霊長類 人類

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生物学 | 動物
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ほ乳類
霊長類
人類
類人猿やオナガザルなどを含む霊長類は、大半の動物に比べて
大きな脳を持ち、なかでも大脳がきわめて大きく発達している。
このため、霊長類は学習能力に優れ、複雑な社会行動を取ることができる。
現生人類であるホモ・サピエンスは、いくつかの身体的特徴と、
数千年にわたって積み上げてきた、知的および社会的な進歩によって、
ほかの生物とは一線を画している。
人類を除く霊長類は、中南米、アフリカ、 上を住みかとするが、地上での生活に適応
人類は、外見や生活、行動が、ほかの生
面的にもきわめて少なくなり、歯は小型化し
している種もいる。脳は比較的大きく、学習
物とはまったく似ていない。人類の進化は、 て、多彩な食物をかむのに適した形状にな
ンナに生息している。大半
や道具の使用、複雑な行動を行う能力を持
状況や必要の変化に応じて形を変えてきた
った。可動性に優れた舌、弓なりに湾曲し
の種が草食性で、樹
つ。前方を向いた大きな目は、細かい部分
骨格によって、支えられてきた。
た口蓋 、そして適切な場所に位置する喉頭
まではっきりと立体的にものを見ることがで
今日、人類の骨盤は幅が広く、前に傾い
は、話し言葉の発達にとって不可欠な要素
き、色やコントラストも見分けられる。しな
ている。背骨が S 字型に湾曲
やかな手足は、触る、握る、つかむといった
しているおかげで、垂直方向
動作に適している。
の力をうまく吸収し、胴体上
アジアの熱帯や亜熱帯の森林やサバ
こうがい
コミュニケー ションと社会生活
H 霊長類の歯は、植物と肉の両方を食べられるように
進化した。
霊長類は、高度に発達した社会生活を営
いんとう
現生人類 1350g
部の多彩な動きを可能にして
チンパンジー 400g
いる。つま先は幅が広くなっ
ており、類人猿のように上手
む。家族、あるいは雄 1 頭と9 匹までの雌か
などが含まれる。キツネザルはコモロ諸島と
らなるハーレムを作って暮らし、音や身振
H 有史以前の壁画:人類の手は繊細な動きをすること
ができ、多様な作業に適している。
にものをつかむことはできな
マダガスカル島にのみ生息する。ロリスとガ
い。しかし、つま先が足に対
り、顔の表情を使って、意思の疎通を図る。 ラゴは、ゆったりとした動作がナマケモノに
して平行についているおかげ
化学物質(フェロモン)を分泌して、危険に
似ている。アフリカと南アジアに生息し、力
で、人類は直立の状態でバラ
対する警告や、交尾の欲求などを伝えること
強い手で木の枝にしっかりとぶらさがる。
ンスをとり、動き回ることが
もできる。ジェーン・グドー ルをはじめとす
直鼻猿亜目は大半が昼行性だが、メガネ
できる。足 部のアー チ状の
類の子どもが未熟な状態で生まれてくること
オランウータン 400g
がある。そのため、脳の発達にとって重要
マカク 100g
な段階が、生まれた後に生じる。また、人
ず
類の脳にはたくさんのひだがあり、これが頭
高くなった額の後ろに巨大化した脳をしまう空間が確保されている。
蓋 内の空間の有効利用につながっている。
る研究者たちは、チンパンジー の行動を調
ザルなどの例外もある。生息域は、熱帯・
査し、彼らの問題解決能力や、記号やサイ
亜 熱 帯の中南 米(オマキザル、マー モセッ
ン言語による人間との意思疎通能力につい
ト)、アフリカ(テナガザル、ゴリラ、チンパ
て研究を行った。
ンジー)、南アジア(メガネザル)、東南アジ
初期人類が使った道具のひとつに、150 万年ほ
ア(オランウータンなど)である。オマキザ
ど前に登場した石 斧がある。一端は握るために丸く
ルなどの新世界ザルは中南米に、ニホンザ
なっていて、両脇は鋭
夜行性が多く、体は小さく、嗅覚が鋭い。 ルやマントヒヒなどの旧世界ザルはアフリカ
い刃の形状に削られて
な発達には、密接な関係があ
曲鼻猿亜目は、キツネザル、ロリス、ガラゴ
いる。石斧は、切る、
る。人類はチンパンジー に比
刻む、こするなどの作
べて長い子ども時代を
骨は、直立歩行の衝撃を吸
現代の分類法では、霊長類は曲鼻猿亜目
ちょく び えん
と直鼻猿 亜目に分けられる。曲鼻猿亜目は
とアジアの一部に生息している。
は、学習と遊びの時間をたっぷり持つことができる。
霊長類の系譜
in focus
大半の現生霊長類の祖先が登場したのは、実に
5500 万年も前のことだ。19 世紀、チャールズ・ダー
ウィンらによって、人
がい
大きな脳によって、高い知性や言語能力、
道具の使用
きょく び えん
H 霊長類は、熱心に子どもの世話をする。子どもたち
H ホモ・サピエンスの頭骨は四方に大きくふくらみ、
であった。
知的・文化的発展
学習能力や複雑な社会行動が生み出され
た。これらすべてが揃ってはじめて、人類の
複雑な言語や文化の発達が実現した。
人類の身体の発達と知的
業に使われた。これを
過ごすが、その理
基に、後年より洗練さ
由のひとつに、人
れた石器が作られた。
H 紀 元 前 3 万 5000 ∼前
1 万年ごろの 後期旧石器
時代に作られた石器。
類と霊 長 類が 近 い 関
係にあるという考えが
収する。手は、移動の補助をする必要がな
発表された。思想的な
くなったことで、劇的な変化を遂げた。親
理由で未だに異を唱え
指がほかの指と向かい合わせにつき、前腕
る人々もいるが、数々
が回転運動できるようになったことで、人類
の 科 学 的 な調 査 によ
の手は何かを探したり、握ったり、操作した
in focus
り、両者の間には、生
りするのに最適な形状となった。
物 学 的に極 めて 近 い
H 最初の霊長類は、樹上で昆
虫を食べて暮らしていた。彼ら
は 6500 万年前に登場した。
進化の過程で、人類の頭骨は大型化し、
関係があることが明ら
かになっている。
H 毛づくろいは、霊長類の社会において、きずなを形成する役割があると言われている。
家族のつながりを強め、階級制度を維持したり、逆に脅かしたり、争いの後の仲直りにも使われる。
p.140-145(進化)参照
顔は平らになり、目の上の隆起は消え、鼻と
頬はより大きく突出した。体毛は量的にも
p.165(ホモ・サピエンス)参照
H 人類の脊柱は弓形ではなく、直立歩行に適した S 字型に進化した。