雇用する側・される側の双方からみた障害者雇用の課題

2015.3.10
雇用する側・される側の双方からみた障害者雇用の課題
第一生命経済研究所 ライフデザイン研究本部 研究開発室
水野 映子
<企業に雇用されている障害者数は増加しているが・・・>
企業で働く障害者は増え続けている。図表1で2004~2014年の推移をみると、企業
で雇用されている障害者数は10年間で25万8千人から43万1千人と、1.7倍近くになっ
た。また、実雇用率(常用労働者総数に占める障害者数)も1.46%から1.82%に上昇
している。
ただし2014年において、法で定められた障害者の雇用義務を達成している企業(法
定雇用率達成企業)の割合は44.7%にとどまっており、未達成企業が過半数を占める
(図表省略)
。より多くの障害者が企業等の事業所に雇用され、そして定着して活躍す
るためには、まだ多くの課題があると考えられる。
図表1 民間企業に雇用されている障害者の数、実雇用率の割合
(%)
2.00
1.46
1.49
1.50
1.00
258
269
36
40
1.52
1.55
実雇用率(左軸)
1.68
1.63
1.59
1.65
1.69
382
障害者数(右軸)
366
343
333
326
13 17
303
10
8
75
6
284
69
61
4 54
57
2 48
44
1.76
409
22
83
1.82
431
28
(千人)
600
500
400
90
精神障害者
300
知的障害者
身体障害者
200
0.50
222
229
238
251
266
268
272
284
291
304
313
100
0.00
2004
2005
2006
2007
2008
2009
2010
2011
注:企業の法定雇用率は2012年度までは1.8%、2013年度からは2.0%
資料:厚生労働省「平成26年 障害者雇用状況の集計結果」
2012
2013
0
2014 (年)
<事業所が障害者雇用に対して感じている最大の課題は「適当な仕事があるか」>
では、障害者雇用に関して、具体的にはどのような課題があるのだろうか。
厚生労働省は、常用労働者5人以上を雇用する民営事業所(以下、「事業所」と表
記)
、およびそこに雇用されている障害者の双方に対して、
「障害者雇用実態調査」を
5年ごとに実施している。この調査の結果から、まずは事業所が身体障害者・知的障
1
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害者・精神障害者をそれぞれ雇用するにあたって感じている課題を、図表2に示す。
身体・知的・精神障害者のいずれの雇用に関する課題も、第1位は「会社内に適当
な仕事があるか」である(それぞれ76.2%、83.7%、77.2%)。雇用する側が障害者
に“適している”と思う仕事の有無が、障害者雇用に影響しているといえる。
図表2 障害者を雇用するにあたっての課題(4つまで回答)
0
20
40
60
100 (%)
76.2
会社内に適当な仕事があるか
83.7
77.2
28.4
従業員が障害特性について理解することができるか
43.5
47.4
37.5
採用時に適性、能力を十分把握できるか
44.8
43.2
51.4
44.8
39.7
職場の安全面の配慮が適切にできるか
14.2
労働意欲・作業態度に不安
25.0
30.1
12.3
17.2
17.4
作業能力低下時にどうしたらよいか
長期休業した場合の対応をどうするか
80
8.8
7.5
15.7
雇用継続が困難な場合の受け皿があるか
15.0
15.2
14.8
通勤上の配慮が必要か
15.6
12.4
設備・施設・機器の改善をどうしたらよいか
12.9
11.2
23.1
36.5
10.1
8.6
10.2
勤務時間の配慮が必要か
配置転換等人事管理面での配慮が必要か
9.1
6.9
8.0
給与、昇級昇格等の処遇をどうするか
9.0
8.1
7.2
仕事以外の生活面等の問題への対応が必要か
3.9
7.3
6.7
業務内容・労働時間等に関し家族への配慮が必要か、
家族からの理解が得られるか
4.4
7.9
6.2
職場定着上の問題について
関係機関等外部の支援を得られるか
2.9
4.4
4.6
障害者雇用について経営トップの理解が得られるか
3.7
4.3
4.4
職場復帰のための配慮をどうするか
1.2
0.5
4.1
身体障害者
知的障害者
精神障害者
注:身体障害者・知的障害者・精神障害者を雇用する上での課題があると答えた事業所がそれぞれ回答
資料:厚生労働省「平成25年度 障害者雇用実態調査結果」
2
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これに続いて、身体障害者と知的障害者の雇用の課題としては「職場の安全面の配
慮が適切にできるか」(それぞれ51.4%、44.8%)、「採用時に適性、能力を十分把握
できるか」(それぞれ37.5%、44.8%)が第2・3位を占めている。また、精神障害
者の雇用の課題としても「採用時に適性、能力を十分把握できるか」(43.2%)は第
3位になっているが、
「従業員が障害特性について理解することができるか」
(47.4%)
の割合はそれを上回って第2位にあがっている。
<身体・精神障害者の離職理由は「賃金・労働条件」と「職場の雰囲気・人間関係」にあり>
一方、雇用される側である障害者からみると、働き続ける上ではどのような課題が
あるのだろうか。障害者の離職理由から探る。
前述の「障害者雇用実態調査」においては、前職を個人的理由で離職した身体障害
者と精神障害者に対し、その理由の具体的内容を尋ねている。図表3で回答結果をみ
ると、「賃金、労働条件に不満」が身体障害者では1位(32.0%)
、精神障害者では2
位(29.7%)となっている。ここで、前述の事業所に対する調査の結果を振り返ると、
身体障害者・精神障害者雇用の課題として「給与、昇給昇格等の処遇をどうするか」
をあげた割合はそれぞれ9.0%、7.2%であり1割にも満たなかった。障害者側では給
与などの処遇に対して不満があり、それが離職にもつながっているのに対し、事業所
側はそれを課題としてあまり認識していないといえる。
また、離職理由として「職場の雰囲気・人間関係」をあげた割合も、身体障害者で
は2位(29.4%)
、精神障害者では1位(33.8%)と高い。職場の雰囲気や人間関係が
障害者の就業継続を妨げる一因には、周囲の従業員の理解の不足があることも考えら
れる。前述の調査結果で「従業員が障害特性について理解することができるか」とい
う点を、精神障害者の雇用の課題としている事業所は半数近かったが、身体障害者の
雇用の課題とする事業所は3割弱でありさほど多くなかった。だが、精神障害者だけ
でなく身体障害者とともに働く従業員の理解も、事業所の認識以上に課題となってい
る可能性がある。
これら2項目の次に多くの身体障害者・精神障害者が離職理由としてあげたのは、
「仕事内容が合わない」
(それぞれ24.8%、28.8%)である。多くの事業所が身体障害
者・精神障害者雇用の課題として「会社内に適当な仕事があるか」をあげているが、
雇用する側が障害者に“適している”と思っている仕事が、実際には必ずしも“適し
ていない”ことも考えられる。
障害者が処遇や職場環境、仕事内容などに満足できず、離職に至ってしまうことは、
本人にとってはもちろん、事業所にとっても望ましくはないだろう。雇用する側は、
雇用される側である障害者の仕事や職場に対する思いを十分把握しているかどうか、
見直す必要があるのではないか。
3
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図表3 身体障害者・精神障害者の前職の離職理由(複数回答)
<身体障害者>
0
10
20
<精神障害者>
30
職場の雰囲気・人間関係
賃金、労働条件に不満
24.8
20.5
障害のため働けなくなった
16.6
通勤が困難
9.7
家庭の事情(出産・育児・
介護・看護を除く)
出産・育児・介護・看護
20
30
40(%)
33.8
賃金、労働条件に不満
32.0
会社の配慮が不十分
10
職場の雰囲気・人間関係
29.4
仕事内容があわない
0
40(%)
29.7
仕事内容が合わない
(自分に向かない)
28.4
疲れやすく
体力、意欲が続かなかった
28.4
症状が悪化(再発)した
25.7
作業、能率面で
適応できなかった
25.7
家庭の事情(出産・育児・
介護・看護を除く)
16.4
出産・育児・介護・看護
3.5
8.1
1.4
注:知的障害者に対しては同様の質問が設けられていない
資料:厚生労働省「平成25年度 障害者雇用実態調査結果」
(みずの えいこ 上席主任研究員)
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