抗菌シルクの開発 農研機構 動物衛生研究所 動物疾病対策センター 主任研究員 土屋 佳紀 「農研機構」は独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構のコミュニケーションネームです。 研究の背景 耐性菌の発生ペースが早まっている 抗生物質がすぐに効かなくなり、開発費を回収できない 各国の製薬メーカーは抗生物質開発研究から撤退 新規抗生物質の開発の遅れ 抗生物質の効かない感染症の増加 耐性菌はなぜ発生するか？ 病原細菌へ抗生物質を投与する 抗生物質は細菌に作用し、増殖を止める 一部の細菌は抗生物質耐性を持っており、 生き残って体外へ逃れる場合がある 抗生物質を投与しても効果が無く、増殖する 院内で排出された耐性菌、特に肺炎球菌が 老人や幼児などに感染すると危険である。 耐性菌発生の原因 抗生物質の乱用 抗生物質耐性菌の発生 治療困難な細菌感染症の増加 抗生物質の乱用の現状 感染症患者患畜への過剰投与・家畜家禽飼料への添加、 畑や海、湖沼への散布、処方箋無しでの自由販売 抗生物質耐性菌の蔓延 種を超えて菌から菌へ耐性因子が拡散 野鳥、小動物（ネズミなど）、昆虫などが耐性菌を保有 大型野生動物がこれらを捕食し、耐性菌が常在化する アフリカの野生動物でも、ほぼ１００％ が耐性菌を保有している 抗生物質耐性菌に地域差は無くなり、地球規模でグローバル化 世界各国で抗生物質が効かない感染症が増加 抗生物質に代わる抗菌剤 抗生物質の使用量を減らすには？ 抗生物質に代わる抗菌剤を使用する 天然の抗菌蛋白質ブタリゾチームに注目 リゾチームとは何か？ 動物の唾液や涙、鼻汁、尿、乳汁、卵白などに含ま れている生体防御タンパク質である。 溶菌作用など多彩な機能を有する。 リゾチーム濃度が低い人は感染症に罹患しやすい。 リゾチームの構造と機能 リゾチームと抗生物質の比較 リゾチームに期待される効果 抗生物質の使用量 を減らす 新たな耐性菌の 出現を防ぐ 抗生物質耐性菌に 対する抗菌性 抗生物質の効かない 感染症の治療 細菌以外の感染症 に対する応用 ウイルス感染症など の治療（ＨＩＶ） なぜブタリゾチームが良いのか？ ①卵白リゾチームやヒトリゾチームよりも抗菌 活性が強い ②卵アレルギーの患者へも投与可能 ③ヒトリゾチームの場合のような倫理問題が 無いので食品への添加も可能 ブタリゾチーム遺伝子の人工合成 シグナル配列 ブタリゾチーム なぜ遺伝子を人工合成するのか？ 米国の研究グループがブタリゾチーム遺伝子を単離し、 塩基配列を公開したが、発現には成功していなかった 追試したところ、遺伝子に不安定な部分があることが判明 安定した遺伝子配列を新たに設計して人工合成した 酵母および昆虫細胞で発現に成功 特許取得（2012年） 遺伝子組換えカイコでの発現 ブタリゾチーム遺伝子をカイコ卵へ導入 遺伝子組換えカイコの作出 遺伝子組換えカイコの絹糸腺で発現 カイコの吐出する絹糸のセリシン層へ 組換え型ブタリゾチームを分泌・蓄積 抗菌シルクの開発 繭からリゾチームは速やかに溶出する 食 塩 水 細菌（M.lysodeikticus） に対する 溶菌活性 (ユニット/ｍＬ) 450 400 食 塩 水 食 塩 水 350 300 食 塩 水 250 200 食 塩 水 150 100 50 0 純 食 水 塩 水 純 水 純 水 純 水 純 水 純 水 抗菌シルク繭を生理食塩水と純水に浸漬した経過時間 組換え型ブタリゾチームの生産量 ブタリゾチームは高ｐＨ域でも有効 100 ブタリゾチーム 90 溶菌活性（％） 80 70 ヒトリゾチーム 60 50 鶏卵白リゾチーム 40 30 20 10 0 4.5 5 5.5 6 6.5 pH 7 7.5 8 8.5 9 ブタリゾチームは高塩濃度環境でも有効 100 90 溶菌活性（％） 80 ヒトリゾチーム 70 60 ブタリゾチーム 50 40 鶏卵白リゾチーム 30 20 10 0 0 50 100 150 200 250 NaCl (mM) → 高塩濃度環境 300 細菌に対する最小阻止濃度 (μg/ml) 研究成績のまとめ ①遺伝子組換えカイコを作出し、シグナル配列の改変で組換え型ブタリゾチ ームの生産量を増強した。繭１個あたりで０．５ｍｇが回収可能である。 ②繭に含まれるブタリゾチームはＰＢＳ（食塩水）に浸漬すると効率的に溶出 したが、純水への浸漬ではほとんど溶出しなかった。 ③ブタリゾチームはｐＨや塩濃度の高い環境でニワトリ卵白リゾチームやヒト リゾチームよりも溶菌活性が低下しにくかった。 ④ブタリゾチームはグラム陽性菌、グラム陰性菌のいずれにおいてもニワトリ 卵白リゾチームの２～１０倍高い抗菌性を示した。グラム陽性菌ではヒトリ ゾチームの２倍以上高い抗菌性を示した。 ⑤ブタリゾチームの３次構造を解析したところ、蛋白質表層に塩基性残基が より多く配置していて細菌との親和性が高いことが判明し、活性の強さの 要因と考えられる。 抗菌シルクの特性 抗菌シルクの活用の可能性 精製 成分抽出 ブタリゾチーム 感染症治療の抗菌剤 飼料添加剤 抗菌シルク繭 不織布 マスク 絆創膏 外科縫合糸 ガーゼ、包帯 シーツ 抗菌シルク 抗菌シルクなどの関連特許 土屋 「リゾチームの製造法」 特開２０１４－１３２８７６ （特願２０１３－３８１７） ブタリゾチームを効率よく絹糸（セリシン層）へ蓄積させるためのシグナル配列に関する特許申請その１ 土屋 「リゾチームの製造法」 特願２０１３－２０５０００ ブタリゾチームを効率よく絹糸（セリシン層）へ蓄積させるためのシグナル配列に関する特許申請その２ 土屋・平川・森岡ら 「組換え型リゾチームの製造法」 特許 第４９９６９３４号 発現可能なブタリゾチーム遺伝子の塩基配列およびブタリゾチームを効率よく培養液中へ分泌させる ための浸透圧域に関する特許 土屋・白井 「改変型シグナルペプチドをコードするDNA」 特許 第３１３６３５６号 リゾチームを効率よく培養液中へ分泌させるための人工シグナル配列に関する特許 お問い合わせ先 所内問い合わせ窓口 （独）農業・食品産業技術総合研究機構 動物衛生研究所 企画管理部業務推進室 企画チーム長 三上修 TEL : 029-838-7895（直通） 発明者連絡先 （独）農業・食品産業技術総合研究機構 動物衛生研究所 動物疾病対策センター 主任研究員 土屋佳紀 TEL : 029-838-7879（直通）
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