⽇日本のものづくりの強み・弱み 「TPS/Agile組込みシステム」セミナー ⽇日本のものづくりの強み・弱みと 組込みソフトウェア開発 2015年年3⽉月10⽇日 ⾼高⽥田 広章 名古屋⼤大学 未来社会創造機構 教授 名古屋⼤大学 ⼤大学院情報科学研究科 教授 附属組込みシステム研究センター⻑⾧長 NPO法⼈人 TOPPERSプロジェクト 会⻑⾧長 Email: [email protected] URL: http://www.ertl.jp/~∼hiro/ Hiroaki Takada 1 ⽇日本のものづくりの強み・弱み ⾃自⼰己紹介 本務 ▶ 名古屋大学 未来社会創造機構 教授 ▶ 名古屋大学 大学院情報科学研究科 情報システム学専 攻 教授/附属組込みシステム研究センター長 その他の役職(主なもの) ▶ TOPPERSプロジェクト 会長 ▶ 車載組込みシステムフォーラム(ASIF)会長 ▶ 組込みシステム開発技術研究会(CEST)会長 ▶ 情報処理学会 組込みシステム研究会 元(初代)主査 研究分野 ▶ (組込みシステム向け)リアルタイムOS ▶ リアルタイム性解析とスケジューリング理論 ▶ 機能安全技術,消費エネルギー最適化技術 ▶ 車載組込みシステムと車載ネットワーク,ダイナミックマップ Hiroaki Takada 2 ⽇日本のものづくりの強み・弱み 名古屋⼤大学 未来社会創造機構 設立の目的 ▶ 名古屋COI事業の推進のために,2014年4月に設立 名古屋COIとは? ▶ 文部科学省COI STREAMの拠点公募に対し,「多様化・ 個別化社会イノベーションデザイン拠点~高齢者が元気 になるモビリティ社会~」のテーマで提案・採択されたプロ ジェクト 文部科学省 COI STREAM事業 ▶ 革新的イノベーション創出プログラム ▶ 現在潜在している将来社会のニーズから導き出されるある べき社会の姿・暮らしの在り方(ビジョン)を設定し,このビ ジョンを基に10年後を見通した革新的な研究開発課題を 特定した上で,既存分野・組織の壁を取り払い,革新的な イノベーションを産学連携で実現する Hiroaki Takada 3 ⽇日本のものづくりの強み・弱み モビリティ部門(連携企業:トヨタ自動車)のグループ構成 ▶ 知能化モビリティグループ ▶ 人間・加齢特性グループ ▶ 交通・情報システムグループ(グループリーダ:高田広章) ! この他に,他の連携企業(富士通,パナソニック,東芝,旭 硝子)に対応した部門/グループを設置 交通・情報システムグループの取り組みテーマ ▶ 情報技術を用いた安全でストレスのない交通システム ▶ 高齢者等が安全でストレスを感じない自由な移動を可 能にするための交通システム(ストレスフリー交通マネジ メント)の実現 ▶ それを実現する情報処理基盤として,交通社会に関す るリアルタイムな状況をクラウド上に再現するデータ ベース(交通社会ダイナミックマップ)の構築 Hiroaki Takada 4 ⽇日本のものづくりの強み・弱み ストレスフリー交通マネジメントと交通社会ダイナミックマップ Copyright © 2014 by 名古屋COI Hiroaki Takada 5 ⽇日本のものづくりの強み・弱み TOPPERSプロジェクトとは? ▶ ITRON仕様の技術開発成果を出発点として, 組込みシステム構築の基盤となる各種の高品 質なオープンソースソフトウェアを開発するとと もに,その利用技術を提供 組込みシステム分野において,Linuxのように広く 使われるオープンソースOSの構築を⽬目指す! プロジェクトの狙い ▶ 決定版のITRON仕様OSの開発 ← ほぼ完了了 ▶ 次世代のリアルタイムOS技術の開発 ▶ 組込みシステム開発技術と開発支援ツールの開発 ▶ 組込みシステム技術者の育成への貢献 プロジェクトの推進主体 ▶ 産学官の団体と個人が参加する産学官民連携プロジェクト ▶ 2003年9月にNPO法人として組織化 Hiroaki Takada 6 ⽇日本のものづくりの強み・弱み 開発成果物の主な利用事例 キザシ (スズキ) IPSiO GX e3300 (リコー) スカイラインハイブリッド (日産) UA-101 (Roland) 提供:JAXA,イラスト:池下章裕 ASTRO-H (JAXA) H-IIB(JAXA) <開発中> Hiroaki Takada OSP-P300 (オークマ) SoftBank 945SH (シャープ) PM-A970(エプソン) 7 ⽇日本のものづくりの強み・弱み 名古屋⼤大学 組込みシステム研究センター (NCES) ☞ http://www.nces.is.nagoya-u.ac.jp/ 設立目的 ▶ 組込みシステム分野の技術と人材に対する産業界からの 要求にこたえるために,組込みシステム技術に関する研 究・教育の拠点を,名古屋大学に形成 活動領域(スコープ) ▶ 大学の技術シーズを実現/実用化することを指向した研究 ▶ プロトタイプとなるソフトウェアの開発 ▶ 組込みシステム技術者の教育/人材育成 研究プロジェクトの例 ▶ 車載制御システム向けSPF(AUTOSAR仕様ベース) ▶ 車載データ統合アーキテクチャとLDMへの適用 ▶ 宇宙機向けソフトウェアプラットフォーム(スペースワイヤOS) ▶ 車載組込みシステムのセキュリティ強化技術 Hiroaki Takada 8 ⽇日本のものづくりの強み・弱み AGENDA 組込みシステム/ソフトウェア開発の現状と日本の立ち位置 ▶ 組込みシステム/ソフトウェア開発の課題 ▶ クラウドと組込みシステムの役割分担 ▶ 日本の組込みソフトウェア開発の立ち位置 日本のものづくりの強みと弱み 〜3つの観点から議論〜 ▶ 製品アーキテクチャと比較優位 ▶ 技術者の品質意識/士気に支えられた品質 ▶ 部分から全体へ 日本のものづくりが進むべき方向性 ▶ 適正な品質のものづくり ▶ 日本のソフトウェア開発が進むべき2つの方向性 おわりに ▶ 今,危機感を持って取り組んでいること Hiroaki Takada 9 ⽇日本のものづくりの強み・弱み 組込みシステム/ソフトウェア開発の 現状と⽇日本の⽴立立ち位置 Hiroaki Takada 10 ⽇日本のものづくりの強み・弱み 組込みシステム/ソフトウェアの特性 専用化されたシステム ▶ システム全体が一つの目的に専用化して設計される 厳しいリソース制約 ▶ コストダウン要求 … 大量生産品で顕著 ▶ 低消費電力,動作環境(温度条件など),軽量化 高いディペンダビリティ(広義の信頼性) ▶ システムの誤動作が機器の誤動作に直結 ▶ PL法の対象に含まれる(無保証というわけにはいかない) ▶ システム改修に高いコストがかかる ! 機器の信頼性に対するユーザの期待 リアルタイム性 ▶ 制御対象の機器の定める時間要件に従って動作すること が必要(単に速ければよいわけではない!) Hiroaki Takada 11 ⽇日本のものづくりの強み・弱み 組込みシステム開発を取り巻く状況 半導体技術, ネットワーク の進歩 組込みシステムの大規模化・複雑化 ▶ 機器の複合化・デジタル化・ネットワーク化 ▶ 制御要素に情報処理要素が複合 ▶ コンピュータ制御による高機能化・高付加価値化 ネットワーク接続とクラウド連携の拡大 ▶ 組込みシステムと情報システムを結合した大規模なシステ ム(統合システム,CPS,IoT)の構築が重要に 組込みシステムの適用分野が拡大 ▶ コンピュータの小型化・低価格化により広がる適用分野 開発期間の短縮やコストダウンに対する要求 ▶ 新興国との競争の中で今まで以上のコストダウン要求 (単一の)プロセッサの高速化の限界 ▶ 消費電力(=発熱量)が最大の制約条件に Hiroaki Takada 12 ⽇日本のものづくりの強み・弱み 組込みシステム/ソフトウェア開発の課題 設計品質/ディペンダビリティの確保/向上 ▶ システムの大規模化・複雑化により,ディペンダビリティ(信 頼性,安全性,セキュリティ,…)の確保が困難に ▶ コンピュータ制御する領域の拡大により,これまで以上に 高い信頼性・安全性が要求されるケースが増加 ▶ By-wireシステム,自動運転,… ▶ ネットワーク接続の拡大により,セキュリティの確保(安全性 とセキュリティの両立)が大きな課題に 開発の効率化(生産性の向上) ▶ システムの複雑化や品質要求により,開発効率が低下 ▶ 開発効率と実行時性能(オーバヘッド)のトレードオフ Hiroaki Takada 13 ⽇日本のものづくりの強み・弱み 新しいハードウェア技術への対応 ▶ 電力あたりの性能向上のために,マルチ/メニーコア, GPGPU,FPGAなど,新しいハードウェア技術の導入が必 要に 統合システム開発に求められる技術 ▶ クラウドと組込みシステムの役割分担(ディペンダビリティ 要求も含めて)・機能配置の最適化技術 ▶ 統合システムモデリング技術とそれを用いた(上流で の)検証技術,それを支援するツール ▶ 機能配置を柔軟に変更できるようなプラットフォーム ▶ ビッグデータの解析結果の圧縮(集約)技術 その背景にある深刻な問題 ! 余っているのは⼈人⼿手 組込みシステム技術者 (⼈人財) 不不⾜足 Hiroaki Takada 14 ⽇日本のものづくりの強み・弱み クラウドと組込みシステムの役割分担 ! 集中処理(現在のクラウド) vs. 分散処理は繰り返す歴史 クラウドはエネルギー効率が低い(はず) ▶ 高性能な計算機(サーバ)は,低性能な計算機(例えば, モバイル端末)よりも,エネルギー効率が低い ▶ データを運ぶのに要するエネルギーも大きい ▶ 通信が高速化しても,通信データ量を抑えることは重要 → ビッグデータを必要としない処理は,分散処理(つまり,組 込みシステムで処理)した方が合理的 ディペンダビリティとリアルタイム性の確保 ▶ 大規模な統合システム全体を,高い信頼性で構築するの は極めて難しい.リアルタイム性保証も容易ではない ▶ 安全性やリアルタイム性にかかわる部分は,組込みシステ ム単独で担保するのが有力なアプローチ Hiroaki Takada 15 ⽇日本のものづくりの強み・弱み Googleのデータセンター データセンター内のカラフルな配管 立ち上る水蒸気 ⇒ http://www.google.com/about/ datacenters/gallery/ Hiroaki Takada データセンター内のサーバ群 16 ⽇日本のものづくりの強み・弱み ルータの消費電力 ▶ このままインターネットの通信量が増え,かつルータのエネ ルギー効率が変わらないと,2020年代にはルータの消費 電力が全発電電力を超える ルータの国内総消費電力の調査結果と予測 ※ http://www.aist-victories.org/jp/about/outline.html より Hiroaki Takada 17 ⽇日本のものづくりの強み・弱み 組込みシステムの開発効率率率化と品質確保のために すぐにできること ▶ ソフトウェア開発プロセスの地道な改善 ▶ CMMI,SPICE,機能安全規格等が参考に ▶ 取り組みにあたっては注意が必要 … 後述 ! 人材育成 … 時間はかかるが着手はすぐにできる 中期的に取り組むべきこと ▶ 設計抽象度を上げる&設計の早い段階での検証 ▶ モデルベース/モデル駆動開発の流れ ▶ 仮想環境(シミュレーション)の活用 ▶ 設計資産の再利用を促進する仕組みの構築 ▶ 差分開発が中心の組込みシステム開発では特に重要 ▶ 応用分野毎のプラットフォームの構築・活用と共通化 ▶ プラットフォーム=ハードウェア+OS+ミドルウェア Hiroaki Takada 18 ⽇日本のものづくりの強み・弱み ⽇日本の組込みソフトウェア開発の⽴立立ち位置 苦しいこと ▶ 高い人件費(円安でやや緩和) ▶ 組込みソフトウェアの世界でもオフショアの流れ ▶ 日本のソフトウェア開発コストは本当に高いのか?(人 月あたりの人件費が高いのは確かだが…) ▶ 基本的には,先進国全体の課題 ▶ 技術者(人財)不足 ▶ 理系離れ,情報系離れ ▶ ソフトウェア開発に理解のない経営トップ ▶ ……グチを言い出すとキリがない…… 優位点 ▶ 日本で開発されたソフトウェアの品質が高いのは確かであ るように思われる Hiroaki Takada 19 ⽇日本のものづくりの強み・弱み ⽇日本のソフトウェア開発は品質が⾼高いか? ソフトウェアの不具合による自動車のリコール件数 ▶ 国土交通省自動車交通局による自動車のリコール届出内 容の分析結果(平成15年度〜平成22年度)から,国産車/ 輸入車のリコール届出の原因別総件数と,その内プログラ ムミスによるものを集計 少し気掛かり 年年度度 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 国産⾞車車のリコール 届出原因別総件数 277 上の内,プログラ ムミスによるもの 3 1 3 2 1 4 4 7 (1%) (0%) (1%) (1%) (0%) (2%) (2%) (3%) 輸⼊入⾞車車のリコール 届出原因別総件数 上の内,プログラ ムミスによるもの Hiroaki Takada 94 233 100 248 91 229 99 240 101 261 91 205 84 255 96 2 3 6 10 9 5 4 4 (2%) (3%) (7%) (10%) (9%) (5%) (5%) (4%) 20 ⽇日本のものづくりの強み・弱み ⽇日本のものづくりの強みと弱み 〜~3つの観点から議論論〜~ Hiroaki Takada 21 ⽇日本のものづくりの強み・弱み 製品アーキテクチャと⽐比較優位 組み合わせ型とすり合わせ型 ▶ 製品のアーキテクチャには,組み合わせ型(モジュラー)と すり合わせ型(インテグラル)がある ▶ すり合わせ型は,機能要素(または品質特性)と構造要素 (部品)が多対多に対応し,部品間の関連が強い(部品設 計のすり合わせが必要) 組み合わせ型(例:パソコン) すり合わせ型(例:自動車) 走行 安定性 演算 マザーボード 表示 ディスプレイ 乗り心地 記憶 ハードディスク 燃費 サスペンション ボディ エンジン 藤本隆宏著:「日本のもの造り哲学」より(一部修正) Hiroaki Takada 22 ⽇日本のものづくりの強み・弱み クローズド型とオープン型 ▶ 組み合わせ型はさらに,社内共通部品を組み合わせる場 合(クローズド型,囲い込み型)と,業界標準部品を組み合 わせる場合(オープン型,業界標準型)に分けられる すり合わせ ー 自動車 オートバイ 軽薄短小型家電 ゲームソフト 組み合わせ メインフレーム 工作機械 レゴ 製品アーキテクチャの遷移 ー パソコンシステム パソコン本体 インターネット製品 自転車 藤本隆宏著:「日本のもの造り哲学」より(一部修正) Hiroaki Takada 23 ⽇日本のものづくりの強み・弱み アーキテクチャの比較優位 ▶ 日本企業はすり合わせ型の製品が得意 (仮説) ▶ 日本のものづくり企業は,すり合わせ型の製品が得意 である(測定手法が確立していないため仮説) ▶ 日本企業が戦後培ってきた統合型ものづくりの組織能 力と相性がよいためとされている ▶ 各国の得意なアーキテクチャ(ラフな議論) ▶ 日本:統合力 ⇒ すり合わせ(オペレーション重視) ▶ 米国:構想力 ⇒ オープン・組み合わせ(知識集約型) ▶ 中国:動員力 ⇒ オープン・組み合わせ(労働集約型) ▶ 韓国:集中力 ⇒ オープン・組み合わせ(資本集約型) ▶ 欧州:表現力 ⇒ すり合わせ(デザイン・ブランド重視) è その国の得意製品につながる 藤本隆宏著:「日本のもの造り哲学」より(一部修正) Hiroaki Takada 24 ⽇日本のものづくりの強み・弱み 組込みソフトウェアと擦り合わせ ソフトウェア技術の特性 ▶ ソフトウェアには物理的な形がないため,組み合わせ型に も擦り合わせ型にもなりうる ▶ 放置すると,擦り合わせ型になる傾向 ▶ それを組み合わせ型にしようという努力が,モジュラープロ グラミング 組込みソフトウェアは擦り合わせ型(に近い) ▶ 次のような非機能制約は,ソフトウェアモジュールと1対1に 対応しない(対応させるのが難しい) ▶ リアルタイム制約 モジュール化するのが ▶ メモリ制約 難しい特性 ▶ 消費電力制約 ▶ 高信頼性・安全性 Hiroaki Takada 25 ⽇日本のものづくりの強み・弱み 組込みシステムが擦り合わせ型である傍証 ▶ 組込みシステムの要素技術が極めて多様であることは,擦 り合わせが行われている証拠 ▶ 多くの種類のプロセッサ ▶ 多くの種類のOS ▶ 多くの種類のネットワーク ! 汎用コンピュータ技術と対照的 ▶ 組込みシステムでは,ハードウェア/ソフトウェア協調設計 が行われることがあるが,これはまさにハードとソ フトの設 計を擦り合わせる必要性を示す 機器の擦り合わせ要素は組込みソフトウェアに集約? ▶ メカのコンピュータ制御が進むと,メカは共通化され,組込 みソフトウェアで違いを出すようになる可能性 例)電子制御サスペンション Hiroaki Takada 26 ⽇日本のものづくりの強み・弱み 技術者の品質意識識/⼠士気に⽀支えられた品質 日本のものづくりはなぜ品質が高いのか? (製造ではなく)設計にしぼって議論 ▶ 日本で開発されている組込みソフトウェアの品質は,確か に高いように思われる(確証はないが…) ▶ ユーザの品質要求が高いことが一つの理由(が,結果論 のようにも思われる) なぜ高い品質のものづくりができるのか? ▶ 日本のソフトウェア開発プロセスやプロジェクト管理が立派 とはとても思えないし,技術者の教育レベルが他国に比べ て特に高いわけでもない ▶ 技術者の品質意識や士気(morale)に支えられているとし か考えられない 学生を見ていると非常に不安 Hiroaki Takada 27 ⽇日本のものづくりの強み・弱み 日本の技術者はなぜ品質意識/士気が高いのか? ▶ 日本のものづくり現場では,研究者/設計者であっても,製 品に問題があった場合には,ものづくりの現場までフォ ローさせられる(対して欧米のものづくりは…) è これを一度経験すると,品質意識が高まる (チームの中で誰かが経験すれば十分) ▶ すり合わせ型の開発体制 ▶ 隣の部署との仕事の境界が曖昧 ▶ 悪く働くと,無責任体制による品質低下を招く ▶ うまく働くと,すり合わせによる最適設計や高品質化に 貢献(cf. 多能工による改善) ▶ さらにこの理由として,単一民族※・島国であること ▶ 口に出して言わなくても通じる(ことが尊重される) ▶ 明確な役割分担や契約が重要視されない ※ アイヌ民族等の少数民族の存在を認めないものではありません Hiroaki Takada 28 ⽇日本のものづくりの強み・弱み その裏裏返しの弱み 品質の低いものづくりができない ▶ ユーザ要求を超える品質を実現し,過剰品質(その結果と して高コスト・長い開発期間)の罠に陥ることが多い ▶ 日本にツールベンダが育たない皮肉な理由 品質の説明能力が低い ▶ 品質が高いことを説明する能力が低い 仕事の外注・オフショア開発ができない ▶ すり合わせ型開発をしていると,仕事の外注やオフショア 開発に弱い ▶ 暗黙知が多い(社内用語,会社独特のやり方) ▶ 仕様書を書く能力が低く,仕様書に抜けが多い è うまく国際分業できない Hiroaki Takada 29 ⽇日本のものづくりの強み・弱み すり合わせと過剰品質 ▶ 過剰なすり合わせは,過剰品質・高コストにつながる 品 質 ユーザ要求 クリステンセン,レイナー著: 「イノベーションへの解」より (一部修正) 時間 ▶ 組み合わせ型の製品に追い付かれないためには,ユーザ 要求を引き上げる必要がある ▶ 日本の携帯電話機は海外では売れていない.製品だ けではなく,文化(使い方)ごと輸出しなければならない ▶ ユーザ要求が下がってしまった例もある Hiroaki Takada 30 ⽇日本のものづくりの強み・弱み 部分から全体へ 日本の芸術(特に建築?)の特徴 [1] ▶ 日本の芸術は,部分から全体へという順序で(つまり,ボト ムアップに)設計されることが多い ▶ 江戸時代の武家屋敷 ▶ 宮崎駿の映画 ▶ 三鷹の森ジブリ博物館 ▶ できたものは建て増し構造(的)になる ▶ チームで仕事をするのが難しくなる そう言われてみれば… ▶ 我々が開発したリアルタイムOSは,部分(タスク切換え処 理の呼び出し方法)の設計から始めた ▶ (もちろん)工業製品と芸術を一緒にしてはいけないが⋯ [1] 鈴木敏夫著:「映画道楽」より Hiroaki Takada 31 ⽇日本のものづくりの強み・弱み ボトムアップな品質確保と過剰品質 ▶ 日本のものづくりの品質も,ボトムアップに作り込まれてい るのでは? ▶ それが過剰品質につながっている可能性はないか? 例)機能安全規格対応のために日本企業に不足しているもの ▶ 統一的な(トップダウンの)安全コンセプトがないか,あった としても整理されていない ▶ 安全性確保がボトムアップ(FMEA的)に行われている ことが1つの原因 ▶ トップダウンの安全コンセプトは,コスト効率の高い安全性 の実現につながるのでは? ▶ 安全目標を設定し,それを満たすためのシステム構成 を検討する中で,システムのどの要素が安全目標の実 現に重要であるか(逆に,どの要素は重要でないか)が 明確になる ▶ これは,過剰品質を防ぐために役立つものと思われる Hiroaki Takada 32 ⽇日本のものづくりの強み・弱み ⽇日本のものづくりが進むべき⽅方向性 Hiroaki Takada 33 ⽇日本のものづくりの強み・弱み ⽇日本のものづくりの進むべき⽅方向性 ! 自社のものづくりの強みと弱みを理解し,弱いところをカ バーしつつ,強いところを活かす 日本のものづくりの弱み(整理) ▶ 組み合わせ型の製品が苦手 ▶ 品質の低いものづくりができない ▶ 品質の説明能力が低い ▶ 仕事の外注・オフショア開発ができない ▶ トップダウンな設計が苦手 大きい流れ:組み合わせ型へ ▶ システム(製品,サービス)の高機能化・大規模化・複雑化 が進行する中で,組み合わせ型のアーキテクチャへの転 換なしには,開発が立ち行かなくなる状況 Hiroaki Takada 34 ⽇日本のものづくりの強み・弱み 適正な品質のものづくり ユーザ要求に合致した品質の実現 ▶ 品質の高さがユーザに評価されるような製品分野に注力 する ▶ そういう分野は狭まっている? è ニッチビジネスに? ▶ 高品質が求められる分野・状況を創出することが重要 ▶ 適正な品質(ユーザが求める品質と,それに見合ったコス ト・期間)でものづくりをする能力を鍛える 品質にメリハリをつける ▶ 重視すべき品質特性と手を抜いてよい品質特性がある ▶ 手を抜いてよい品質特性を明確にすべき 考え方の転換も必要 ▶ 品質第一という考え方が邪魔をしている可能性はない か? Hiroaki Takada 35 ⽇日本のものづくりの強み・弱み 苦⼿手の克服 品質の説明能力を高める ▶ 規格(例:機能安全規格)への対応や第3者認証の取得, 第3者検証の実施は1つの方策 ▶ ただし,規格への対応や認証取得が目的化してはならな い(あくまでも手段である) 組み合わせ型アーキテクチャのトップダウンの構築 ▶ 日本が苦手とする,組み合わせ型アーキテクチャのトップ ダウン(全体から部分へ)の構築にどう取り組むか? ▶ なぜ苦手なのか? ▶ お客さまを大事にしすぎ?(少数要求が捨てられない) ▶ プロジェクトマネージャとアーキテクトの未分離?(専門 職技術者の軽視) Hiroaki Takada 36 ⽇日本のものづくりの強み・弱み 強いところを活かす 強いと思われるところ ▶ 擦り合わせ型製品の開発能力は(一段階)高い ▶ 技術者の品質意識/士気が高い ▶ 建て増し構造のものを開発する能力もある(ようだ) それを活かすための一アプローチ ▶ 擦り合わせ型でないと要求品質が出せない部分を見極める ! 組み合わせで十分なところは組み合わせ型で,それで は不十分なところは擦り合わせ型で ▶ 擦り合わせ部分をコア資産とし,ボトムアップに構築 ▶ 組み合わせ型のアーキテクチャの中に,擦り合わせがで きる仕組み(余地)を入れて(残して)おく ▶ 技術者の品質意識/士気を向上させる開発プロセス Hiroaki Takada 37 ⽇日本のものづくりの強み・弱み ⽇日本に向いた開発プロセスと⼈人材育成 ▶ 開発プロセスは,技術者の品質意識/士気を損うもので 真の品質・安全性 あってはならない.向上させるものであるべき ▶ 技術者の品質意識/士気を向上させるには,技術者に開 発プロセスの意義を理解させ,改善の余地を持たせるべき 例) ISO 9000・IEC 61508-3・ISO 26262-6への対応方針 目指すべき姿 最低限の姿 最悪の姿 欧州のアプローチ 証明できる品質・安全性 Hiroaki Takada 開発プロセスに よる証明 38 ⽇日本のものづくりの強み・弱み 例例)ドキュメントのトレーサビリティ 何を追跡できるようにするのか?(機能安全規格での要求) ▶ 要求−設計−プログラムの間の関係 ▶ 要求/設計/プログラムと検証項目の間の関係 検証項目:レビュー項目,テスト項目,… トレーサビリティの目的 ▶ 設計変更時の影響分析 ▶ 設計・検証に漏れがないことをわかり易く示す → 第3者による検証・妥当性確認を実施する場合(認証 を得る場合を含む)には必須 トレーサビリティの手法(の1つ) ▶ ドキュメント中の記載事項やプログラム片にタグ(要求タグ) を付与し,要求タグ間の関係を管理する Hiroaki Takada 39 ⽇日本のものづくりの強み・弱み ⽇日本のソフトウェア開発が進むべき2つの⽅方向性 高いコストに見合う高い付加価値の創造(守らなくっちゃ) ▶ 高い品質が求められる分野で勝負する 例) 人の命のかかったシステム/ソフトウェア … マイクロソ フトもインテルも逃げている ▶ 新しい分野で勝負する ▶ 統合システム(融合システム)はチャンスでは? 適切な品質を適切なコストで実現(変わらなくっちゃ) ▶ 組み合わせ型アーキテクチャのトップダウンの構築力を鍛 える ▶ マネージャも大事だが,アーキテクトはもっと重要 ▶ アーキテクトに求められるもの ▶ 美的センスとバランス感覚 ▶ そのためには,多くのシステム/ソフトウェアを見ること Hiroaki Takada 40 ⽇日本のものづくりの強み・弱み おわりに Hiroaki Takada 41 ⽇日本のものづくりの強み・弱み 今,危機感を持って取り組んでいること ソフトウェアプラットフォーム(SPF,広い意味でのOS)は日本 が弱い分野 ▶ PC向け:Windows,MacOS,Linux ▶ スマホ向け:Android,IOS ! すべて海外製… ! SPFが海外製になると,それを使った製品の競争力も… 車載組込みシステムのSPFが危ない ▶ 車載組込みシステムの分野でも,ソフトウェアの複雑化に 伴い,SPFの必要性が高まっている ▶ 今,力を入れて取り組まないと,車載組込みシステム向け のSPFもすべて海外製になりかねない ! 日本の最重要産業である自動車分野でそれが起こると… Hiroaki Takada 42 ⽇日本のものづくりの強み・弱み APコンソーシアム ※ AP = Automotive Platform 正式名称 ▶ 車載制御システム向け高品質プラットフォームに関するコ ンソーシアム型共同研究 コンソーシアム型共同研究とは? ▶ 名古屋大学 大学院情報科学研究科 附属組込みシステ ム研究センター(NCES)が設定した研究開発テーマに, 複数の企業の参加を得て研究・開発を進める共同研究 実施内容 ▶ AUTOSAR仕様をベースとして,高品質な車載制御システ ム向けソフトウェアプラットフォーム(SPF,広い意味での OS)に関する研究開発を行う ▶ 過去の成果をベースに,品質向上・開発範囲拡大を行う 実施期間 ▶ 2014年度に開始.3年程度の継続実施を予定 Hiroaki Takada 43 ⽇日本のものづくりの強み・弱み APコンソーシアムの参加企業(25社) ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ アイシンコムクルーズ(株) イーソル(株)* (株)ヴィッツ (株)永和システムマネジメント† SCSK(株) (株)OTSL† オムロン オートモーティブエレ クトロニクス(株)† (株)サニー技研 (株)ジェイテクト * スズキ(株) (株)デンソー * (株)東海理化電機製作所 * (株)東芝 Hiroaki Takada *は部分参加 †はオブザーバ参加 ▶ (株)豊田自動織機 ▶ (株)豊通エレクトロニクス† ▶ 日本電気通信システム(株) ▶ パナソニック(株)† ▶ パナソニック アドバンストテク ノロジー(株) ▶ 富士通テン(株) ▶ 富士ソフト(株) ▶ マツダ(株)† ▶ ルネサス エレクトロニクス(株) ▶ 矢崎総業(株) ▶ ヤマハ発動機(株)† ▶ 菱電商事(株)† 44
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