大阪オフィス市場の現況と見通し (2015 年)

ニッセイ基礎研究所
2015 年 3 月 3 日
大阪オフィス市場の現況と見通し
(2015 年)
金融研究部 不動産市場調査室長
竹内 一雅
e-mail : [email protected]
1. はじめに
2013 年から 2014 年にかけて、グランフロント大阪、ダイビル本館、あべのハルカスなどの大規
模ビルの竣工があったが、大阪のオフィス市況は大きく崩れることはなく改善が進んでいる。しか
し募集賃料は底ばいを続けるなど、中小ビルを中心に市況のセンチメントは十分に回復していない。
本稿では、大阪オフィス市場の現況把握とともに、2021 年までのオフィス賃料の将来予測を行う1。
2. 大阪のオフィス空室率・賃料動向
大阪のオフィス空室率は改善が続いている(図表-1)。グランフロント大阪とダイビル本館の竣
工が重なった 2013 年上期にいったん空室率は大きく上昇したが、
一年間で竣工前の水準を回復し、
その後も順調な回復を見せている。三幸エステートによると、2015 年 2 月の空室率は 9.25%で、
リーマンショック後のピーク(13.20%、2011 年 6 月)から 3.90 ポイントの改善となっている。
成約賃料は 2013 年上期を底に大きく回復したが、
その後はほぼ横ばいで推移している(図表-2)
。
一方、募集賃料は長期的な賃料下落傾向の中で底ばいの状況が続いている(図表-3)
。ただし、2015
年 2 月には二ヶ月連続の上昇によって前年同月比で久しぶりの上昇となり、募集賃料でも底打ちの
兆候が見えてきた2。
図表-2 主要都市のオフィス成約賃料
(オフィスレント・インデックス)
図表-1 主要都市のオフィス空室率
空室率
15,000
22%
大阪市
20%
名古屋
18%
札幌市
12,500
16%
仙台市
福岡市
14%
12%
仙台市, 10.75%
大阪市, 9.25%
札幌市, 8.57%
10%
8%
10,000
名古屋市, 8.47%
福岡市, 7.53%
6%
東京都心3区,
4.74%
4%
東京都区部,
5.05%
7,500
2%
0%
東京都区部
東京都心3区
(出所)三幸エステート
1
2
札幌市
福岡市
仙台市
大阪市
名古屋市
5,000
2014-H2
2014-H1
2013-H2
2013-H1
2012-H2
2012-H1
2011-H2
2011-H1
2010-H2
2010-H1
2009-H2
2009-H1
2008-H2
2008-H1
2007-H2
2007-H1
2006-H2
2006-H1
2005-H2
2005-H1
2004-H2
2004-H1
2003-H2
2003-H1
2002-H2
2002-H1
2001-H2
2001-H1
2000-H2
2000-H1
1999-H2
1999-H1
1998-H2
1998-H1
1997-H2
1997-H1
00/01 01/01 02/01 03/01 04/01 05/01 06/01 07/01 08/01 09/01 10/01 11/01 12/01 13/01 14/01 15/01
(出所)「オフィスレント・インデックス」を基にニッセイ基礎研究所が作成
2014 年の見通し結果は竹内一雅「大阪オフィス市場の現況と見通し(2014 年版)」不動産投資レポート 2014.3.3 ニッセイ基礎研
究所を参照のこと。
2015 年 2 月の前年同月比の賃料増加は+15 円だった。それまでの前年同月比の上昇は、2011 年 6 月に+1 円の増加があったが、
それ以前では 2009 年 1 月の+112 円の増加にさかのぼる。
1|
|不動産投資レポート 2015 年 3 月 3 日|Copyright ©2015NLI Research Institute
All rights reserved
2014 年に大阪の平均空室率は着実に低下してきたが、規模別にみると回復に差が見られる(図表
-4)
。過去一年間に空室率の改善を主導してきたのは大規模ビル3であり(2014 年 1 月~2015 年 2
月の改善は▲2.26 ポイント)、大型ビルと中型ビルについてはわずかな改善にとどまっている(大
型ビルは同▲0.31 ポイント、中型ビルは同▲0.26 ポイント)
。
三鬼商事によると、大阪ビジネス地区4の賃貸可能面積は 217 万坪、賃貸面積は 200 万坪、空室
面積は 17 万坪だった。空室面積は直近のピーク(2010 年)から▲32.0%の減少となっている(図
表-5)
。
最近の大阪オフィス市場の特徴として、新築ビルの床面積の増加に比べて総賃貸可能面積の増加
がさほど多くはないという点がある。三鬼商事の調査対象物件数をみても、2010 年から 2014 年の
5 年間に、新築ビルは 24 棟の増加だったが、ビル総数は 839 棟から 828 棟へと▲11 棟の減少であ
り、既存ビルは▲35 棟の減少だった(図表-6)
。築年が古くなったビルの新築ビルへの建替えだけ
でなく、都心を中心に進むマンション開発等のため取り壊しもかなりの規模になると考えられる。
図表-3 大阪ビジネス地区の空室率と募集賃料
図表-4 大阪の規模別空室率
空室率
25%
(円/月坪)
11,000
16%
10,500
14%
10,000
12%
9,500
10%
9,000
8%
8,500
6%
20%
15%
小型ビル, 14.11%
中型ビル, 12.19%
平均賃料
平均空室率(右目盛り)
8,000
4%
7,500
2%
7,000
0%
大型ビル, 10.14%
10%
平均空室率, 9.25%
大規模ビル, 7.04%
5%
0%
00/0101/0102/0103/0104/0105/0106/0107/0108/0109/0110/0111/0112/0113/0114/0115/01
2015/1
2014/7
2014/1
2013/7
2013/1
2012/7
2012/1
2011/7
2011/1
2010/7
2010/1
2009/7
2009/1
2008/7
2008/1
2007/7
2007/1
2006/7
2006/1
2005/7
2005/1
2004/7
2004/1
2003/7
2003/1
2002/7
2002/1
2001/7
2001/1
2000/7
2000/1
大規模ビル
小型ビル
大型ビル
平均空室率
中型ビル
(注)大規模:基準階面積 200 坪以上、大型:同 100~200 坪未満、中型:同 50~
100 坪未満、小型:同 20~50 坪未満
(出所)三幸エステート
(出所)三幸エステート
図表-5 大阪ビジネス地区の賃貸可能面積・
賃貸面積・空室面積
220万坪
図表-6 大阪ビジネス地区の主要賃貸ビル増減数
(20010 年~2014 年)
40万坪
30
35万坪
20
200万坪
30万坪
+24 棟
10
180万坪
25万坪
0
160万坪
ビル増加総数
20万坪
新築ビル増加数
既存ビル増加数
-10
15万坪
140万坪
10万坪
120万坪
100万坪
2014.12
2013
2012
2011
2010
空室面積
2009
2008
2007
2006
貸室面積
2005
2004
4
2003
3
2002
(出所)三鬼商事
2001
2000
1999
1998
1997
1996
1995
1994
1993
1992
1991
1990
賃貸可能面積
-20
5万坪
-30
0万坪
-40
▲11棟
839→828
▲35棟
(注)三鬼商事の調査対象物件数(大阪ビジネス地区内の延床面積千坪以上の
主要賃貸ビル)の変化。
(注)既存ビル増加数はビルの全体増加数から新築ビル増加数を減じて算出
(出所)三鬼商事
三幸エステートの定義による。大規模は基準階面積 200 坪以上、大型は同 100~200 坪未満、中型は同 50~100 坪未満、小型
は同 20~50 坪未満の賃貸ビル。
三鬼商事の定義による。大阪の主要 6 地区(梅田地区、南森町地区、淀屋橋・本町地区、船場地区、心斎橋・難波地区、新大阪
地区)からなる。
2|
|不動産投資レポート 2015 年 3 月 3 日|Copyright ©2015 NLI Research Institute
All rights reserved
3. 大阪のオフィス需給と地区別動向
大阪ビジネス地区では、2013 年初頭の大量供給時に賃貸需要はさほど大きく増加しなかったが、
その後、大規模ビルを中心に着実な増加が続き、グランフロント大阪の稼働率も 7 割から 8 割に近
づいているようだ5(図表-7 右図)
。年ごとの増加をみても、2014 年は賃貸可能面積が減少したに
もかかわらず 2 万坪を上回る増加となった(図表-7 左図)
。その結果、2014 年の空室面積は 4 万
坪を上回る減少となり、これは 1991 年以降における最大の減少だった。
2014 年の賃貸可能面積の大幅な減少は、10 月の大幅な賃貸可能面積の減少の影響も大きい。こ
れは、新阪急ビルや南海会館ビルの取り壊しなどが重なったためである6。
図表-7 大阪ビジネス地区の賃貸オフィス需給面積増加分
<年次>
<月次>
12万坪
3.5万坪
3.0万坪
10万坪
2.5万坪
8万坪
2.0万坪
6万坪
1.5万坪
4万坪
1.0万坪
0.5万坪
2万坪
0.0万坪
0万坪
-0.5万坪
-2万坪
-1.0万坪
-4万坪
-1.5万坪
-2.0万坪
2014.12
2014.11
2014.10
2014.9
2014.8
2014.7
2014.6
2014.5
2014.4
賃貸面積
2014.3
2014.2
2014.1
賃貸可能面積
空室面積
2013.12
2013.11
2013.10
2013.9
2013.8
2013.7
2013.6
2013.5
2013.4
2013.3
2013.2
2014.12
2013
2012
2011
2010
2009
2008
2007
賃貸面積
2006
2005
2004
2003
2002
2001
2000
1999
1998
1997
1996
1995
1994
1993
1992
1991
賃貸可能面積
2013.1
-6万坪
空室面積
(出所)三鬼商事
2014 年にはあべのハルカスや淀屋橋ミッドキューブ、宇治電ビルなどが竣工した。三鬼商事によ
ると 2014 年末の新築ビルの空室率は 2.45%とほぼ満室となっている。これにより、2014 年の大阪
ビジネス地区の賃貸面積の増加分のうち新築ビルが約 3 割を占めた(図表-8)
。
地区別の空室率は、心斎橋・なんば地区で 5.74%と最も低く、梅田地区でも 7.45%まで回復して
きた(図表-9)
。ここ数年は船場地区と心斎橋・難波地区の回復が顕著となっている。
図表-8 大阪ビジネス地区の新築・既存ビル別
賃貸面積増加分
10万坪
20%
8万坪
18%
6万坪
16%
4万坪
14%
2万坪
12%
0万坪
10%
船場地区, 10.45%
淀屋橋・本町地区, 7.92%
大阪ビジネス地区, 7.92%
新大阪地区, 7.48%
梅田地区, 7.45%
南森町地区, 6.34%
心斎橋・難波地区, 5.74%
2014.12
2013
新大阪地区
2012
南森町地区
心斎橋・難波地区
2011
梅田地区
船場地区
2010
大阪ビジネス地区
2009
2008
2007
2006
2005
2004
2003
2002
2001
2000
1999
1998
1997
1996
全体増加
1995
1994
1993
1992
1991
2014.12
2013
2012
2011
2010
2009
2008
2007
2006
2005
既存増加-前年新築
2004
2003
2002
2001
2000
6
1999
(出所)三鬼商事
1998
1997
1996
0%
1995
2%
-10万坪
1994
4%
-8万坪
1993
6%
-6万坪
1992
8%
-4万坪
1991
-2万坪
新築
5
図表-9 大阪ビジネス地区の地区別
オフィス空室率推移
淀屋橋・本町地区
(出所)三鬼商事
ジョーンズラングラサール「ジャパンプロパティダイジェスト 2014 年第 4 四半期」、週刊住宅新聞 2014 年 11 月 24 日号など
三鬼商事大阪支店への電話取材による。
3|
|不動産投資レポート 2015 年 3 月 3 日|Copyright ©2015 NLI Research Institute
All rights reserved
大阪ビジネス地区で現在、最も賃貸可能面積が広いのは梅田地区(構成比は 33.5%)で、ついで
淀屋橋・本町地区(同 31.6%)
、船場地区(同 15.0%)
、新大阪地区(同 9.8%)
、南森地区(同 5.2%)、
心斎橋・難波地区(同 4.8%)である(図表-10)
。
2014 年に大阪ビジネス地区全体で空室面積は▲4.2 万坪の減少だった。このうち、梅田地区が▲
1.5 万坪の減少で最も大きく、次いで淀屋橋・本町地区(▲1.2 万坪)
、船場地区(▲0.9 万坪)と続
き、南森町地区と心斎橋・船場地区、新大阪地区はともに▲2 千坪の減少だった(図表-11)
。
図表-10 大阪ビジネス地区の地区別
賃貸可能面積・賃貸面積・空室面積構成比
図表-11 大阪ビジネス地区の地区別
オフィス需給面積増加分(2014 年)
-50,000
-40,000
-30,000
-20,000
-10,000
0
10,000
20,000
30,000
40,000
新大阪地区,
9.8%
心斎橋・難波地
区, 4.8%
梅田地区,
33.5%
4.9%
9.3%
梅田地区,
-6,458
南森町地区,
-983
33.6%
3.5%
船場地区,
15.0%
14.8%
心斎橋・ 淀屋橋
難波地区, ・本町
-8,560 地区,
-2,776
賃貸可能面積
9.9%
31.5%
20.0%
外:賃貸可能面積
中:賃貸面積
内:空室面積
心斎橋・
難波地区,
-2,150
4.1%
31.6%
新大阪
地区,
1,998
心斎橋・
淀屋橋・
梅田地区,
船場地区,
難波地区,
本町地区,
8,743
9,035
-6,410
8,806
賃貸面積
南森町地区,
1,405
南森町地区,
-2,388
5.3%
南森町地区,
5.2%
31.6%
淀屋橋・本町地
区, 31.6%
梅田地区
(出所)三鬼商事
淀屋橋・
船場地区,
本町地区,
-9,035
-11,582
新大阪
地区,
-1,998
空室面積
南森町地区
梅田地区,
-15,201
淀屋橋・本町地区
船場地区
心斎橋・難波地区
新大阪地区
(出所)三鬼商事
4. 大阪の新規供給・人口見通し
大阪では、現在公表されている大規模賃貸ビルの開発計画は多くはない(図表-12)
。大規模な供
給としては、2015 年の新ダイビル、2017 年の中ノ島フェスティバルタワー・ウエスト(仮)など
である。ただし、この図のほかに 2015 年は日本生命新東館や田辺三菱製薬本社、阪和興業本社な
どの自社ビルの供給があり、これらの企業が入居していた賃貸オフィス床が空室となるため、賃貸
オフィスビル市場での供給圧力となることが予想されている。
住民基本台帳人口移動報告によると、2014 年に大阪市の転入超過数は 6,525 人(前年比▲2,204
人の減少)となった(図表-13)
。2014 年は転入者数が 100,474 人(同+5,640 人)と 2002 年以来
の 10 万人台となった一方、転出者数が 93,949 人(同+7,844)人と転入者数の増加を上回る転出が
あったことが転入超過数の減少につながった。
図表-12 大阪における大規模賃貸ビル新規供給計画
(万坪)
図表-13 主要都市の転入超過数
15,000
8.0
10,000
7.0
予測
5,000
6.0
5.0
0
4.0
-5,000
3.0
-10,000
2.0
-15,000
1.0
-20,000
2014
2013
福岡市
2012
2011
2010
All rights reserved
大阪市
2009
|不動産投資レポート 2015 年 3 月 3 日|Copyright ©2015 NLI Research Institute
2008
名古屋市
(出所)住民基本台帳人口移動報告
2007
2006
2005
2004
2003
仙台市
2002
2001
札幌市
2000
1999
1998
1997
1996
1995
1994
2022予
2021予
2020予
2019予
2018予
2017予
2016予
2014
2015予
2013
2012
2011
2010
2009
2008
2007
2006
4|
2005
2004
2003
2002
2001
2000
1999
1998
1997
(出所)CBRE、三幸エステート
1993
0.0
転入超過数を男女年齢別にみると、大阪市では 30 歳代で男女ともに転出が超過となっている(図
表-14)
。以前は東京などでも U ターンや結婚などに伴う近県での住宅購入などから、30 歳代の転
出超過が見られたが、2013 年現在、主要都市(東京都区部、札幌市、仙台市、名古屋市、大阪市、
福岡市)で 30 歳代での転出超過が明確に見られるのは大阪市のみである。
大阪市の人口は、国立社会保障・人口問題研究所の予測によると、2015 年(266 万人)まで増加
が続いた後に減少が始まるとされている(図表-15)。生産年齢人口はすでに減少が続いており、
2010 年の 173 万人から、2015 年には 166 万人、2020 年に 161 万人と、今後は当面、5 年ごとに
▲5 万人程度の減少が続くと予測されている。
図表-14 大阪市の男女年齢別転入超過数
(2013 年)
図表-15 大阪市の年齢 3 区分別人口の
現況と見通し
50%
350万人
4,187
5,000人
316
男
女
300万人
3,403
4,000人
予測
45%
298
278
265
250万人
3,000人
264
262
260
260
263
267
266
262
40%
255
247
232
35.4%
239
229
35%
216
-131
-42
-168
-36
-182
-22
-7
-4
-25
-68
-339
-534
-420
-175
-217
90歳以上
85~89歳
80~84歳
75~79歳
70~74歳
65~69歳
60~64歳
55~59歳
50~54歳
45~49歳
(出所)住民基本台帳人口移動報告
190
188
30%
182
175
173
166
161
157
25%
151
141
128
20%
15%
100万人
69
65
62
54
14
17
21
1965
1970
1975
48
24
27
40
31
1980
1985
1990
50万人
40~44歳
35~39歳
30~34歳
25~29歳
20~24歳
15~19歳
5~9歳
10~14歳
-1,489
0~4歳
-1,477
-2,000人
189
22
0人
-1,000人
186
150万人
20
53
33
147
6
190
76
135
191
351
288
335
260
205
1,000人
195
200万人
926
1,303
1,115
819
2,000人
37
35
44
33
53
32
73
73
74
76
81
70
30
28
26
23
21
20
2015
2020
2025
2030
2035
2040
60
10%
31
5%
0%
0万人
大阪市人口
うち年少人口
1995
2000
2005
うち生産年齢人口
2010
うち高齢者人口
高齢者比率(右目盛)
(出所)国勢調査、国立社会保障・人口問題研究所
5. 大阪のオフィス賃料見通し
大阪における今後のオフィス供給や人口流入、経済の成長見通しなどに基づくオフィス需給の見
通しから、2021 年までの大阪のオフィス賃料を予測した。
推計の結果、大阪のオフィス賃料は、2016 年(下期、以下同じ)まで 2014 年下期比で+8.8%上
昇した後に、2018 年まで下落(同▲4.5%)するが、再び上昇して 2021 年には同+9.9%になると予
測された(図表-16)
。
楽観シナリオでは、当面の賃料上昇は 2016 年までに+18.7%(2014 年下期比)の上昇で、その
後の賃料下落時の底は 2017 年に同+9.6%、2021 年には同+32.9%となった。悲観シナリオでは、
2014 年に続いて当面は下落が続き、2018 年に 2014 年下期比▲18.3%の下落となった後にわずかず
つであるがながら上昇し、2021 年には同▲12.4%に回復するという結果だった。
5|
|不動産投資レポート 2015 年 3 月 3 日|Copyright ©2015 NLI Research Institute
All rights reserved
図表-16 大阪オフィス賃料見通し
13,000
12,000
予測
11,000
10,000
9,000
8,000
7,000
標準
楽観
6,000
悲観
5,000
2021
2020
2019
2018
2017
2016
2015
2014
2013
2012
2011
2010
2009
2008
2007
2006
2005
2004
2003
2002
2001
2000
(注)各年下期の賃料を記載
(出所)賃料の実績値は三幸エステート・ニッセイ基礎研究所「オフィスレント・インデックス」
(出所)賃料の将来見通しは「オフィスレント・インデックス」などを基にニッセイ基礎研究所が推計
6. おわりに
大阪では空室率の改善が続き、成約賃料は底を打ったにも関わらず、募集賃料は上昇せず、中小
ビルを中心に市況のセンチメントは十分に回復していない。2014 年は大型ビルと中型ビルの空室率
の改善がほとんど進まなかったのも、中小ビルの市況感が強気になれない理由のひとつと思われる。
しかし、本稿で見てきたように、オフィス需要(賃貸面積)は大規模ビルを中心に着実に増加し
ており、地区別の空室率も大きく改善してきた。
本稿の推計では、2016 年までに賃料は 9%程度上昇した後に、消費税率の引き上げがある 2017
年から下落に転じるという結果となった。昨年の予測では、2015 年は生産年齢人口の減少による需
要の減少から賃料は下落すると予測していた。しかし、自社ビルや郊外からの移転を含む需要の増
加が生産年齢人口の減少の影響を吸収したようにみえる7。
需要の増加に加え、大阪市中心部では既存ビルの取り壊しが続いており、それがオフィス需給を
引き締め、空室率の改善に寄与している模様だ。実際、大阪都心部ではマンション開発による人口
増加が進んでおり、かなりのオフィスがマンション用に転換されている。また、外国人観光客の急
増によりホテル用地の需要も急速に高まっている。本稿の予測では、築年が経過したオフィスがマ
ンション用地やホテル用地として取り壊される流れは今後も変わらないと考えており8、それがオフ
ィス賃貸可能面積の抑制を通じて賃料を下支えする結果となった。
2015 年は 2014 年に続き、都心部での自社ビルの竣工が多く、賃貸ビルに入居していた部署など
が、完成した自社ビルに入居することによる二次空室の発生も見込まれる。ただし、ここ数年の賃
7
8
ただし、2014 年のオフィス市況の好調さと 65 歳以上の就業の増加などから、生産年齢人口の減少による賃貸オフィス面積の減少
への影響が先延ばしになった可能性もある。その場合は 2015 年以降のオフィス需要の減少圧力・オフィス賃料の下方圧力にな
ると思われる。生産年齢人口と賃貸オフィス面積の関係については、2014 年のレポートを参照のこと。
耐震改修促進法の改正(建築物の耐震改修の促進に関する法律等の改正、平成 25 年 11 月施行)や、耐震への関心の高まり、
BCP(事業継続計画)の策定、さらには分散事業所の集約、都心大規模ビルへの入居による知名度向上などのため、テナントは
築浅の大規模ビルへの選好が高まっており、築古の中小ビルの競争力低下は避けられない。築年が経過し十分な稼動や賃料
が確保できない中小ビルの住宅やホテルへの再開発は、国内外からの投資資金の流入と、都心部でのマンション開発の進展
による都心居住の利便性の高まりや急増するホテル需要の中で、今後も進展すると思われる。今後、毎年のオフィスビルの取り
壊し規模が拡大すれば、オフィス市況はさらに改善し、取り壊し規模が縮小すればオフィス市況の悪化要因となる。
6|
|不動産投資レポート 2015 年 3 月 3 日|Copyright ©2015 NLI Research Institute
All rights reserved
貸面積の増加の勢いを考慮すると、ビルによっては多少の時間がかかるかもしれないが、全体的に
はさほどの時間はかからず需要の増加で空室分は埋められていくと思われる。
当面のオフィス賃料はわずかながら上昇するという予測となったが、長期的にみると 90 年代から
続く下落がようやくとまり、底ばい圏での推移が続く見通しともいえる。今後、大阪のオフィス市
況がさらに活性化し、賃料の中期的な上昇を実現するためには、起業の育成や観光産業の活性化な
どに加え、団塊世代の再雇用や女性・外国人雇用の拡大などの積極的な雇用、出生率の増加などに
よる人口増加、20~30 歳代を含めた多くの人が流入したくなる訴求力のある活力と魅力ある街づく
り等9が、全国的な人口減少が加速化していく中でこれまで以上に必要となるのではないだろうか。
9
The Economist 誌による”THE SAFE CITY INDEX 2015 – Assessing urban security in the digital age”(本編)(日本版サマリー)
では、大阪は世界 50 都市の中で、東京、シンガポールに次いで 3 位に入っている。たとえば安全都市という側面を強調すること
も、国際的な観光や不動産投資に対して訴求力を持つのではないだろうか。
7|
|不動産投資レポート 2015 年 3 月 3 日|Copyright ©2015 NLI Research Institute
All rights reserved