3月号 表紙1 - ITU-AJ

特 集 会合報告 ICNコンソーシアム
ICNプロジェクト~GreenICN~
KDDI 研究所
次世代通信
アーキテクチャーグループ
グループリーダー
た がみ
ゲオルク・アウグスト大学
ゲッティンゲン
助教授
あつ し
マ ユ タ ン
田上 敦士
ア ル マ イ ト ゥ ラ イ
Mayutan Arumaithurai
1.GreenICNプロジェクト
図1にプロジェクトの全体像を示す。本プロジェクトの特
独立行政法人情報通信研究機構並びに欧州委員会
(EU)
徴の一つは、新たに構築した電力消費モデルに基づき、
の第7次研究枠組み計画(FP7)の共同プロジェクトとして、
省電力なコンテンツ配信に向けた設計方針を決定し、その
2013年 の4月より3年 間の 計 画でGreenICNプ ロジェクト
方針をベースに個々の要素技術の考案・評価をしているこ
(http://www.greenicn.org/)が、日本側6機関(KDDI研
とである。もう一つの特徴は、ビデオ配信と災害時通信の
究所,日本電気,パナソニックアドバンストテクノロジー、
二つのユースケースシナリオを想定していることである。
東京大学、大阪大学、早稲田大学)
、欧州側6機関(Georg-
GreenICNアーキテクチャへの要求条件をユースケースより
August-Universität Göttingen( ドイツ)
、NEC Europe、
抽出し、アーキテクチャを設計した後、再びユースケースシ
University College London(イギリス)
、CEDEO,Consorzio
ナリオでアーキテクチャの実証を行うというサイクルを繰り
Nazionale Interuniversitario per le Telecomunicazioni
返す。更に、個々の技術に対して省電力に向けた方針を持
(イタリア)
、Telekomunikacja Polska(ポーランド))の計
たせることで、多くの機関が参加するプロジェクトにもかか
12機関で開始された。本プロジェクトの目標は、スケーラ
わらず、統一された研究開発が実現できている。
ブルで省電力なコンテンツ配信を実現するGreenICNアー
本稿では、GreenICNプロジェクトの特徴である省電力ネッ
キテクチャの実現である。
トワーキングと、二つのユースケースについて概略を紹介する。
消費電力削減技術
既存 IP 網 /CDN 網
既存ネットワークとの
マイグレーション
ICN 機能の一部停止
ビデオレートの動的設定
によるトラヒック削減
名前を用いた Publish /
ハッシュルーティング
回線負荷に応じた経路制
Subscribe
によるヒット率向上
解析モデル
電力消費モデル
御による冗長リンク停止
端末間通信を用いたモ
バイル網共有技術
Data Mule を用いたコ
ンテンツ配信技術
ユーザ / レポジトリ /
コンテンツの移動管理
Fragmented Network 上
でのセキュリティ技術
Data Mule
Fragmented Network
密集した端末への高効率なビデオ配信
断片化したネットワークに対するコンテンツ配信
図1.GreenICNプロジェクトの全体像
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ITUジャーナル Vol. 45 No. 3(2015, 3)
2.省電力ネットワーキング
ホスト間の接続性に依存しないICNの特徴を利用し、トラ
ネットワークの省電力化は、どれか一つの技術により実現
フィック削減と優先制御を実施する。
できるわけではなく、ネットワーク内のあらゆる箇所での省電
これらの設計方針の元となる消費電力削減のための要素
力化の積み重ねである。このため、消費電力削減のための方
技術、すなわち、ホップ数の削減や一部設備の停止は、特に
針を策定し、それに基づいて個々の要素技術を検討する必
新しいものではない。GreenICNプロジェクトでは、これら既
要があると考えた。方針策定のためにまず、ICNの一実装で
存の要素技術を元にICN固有の手法でどのようにして取り入
あるCCNxルータの機能をモデル化し、
消費電力の解析フレー
れるかを設計方針として策定している。
ムワークを開発した。既存の研究では、ICNルータの消費電
力は、キャッシュに使用するDRAM装置が定常的に消費する
3.災害時シナリオ
電力が支配的であり、パケットごとに消費する電力は無視で
東日本大震災の報告によると、サービス停止した基地局の
きると考えられてきた。しかしながら、DRAMの消費電力化
うち15%が津波、基地局設備、伝送設備故障などが原因であ
の進展は急速であり、世代交代ごとに80%前後の消費電力
り、残り85%は停電が原因であった。これを受け、各キャリア
削減を実現している。このため、我々の解析フレームワークで
は1日分のバッテリを装備した基地局を展開しているが、物理
は、将来のICNルータにおいてDRAMの消費電力は無視可
的な被害により孤立した地域に対しての情報配信も重要な課
能であり、パケットフォワーディング処理やキャッシュ処理の消
題である。このとき重要なことは、接続性の回復ではなく通
費する電力が支配的と想定し、電力消費モデルを構築した。
信の回復である。現在のインターネットは、ホスト間の接続性
これにより、事前に手法を導入した効果を定量評価すること
に主眼を置いており、この二つの回復は同一である。しかし
を可能とする解析フレームワークを提案した。
ながら、コンテンツの流通に主眼を置くICNにおいては、ホス
この新しいフレームワークを元に、
(1)ホップ数の削減、
ト間の接続性が損なわれていても、コンテンツ配信は可能で
(2)ICN機能の一部停止、
(3)基地局設備の一時停止の三つ
ある。このため、本プロジェクトでは災害時におけるICN技術
の省電力化に向けた設計方針を策定した。
(1)ホップ数の削
の利活用をユースケースの一つとして取り上げている。
減は、ICN技術の特徴の一つである、インネットワークのキャッ
災害時のユースケースとして想定しているシナリオは次のと
シュ機能を活用し、メッセージ全体のホップ数を削減すること
おりである。
(1)避難所など人の集まる場所にWi-Fiアクセス
である。この結果、メッセージ数に応じて消費電力が比例的
ポイントなどを用いて、インターネット等のグローバルなネット
に増加するノード設備の消費電力を削減する。この結果とし
ワークとは接続性を持たない「Fragmented Network」を構
てネットワーク全体の負荷が削減されるため、一部の回線にト
築する。バックホールの障害により、
孤立してしまったネットワー
ラフィックを集約することで冗長回線を収容する回線設備を停
クについてもFragmented Networkとして扱う。
(2)避難所
止し、更なる消費電力削減を実現できる。
(2)ICN機能の一
などを巡回する自治体の車両などにICNルータを設 置し、
部停止は、一部のICNルータで不要な、あるいは効果が少な
Fragmented Network間の通信を行うノードとして利用する。
い機能を一時停止することである。電力消費のモデル化によ
このような車両を「Data Mule」と呼び、Data MuleがICNパ
り、ICNルータには、最長プレフィックスマッチやキャッシュ機
ケット 伝 送 の 役 割 を 果 た すことに より、Fragmented
能など、処理負荷の大きい、すなわち消費電力の高い機能が
Network間での通信が可能となる。
多いことが分かった。このため、これらの機能をすべての
Data Muleを介したFragmented Network間での通信を
ICNルータで実行するのではなく、遅延などの品質の劣化を
可能とするため、物理ネットワーク上に論理トポロジを構築す
抑えながら、一部のルータで一時停止することにより消費電力
る 手 法 を 考 案 して い る。 本 手 法 で は、Data Muleと
を削減する。
(3)基地局設備の一時停止は、より電力供給の
Fragmented Network間を論理的なリンクで結び、その上で
厳しい災害時を想定し、無線基地局設備を計画的に停止す
通常時と同様のルーティングを行う。
これにより、
アプリケーショ
ることである。モバイル網の回線設備や機器の多くは、固定
ン側から見ると経路制御に関して災害時と通常時を意識する
的に消費する電力が多く、必ずしも負荷と消費電力が比例し
必要はなくなり、災害時への移行や、災害時からの復旧をス
ないため、
(1)で述べたホップ数の削減では不十分である。
ムーズに行えるという利点がある。一方で、遅延の増大などに
このため、計画的に一部の基地局設備を停止することにより
よるタイムアウトや定期的なポーリングが発生する可能性があ
消費電力を削減する。このとき、周波数資源が減少するため、
るため、非同期通信であるPublish/Subscribe方式による通
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特 集 会合報告 ICNコンソーシアム
信プロトコルも併せて提案している。
調のための計算処理とメッセージ交換と引換えに、高いキャッ
また、災害時においてもコンテンツへのアクセス制御は重要
シュヒット率を得ることができる。これに対して、既存のキャッ
な課 題である。Fragmented Networkでは、認 証 局(CA :
シュを考慮した経路制御手法をハッシュ関数により3種類に分
Certificate Authority)への接続性の保証はできないため、
類するとともに、ハイブリッド手法を提案した。一次評価では
既存のICNが前提としているPKI
(Public Key Infrastructure)
あるが、ハイブリッド手法のメリットを示すとともに、トポロジー
では十分なセキュリティを担保できない。これに対してIDベース
などに応じてキャッシュ手法を設計できるモデルを構築した。
符号(IBE : ID-based encryption)のKGC(Key Generation
現在、ビデオコンテンツはCDNやIP Multicastを用いて配
Center)を階層化した認証方式の提案している。本方式では、
信されている。これらからICNへのマイグレーションパスとして、
Root KGCとユーザ端末に実装されるUser KGCの2階層構成
IPアドレスなどデバイスのIDも「名前」として扱い、realmと
をとる。User KGCはRoot KGCが生成したユーザ秘密鍵を元
呼ぶ名前空間と、realmの境界で名前と名前を変換するNRS
に動作する。復号に用いるパラメータは各階層で共有され、各
(Name Resolve Service)を用いたInternamesと呼ぶフレー
端末のIDはメールアドレスなどのようなネットワーク上に紐付け
ムワークを提案している。
されているため、Fragmented Networkにおいてもアクセス制
災害シナリオにおいては、マルチパスやキャッシュなどICN
御に利用できる。また、Facebookのような既存サービスのログ
機能を生かした、省電力での動画配信サービスの提供と、現
イン過程もエミュレーション可能であることを示した。
状のネットワークからのマイグレーションパスについて検討を進
災害シナリオにおいては、
「コンテンツ」に主眼を置いたICN
めている。
のコンセプトを生かし、災害時においても電力消費量が少な
5.むすび
いコンテンツ配信サービスを提供することを目指している。
GreenICNプロジェクトでは、二つのユースケースシナリオを
4.ビデオシナリオ
通じて通常時と非常時におけるICN技術の応用と、それを支
エリクソン社の試算によると、ビデオ配信によるトラフィック
えるネットワーク技術について研究開発を行っている。具体的
は、2014年時点でモバイルデータトラフィックの45%であり、
なユースケースを示すことで、ICNという新しいネットワークの
2020年までには55%を占めると予想されている。このため、
考え方を広く周知することに資すると考えている。このため、
モバイル端末に対する電力効率の高いビデオ配信は、本プロ
ITU-T FG -DR& N R RやSG13 Q15、I RTF ICN WG、
ジェクトにとって重要なユースケースの一つである。
MPEGへの寄書や、デモンストレーション、他ICNプロジェク
ビデオ配信時のユースケースシナリオとして、電車内やレストラ
トへの情報展開などを積極的に実施し、本プロジェクトの成
ン、バーなどの多くのユーザが密集している環境下における、
果を広く展開している。
動画コンテンツの視聴を挙げている。本シナリオでは、端末間
本プロジェクトは、日欧合同プロジェクトであるため、組織・
でWi-Fi Directなどを用いて通信を行うことにより、より高画質
文化の違いなどによる難しさもあったが、ICNの研究に関して
な動画の再生や、バッテリ残量が少ない端末に対して消費電力
先行していた欧州側メンバから得るものは大きかった。更に、
の大きい3G/LTEを用いずに、Wi-Fiだけでの動画視聴を実現
日本・欧州双方からの視点・考え方を持ち合い、議論するこ
できる。IP技術を用いてこれを実現しようとすると、
端末間のセッ
とにより、共に作り上げてきたものも大きくなっていると自負し
ション管理や、フローの結合などが必要となる。一方、ICNに
ている。プロジェクトも残り1年であるが、更なる成果が得られ
おいては、動画ファイルのセグメントごとにユニークな名前が割
るものと考えている。
り当てられているため、各端末がキャッシュしているセグメント
への経路を広報するだけで、端末間協調を容易に実現できる。
謝辞
コアネットワークにおいては、キャッシュのヒット率が電力消
本研究成果の一部は情報通信研究機構委託研究「コンテ
費量に大きな影響を与える。キャッシュ手法には大きくon-path
ンツ指向ネットワーキングによる省エネルギーコンテンツ配信
cachingとoff-path cachingが存在する。
on-path cachingでは、
の研究開発」
(課題番号 167ウ)並びに欧州委員会第7次研
キャッシュは基本的に最短経路上に配置されるため、ルータ
究枠組み計画「Architecture and Applications of Green
間での協調はほとんど必要ない代わりに、キャッシュヒット率は
Information Centric Networking」
(Grant No. 608518)
ある程度限られる。一方、off-path cachingでは、ルータ間協
の成果を含みます。
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