素敵・発見!マーケティング - 中国経済産業局

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エッセイ 素敵・発見!マーケティング 57
知っておきたい、知財管理の重要性
株式会社クリエイティブ・ワイズ 代表取締役 三宅曜子
最近特に、知財管理の重要性が注目されるようになってきたことは、とても喜ばしい
ことだ。大企業では常識的に行われているが、中小企業、小規模事業者にとって、この
知財管理をしないことで命取りになることすらある。
私は企業に対してだけでなく、商工会や商工会議所で行われるブランド開発、商品開
発などにも、予算を組む際に『知財管理』の項目を必ず入れていただき、一生懸命創り
上げたものをしっかり管理できる体制づくりをしていただくように話をする。
数年後に迫っている東京オリンピックや、円安の影響による外国人旅行者の増加を踏
まえ、今回は『知財を管理する』ことをテーマにしたい。
■熊野の化粧ブラシの先駆者メーカーのはなし
私が 10 年以上サポートをしていて、なでしこJAPAN国民栄誉賞の副賞にも選ば
れた、広島県熊野町の化粧ブラシを最初に作り上げたメーカーは、ものづくりのリーデ
ィング企業として国内はおろか、世界中に『熊野の化粧筆』を知らしめた企業である。
今でこそ、『熊野の化粧筆』は、熊野の毛筆のメーカーのほとんどが作るようになって
おり、駅や空港などでもよく売られるようになっているが、その先駆者がこの企業であ
る。
ここの社長は学生時代に地質調査を行っていた技術者であったが、大学卒業後に家業
を継ぎ、化粧ブラシの使い勝手の良さを更に高めるため、今から 30 年近く前にスライ
ド式のチークブラシを世界で初めて開発した人物である。
バネや大がかりなパーツを必要とせず、軽くて手軽に使えるチークブラシは当時画期
的な発明であった。ところが、その当時『製法特許』を取ることをされなかったため、
旬レポ中国地域 2015 年 3 月号
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開発してから間もなく、世界中で同様のブラシが化粧品メーカーから出されることにな
った。その頃はまだ『特許の出願』という意識もなく、いいものが出来れば売れると思
われていた時代である。特許さえ取っていたら、今頃大金持ちになっていたかもしれな
い素晴らしい技術だ。今、どのメーカーにもあるスライド式の化粧ブラシの元祖がこの
メーカーなのであるが、知っている人は少ない。
その後に開発したスライドブラシには新たに蓋を付け、前回同様バネなどの大掛かり
なものを使わずに開閉できるよう創り上げられた。片手でスムーズに自動開閉でき、し
かも衛生的でもあるこの商品は、前回の痛い経験を活かし、開発後、市場に出す前に国
内だけでなく、ヨーロッパやアメリカなどの主要国での製法特許を取ることから始めた。
特許取得に手間や費用はかかるものの、その後真似されないということは精神的にも大
きな安心をもたらすことになる。
現在では、化粧ブラシだけでなく、口紅やコンシーラなど、スティック状のものに使
える技術として、商品とあわせて提案することもできるようになった。これは『知財管
理』を最初から意識して行ったことで出来るようになったのだ。
■ビッグサイトで2月に行われた展示会『グルメ&ダイニングスタイル
ショー』での変化
2 月の初旬に東京ビッグサイトで
開催された『東京ギフトショー』と
同時展開の『グルメ&ダイニングス
タイルショー』では、自社ブースで
さえも、事務局に申請して撮影許可
の腕章を着用しなければ写真を撮
ることができないようになってい
る。
これはまさに、『知財の確保』のた
めである。
私は国内外様々な展示会のサポ
ートを行ってきたが、日本は特に
2 月にビッグサイトで行われた
グルメ&ダイニングスタイルショー
『知財管理』に対する意識が薄く、
商品の写真を撮られても気にせず、「どうぞお撮りください!」という状況であったの
が非常に心配であったが、やっとこのような取り組みが行われるようになってきた。写
真だけでなく、商品サンプルなども、新商品や開発途中のものでもどんどん渡してしま
うことが多かった。これは『どうぞ真似をしてください』と言わんばかりの状況だ。
今回気になったのが、日本ブースの隣にある、近隣国からの参加者だ。写真を取って
旬レポ中国地域 2015 年 3 月号
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はいけないと事務局から言われているにもかかわらず、スマホやカメラで平気で写真を
撮っている。一昨年前にこの近隣国で見本市が行われていた時、その国の言葉で『写真
撮影禁止』のサインがブースのいたるところに貼られていたが、全くの無視状態で、商
品を撮影しないかわりにポスターに載っている商品を撮影するといった行為が見られ
るなど、手が付けられない状況であった。
これを未然に防ぐためには、まずブランド名という総合名称、ロゴ・マーク、製造方
法等を登録し、真似をされたら訴えることができるだけの準備をしておく必要がある。
身近なものでいえば、
『製法特許』
『商標登録』
『意匠登録』などが挙げられる。
栗の生産量国内 3 位の愛媛県大洲市グルメ
&ダイニングスタイルショー
田原市商工会のグルメ&ダイニングスタイルショー
準備風景
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農業生産額日本一、愛知県田原市の野菜
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■知財管理の重要性
私はこのところ、関わるブランド開発すべてに、まず『商標登録』と、プロダクトデ
ザイン関連の場合の『意匠登録』が行えるかどうか、弁理士事務所に調査をお願いして
いる。
これは特許庁が管理しており、他の企業や個人などがすでに登録していないかを調べ
ていくものだ。簡単に調べるためには特許庁のホームページがあるが、やはりそこはプ
ロにお願いした方が確実な調査ができる。アイテムにより分類があり、これらを細部に
わたり調査しなければ完全とは言えないし、ホームページに載っていないから大丈夫と
安易に考えて使っていくと、後で大変なことになってしまう恐れがある。
ロゴ・マークの場合は文字と図形の両方で見ていく必要があり、これは非常に時間と
労力を要する。そのため、まず商標調査をこの両方でしていただくことから始める。類
似するものや、すでに使われているものの場合、世の中に出す前に変えなければならな
い。調査の範囲は「出願データ」と「登録データ」の両方でみていく。また、国内商標
と国際登録商標で調べていただき、登録の可能性、また使用に関するリスクをなくすこ
とを調査していただく。
これらの条件を満たすものを作る必要があり、条件を満たさなければロゴ・マークな
どを変更することもある。変更して問題がないようなら、次に特許庁へ『商標出願』を
行い、拒絶されなければ無事登録となる。弁理士さんは拒絶されないようにしっかり調
査するだけでなく、拒絶された場合にはどのように修正すればいいかもアドバイスして
くれる。費用は若干かかるものの、これを行うことで、堂々と胸を張って世の中に出せ
る商品になるのだ。
欧米ではよくこの知財関連で裁判が行われているが、日本がそのようになっていくの
も時間の問題だと思われる。
いつも私が商標調査や登録をお願いしている東京の有名な国際特許商標事務所の所
長は、展示会などで写真を撮る人には警告をすることが大切だと言われる。
「登録商標」
や「特許出願中」といった「きちんとした権利の存在」を明示するものがあれば、それ
なりの抑止力になるとのこと。また、何もしないと、本当に「何も求めていない」とい
うことになってしまうので、「無断撮影禁止。撮影された方は、技術料の支払いをする
意思があったものとします」といった看板があるだけでも、何もないよりは遥かにまし
だということだ。このあたりも、弁理士さんに相談されるといいと思う。
日本企業が国際展開を目指して世界に技術を出す場合、常識的に行われているであろ
う『知財管理』であるが、それを知らなかったがために自社の名前ですら他国で使われ
てしまい、それを何年も知らないままになっていたため、企業名や企業のロゴ・マーク
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さえ使えなくなり、泣く泣く変えることになった企業もあることも、知っておいていた
だきたい。
まず一度特許庁のホームページを見てみることから始めるのもいいのではないかと
思われる。
マーケティングコンサルタントとして、中小企業支援及び指導、商業活
性化事業、まちづくり事業等、顧客のニーズを的確に捉えた市場開発とア
プローチ手法等、幅広い分野におけるマーケティング全般のアドバイスを
全国各地で手掛ける。また、平成 19 年度より地域資源活用事業の政策審議
委員、国会での参考人をはじめ、全国で地域資源を活用した事業推進、農
商工連携事業、JAPANブランドプロデューサーなど幅広く活躍中。
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経済産業省地域中小企業サポーター
同、伝統的産業工芸品産地プロデューサー
中小企業基盤整備機構経営支援アドバイザー
同、地域ブランドアドバイザー
内閣官房 地域活性化伝道師
広島県総合計画審議会委員 他
経済産業省 中国経済産業局 広報誌
旬レポ中国地域 2015 年 3 月号
Copyright 2015 Chugoku Bureau of Economy , Trade and Industry.
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