(9-1)デリバティブ取引の税金の基本

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デリバティブ取引の税金の基本
● デリバティブ取引と税金 ―先物、オプション、FX―
■「課税の特例」の対象となる取引の「差金等決済」に対する税金
「差金等決済」とは、先物取引に係る
金等決済による損失が残った場合は、翌
雑所得等の課税の特例(以下、
「課税の
年以後3年間の「課税の特例」の対象と
特例」といいます)の対象となる取引に
なる取引の差金等決済による所得から控
ついて、反対売買による差金決済、オプ
除することができます。一方、現物株式
(注1)
ションの権利行使・権利放棄
■ デリバティブ取引の類型
、カバ
の譲渡や配当による所得と通算すること
ードワラントの譲渡・権利行使・権利放
など、他の所得と損益通算することはで
棄をいいます(206ページ参照)。差金等
きません。
決済による損益は、「課税の特例」の対
現物の株式や債券などの金融商品、商
デリバティブ取引には、以下の図表の
なるものと申告分離課税の対象となるも
象となる取引の中で損益通算を行い、利
品などを受け渡しする決済は「差金等決
ようなものがあります。
のがあります。以下では、申告分離課税
益が残った場合は、税率20%(所得税
済」に含まれないため、税制上の扱いが
デリバティブ取引を行った場合の所得
の対象となるものを中心に解説します。
(注)
★
(注2)
15%
・住民税5%)の申告分離課税
異なります(債券先物は202ページ、個
区分は雑所得(または事業所得) とな
となります。
別証券オプション取引は205ページ、F
ります。総合課税(累進税率)の対象と
「課税の特例」の対象となる取引の差
Xは208ページを参照してください)。
●デリバティブ取引の類型
■「課税の特例」の対象とならない取引の税金
市場デリバティブ取引
(国内取引所における取引)
先物取引
取引所の株価指数等先物取引、取引所の債券先物取引
取引所の商品先物取引、取引所FX 、取引所証券CFDなど
オプション取引(スワップション等を除く)
取引所の有価証券オプション取引、取引所の商品先物オプション取引など
先渡取引
店頭FX 、店頭証券CFD 、店頭商品CFDなど
オプション取引(スワップション等を除く)
店頭有価証券オプション取引など
スワップション、クレジット・デリバティブなど
外国市場デリバティブ取引(外国の取引所における取引)
■灰色網かけは、総合課税の対象となる取引
(注)事業所得となるのは、取引の営利性・有償
性・継続性・反復性、自己の危険と計算に
よる企画遂行性、資金調達方法、その取引
のための施設、その人の職業、収益の安定
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14税金読本_p197-210_09.indd 198-199
性、その他の諸事情からみて事業として取
引を行っている場合に限られます。したが
って、通常は雑所得として扱われます。
の対象となります。「課税の特例」の対
(194ページの図の灰色の網掛けの取引)
象となる取引との間での損益通算は行え
については、差金決済・権利行使により
ず、損失の繰越控除の対象にもなりませ
発生した所得について、雑所得(または
ん。もちろん、現物株式の譲渡や配当に
事業所得)として総合課税(累進税率)
よる所得と通算することもできません。
■ 損益発生日の基本的な考え方
デリバティブ取引における損益は、原
せん)。
則として差金等決済を行った日に発生し
したがって、例えば平成25年12月×日
ます。
に取引を開始し、平成26年1月×日に反
したがって、先物取引については、反
対売買による差金決済を行った場合は、
対売買または最終清算指数(SQ)によ
「差金等決済」の日は平成26年1月×日
る決済が行われた日に損益が発生するこ
になり、平成26年分の所得税の対象と
とになります。
なります。
オプションについては、反対売買また
なお、現物の現渡しまたはオプション
は権利行使による決済が行われた日に損
の権利行使による現物の譲渡を行った場
益が発生することになります(当初取引
合は原則として受渡日に損益が発生した
時に受け払いするプレミアムについて
ものとしますが、申告により約定日に損
は、当初取引時点では損益として扱いま
益が発生したものとすることも可能と思
(注1)「特例の対象」とならない取引について
は、損益発生日について明確な規定はあ
りませんが、「特例の対象」となる取引と
同様と思われます。
デリバティブ
店頭デリバティブ取引
スワップション、クレジット・デリバティブなど
「課税の特例」の対象とならない取引
(注2)★印の付いている所得税については、別
途復興特別所得税の課税も行われます。
詳しくは41ページをご参照ください。
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● デリバティブ取引と税金 ―先物、オプション、FX―
われます。
有価証券先物取引と税金
■ 支払調書
デリバティブ取引により差金等決済
(差金決済、権利行使、権利放棄、カバ
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法、銘柄、数量、約定価格、手数料の額、
損益の額などです。
ードワラントの譲渡・権利行使・権利放
支払調書は、1年間の取引についてま
棄)を行った場合は、所轄の税務署長に
とめて翌年1月31日までに、または、1
支払調書が提出されます。
回の差金等決済ごとに、差金等決済のあ
これは、取引所・店頭であるか否か、
った日の属する月の翌月までに所轄の税
取引の種類(先物、
オプション、
FXなど)、
務署長に提出されます。
有価証券先物取引とは、将来の一定の
において売買されることなどがその特徴
現物の受け渡しがあったか否かなどに関
なお、現渡しまたはオプションの権利
期日に特定の証券等を契約時に決めた価
です。
わらず、例外なく適用されます。
行使による現物の譲渡により、株式等の
格で取引することなどを約束する契約を
個人投資家が扱う有価証券先物取引は
支払調書の記載事項は、デリバティブ
譲渡を行った場合は、株式等の譲渡とし
いいます。期日までにいつでも反対売買
主に有価証券指数等先物取引になりま
取引を行った者の氏名・住所、取引業者
ての支払調書が所轄の税務署長に提出さ
による差金決済ができること、取引の条
す。以下では、その仕組みについて説明
の名称・所在地、取引の種類、決済の方
れます。
件が予め規格化されていること、取引所
します。
有価証券先物取引の仕組み
■ 有価証券指数等先物取引の仕組み
最終日までに買建ての場合は転売、売建
な有価証券指数や有価証券の価格等の数
ての場合は買戻しによる反対売買を行う
値を対象商品とする先物取引をいい、株
ことにより先物契約を解消し、売値と買
価指数先物取引などがこれにあたりま
値の差額を授受して差金決済を行う方法
す。
です。
株価指数先物取引とは、株価指数を対
もう一つは最終決済です。新規取引を
象とした先物取引で、株価指数を将来の
行った後、取引最終日までに反対売買を
一定の日に、今の時点で取り決めた値段
しなかった場合に契約時の約定価格と最
で取引することを約束する契約のことで
終決済価格の差額を決済する差金決済を
す。
行うこととなります。株価指数は抽象的
対象商品には、大阪取引所の東証株価
な数値なので、取引最終日に形ある物を
指数(TOPIX)先物取引、業種別指数
受け渡すことはできません。したがって、
先物取引、日経平均株価(日経225)先
株価指数先物取引の決済は、反対売買に
物取引などがあります。
よる決済だけでなく、最終決済も差金決
株価指数先物取引には二つの決済方法
済となります。
デリバティブ
有価証券指数等先物取引とは、抽象的
があります。一つは反対売買です。取引
有価証券先物取引の税金
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◆原則的取扱い
差金等決済による損益については、取
有価証券先物取引の税金は、後述の債
引所取引・店頭取引ともに税率20%(所
券先物取引で現引き・現渡しを行った場
得税15%★・住民税5%)の申告分離課
合を除いては、「デリバティブ取引の税
税となります。
金の基本」
(198ページ参照)と同じです。
差金等決済から生じた売買差損益か
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14.6.27 6:33:19 PM