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ホ. 薬理作用
総 括 ........................................................................................................................................................... ホ-1
(1) 効力を裏付ける薬理試験............................................................................................................... ホ-2
1) 正常動物に対する作用................................................................................................................ ホ-2
2) 貧血モデル動物に対する作用.................................................................................................... ホ-5
(2) 作用機序........................................................................................................................................... ホ-6
1) 造血前駆細胞に対する作用(in vitro) .................................................................................... ホ-6
略語一覧表
略号
和名
GM-CSF
顆粒球マクロファージコロニー刺激因子
CFU-E
赤芽球コロニー形成細胞
BFU-E
赤芽球バースト形成細胞
CFU-Meg
巨核球コロニー形成細胞
CFU-GM
顆粒球マクロファージコロニー形成細胞
ホ. 薬理作用
総 括
エリスロポエチン(EPO)は特異的受容体を介して赤血球系前駆細胞の分化・増殖を促進することで
赤血球の増加を惹き起こすが,この機構は未熟児においても成人と同様である。未熟児の貧血の主な原
因として,赤血球寿命が短いこと,造血因子産生機能の未熟性により EPO 産生が十分でないこと,検
査採血による血液量の減少などが考えられている R-1)。赤血球系の造血前駆細胞の EPO に対する反応性
に異常があるとは考えられておらず,むしろ,骨髄や循環血液中の赤血球系前駆細胞の EPO に対する
反応性は成人や正期産児と同等以上であり R-2,3),
また赤血球造血を支持することが示唆されている IL-3
や GM-CSF などの因子の血清中濃度も成人と同様なレベルである R-4)と報告されている。従って,EPO
を補充することで,成人での腎性貧血と同様に,貧血を改善し得ると考えることができる。今回,未熟
児貧血の効能追加申請に際し提出する実験動物における代表的な作用の一覧を表ホ-1~3 に示す。当
該試験成績については,初回申請時(昭和 63 年 12 月)に既に提出している(平成 2 年 1 月承認「添付
資料ホ-1,4,6,10」)。
すなわち,正常および貧血モデル動物に EPOCH を投与すると,網状赤血球数の増加と,それに続く
ヘモグロビン濃度,ヘマトクリット値および赤血球数の増加が認められた。この機序として,EPOCH
は in vitro では赤芽球コロニー形成細胞(CFU-E)に作用してそれらの分化増殖を惹き起こすことが確
認されている。
なお,これらの試験においては,EPOCH の量をポリペプチド相当量で記載しているが,EPOCH 1µg
の力価は平均 180 国際単位(IU)である。
表ホ-1
正常動物に対する作用
試験項目
用量依存性
動物
ラット
投与期間
ラット
表ホ-2
投与経路
静脈内
もしくは
皮下
1,2,4 週連投
皮下
投与量
0, 0.0096, 0.048,
0.24, 1.2, 6.0,
30 µg/kg
0, 0.22 µg/kg
試験結果
資料番号
IV,SC とも,網状赤血球数は 0.048 参ホ-
1
µg/kg,ヘモグロビン濃度は 0.24 µg/kg
以上で用量依存的に上昇した。
投与期間の長さに応じて,造血効果が 参ホ-
増大した。
2
貧血モデル動物に対する作用
試験項目
5/6 腎臓摘出
表ホ-3
投与回数
5 日連投
動物
ラット
投与回数
1 日おきに
6回
投与経路
静脈内
投与量
試験結果
資料番号
0, 0.32 µg/kg 5/6 腎摘ラットの貧血を改善し,低 参ホ-
下した鉄代謝回転を促進した。
3
作用機序に関する検討
試験項目
材料
マウス
CFU-E
コロニー 骨髄細胞
マウス
BFU-E
バースト 骨髄細胞
CFU-Meg マウス
コロニー 骨髄細胞
CFU-GM マウス
コロニー 骨髄細胞
方法
メチルセルロ
ース法
メチルセルロ
ース法
軟寒天培養法
添加量
0, 0.0028~44 x 10-3
µg /mL(公比 2)
0, 0.33~3300 x 10-3
µg /mL(公比 10)
0, 0.33~3300 x 10-3
µg /mL(公比 10)
軟寒天培養法 0, 0.33~3300 x 10-3
µg /mL(公比 10)
試験結果
資料番号
0.089 x 10-3 µg /mL 以上の濃度で,濃度に依存し 参ホ-
たコロニー数の増加が認められた。
4
3.3 x 10-3 µg /mL 以上の濃度で,濃度に依存した 参ホ-
コロニー数の増加が認められた。
4
3.3 x 10-3 µg /mL 以上の濃度で,濃度に依存した 参ホ-
コロニー数の増加が認められた。
4
3.3 µg /mL 以下の濃度ではコロニーの形成が認 参ホ-
められなかった。
4
ホ-1
(1) 効力を裏付ける薬理試験
1) 正常動物に対する作用・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・参考資料ホ-1,2
正常ラットに対する EPOCH の効果を網状赤血球数およびヘモグロビン濃度を指標として検討し
た。
SD ラットに EPOCH(0.0096~30µg/kg)を 5 日間連日尾静脈内投与すると,網状赤血球数および,
ヘモグロビン濃度の著明な増加が認められた。網状赤血球数は投与開始 5 日後に,ヘモグロビン濃度
はそれよりやや遅れて増加のピークを示した。投与終了後,網状赤血球数は速やかに減少し,12 お
よび 19 日後には有意な低下を示した。これは多血症状に伴って内因性のエリスロポエチン(EPO)
の産生が低下したことによるものと考えられる。また,ヘモグロビン濃度は徐々に減少した。網状赤
血球数については 0.048 µg/kg から 30 µg/kg まで,また,ヘモグロビン濃度については 0.24 µg/kg か
ら 30 µg/kg まで用量に依存した増加がみられた(図ホ-1)。
また,SD ラットに皮下投与した場合も尾静脈内投与と同様の用量依存的な変化が認められた。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
◎参考資料ホー1,2は,初回申請時資料(平成 2 年 1 月承認「添付資料ホ-1,4」)の再提出である。
ホ-2
図ホ-1
正常ラットに EPOCH を投与した時の網状赤血球数とヘモグロビン濃度の経時的変化
正常ラットに EPOCH の各用量を投与開始 4 日後まで 5 日間連日,尾静脈内投与した。
対照群に対する統計的検定は Student のt検定で行い,結果は *:P<0.05,**:P<0.01,***:P<0.001 で
示した(n=5)。
ホ-3
さらに,SD ラットに EPOCH(0.22µg/kg)を 1,2 あるいは 4 週間連日皮下投与したところ,EPOCH
投与期間中は造血効果が持続するため,これに対応しヘモグロビン濃度は持続的に上昇したが,投与
終了後は徐々に低下した。このことは投与期間が長くなる程,ヘモグロビン濃度が高くなることを示
していた(図ホ-2)。
図ホ-2
正常ラットに EPOCH を 1,2,4 週間連日皮下投与した時のヘモグロビン濃度の経時的
変化
EPOCH の用量は 0.22µg/kg とした。
対照群に対する統計的検定は Student のt検定で行い,結果は
ホ-4
*:P<0.05,**:P<0.01 で示した(n=6)。
2) 貧血モデル動物に対する作用・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・参考資料ホ-3
貧血モデルとして 5/6 腎摘ラットを作製し,EPOCH の効果を検討した。
SD ラットの両腎の 5/6 を摘出すると慢性的な腎障害が認められ,同時に貧血を呈する。この 5/6
腎摘ラットでは貧血の程度に応じた網状赤血球数と血中 EPO 濃度の上昇が認められず,腎性貧血の
モデルとして適切であると考えられた。5/6 腎摘ラットおよび正常ラットに EPOCH(0.32 µg/kg)を
1 日おきに 6 回尾静脈内投与するとヘモグロビン濃度の著明な上昇が認められ,5/6 腎摘ラットの貧
血は改善された。ヘモグロビン濃度の上昇の程度は正常ラットに比較して 5/6 腎摘ラットにおいてよ
り大きかった(図ホ-3)。赤血球数,ヘマトクリット値,網状赤血球数も同様に増加した。
また,フェロカイネティクスの解析から 5/6 腎摘ラットでは血漿鉄の鉄利用速度の指標となる血漿
鉄消失半減期の延長などが認められたが,これは EPOCH 投与により改善され,さらに血漿中から骨
髄に移行する 1 日当りの鉄の総量である血漿鉄交替率および赤血球に取り込まれる鉄の 1 日当りの総
量である赤血球鉄交替率も増加していた。
図ホ-3
正常ラットおよび 5/6 腎摘ラットのヘモグロビン濃度に対する EPOCH の効果
EPOCH(0.32µg/kg)を 1 日おき 6 回尾静脈投与した。
対照群に対する統計的検定は Student のt検定で行い,結果は
*:P<0.05,***:P<0.001 で示した(n=6)。
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◎参考資料ホー3は,初回申請時資料(平成 2 年 1 月承認「添付資料ホ-6」)の再提出である。
ホ-5
(2) 作用機序
EPO による赤血球増加作用の機序は多能性造血幹細胞から赤芽球バースト形成細胞(BFU-E)を
経て網状赤血球への分化の中で赤芽球コロニー形成細胞(CFU-E)を中心とする細胞に働くと考えら
れている R-5)(図ホ-4)。
図ホ-4 赤芽球の分化と EPO の作用点
1) 造血前駆細胞に対する作用(in vitro)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・参考資料ホ-4
EPOCH の造血前駆細胞(CFU-E,BFU-E,CFU-Meg,CFU-GM)に対する作用を比較するため,
C57BL/6N マウスの骨髄細胞を EPOCH 存在下で培養し,コロニー形成能を測定した。その結果,
EPOCH は CFU-E をはじめとして BFU-E,巨核球系前駆細胞(CFU-Meg)にも作用したが,顆粒球
マクロファージ系前駆細胞(CFU-GM)には全く作用しなかった。
BFU-E,CFU-Meg に作用する濃度は 3.3 x 10-3 µg/mL 以上で CFU-E に作用する濃度(0.089 x 10-3
µg/mL)の約 40 倍も高く,EPOCH の標的細胞は CFU-E であることを示唆していた。
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◎参考資料ホー4は,初回申請時資料(平成 2 年 1 月承認「添付資料ホ-10」)の再提出である。
ホ-6
引用文献
R-1)Oski F.A., et al: Hematorogic Problems in the Newborn. WB Saunders, Philadelphia. pp58-86 (1982)
R-2 ) Rhonedeau SM, et al: Responsiveness to recombinant human erythropoietin of marrow erythroid
progenitors from infants with the “anemia of prematurity”. Journal of Pediatrics 112(6), 935-940 (1988)
R-3)Shannon KM, et al: Circulating erythroid progenitors in the anemia of prematurity. New England Journal of
Medicine 317(12), 728-733 (1987)
R-4)Ohls RK, et al: Erythroid “burst promoting” activity in serum of patients with the anemia of prematurity.
Journal of Pediatrics 116(5), 786-789 (1990)
R-5)東條有伸:赤芽球分化とエリスロポエチン受容体の発現 実験医学 5(9), 788-792 (1987)
ホ-7