騒音計による「静かさ指数」の測定* 中野有朋(中野環境クリニック) 最近、この機器はどのくらい「静か」であるかを、測定してもらうことができるか、と いう相談をしばしば受ける。 機器に対策を施して、静かな機器を作っても、その静かさを測定するのに騒音計で測定 するというと、まだ騒音が出ていて静かな機器ではないのではないかと思われてしまう。 また、騒音計で測定して、騒音レベルが、たとえ 50 ㏈であっても、一般には、どのくらい の静かさであるかわからないという。 一部の機器メーカーでは「騒音」という言葉をあまり使いたくないので、騒音対策や低 騒音化という代わりに、静音化という用語を使用していると言っている。 騒音の大きさは現在、騒音計で測定され、測定された騒音レベルは騒音の大きさの尺度 として使用されている。 騒音問題においては、騒音源となる機械、工場、道路交通、航空機などの騒音を騒音計 で測定し、これらの騒音の程度を調べ、それが大きいときにはなんらかの対策を考えると いうことが一般に行われており、それには騒音計も騒音レベルも有効であることは間違い ない。 しかし、言われるように、確かに、ある環境や機器などが、どのくらい静かであるかを 調べるのに騒音計で騒音を測定するというと、静かであってもすでに何か騒音があるので はないかとイメージされる。 ここでは、これに対処するため、騒音計で測定した騒音レベルを使って、環境や機器の 「騒音」の程度ではなく,「静かさ」の程度を求める方法について検討した結果を述べる。 1.静かさの尺度「静かさ指数」 騒音レベル LA は次式で定義される。 LA 10 log IA 1012 ㏈ I A :A 特性補正音の強さ W/m2 これより I A を求めると、 I A 10 12 10 LA 10 となる。 この式において、 LA を 120、110、 ・・・、20 dB、として、 I A を求めると、表 1 の(b) が得られる。これは低周波音も含んだ音の強さである。 * Measurement by the sound level meter of "Quiet index" Aritomo NAKANO(NAKANO Environmental Clinic) 1 ここで、IA の指数の絶対値に着目すると、表の(c)が得られる。 静かさ指数(d)とは、これをもとに定めた尺度である。 指数の絶対値の 10 を、騒音が最も小さく、静かで音のない状態、すなわち静かさ指数 100%の状態、指数の 0 を、騒音が最も大きい状態、すなわち静かさ指数 0%の状態と定め、 この間を%で目盛ったものである。 これによると、騒音レベル 20 dB が静かさ 100%、120 dB が静かさ 0%に相当し、騒音 レベル 1dB が 1%に相当することになる。 最小可聴値は 0dB であるが、騒音レベル 20 dB は、実際にはほぼ無音の状態と考えてよ い。また静かさ 0%は耳が痛くなるような音の状態である。 これを用いて、たとえば、測定した機器の騒音レベルが 70 dB の場合、騒音レベルは ふせて、静かさは、50 パーセントで、中くらいの静かさである、また騒音レベル 30 dB は、 静かさ 90 パーセントで、音のない状態に近い静かさである、ということにするのである。 一般に使われている、%を用いて、静かさの程度を知ることができるので、この方が、 騒音レベルよりわかりやすいようである。騒音計もこのように使うと、静かさも測定でき るわけである。 なお、静かさ指数という尺度は、既に 20 数年前、当所で静音度として提案し、これを基 に、リオン㈱でデジタル型静音計(A 特性、fast、騒音レベルの代わりに静音度%(静かさ 指数)を目盛ったもの)というものを試作し、使用したことがあったが、当時は騒音が盛 んで、静かさどころではなかったので、それ以上の進展はなかった。 しかし、最近は IT 化が進み、静かになった職場で、BG の活用が進む一方で、機器メーカ ーにとっては、もう騒音、騒音という時代ではなく、静かさが求められる時代に変わって きている。 2.静かさ指数と各種基準との関係 主な基準と静かさ指数%との関係を表 2 から表 6 に示す。 今までと異なった感覚で音をとらえることができる。 3.結言 結局、当初の相談にたいしては、静かさを表わすのに、たとえば「耳が痛くなるほどや かましい状態を静かさ指数 0 %、ほとんど音がしない静かな状態を静かさ指数 100%とし た場合、この機器の静かさは静かさ指数 70%くらいである」などと対処することで了解、 今後この線で進めることとなった。 騒音レベルと静かさ指数との関係は、静かさ指数%+騒音レベル㏈=120 となるので、 どちらか一方がわかると、直ちに他方を求めることができる。なおこの場合、騒音レベル などという硬い言葉ではなく、代わりに「やかましさ指数」とでもしたら面白いのではな いかと思う。 この尺度はいわば騒音レベルの裏返しであるから、騒音問題においては騒音レベル、音 2 環境問題や機器の、低周波音を含めた「静かさ」などにたいしては、静かさ指数を使い分 けることにすれば、両者の関係をもちろん、それぞれの特徴をより的確、直接的に表現、 評価できると考えられる。 参考資料;中野;音環境等の指標としての静音度とこれを測定する静音計について、 環境技術、Vol.23、No.11(1991) 表1 騒音レベルと静かさ指数の関係 (a) (b) (c) 騒音レベル 騒音の強さ 110 100 90 80 70 60 50 40 30 20 静かさ指数% 静かさ 絶対値 指数% 100 0 0 0 10 100 -1 1 10 20 100 -2 2 20 30 100 -3 3 30 100 -4 4 40 100 -5 5 50 100 -6 6 60 100 -7 7 70 100 -8 8 80 100 -9 9 90 100 -10 10 100 I A W/m 120 (d) 指数の 2 LA ㏈ 表 2 主な環境の静かさ指数 環 境 0 飛行機離着陸直下 ガード下 地下鉄、バス車内 40 騒々しい街頭 50 静かな街頭 60 平均的な事務所内 70 静かな住宅の昼 静かさ指数%+騒音レベル㏈=120 80 90 表3 静かな住宅の夜 騒音に係る環境基準(カッコ内騒音レベル)の静かさ指数 地域の類型 基準値 昼 間 夜 間 AA 70%以上(50 ㏈以下) 80%以上 (40 ㏈以下) A 及び B 65%以上(55 ㏈以下) 75%以上 (45 ㏈以下) C 60%以上(60 ㏈以下) 70%以上 (50 ㏈以下) AA:療養施設、社会福祉施設等が集合して設置される地域など特に静穏を要する地域 A:専ら住居の用に供される地域 B:主として住居の用に供される地域 C:相当数の住居と併せて商業、工業等の用に供される地域 3 表4 道路に面する地域の環境基準の静かさ指数 地域の区分 基準値 A 地域のうち 2 車線以上の車線を有す る道路に面する地域 昼 間 夜 間 60%以上 65%以上 (60 ㏈以下) B 地域のうち 2 車線以上の車線を有す る道路に面する地域及び C 地域のうち 55%以上 (55 ㏈以下) 60%以上 (65 ㏈以下) (60 ㏈以下) 車線を有する道路に面する地域 表5 幹線交通を担う道路に近接する空間の環境基準の静かさ指数 基準値 昼 間 50%以上(70 ㏈以下) 夜 間 55%以上(65 ㏈以下) 備考 個別の住居等において騒音の影響を受けやすい面の窓を主として閉めた生活が営ま れていると認められるときは、屋内へ透過する騒音に係る基準(昼間にあっては 75% 以上(45 ㏈以下)、夜間にあっては 80%以上(40 ㏈以下)によることができる。 中央環境審議会の騒音の評価手法等の在り方についての答申によれば、 睡眠影響に関する多くの科学的知見から、騒音の発生が不規則、不安定である一般地 域においては、睡眠影響を生じさせないためには、室内で騒音レベル 35 デシベル以下 が望ましいとされている。しかし、高密度交通騒音のように、騒音レベルが連続的、安 定的である場合には、40 dB が睡眠影響を防止するための上限とされている。 会話影響に関する知見から、1m の距離でくつろいだ状態で話しして、100%明瞭な会 話了解会度を確保するためには、一般地域、道路に面する地域を問わず、通常の場合、 室内で騒音レベル 45 デシベル以下であることが望ましいとされている。 表6 日常生活等に適用する規制基準(東京都)の静かさ指数 種 別 時間の区分 基準 第 1 種区域: 6 ~8 時 80%(40 ㏈) 第 1 種低層住居専用地域 8~19 時 75%(45 ㏈) 第 2 種低層住居専用地域 19~23 時 80%(40 ㏈) AA 地域他 23~翌 6 時 80%(40 ㏈) 第 2 種区域~第 4 種区域は略 東京都の「都民の健康と安全を確保する環境に関する条例」においては、工場騒音や建 設工事騒音ばかりでなく、日常生活に係る騒音の規制基準も定められている。 4
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