はま やの話 三年半前、弓削島で初めて口 にしたものは﹁はまや﹂のお好 み焼きだった。瀬戸内海の離島 に来たはずなのに、案内してく れた役場の人に連れていかれたの は、なぜか大阪風のお好み焼き屋 で、なんとなく拍子抜けした。 けれども、そこのご主人の人懐 こい感じと、何よりもお好み焼き がとても美味しかったので、それ 以来、島で外食するときにはよく お世話になった。︵意外に思われ るだろうが、弓削島で一番多いお 店はお好み焼き屋なのだ。︶ ﹁はまや﹂のご主人は目玉が大 きく、とにかくよくしゃべる人だ。 ある時、お客が僕ひとりだった時 などは、完全にご主人のワンマン ショー状態で、東京に二週間滞在 した時の話を、写真アルバムを何 冊もひっぱり出してきて聞かせて くれた︵ちなみに、島のお年寄は デジカメでも絶対プリントする︶。 話が長いという欠点はあったも のの、﹁はまや﹂のお好み焼きは 本当に絶品だった。周りがカリッ として、食べ出があって、僕は島 一番のお好み焼きだと太鼓判を押 し、島に遊びに来てくれた友人た ちは、必ず﹁はまや﹂に連れて行 くことにしていた。 先日、その﹁はまや﹂が閉店し た。ご主人の体調不良のせいだと 聞いた︵何を隠そう、﹁はまや﹂ のご主人は、僕の一番最初の畑の 先生の弟さんなので、情報はすぐ に入ってくる︶。個人店の多い島 では、跡取りのない店はやがてな くなる運命にある。弓削島の名物 が一つ減ってしまったことをとて も残念に思う。 大忙しの暇なしで働いています。オープン予定の店の改装 や春に向けた畑の準備、春・夏の品種選びなど、意外に することがあるものです。そんな中でも、この冬に終えて しまいたい大仕事の一つが「田んぼ作り」です。 実は、今お借りしている畑のうちの1枚は、昔田んぼだ ったところを埋め立てて畑にしたものです。米の生産量を 減らすことを目的とした「減反政策」により、日本の多く の田んぼが、時には埋め立てられ、畑に変えられてきまし た。島の田んぼも例外ではなく、まるふ農園の畑のある 「生名島」、「佐島」(弓削島)には今では 1 枚の田んぼも残 っていません。 田んぼを畑に変えるとどうなるか。元々の環境にもより ますが、まるふ農園で借りている畑の場合には、恐ろしく 水はけの悪い畑になってしまっています。1 日雨が降ると 水浸しになり、なかなか水が乾かないので、台風や長雨の 時期になると野菜もうまく育ちません。昔の人は、田んぼ を作る時に、そこがどういう土地なのかよく見て決めてい たのですね。田んぼは水がたまらなければはじまりません から、当然水はけの悪い場所一帯を稲作地域にしていたの 文・編集 古川優哉 ほとんどお入れすることがで 二月の畑の様子 二月に入り、畑の冬野菜た きませんでしたが、時期があ えば菜の花としてお届けしま ちも終盤を迎えています。冬 す。︶野菜が花を咲かせるこ 野菜の﹁終盤﹂と聞いて、ど とを﹁とう立ち﹂と言います んな様子を思い浮かべられる が 、こうなってしまうと野菜 でしょうか?野菜がすっかり と しての食べ頃は終わり、 なくなってしまった畑の様子 筋っぽくなり、味も落ちます。 でしょうか、それとも、冬の 植物である野菜たちは、次 寒さで野菜が枯れた様子でし 世代に繋がる種を残すことに ょうか?いずれにしても、あ 命のすべてを掛けています。 まり明るいイメージは持たれ 冬の間に蓄えてきたエネルギ ないかもしれません。 意外にも、冬野菜が﹁終盤﹂ーは、春を迎えて、花を咲か せ、実をつけるために使われ を迎えるこの時期から、畑は るのですね。︵その分、菜の 文字通り﹁華やか﹂なものに 花の味は濃厚で美味です。 ︶ なっていきます。というのも 、 初春のこの時期は、野菜が 春を感じ始めた野菜から、順 ﹁野菜﹂としての終盤を迎え 々に花を咲かせるようになる つつも、最も野生に近づく季 からです。 まるふ農園の畑でいち早く 節であり、﹁命﹂としての最 盛期でもあります。人間には 春を感じたのは白菜でした。 まだ寒い季節ですが、畑は早 ︵今年は白菜がうまく巻かず、 くも春の気配に満ちています。 本来は少し時間に余裕のできる冬の季節ですが、今年も です。そんな場所を無理に畑にしたものだから、水はけは 悪くなるに決まっています。 色々と考えた結果、「どうせなら田んぼに戻そう!」とい うことになりました。適地適作の考えから言ってもその方 が理にかなっているし、島になくなってしまった田んぼを 復活させたいという想いもありました。昨年、小さな田ん ぼを作り、米が本当に育つか実験したのですが、案外うま くいったので、これに気を良くして、この冬、大掛かりに 田んぼを作ることにしたのでした(大体 150 坪ほどです)。 田んぼ作りってどうやるの?と思われるかもしれません が、基本的にに埋め立てた時に入れた土を除去してやれば よいだけなので、作業はとても単純で、来る日も来る日 もせっせと土を掘り、一輪車に載せてどかすだけです。孤 独で過酷な作業ですが、土を起こしていると、たくさんの 鳥たちが虫を食べにやってきます。今の時期、渡り鳥の ジョウビタキやセキレイなどがよく見られます。また、畑 の傍の茂みでは、メジロやエナガがかわいらしい姿を見せ てくれ、心が癒されます。こうやって土いじりする人間が いることで、鳥たちの良い餌場ができます。過酷な労働で すが、そう考えると少しは島の自然に貢献できているよう な気がしてきて、またがんばれます。とはいえ、田んぼの 完成はまだまだ先になりそうです。どうなること やら・・・。それではまた次回! 島暮らしのコト 田んぼ作り! 第3号 2015 年 2 月 1 日
© Copyright 2024 ExpyDoc