平 成 27 年 3 月 (一社)九州経済連合会 九州女性の会 シニアの就労について ~シニアが輝く超高齢社会を願って~ 【はじめに】 私たち「九州女性の会」は、九経連会員企業の女性経営者の会で、年間テーマに沿 った勉強会を中心に活動を行っています。 私たちは、平成 25 年度から 2 年間、 「超高齢社会※対策」をテーマに、国の制度や 地域・企業などの様々な取り組みを学びました。 超高齢社会の課題は多岐にわたりますが、私たちは、特に主役であるシニア世代 が輝き続けるための可能性や秘訣を求めて、身近で 60 歳以上でも仕事を続けるシニ ア(110 名)を対象にアンケート調査を実施しました。 (アンケート集計結果につい ては、別紙をご参照ください。 ) ※65 歳以上の高齢者が人口の 21%超の社会 【アンケートから見えた輝くシニアの姿とその秘訣】 アンケートを通して浮かび上がってきたのは、人とのつながりが薄れる社会にあ っても、忍びよる老いにまっすぐ向き合い、定年後も自分に合った働き方で仕事に 就き、自身の強みを生かして人や社会の役に立ち続けながら、ゆとりある豊かなく らしを楽しむシニアの姿でした。多くの方が憧れる姿ではないでしょうか。 また、それには 3 つのポイント(秘訣)があると考えました。 ① 在宅で健康長寿 ② 最後まで人や社会の役に立ち続ける ③ ゆとりを楽しむ 【就労を中心に意見】 アンケートの設問の1つに、注目すべき結果が出ていました。それは、問 33「あ なたにとっての生きがいとお仕事(又は働きがい)は関係がありますか」に対して、 「ある」と答えた方が 91 名という圧倒的なものでした。 ない ある 9名 4名 男性 48名 女性 43名 したがって、今回、就労の面を中心に意見をまとめましたので、アンケート結果 を交えながらご紹介してまいります。 1 【シニアが働く理由】 問 28(※複数回答)「お仕事をする理由」では、 「生活費などの経済的理由」 (50 名) が最多でした。 その他⑧ 4名 3名 15名 自分自身の誇り・成長のため⑦ 社会的な地位や役割の維持、獲得⑥ 人の役に立ちたいため⑤ 15名 4名 6名 男性 19名 女性 21名 友人がほしいため④ 何もしないと退屈なため③ 7名 生活費などの経済的理由② 健康のため① 8名 24名 26名 22名 16名 ・「生活にしろ、趣味にしろ、仕事して収入があってこそです。 」 (62 歳女性) 確かに、収入は生活基盤に深く関わる現実的で大切なものです。ただ、今回、シニ アが輝くということを考える上では、いかがでしょうか。 本人が興味を感じない仕事だと、やりがいも湧かないし、続けられるかの心配も あります。反対に、やりがい(この場合「働きがい」 )を感じて仕事に打ち込んでい る時こそ、手応えや自信をもって輝いている時ではないでしょうか。 シニアが輝く就労には、収入だけでなく、本人の内側から湧き上がる「働きがい」 の実感についてもしっかり考慮されることが重要です。そう考えると、私たちが 問 28 で注目するのは、2 番目の「人の役に立ちたいため」 (40 名)になります。 【シニアの働きがい】 初めにご紹介した「生きがいとお仕事(又は働きがい)は関係が『ある』 」の理由 (※自由回答)をグルーピングして集計すると、問 28(※複数回答)で多かった【収入】 を、【役に立つ】が大きく引き離しています。 ・【役に立つ】23、 【自己実現】15、 【つながり】9、 【健康】8、【収入】7、 【その他】17 働く理由を複数挙げると、生きるための基礎である健康や経済的理由も選ばれる ものの、シニアの輝きに通じる働きがいを考える上では、仕事を通して人や社会の 「役に立つ」ことが鍵を握っていることが分かります。 【シニアの働きがいを呼び起こすもの】 問 29(※自由回答)「働きがいを感じる時」は、【ありがとう(と言われた時)】が 最多でした。 ・【ありがとう】38、 【成功した】16、 【役に立った】13、【他人の成長】7 など 2 「ありがとう」は、人から認められたい心理を満たしてくれる感謝の言葉ですが、 シニアにとっては、自分自身が人や社会の役に立てる存在であるというつながりと 生きる価値を確かめられる深いよろこびがあるのではないでしょうか。 ・ 「年をとってきたことで、自分を認めてくれる人がわずかでもいるということをありがたく思 えるようになった。 」 (62 歳男性) あたかも誕生日の「おめでとう」のように、周囲からの「ありがとう」がシニアを キラキラと輝かせるのだと思います。 【シニアの強みを活かす】 それでは、シニアが実際に仕事を通して「ありがとう」と言っていただくために 大切なことは何でしょうか。 問 27「現在のお仕事で、ご自身のキャリア(知識・技能・人脈等)が役に立って いると感じること」は、「ある」 (70 名) 、「たまにある」 (23 名)がほとんどです。 ない 1名 あまりない 3名 2名 どちらでもない 3名 3名 たまにある 9名 ある 14名 男性 42名 女性 28名 いくらインターネット上に情報が溢れていても、真の知識というのは、実際に体 得した人間だけがもちうるもの。人生経験を通して得た知識・技能・人脈等、および、 これらを活用して物ごとに対処する知恵こそがシニアの強みです。 問 34「若い頃に取り組んだことで、今、役に立っていることが『ある』 (72 名)」 の内容は、 【知識・技能・人脈】に関するものが大半です。 シニアが仕事を通して人や社会の役に立つために、また、本人のやる気と働きが いを喚起するためにも、任される仕事とキャリアがマッチしていることが肝要です。 【シニアの弱みを克服】 今のシニアは元気だと報じられていますが、老いに伴う体力の低下、健康面の不 安は誰にでも生じることです。今回のアンケート対象者の方々は、老いにまっすぐ 向き合うことで、 「在宅で健康長寿」でいらっしゃるようです。 ・問 11「健康面での不安は『ある』(55 名)、 『ない』 (52 名)」 ・問 10「定期的に健康診断を『受けている』 (90 名) 」 ・問 12「健康面のために気をつけていることが『ある』 (78 名) 」 …(例) 「散歩・ウォーキング」 (27 名) 、「運動」(20 名) 3 【シニアはゆとりを楽しむ】 問 36「若い頃に比べて、生きがいや働きがいに変化が『ある』 (60 名) 」の内容(※ 自由回答)は、 【ゆとり(が出てきた・求めるようになった) 】(21 名)が最多でした。 また、問 32「現在、あなたにとっての生きがいは何か」では、今回の対象者は全 員仕事をもちその責任感があるにも関わらず、最も多かったのは「家族」 (49 名)で した(女性ではさらに顕著)。孫の誕生も大きいのでしょうが、年をとるにつれて、 人とのつながりを求めることの表れではないでしょうか。 もともと、家族・仕事・趣味等の価値観の比重には個人差があるものですが、シニ アの場合はさらに、若者や雇用する側のそれとは食い違っている可能性があります。 体力的な面も含めて、シニアの求めるゆとりある働き方にマッチした労働環境の整 備が必要になります。 ・ 「今くらい(週 3 日位)がちょうどよい。無理をすると続かない。シニアは何かしら病気を持 っているので、無理をしないことが大事。 」 (63 歳男性) 【シニアの就労の意義】 以下、問 33「生きがいと仕事の関係」の回答例です。 ・ 「仕事の緊張感があるからこそ。楽しみ等、生きがいをみつけることができると思う。」 (60 歳 女性) ・「自分に収入があること。孫達にもいいおばあちゃんでいたい。 」(61 歳女性) ・ 「人間は一人では生きにくい動物であり、社会(集団)の中に在ることで心の安定や生きがい 等を感じ得るものでしょう。 」 (68 歳男性) ・「自分のやることが会社の役に立つこと。いろんな方々と交流ができること。」(68 歳男性) ・ 「仕事が無い場合は、一日、一週、一月、一年の目標が定まらず、達成感が湧かず、生きがい のない毎日となる。食事がうまくない。」 (71 歳男性) 健康、収入、社会とのつながり、人や社会の役に立つ、自己実現など、シニアが就 労する意義は計り知れません。また、シニアが社会から支えられる側ではなく、労 働力、知恵、税金等で社会を支える側になります。 シニアからも、問 31「『働けるうちはいつまでも』お仕事をしたい(44 名) 」や、 問 39(※自由回答)【 (生涯)就労すべき(19 名) 】と訴える声が多く見られます。 【シニアに就労機会を】 一方、問 39(※自由回答)【就労機会を(18 名) 】と求める声も見られ、労働需給に ギャップが生じていることがうかがえます。 私たちは、就労を希望するシニアが、仕事に就けることを望みます。その意味で、 例えば福岡県が取り組む「70 歳現役社会」のような取組みは歓迎です。 また、先に述べた強みと仕事とのマッチングの観点からも、 「定年延長」は確実性 4 の高い方策で、特に大企業での実施が望まれます(中小企業は必要に駆られて実施)。 ・問 25「定年退職後、現在のお仕事には『継続雇用』で就いた(36 名) 」 また、定年後に会社を移る場合に、多様なシニアの能力・個性を見抜き、労働環境 を含めた活躍の場へと斡旋するコーディネーターが切望されます。大手企業でも行 政でもよいので、社会全体でこのプロフェッショナルを育成すべきです。 【シニアの就労に際して労使で確認すべき 3 項目】 労働力確保や地域活性化などで、シニア人材活用が叫ばれていますが、シニアが 輝く就労を考えると、実際に採用・就労する際には、次の 3 項目について、労使で 相互理解を深めておくべきです。 ① シニア個人の強みと実際に就く仕事とがマッチしているか ② シニア本人が仕事を通して人や社会の役に立っていることを実感できるか ③ シニア個人の価値観に合ったゆとりある働き方か (参考)会で挙がったシニアが輝く就労に関するアイデア(例) ・学童保育×企業×シニア 公的な学童保育は小学 3 年生までの所が多いが、高学年の多感な時期こそ監 督保護すべき。企業が参入すれば設置がしやすく、そこで学校教育等の経験の あるシニアが、ローテーションを組んで小学校卒業まで看る。行くところがな い子供の問題にシニアが一役買うWin-Winの相乗効果で、人や社会の役 に立つのでは。 ・過去のリストラや団塊の世代の退職で生じた技術継承の課題への活用 ・知識・知恵を要するものの肉体的には軽い仕事を任せて、労働生産性を改善 (例)現場監督、アドバイザー、交渉、情報サービス ・シニアがロボットを活用して人手不足分野で活躍 (例)介護、建設、農業 ・対話を通して分かった個人の希望にマッチする職場への配置 (例)徳倫理の大切さを伝えたい方に、コンプライアンス教育を任せる ・仕事を複数人数でシェア(ワークシェアリング)してローテーション (例)3 人で雇われて 2 人分の給料 5 【おわりに】 今回の意見書は、定年退職後も仕事を続けるシニアにスポットを当てて、シニア が輝くための就労という話をしています。このことが、心身に障がいをもつ方や、 支援が必要な方々を差別しているかのような誤った解釈を生まないことを切に願い ます。 私たちは、その人が満足・安心できる状態こそが輝くための条件で、輝き方は人 の数だけあると思っていて、今回の調査は、就労という一つの観点からの輝き方に 過ぎません。 人は、そこにいる意味と目的を見失ったとき、生きる意欲を失ってしまいます。 私たちは、生きていくために、自分が存在する意味や目的を探し続けていく、その 姿が「輝いている」のだと思います。 私たちの願いは、多くのシニアが、健康長寿で、その望みに合った仕事に就き、そ れぞれの貢献にふさわしい所得を得て、幸福な家庭を営み、安らかで文化的水準の 高い一生をおくることができる豊かな超高齢社会です。 人口減少を乗り越え、豊かな超高齢社会を作っていくためには、シニアの力も借 りなければなりません。今回まとめたこの意見書が、超高齢社会が抱える様々な課 題の中で、シニアの就労を進めていく上での何かの一助となれば幸いです。 以 6 上
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