日本経済ウォッチ(2015 年 3 月号)

2015 年 3 月 9 日
調査レポート
日本経済ウォッチ(2015 年 3 月号)
【目次】
1.今月のグラフ ·································································· p.1
~イベントは消費を押し上げるか?
2.景気概況······································································· p.2
~景気は緩やかに持ち直している
3.今月のトピック:過熱する採用・就職活動
···················································································· p.3~11
(1)新卒者を取り巻く雇用環境は改善
(2)企業、学生とも負担は増す
(3)スケジュールの変更で実質的に長期化
(4)タイミング格差による不公平
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社
調査部●●主任研究員 小林 真一郎
調査部●●●●研究員 尾畠 未輝●
あああああああああ調査部〒105-8501 東京都港区虎ノ門 5-11-2
TEL:03-6733-1070
ご利用に際しての留意事項を最後に記載していますので、ご参照ください。
(お問い合わせ) 調査部 TEL:03-6733-1070
1.今月のグラフ ~イベントは消費を押し上げるか?
小売業界にとって、様々なイベントは消費を喚起させるために欠かせない存在だ。最近ではハ
ロウィンや節分なども賑わいをみせるようになった。
中でも、クリスマスは年末年始に次いで最も消費が盛り上がる時期だ。例えば、総務省「家計
調査」をみると、2 人以上勤労者世帯(除く農林漁家)におけるケーキへの支出金額は、12 月は
他の月と比べて圧倒的に多い。2014 年は、1~11 月の月平均金額は 615 円であったのに対し、12
月は 1,628 円と約 2.6 倍であり、とくに支出は 23 日(祝)~25 日(木)に集中していた(図表
1)。もっとも、少子化の進行もあって、12 月のケーキへの支出金額は 1990 年代前半以降、減少
傾向が続いている。また、他の月の平均に対する倍率は、1980 年以降、約 2.4~2.9 倍で横ばい
であり、消費を下支えしても押上げ効果は既にはく落してしまったことが分かる。
また、2 月 14 日のバレンタインも、わが国ではチョコレートを贈る習慣があることから、小
売業界にとっては重要なイベントだ。日本チョコレート・ココア協会によると、製菓会社や百貨
店などの企業がチョコレートを積極的に売り出し始めたのは、1960 年代後半からとされている。
実際、統計で遡ることが出来る 1975 年以降をみると、2 月のチョコレート(含むチョコレート
菓子)に対する支出は、均してみると増加傾向が続いている(図表 2)。とくに、1990 年頃まで
は、他の月の平均に対する倍率は上昇しており、1992 年は 2 月の支出金額が他の月の 5.5 倍に
も上っていた。しかし、その後は、消費者の生活スタイルや嗜好が変化したことで、2 月以外の
月についてもチョコレートに対する支出が増加したため、2 月の相対的な倍率は低下傾向にある。
あるイベントが盛り上がり始める当初は、特定の業界や商品の消費をけん引する効果をもつ。
しかし、一定程度浸透してしまった後は、追加的に需要を喚起させる効果は徐々にはく落してし
まう上、そもそも消費全体に対する押上げ寄与はわずかに過ぎない。また、イベントを控えて他
の支出を抑制することになれば、イベントによる消費の押上げ効果はさらに限定されてしまう。
(尾畠
図表 1:ケーキに対する支出(12 月)
2100
(円)
実額
図表 2:チョコレートに対する支出(2 月)
(円)
(倍)
6 1800
他の月の平均に対する倍率
1800
5
1500
4
1200
3
900
2
600
300
1975 80
85
90
95 2000 05
10
(注)2人以上・勤労者世帯(除く農林漁家) (年)
(出所)総務省「家計調査」
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(倍)
金額
他の月の平均に対する倍率
6
1500
5
1200
4
900
3
600
2
300
1
0
0
1
0
1975 80
85
90
95 2000 05
10
(注)2人以上・勤労者世帯(除く農林漁家) (年)
05年以降はチョコレート菓子を含む
(出所)総務省「家計調査」
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未輝)
2.景気概況~景気は緩やかに持ち直している
景気は緩やかに持ち直している。昨年 10~12 月期の実質GDP成長率(2 次速報)は前期比+0.4%
(年率換算+1.5%)と 3 四半期ぶりにプラスとなり(1 次速報の前期比+0.6%、年率換算+2.2%
から下方修正)、景気が持ち直しに転じていることが確認された。しかし、2 四半期連続でマイナス
となった後の伸びとしては小幅であり、設備投資が 3 四半期連続でマイナスとなるなど中身も力強
さに欠ける。もっとも、月次の経済指標から判断すると、年明け以降は、持ち直しのペースがやや
高まってくる可能性がある。
1 月の鉱工業生産指数は、一般機械類、輸送用機械などの増加を受けて、前月比+4.0%と堅調に増
加した。8 月をボトムにして上昇基調にあり、生産の回復が鮮明となってきた。製造業生産予測指
数では 2 月は同+0.2%と横ばいにとどまり、3 月には同-3.2%と減少する計画であり、足元まで
の勢いが鈍化する可能性がある。しかし、予測指数通りであれば 1~3 月期は前期比+3.4%と 2 四
半期連続での増加が期待され、均してみれば回復基調が維持される見込みである。
輸出も増加基調を維持しており、1 月は実質輸出(前月比+5.0%)、輸出数量指数(同+5.7%)と
もに前月比で大幅なプラスとなった。米国を中心に海外経済が持ち直していることや、円安の進行
により輸出環境の好転が続いていることが、その背景にある。ただし、中国の春節を控えて輸出が
前倒しされたなど一時的な押し上げ効果である可能性もあり、2 月以降、伸び率は落ち着いてくる
であろう。
また、設備投資の先行指標である機械受注(船舶・電力を除く民需)は、12 月には前月比+8.3%
と順調に増加した。10~12 月期では前期比+0.4%と 2 四半期連続で増加しており、1~3 月期の見
通しも同+8.3%と増加が続くと見込まれている。設備投資も、今後は増加が期待できそうだ。
賃金は上昇基調が定着化しており、1 月の一人当たりの現金給与総額(速報値)は前年比+1.3%と
11 カ月連続で増加した。また、雇用情勢は良好な状態を維持している。1 月の完全失業率は 3.6%
に上昇したものの、均してみれば低水準にあり、同月の有効求人倍率も 1.14 倍と高い水準にある。
こうした雇用・所得情勢の持ち直しを受けて、個人消費も緩やかに持ち直しつつある。1 月の家計
調査の 2 人以上世帯の実質消費支出が前月比-0.3%と 5 カ月ぶりに減少に転じたが、趨勢的には
緩やかな持ち直しが続いているといえる。
個人消費にとってプラス材料となるのが物価の安定である。1 月の消費者物価指数(生鮮食品を除
く総合)の前年比の伸び率は、エネルギー価格の下落などを背景に前年比+2.2%まで縮小した。
原油価格は下げ止まっているが、水準は大きく切り下がったままであり、エネルギー価格の下落を
通じて、来年度初めにかけて前年比の伸び率はさらに縮小する見込みである。日本銀行のインフレ
ターゲット達成の可能性は一段と後退するが、個人消費にとっては明るい材料である。
(小林
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真一郎)
3.今月のトピック: 過熱する採用・就職活動
景 気 の 持 ち 直 し を 受 け て 、雇 用 環 境 は 改 善 が 続 い て い る 。労 働 需 給 が タ イ ト 化 す る 中 、企
業の新卒採用も活発化しているが、学生の就職活動は一段と厳しさを増している。
足 元 で は 今 年 も 採 用・就 職 活 動 が 本 格 化 し て い る が 、そ の 現 状 と 問 題 に つ い て 考 え て み た 。
(1)新卒者を取り巻く雇用環境は改善
2008 年 9 月 に 起 こ っ た リ ー マ ン・シ ョ ッ ク に よ っ て 雇 用 情 勢 は 急 激 に 悪 化 し た が 、そ の し
わ 寄 せ は と く に 若 年 層 に 集 中 し た 。総 務 省「 労 働 力 調 査 」に よ る と 、2009 年 の 完 全 失 業 率 は
5.1% に ま で 高 ま っ た が 、 15~ 19 歳 で は 9.6% 、 20~ 24 歳 で は 9.0% 、 25~ 29 歳 で は 7.1%
と 、い ず れ も 平 均 値 を 大 き く 上 回 っ て い た( 図 表 1)。こ れ は 、既 に 抱 え て い る 雇 用 者 を 減 ら
す こ と に 比 べ 比 較 的 容 易 な た め に 、新 卒 採 用 が 急 激 に 絞 り 込 ま れ た た め で あ る 。ま た 、一 部
で は 既 に 内 定 済 み で あ っ た 学 生 に 対 し 内 定 取 り 消 し を 行 う 企 業 も あ り 、当 時 は 社 会 問 題 と な
った。
し か し 、そ の 後 は 景 気 が 持 ち 直 し 傾 向 を 維 持 し た こ と を 背 景 に 、雇 用 情 勢 も 改 善 が 続 い た 。
2014 年 の 完 全 失 業 率 は 3.6% に ま で 低 下 し 、15~ 29 歳 の 失 業 率 も 全 体 と 比 べ る と 水 準 は 高 い
も の の 6% 前 後 ま で 下 が っ た 。
図 表 1. 年 齢 別 に み た 完 全 失 業 率
14
(%)
全体
12
10
15~19歳
20~24歳
25~29歳
8
6
4
2
0
1980
85
90
95
(出所)総務省「労働力調査」
2000
05
10
(年)
雇 用 環 境 の 順 調 な 改 善 を 経 て 、足 元 で は 労 働 需 給 が タ イ ト 化 し て い る 。一 部 の 業 種 や 職 種
で は 人 手 不 足 が 定 着 し 、企 業 の 新 卒 に 対 す る 採 用 意 欲 も 高 ま っ た 。文 部 科 学 省 お よ び 厚 生 労
働 省 の 調 査 結 果 に よ る と 、 12 月 1 日 時 点 の 大 学 卒 の 内 定 率 は 、 過 去 最 低 だ っ た 2010 年 の
68.8% か ら 、2014 年 は 80.3% に ま で 上 昇 し て い る( 図 表 2)。高 校 卒 に つ い て は 、11 月 末 時
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点 の 内 定 率 は 84.2% と 、 2000 年 代 半 ば の 景 気 拡 張 期 の 水 準 を 上 回 り 、 20 年 ぶ り の 高 さ と な
っている。
図 表 2. 内 定 率
95
(%)
90
85
80
75
70
65
60
高校卒
55
大学卒
50
1988 90
92
94
96
98 2000 02
04
06
08
10
(注)大学卒は前年12月1日時点、高校卒は前年11月末現在
(出所)文部科学省・厚生労働省
12 14
(各年3月卒)
ま た 、 日 本 銀 行 「 全 国 企 業 短 期 経 済 観 測 調 査 」( 日 銀 短 観 ) で み て も 、 企 業 の 新 卒 採 用 に
対 す る 前 向 き な 姿 勢 が う か が え る ( 図 表 3)。 2011 年 度 以 降 、 新 卒 採 用 の 実 績 ( 2014 年 度 は
実 績 見 込 み )は 増 加 が 続 い て お り 、2015 年 度 の 計 画( 2014 年 12 月 調 査 時 点 )も 前 年 度 比 +
6.5% と 増 え る 見 通 し だ 。
図 表 3. 新 卒 者 採 用 状 況
28
(万人)
26
大企業
24
中小企業
22
20
18
16
14
12
10
1998
2000
02
04
06
08
10
12
(注)98~02年度、14年度は実績見込み、03~13年度は実績、
2015年度は12月調査の値
(出所)日本銀行「全国企業短期経済観測調査」
14
(年度)
規 模 別 に み る と 、と く に 中 小 企 業 で 伸 び が 目 立 つ 。大 企 業 で は 、リ ー マ ン ・ シ ョ ッ ク 後 に
大 き く 落 ち 込 ん だ 後 、11 年 度 か ら は 増 加 が 続 い て い る が 、15 年 度 の 水 準 は 2000 年 半 ば と 比
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べ る と 2 割 以 上 低 い 。 一 方 、 中 小 企 業 で は 、 15 年 度 は ピ ー ク だ っ た 2007 年 度 の 水 準 を 上 回
り 、 調 査 が 開 始 さ れ た 1998 年 度 以 降 で 最 高 と な っ て い る 。 雇 用 の 過 不 足 感 を 示 す 雇 用 判 断
DIは、中小企業では製造業および非製造業とも大幅なマイナス(不足超)が続いており、
人手不足が定着する中、新卒採用を含めた労働力の確保に積極的だ。
(2)企業、学生とも負担は増す
若 年 層 を 取 り 巻 く 雇 用 環 境 は 順 調 に 改 善 し て い る に も か か わ ら ず 、学 生 の 就 職 活 動 は 年 々
厳 し さ を 増 し て い る 。当 社 が 毎 年 春 に 実 施 し て い る「 新 入 社 員 意 識 調 査 」の ア ン ケ ー ト 結 果
で は 、2014 年 度 の 新 入 社 員 の 就 職 活 動 に 対 す る 感 想 は 、
「とても大変だった」
( 23.8% )と「 大
変 だ っ た 」( 45.6% )と い う 回 答 が 過 半 数 を 超 え 、そ の 割 合 は 2013 年 度 よ り も 上 昇 し た ( 図
表 4)。 売 り 手 市 場 で あ っ て も 、 学 生 の 就 職 活 動 は 決 し て 楽 で は な い 。
図 表 4. 2014 年 度 新 入 社 員 の 就 職 活 動 の 感 想
0%
20%
40%
60%
80%
100%
2013年度
22.9%
23.3%
41.3%
8.3% 4.2%
2014年度
6.7% 2.8%
21.1%
楽 とても
どちらでも
なかった だった 楽
(出所)三菱UFJリサーチ&コンサルティング
だった
「2014年度新入社員意識調査アンケート結果」
23.8%
とても 大変だった
45.6%
大変だった
背 景 に は 、少 子 化 の 進 行 に 反 し て 、大 学 や 大 学 院 の 卒 業 者 数 は 増 え 続 け て い る こ と が あ る 。
高 校 や 大 学 ・ 大 学 院 を 卒 業 す る 世 代 の 中 心 で あ る 18~ 25 歳 の 人 口 は 、 1990 年 代 前 半 を ピ ー
ク に 、足 元 ま で 一 貫 し て 減 少 し て い る( 図 表 5)。ピ ー ク の 1994 年 か ら は 年 平 均 30 万 人 程 度
の ペ ー ス で 減 り 続 け 、 2013 年 に は 1000 万 人 を 割 っ た 。
一 方 、高 学 歴 化 の 流 れ の 中 、高 校 か ら 大 学 へ の 進 学 率 が 上 が っ た こ と を 受 け て 、 大 学 ・ 大
学 院 の 卒 業 者 数 は 増 え 続 け て い る 。文 部 科 学 省「 学 校 基 本 調 査 」に よ る と 、大 学 ・ 大 学 院 の
卒 業 者 数 は こ の 30 年 間 で お よ そ 倍 に な り 、2014 年 3 月 卒 の 人 数 は 66.2 万 人 に ま で 増 加 し た 。
こ の 結 果 、高 校 を 卒 業 し て 就 職 し た 人 は 、1990 年 代 に 急 激 に 減 っ た 後 、足 元 ま で 緩 や か な 減
少 傾 向 が 続 い て い る 一 方 、 大 学 に 進 学 し て か ら 就 職 し た 人 は 増 加 傾 向 が 続 い て い る 。 2014
年 3 月 に 大 学 ・ 大 学 院 を 卒 業 し た 就 職 者 は 64.0 万 人 と 、 前 年 か ら 1.6 万 人 増 加 し 過 去 最 高
と な っ た 。採 用 枠 が 増 え て も 、そ れ を 上 回 っ て 就 職 希 望 者 が 増 加 し て い る 状 態 で あ り 、こ の
結果、とくに大学や大学院生にとっては、競争が激しくなった。
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図 表 5. 18~ 25 歳 人 口 と 卒 業 者 の う ち 就 職 者 数
90
(万人)
(万人)
1800
80
1600
70
1400
60
1200
50
1000
40
800
30
600
20
就職者(高校卒)
就職者(大学・大学院卒)
18~25歳人口:右軸
10
0
400
200
0
1970
85
90
95
2000
05
10
75
80
(年)
(注)18~25歳人口は10月1日時点、15年は推定、就職者は各年3月卒
(出所)文部科学省「学校基本調査」、総務省「人口推計」
さ ら に 、一 般 的 な 採 用 活 動 の 対 象 の 中 心 で あ る 大 学 生 ・ 大 学 院 生 が 増 え て い る た め 、企 業
に と っ て も 自 社 に 適 し た 人 材 を 見 つ け 出 す こ と が 困 難 に な っ て い る 。新 卒 を 取 り 巻 く 雇 用 環
境 が 改 善 し 始 め た 頃 は 、企 業 は「 量 よ り 質 」 を 求 め る 傾 向 が 強 か っ た 。し か し 、景 気 の 持 ち
直 し を 受 け て 労 働 需 給 が タ イ ト 化 す る 中 、「 質 」 の 維 持 に 加 え て 「 量 」 の 確 保 も 迫 ら れ る よ
う に な っ た 。企 業 を 取 り 巻 く 経 営 環 境 が よ り 厳 し く な っ て い る 中 で は 、コ ス ト 抑 制 姿 勢 は 根
強 く 、恒 久 的 な 人 件 費 の 増 加 に 繋 が る 新 卒 の 採 用 に 対 し て ハ ー ド ル を 下 げ る こ と は な い よ う
だ。
も っ と も 、企 業 が 求 め る「 質 」が 何 か と い う こ と は 非 常 に 曖 昧 で あ る 。 日 本 経 済 団 体 連 合
会( 経 団 連 )の ア ン ケ ー ト 調 査 に よ る と 、企 業 が 選 考 に あ た っ て と く に 重 視 し た 点( 複 数 回
答 ) と し て 最 も 多 か っ た の が 「 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 能 力 」 で あ り 、 次 い で 「 主 体 性 」、「 チ ャ
レ ン ジ 精 神 」だ っ た( 図 表 6)。一 方 、資 格 や 点 数 な ど で 測 り や す い「 専 門 性 」
( 11% )や「 学
業成績」
( 6% )、
「語学力」
( 6% )な ど は 、少 数 に と ど ま っ て い る 。採 用 基 準 が 明 確 で な い と 、
学生もどのように就職活動に取り組めば良いかわからず困惑しても仕方がない。
同 様 に 、学 生 と し て も 会 社 を 選 ぶ 基 準 は 漠 然 と し た も の が 多 い 。当 社 の ア ン ケ ー ト 結 果 で
は 、新 入 社 員 が 会 社 を 選 ん だ 基 準( 複 数 回 答 )と し て 最 も 多 か っ た の が「 雰 囲 気 が よ い 」 で
あ る( 図 表 7)。学 生 の う ち に 業 界・企 業 研 究 や 職 業 観 の 醸 成 を 進 め よ う と す る 動 き も 出 て い
る が 、普 段 の 生 活 で は 学 生 と 企 業 と の 関 わ り は あ ま り な い 。こ の た め 、就 職 活 動 時 の セ ミ ナ
ー や 面 接 と い っ た 短 い 時 間 で 、企 業 は 学 生 に と っ て の“ 良 い 雰 囲 気 ”を ア ピ ー ル し 、採 用 に
結びつけなければならない。
最 近 で は 、企 業 は な ん と か 良 い 学 生 を 確 保 し よ う と 、採 用 方 法 に 工 夫 を 凝 ら し て い る 。そ
し て 、企 業 の 採 用 活 動 が 多 様 化 、複 雑 化 し て い る 一 方 、学 生 は 限 ら れ た 時 間 で 就 職 活 動 を 行
わなければならず、双方の負担は一段と増している。
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図 表 6. 企 業 が 選 考 に あ た っ て と く に 重 視 し た 点 ( 上 位 10 項 目 )
(%)
0
10
20
30
40
50
60
70
80
90
コミュニケーション能力
主体性
チャレンジ精神
協調性
誠実性
責任感
論理性
ポテンシャル
(注)2014年4月入社対象、複数回答
経団連企業会員のうち1,310社
(出所)日本経済団体連合会
「新卒採用に関するアンケート調査」
リーダーシップ
職業観・就労意識
図 表 7. 新 入 社 員 が 会 社 を 選 ん だ 基 準
(%) 0
10
20
30
40
50
60
雰囲気がよい
仕事のやりがいがある
能力が活かせる
業績が安定している
社会に貢献している
給料がよい
その他
※
(注)2014年度新入社員対象、
複数回答、回答者数1290人
(出所)三菱UFJリサーチ&コンサルティング
「2014年度新入社員意識調査アンケート結果」
(3)スケジュールの変更で実質的に長期化
さ ら に 、企 業 の 採 用 ス ケ ジ ュ ー ル が 立 て 続 け に 後 ろ 倒 し さ れ て い る こ と も 、現 場 の 混 乱 を
招き、採用・就職活動の過熱化に拍車を掛けている。
経 団 連 の 指 針 に よ っ て 、今 年 か ら 大 企 業 を 中 心 に 企 業 の 採 用 ス ケ ジ ュ ー ル は 後 ろ 倒 し さ れ
て い る( 図 表 8)。広 報 活 動 は 従 来 か ら 3 ヶ 月 遅 く な り「 卒 業 ・ 修 了 年 度 に 入 る 直 前 の 3 月 1
日以降」に、選考活動は 4 ヶ月遅くなり「卒業・修了年度の 8 月 1 日以降」に変更された。
2011 年 の 倫 理 憲 章 で も ス ケ ジ ュ ー ル が 後 ず れ し た ば か り で あ る 。 背 景 に は 、「 正 常 な 学 校 教
育 と 学 習 環 境 の 確 保 に 協 力 し 、 大 学 等 の 学 事 日 程 を 尊 重 す る 」 と し た 上 で 、「 学 生 が 本 分 で
あ る 学 業 に 専 念 す る 十 分 な 時 間 を 確 保 す る た め 」と い う こ と が あ る が 、実 際 に は こ う し た 変
更に企業も学生も戸惑っており、現場では不満の声も多いようだ。
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指 針 に よ っ て 形 式 上 は 採 用・就 職 活 動 は 短 縮 化 が 進 ん で い る こ と に な る が 、広 報 活 動 に 先
だ っ て イ ン タ ー ン シ ッ プ( 学 生 が 在 学 中 に 企 業 な ど で 行 う 就 業 体 験 )を 開 催 す る 企 業 が 増 え
るなど、その実態は長期化しているといえる。
図 表 8. 新 卒 採 用 の ス ケ ジ ュ ー ル
4月
5
6
大学3年生/大学院1年生
7
8
9 10 11 12
2012年 3月 卒
以前
2016年 3月 卒
以降
2
広報活動
インターンシップ
2013年 3月 卒
1
3
4
5
6
大学4年生/大学院2年生
7
8
9 10 11 12
1
2
3
選考活動
広報活動
内
定
式
選考活動
広報活動
卒
業
選考活動
な お 、従 来 の 企 業 の 選 考 活 動 は 、ま ず 大 企 業 が 4 月 頃 か ら 開 始 し 、 そ の 後 、夏 か ら 秋 頃 に
か け て 中 小 企 業 が 遅 れ て 始 め る 場 合 が 多 か っ た 。し か し 、今 年 か ら は 大 企 業 と 中 小 企 業 の 選
考 活 動 が ほ ぼ 同 じ 頃 か 、逆 に な る 可 能 性 が 高 い 。そ の た め 、と く に 中 小 企 業 で は 、既 に 選 考
を終えていても学生に内定を辞退されてしまうケースが例年以上に出てくる可能性もあり、
企業としても難しい局面に立たされている。
も っ と も 、こ の 指 針 は 「 自 己 責 任 原 則 」と さ れ て お り 、実 際 に ど れ ほ ど の 企 業 が 継 続 的 に
守 る か は 分 か ら な い 。し か し 、経 団 連 に 属 す る よ う な 大 企 業 の 採 用 ス ケ ジ ュ ー ル が 変 わ れ ば 、
そ の 他 の 中 小 企 業 や 学 生 に も 影 響 が 出 る こ と に な り 、と く に 初 め て と な る 今 年 は 混 乱 が 避 け
られない。
(4)タイミング格差による不公平
わ が 国 で は 、新 卒 時 の 就 職 状 況 に よ っ て 、そ の 後 の キ ャ リ ア が ほ ぼ 決 ま っ て し ま う 傾 向 が
あ る 。つ ま り 、初 め で 失 敗 す る と な か な か や り 直 し が 利 か な い 。だ か ら こ そ 、学 生 は 就 職 活
動に対して必死になる。
一 方 で 、過 去 に は「 バ ブ ル 世 代 」や「 氷 河 期 世 代 」な ど の 呼 び 名 が 付 い た よ う に 、新 卒 採
用 は そ の 時 の 景 気 動 向 に よ っ て 大 き く 影 響 を 受 け や す い 。そ の 結 果 、景 気 が 悪 化 し て い る 時
期に卒業のタイミングがたまたま重なってしまうと割を食うことになる。
完 全 失 業 者 の う ち 学 卒 未 就 職 の 人 数 は 、 2003 年 に 20 万 人 で 最 高 と な っ た 後 、 一 旦 は 減 少
し て い た が 、リ ー マ ン ・ シ ョ ッ ク に よ っ て 再 び 急 増 し た( 図 表 9)。2014 年 は 12 万 人 と 前 年
か ら 3 万 人 減 っ た も の の 、 1995 年 以 降 10 万 人 を 上 回 る 水 準 が 続 い て い る 。
景 気 が 悪 く な る と 、就 職 出 来 ず に 卒 業 す る こ と に な る 人 が 増 え る だ け で な く 、就 職 活 動 そ
の も の を 諦 め て し ま っ た り 、 や む な く 進 路 を 変 え た り す る 人 も 増 え る 。 例 え ば 、 2010 年 3
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月 に 卒 業 し た 人 は 、就 職 活 動 に お い て リ ー マ ン・シ ョ ッ ク の 悪 影 響 を 最 も 大 き く 受 け た 世 代
で あ る 。大 学 の 卒 業 者 は 、2005 年 以 降 55 万 人 強 で 推 移 し て い た が 、そ の 年 は 54.1 万 人( 前
年 差 - 1.8 万 人 ) と 一 時 的 に 減 っ た 。 就 職 先 が 決 ま ら ず に 卒 業 を 先 送 り し た 人 が い た 可 能 性
が 高 い 。ま た 、卒 業 し た 人 の う ち 就 職 者 が 占 め る 割 合 は 60.8% と 前 年 か ら 7.5% ポ イ ン ト 下
が っ た 一 方 、そ れ ま で の 十 数 年 間 は 10~ 12% で 横 ば い が 続 い て い た 進 学 者 の 割 合 は そ の 年 は
13.4% に 高 ま っ て い る 。加 え て 、一 時 的 な 職 に 就 い た 人 や 卒 業 後 の 進 路 が 不 詳 と い う 人 も 増
加している。
図 表 9.完 全 失 業 者 の う ち 学 卒 未 就 職
20
(%)
25~34歳
15~24歳
15
10
5
0
1985
90
95
(出所)総務省「労働力調査」
2000
05
10
(年)
卒 業 後 に 失 業 し て い る 期 間 が 長 引 く と 、正 規 雇 用 に な か な か 就 け な く な る と い う 現 実 も あ
る 。2000 年 以 降 に 卒 業 し た 人 に つ い て 、卒 業 か ら 初 職 に 就 い た 期 間 別 に 初 職 の 状 況 を み る と 、
期 間 が 長 く な る ほ ど 初 職 で 正 社 員 に 就 く 人 の 割 合 は 低 下 す る 傾 向 が あ る ( 図 表 10)。 卒 業 し
て 1 年 未 満 で は 4 人 に 3 人 以 上 が 初 職 で 正 規 雇 用 に 就 け て い る が 、卒 業 か ら 3 年 を 超 え て も
無職のままだと、その後、正規の職に就くことが出来るのは半数以下にとどまる。
さ ら に 、雇 用 の 非 正 規 化 が 一 段 と 進 む 中 で は 、卒 業 し て す ぐ に 職 に 就 く こ と が 出 来 た と し
て も 、そ れ が 非 正 規 雇 用 や 一 時 的 な 仕 事 で あ る 場 合 が 増 え た 。2014 年 3 月 に 大 学 を 卒 業 し た
56.5 万 人 の う ち 、正 規 雇 用 で 就 職 し た 人 は 37.2 万 人 と 3 人 に 1 人 に と ど ま っ て い る 。一 方 、
非 正 規 と し て 就 職 し た 人 は 2.3 万 人 、そ の 他 に 一 時 的 な 仕 事 に 就 い た 人 も 1.5 万 人 と な っ て
いる。
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図 表 10. 初 職 が 正 規 の 職 員 ・ 従 業 員 の 割 合
80
(%)
76.8
70
58.3
60
49.9
50
38.6
40
31.9
30
20
3~5年
1年未満
1~3年
(注)2012年調査、対象は卒業時期が2000年以降
(出所)総務省「就業構造基本調査」
5~10年
10年以上
(卒業から初職就業時
までの期間)
現 状 、非 正 規 か ら 正 規 へ の 雇 用 転 換 は 難 し い 。職 業 異 動( 転 職 )の 前 後 に お け る 雇 用 形 態
の 変 化 を み る と 、前 職 が 正 規 の 人 で は 6 割 が 現 職 で も 正 規 と し て 雇 用 さ れ て い る( 図 表 11)。
一 方 、 前 職 が パ ー ト の 場 合 、 現 職 が 正 規 と な っ て い る 人 の 割 合 は 15% に と ど ま っ て お り 、 7
割 近 く が 再 び パ ー ト に 就 い て い る 。こ の 値 に は 、主 婦 な ど の 女 性 や 定 年 退 職 後 の 高 齢 者 も 含
ま れ て お り 、自 ら 非 正 規 雇 用 を 望 む 人 も い る だ ろ う 。し か し 、卒 業 し た 後 、初 め に 就 い た 職
が非正規だと、その後、正規雇用の仕事に就くのはなかなか容易ではない。
図 表 11. 前 職 と 現 職 の 雇 用 形 態
100%
ア ルバイト
50%
契約
社員
派遣
・ 嘱託等
パート
(現職が)
正規
0%
正規
パート
アルバイト
契約社員
(注)2012年調査
(出所)総務省「就業構造基本調査」
派遣・嘱託等
(前職)
ま た 、1985 年 以 降 に 卒 業 し た 人 に お い て 、初 職 が 非 正 規 だ っ た 人 の う ち 現 職 が 正 規 で あ る
人 の 割 合 は 、平 均 で 19% で あ る( 図 表 12)。 と く に 、最 近 卒 業 し た 人 は 、初 職 に 就 い て 間 も
ないこともあって、その割合は低い。リーマン・ショック後の不景気の時に卒業した人で、
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不 本 意 な が ら も 非 正 規 雇 用 に 就 き 、未 だ に 正 規 に な り た く て も な れ て い な い ま ま の 人 は 多 く
残っているとみられる。
図 表 12. 初 職 が 非 正 規 の 人 の う ち 現 職 が 正 規 で あ る 割 合
28
(%)
26
24
22
20
18
16
14
12
10
1985
90
95
2000
(注)2012年調査
(出所)総務省「就業構造基本調査」
05
10
(卒業した時期、年)
以 上 で み て き た よ う に 、景 気 の 持 ち 直 し を 背 景 に 新 卒 を 含 む 若 年 層 の 雇 用 情 勢 は 改 善 し て
い る 中 で 、新 卒 者 の 採 用 ・ 就 職 活 動 は 一 段 と 過 熱 し て い る 。し か し 、企 業 の 採 用 活 動 に か か
る労力は増える一方、売り手市場になっても学生の就職活動は決して楽にはなっていない。
採 用 ・ 就 職 活 動 の 見 直 し も 重 要 な 課 題 だ が 、根 本 的 に は 、卒 業 時 点 の 景 気 動 向 に 就 職 が 左 右
さ れ る と い っ た“ タ イ ミ ン グ 格 差 ”を 是 正 し 、後 か ら で も 挽 回 が 可 能 な 雇 用 シ ス テ ム の 構 築
を目指すことが大切だ。
(尾畠
未輝)
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