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報 告
第12回国際応用地質学会(IAEG2014)への参加報告
伊東 佳彦*
1.はじめに
2014年9月15 ~ 19日にかけてイタリア共和国トリノ
市で開催された第12回国際応用地質学会
(12th IAEG
Congress)に参加・発表する機会を得ましたので、そ
の概要を報告します。
2.大会概要
本大会は国際応用地質学会(IAEG:International
Association for Engineering Geology and the
Environment)
が4年に1度開催する応用地質分野を包
括する国際大会です。12回目となる今回は、80 ヶ国以
写真-1 大会会場 (Lingotto Conference Centre)
上からの1,564編の論文等が採択されました。日本か
らの論文等は57で、開催地イタリア、中国、ロシア、
3.研究発表
インドに次ぐ多さでした。会場はトリノ中心部からや
や南寄りの Lingotto Conference Centre で
(写真-1)
筆者の発表(ポスター)は9月18日で、発表タイトル
で、大会日程は次のとおりでした。
は「寒冷地における凍結融解繰り返しと乾湿繰り返し
9月15日 開会式、基調講演等
による岩石劣化に関する実験研究」(Experimental
9月16 ~ 18日 基調講演、一般セッション
study on rock deterioration by repetition of freezing
9月19日 一般セッション、閉会式
and thawing and by repetition of dry and wet in
大会は、社会と領域のための応用地質(Engineering
cold region)です。凍結融解と乾燥湿潤の繰り返しに
Geology for society and territory)という基本理念に
よる岩石劣化への影響の程度を比較検討したもので、
基づき、
次の8つのトピックスに分けて行われました。
多くの研究者に興味を持って聞いて頂きました(写真
1:気候変動と応用地質
-2)。
2:地すべり変動
3:河川流域、貯水池の堆積作用と水資源
4:海洋や沿岸部での作用
5:都市部の地質、持続可能な計画と景観の開発
6:巨大プロジェクトと応用地質
7:教育、倫理、普及問題
8:文化遺産の保全
土木研究所からは私のほかに脇坂地質監、地質チー
ムから佐々木上席研究員、品川主任研究員および江口
主任研究員が参加しました。私は地すべり変動やダム
地質に関する発表を興味深く聞きました。
写真-2 筆者のポスター説明
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4.マルパッセダム・バイオントダム巡検
本大会に並行して IAEG の日本支部が主催した、南
フランスのマルパッセダム(9月16日)と北イタリアの
バイオントダム
(9月19 ~ 20日)への巡検に参加しま
した
(写真-3、4、5)
。
マルパッセダムは、片麻岩を基礎とする高さ60m 余
のアーチ式コンクリートダムです。1954年から湛水が
開始されましたが、大雨により1959年12月にこれまで
経験したことのない貯水高となり、左岸部の基礎地質
が破壊され 、 ダムも倒壊しました。400名を越える死
者を出し、当時建設中であった黒部ダムの設計にも影
響を与えました。
写真-5 歩道沿いに犠牲者追悼のため名前を記した
ハンカチが並ぶ(バイオントダム)
バイオントダムは、中生代の石灰岩を基礎とする高
最大の災害となりました。皮肉なことに、ダム本体は
さ264.6m(建設当時世界最高),貯水容量1億6,800万
ほぼ無傷でした。
m 余のアーチ式コンクリートダムです。湛水を進めて
両災害現場に立ち、巨大な構造物の調査・建造に関
いた1963年10月に左岸の山で巨大地すべりが発生し、
わる技術者・研究者の責任の大きさを、あらためて深
大量の地すべり土塊がダム湖に殺到しました。この結
く考えさせられました。
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果、貯水が押し出され、津波がダム湖周辺の集落に被
害を与え、ダムを越流した貯水は下流域に洪水を引き
5.今後の研究に向けて
起こし、2,000人以上の死者を出すというダム事故史上
応用地質学は、土木、資源、災害、環境など人間活
動のほとんどに関わる研究分野です。今回も気候変動、
地すべり災害など従来から関心の高い分野に加え、持
続可能な計画、都市景観、文化遺産の保全、あるいは
倫理の問題がトピックスとして選ばれるなど、課題は
ますます多様化しています。発表内容の多くが社会の
課題に直結しており、あらためて社会への貢献への積
極的な関与の重要性を感じました。
自分の研究内容についても意見・感想を聞くことが
でき、非常に有益でした。今後も、土木研究所の研究
成果を世界に発信し、国内外に役立つよう努めていき
写真-3 マルパッセダム(下流右岸より望む)
たいと感じました。
伊東 佳彦*
ITO Yoshihiko
写真-4 バイオントダム(山腹岩肌が地すべり面)
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寒地土木研究所
地質研究監
博士
(工学)
技術士
(応用理学)
寒地土木研究所月報 №742 2015年3月