知ってトクする栄養の話 第 12 回(最終回) 国保くまもと Vol.209(2015

知ってトクする栄養の話
第 12 回(最終回)
第 12 回(最終回)
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食の大切さを改めて考える
病めるときも、 健やかなとき も…
管理栄養士
山下茂子(水俣市在住)
早いもので 3 月、桜の木につぼみが出ているのを見かける
ようになり、春はもうすぐそこに来ているようです。
このコーナーを担当して 2 年になります。これまで 読んで
くださった方にお礼申し上げます。ありがとうございました。
最終回となる 今回は、家族の健康管理のために頑張るお母
さん、Gさんの話をしたいと思います。
「食事制限のある娘のために」という母の思い
Gさんは 70 歳代で、 夫と 30 歳代半ばの娘さんと 3 人で暮らしています。夫は肝硬変、
娘さんは糖尿病で、本人も心臓病を 患っています。一番 の心配は娘さんで、
「この子 を残し
て死ぬのが怖い。食事管理をしてできるだけ長生きしなくては ……」と口癖のように話し
て、糖尿病料理教室 に 10 年、減塩料理教室 に 3 年通って います。初めのころは、Gさん一
人だけでの参加でしたが、口癖が気になっていたので娘さんの同行を勧めたところ、
「人や
社会に触れさせるいい機会」といって娘さんを、さらには夫も連れて来るようになりまし
た。最初は「うまくいくだろうか、周りが受け入れてくれるだろうか 」と不安も大きかっ
たようですが、一緒に料理を作ったり、ほかの参加者との話し合いの輪に入ったりと、徐々
に楽しく参加できるようになりました 。
娘さんは 20 歳代で 2 型糖尿病と診断されま した。Gさんが料理教室に通う目的も、「食
欲をコントロールできない娘に、 低エネルギーの料理とお菓子をたっぷり食べさせてあげ
たい」との母心からで 、常に一生懸命な姿は健気でした。 娘さんを連れて来るようになっ
てからは、私たち講師 の話を しっかり聞いて 確認し、娘さんに 手取り足取り教えていまし
た。最初は母と娘二人だけの世界でしたが、娘 さんも徐々に慣れてきて、周囲に なじみ、
楽しんで料理に励んでいました。しかし、
「家庭ではここまで素直ではな くて、わがままな
んですよー」とGさんは嘆いていました。
減塩・たんぱく制限から、カリウム制限へ
やがて娘さんにたんぱく尿が 出るようになり 、減塩やたんぱく制限がかかる 糖尿病腎症
から腎不全となり、いつ透析に移行してもおかしくない くらいになってきました 。
減塩は、減塩しょうゆ や減塩みそを使い、濃いだしを取ることで味 に不満が出ないよう
に工夫していましたが、 たんぱく制限で 大好きな肉や魚の量が少なくなると 、娘さんが感
情をコントロールできず、 料理教室の食事時間にけんかになる こともありました 。家庭で
はもっとひどいとのこ とです。無理もありません。そのため、Gさんは野菜や根菜類の肉
巻き、肉無しコロッケや餃子、カレーや ハヤシライス、ビーフストロガノフなど 、ごまか
せる料理の工夫などに頭を悩ませることになります。 さらに、慣れないカリウム制限が加
わって、Gさんの心労はピークへと近づいていきます。
国保くまもと
Vol.209(2015 年 3 月号)
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同じころ夫も非代償性の肝硬変と診断されましたので、二人のたんぱく制限 食までは何
とかなりましたが 、娘さんのカリウム制限が追加されてからは、Gさんは 「大変」が口癖
になるほど頑張っています。ちなみに、
「大丈夫。やっています」という人は 実は実践して
いないことが多い のでよく聴き取ることが大事です。 Gさんのようにきちんとやればやる
ほど「大変」などの愚痴が出ますので、そんな人は 大切にサポートしなければなりません。
Gさんが入院、娘さんも透析に
Gさんが倒れるのではないかと心配 していたら、案の定、入院することになり ました。
家に残された 二人の食事は、低たんぱく の加工食品 (ラーメン、うどん、カレー、シチュ
ーなど)や冷凍食品の低たんぱく減塩弁当を何種類も手配しましたが、娘さんは Gさんの
入院中に透析に移行することになりました。一緒に入院させておけばよかったと思いまし
たが、後の祭りです。浮腫による体重増加 でまん丸くなっていて、とても 苦しそうで、
「こ
んな短時間で」とびっくりしました 。しばらくは病院食も食べられない状態でしたが、透
析で症状が落ち着き、元の娘さんに戻り ました。やがてGさんも回復し退院しました。
夫のために夜間の軽食づくりも
夫も「娘を一人残すわけには いかない」と必死でした。意志の強い方でしたので、医療
スタッフのいうことをよく聞いて、飲みにくい流動食もきちんと飲む 模範的な患者さんで
した。しかし、朝から体調不良が激しく、
「夫が、気分がすぐれず に、起きられないなど ふ
さぎこむことが多くなった」とGさんから相談がありました。これは明け方の低血糖と予
測を つ け 、L E S (レ イト ・ イ ブニ ン グ ・ス ナッ ク ) を 勧 め る こと にし ま し た。 夜の 10
時に 160kcal(キロカロリー)程度の糖質を含む食品(料理) を食べるのです。たんぱく
制限を考慮しながらの料理やお菓子を選択します。効果はすぐに 現れ、いつもの 夫に戻り
ました。
Gさんには、「LESはこれから長期間継続しなければいけないので、手抜き もしてね」
とサンプルでいただいた商品をあげるなどしましたが 、
「 このくらいの料理で夫の気分が悪
くならずに済むのなら、易いものです」との言葉が印象的でした。
家族に病気にかかっている人が 1 人でもいると本当に大変です。薬と違って料理は好み
があり、毎回同じとはいきません。本当に大変な仕事を精一杯こなす Gさんから、家族の
健康を守る母親のすごさを 学びました。
☆☆☆
連載を終えるにあたって
☆☆☆
栄養素や食事療法について、 2 年間 12 回掲載させていただきありがとうございまし
た。 少 し は興 味 がわ き 、少 し は お分 か りい た だけ ま し たで し ょう か 。近 年 マ スコ ミで
いろいろなことが取り上げられ、あたかも薬のような効果を期待される方もいますが、
食べ 物 は 、体 を 構成 し 、健 康 を 維持 す るも の で、 決 し て即 効 を期 待 でき る も ので はあ
りま せ ん 。だ か らこ そ 、大 切 な もの で ある と 信じ て 日 々頑 張 って い ます 。 そ して 私自
身が 40 数年間風邪をひくことなく、頭痛や腹痛を知らない生活をしています。
原 稿は で き るだ け わ か り やす く ― と努 力 し ま し たが 、 日 常使 っ て い る 表現 を 一 般向
けに す る こと の 難し さ を痛 感 し まし た 。国 保 連合 会 の 編集 担 当部 署 には 大 変 お世 話に
なりました。栄養素から実際の食事への応用、事例の検討など、わかりにくい表現を、
読者目線でわかりやすくしていただき、感謝しております。いろいろなこ
とを学ばせていただいた 2 年間でした。
誰もが年を重ねます。できるだけ健康寿命を伸ばせるように、食事面に
気を付けていただきたいと願っております。 お健やかに!
国保くまもと
Vol.209(2015 年 3 月号)