3-2
(24年)
(17年)
2 4 6 8 0 2 4 6 8
建設当初の表面からの深さ(cm)
相対動弾性係数の測定結果
のの,剥離面直下の相対動弾性係数は,剥離度
が小さい橋台ほどやや小さい傾向が見受けられ,
スケーリングの程度と剥離面直下の相対動弾性
係数の低下度合は必ずしも対応しないことが確
認された.これと同じ傾向は既往の調査
域にデータがプロットされたと言える.
3.2
相対動弾性係数
7)
でも
示されている.
剥離度が極めて小さいもしくはゼロの橋台の
図-8 に相対動弾性係数の測定結果を示す.図
剥離面は,供用初期段階から早期に露出してい
には剥離度を求める際に調べた平均剥離深さも
る面である.これに対して,剥離度が大きい橋
あわせて示した.なお,平均欠損範囲にデータ
台の剥離面は,スケーリングの進展に起因し,
30
調査
実施時
剥離度が
小さい剥離面
コンク
リート
1-1橋予測
1-2橋予測
1-3橋予測
1-4橋予測
1-5橋予測
1-6橋予測
1-1橋実測
1-2橋実測
1-3橋実測
1-4橋実測
1-5橋実測
1-6橋実測
※破線は将来予測
25
剥離度(mm)
建設当初
20
15
10
5
凍結融解
履歴
0
スケーリング
剥離度が
大きい剥離面
相対動弾性係数(%)
100
調査実施時点において
露出している剥離面が
厳しい外気に直接
曝されている期間
建設当初の
表面から深さ1cm
80
60
40
※破線は将来予測
(コンクリートが残存
していると仮定した場合)
※1-4橋、1-5橋は試料
欠損のためデータなし
20
0
0
調査実施時点において
露出している剥離面が厳しい
外気に直接曝されている期間
図-10
剥離度が異なる剥離面が外気に
直接曝されている期間(イメージ)
1-1橋予測
1-2橋予測
1-3橋予測
1-6橋予測
1-1橋実測
1-2橋実測
1-3橋実測
1-6橋実測
図-11
20
40
供用年数
60
路線 1 の道路橋の橋台における
剥離度および相対動弾性係数の予測
(相対動弾性係数は建設当初の表面
から深さ 1cm の結果を代表して掲載)
供用開始からある程度の年月が経過した後に露
易なモデルを利用してスケーリングは式(3)8),
出した面であり,供用初期段階は露出しておら
相対動弾性係数は式(4) 9)による評価を試みた.
ず,剥離面が厳しい外気に直接曝される期間は
前者に比べると一般的に短いと言える(図-10
にイメージを示す).各路線において,剥離度が
小さいほど剥離面直下の相対動弾性係数が小さ
D m=ae
b log
t
A
REd=100ect
(3)
d
(4)
い傾向が示された要因の一つとして,経過年数
ここに Dm は剥離度(mm),REd は相対動弾性
にずれはあるものの,剥離面が外気に直接曝さ
係数(%),t は凍結融解履歴,A は t を無次元化
れる期間の違いが影響しているように考えられ
させるための係数,a,b,c,d は条件によって
る.
定まる係数である.
3.3
凍害の進行予測の試み(路線 1)
ここで,凍結防止剤の散布量が少なく,建設
当初から現在までの間,環境が大きく変動して
ここでは,供用年数をtにあてることとし,A
については路線1に架かる34橋の道路橋の供用
年数のおおよその中間値をとって30とした.
いないと思われる路線1の橋台を対象に,現場で
図-11に剥離度および相対動弾性係数の予測
取得した実測値をもとに凍害の進行予測を試み
の結果(ここでは代表して,建設当初の表面か
た.
ら深さ1cmにおける予測の結果を掲載)を示す.
現在のコンクリート標準示方書には凍害の進
一つの実測値をもとに試行的に行った予測では
行予測式が示されていないが,幾つかのモデル
あるものの,凍害の推移を容易に理解できる劣
が提案されている.ここでは既研究に基づく簡
化曲線を得ることができた.今回の調査の範囲
15
3.0
9
6
平均
最小値
2.0
ただし、A=30年
1.5
3
図-12
できた.A=30とした場合の路線1の橋台におけ
る剥離度の予測式の係数の平均はaが4.54,bが
1.76であった.相対動弾性係数の予測式の係数
(深さ1~5cmの範囲)は,cが0.001~0.003で,
cは表面からの距離が長くなるにつれて小さく
1.0
0
配合設計・施工指針に準じて路線1に建設された
橋台の凍害の進行予測式の諸係数を得ることが
2.5
係数b
係数a
12
最大値
剥離度の予測式の係数 a,b
(路線 1 の道路橋の橋台)
なる傾向が示された.dは1.2程度で,cとは対照
的に,深さによらず概ね一定の値が示された.
今後はさらに,係数 a,b,c,d と環境および
0.008
コンクリートの品質との関係の詳細な整理,ま
係数c
最大値
0.006
平均
最小値
0.004
た,塩化物イオンの供給環境がスパイクタイヤ
の使用が規制されて以降,大きく変化した路線
2 や 3 においても凍害の進行予測ならびに係数 a,
b,c,d の把握を行い,最終的には成果を耐久
0.002
性照査技術へフィードバックさせる予定である.
0
4.まとめ
1.5
二種類以上の凍害形態(スケーリングとひび
係数d
1.4
割れを対象)が複合した場合の耐久性能の評価
1.3
法の確立に向け,その一環として構造物の凍害
1.2
の進行性を定量的に把握することを目的に,凍
1.1
害危険度 4~5 の山間部の道路橋の橋台を対象
に剥離度およびコア採取による相対動弾性係数
深さ5cm
深さ4cm
深さ3cm
深さ2cm
深さ1cm
1.0
建設当初の表面からの深さ
図-13
相対動弾性係数の予測式の係数 c,d
(路線 1 の道路橋の橋台)
の測定を行った.
今回の調査で得たデータの範囲で知見を整理
すると,以下のようになる.
(1) スケーリングの進行性は凍害危険度より凍
結防止剤散布の影響が卓越する傾向にあった.
(2) 相対動弾性係数は全体的に概ね 60%以上で
では,路線1における供用50年後の橋台の剥離度
あった.また,ばらつきはあるものの,剥離面
は6橋中2橋が10~20mm,残りの4橋は5mm以下
直下の相対動弾性係数は,剥離度が小さい橋台
の値を示すこと,一方,深さ1cmにおける相対
ほどやや小さい傾向が見受けられた.
動弾性係数は,6橋中3橋が60%以下もしくは欠
(3) 既研究に基づく簡易なモデルを利用して,
損,残りの3橋はコンクリートが残存すると仮定
凍結防止剤の散布が小さい路線の道路橋の橋台
した場合,80%以上の値を示す予測結果が示さ
を対象に剥離度ならびに相対動弾性係数の進行
れた.
予測を試み,一例ではあるものの,予測式を構
図-12および図-13に今回調査した道路橋の橋
台における式(3),式(4)の係数a,b,c,dを示す.
データは少ないものの,既往のコンクリートの
成する係数を把握した.
謝辞
書,2000.3
今回の調査の実施にあたって,北海道開発局
5) 緒方英彦,服部九二雄,高田龍一,野中資博:
札幌開発建設部,旭川開発建設部,室蘭開発建
超音波法によるコンクリートの耐凍結融解特性
設部,網走開発建設部から調査フィールドを提
の評価,コンクリート工学年次論文集,Vol.24,
供していただきました.ここに記して謝意を表
No.1,pp.1563-1568,2002.6
します.
6) American Society for Testing and Materials :
Standard Test Method for Scaling Resistance of
参考文献
Concrete Surfaces Exposed to Deicing Chemicals
1)土木学会:2007 年制定コンクリート標準示
(ASTM C 672)
方書「設計編」,p.123,2008.3
7) 遠藤裕丈,田口史雄,嶋田久俊,星俊彦,太
2) 長谷川寿夫:コンクリートの凍害危険度算出
田利隆,佐伯昇,名和豊春:10 数年および約 40
と水セメント比限界値の提案,セメント技術年
年経過した北海道の港湾コンクリート構造物の
報,XXIX,pp.248-253,1975.
スケーリング進行性評価,土木学会論文集 E,
3) 田畑浩太郎,遠藤裕丈:寒冷地山間コンクリ
Vol.64,No.3,pp.484-499,2008.9
ート構造物のスケーリングとひび割れが複合し
8) 遠藤裕丈:凍結融解と塩化物の複合作用によ
た凍害の調査,第 55 回(平成 23 年度)北海道
るスケーリングに対する耐久性設計法に関する
開発技術研究発表会,2012.2
研究,北海道大学博士学位論文,p.138,2011.3
4) 北海道開発局 港湾部 港湾建設課,社団法人
9) 野口博章:凍結融解作用を受けるコンクリー
寒地港湾技術研究センター:海洋環境下におけ
トの劣化予測に関する基礎的研究,法政大学博
るコンクリートの耐久性向上技術検討業務報告
士学位論文,p.32,2007.9