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議事録
(4)アメリカ(没収制度調査、未請求資産管理制度調査)
(4)アメリカ(没収制度調査、未請求資産管理制度調査)
アメリカ:没収制度調査、未請求資産管理制度調査
(2010 年 11 月 15 日(月)∼2010 年 11 月 17 日(水))
アメリカ合衆国司法省消費者訴訟局
10 時
(Department of Justice, Office of Consumer Litigation)
Kenneth L. Jost, Linda Marks, Ken Maddox
11 月 15 日(月)
アメリカ合衆国財務省資産没収執行局(Department of
15 時 15 分
Treasury, Executive Office for Asset Forfeiture)
Eric Hample, Melissa M. Nasrah, Jeffery Warner, Patricia O.
Moss, Irina Dline, Dennis McKenzie, Clifford R. R. Krieger
バージニア州財務局未請求資産課(Virginia Department of
11 月 16 日(火)
10 時
the Treasury, Division of Unclaimed Property)
William Dadmun, Vicki Bridgeman
メリーランド州連邦検事事務所
10 時
連邦検事補
弁護士
11 月 17 日(水)
Stefan D. Cassella
Robert W. Biddle
連邦捜査局没収課
15 時
(Federal Bureau of Investigation, Legal Forfeiture Unit)
Stephen Jobe
アメリカ合衆国司法省とのミーティング議事録
(1)日時:2010 年 11 月 15 日(月)10 時∼11 時
(2)場所:アメリカ合衆国司法省消費者訴訟局
450 5th Street, NW, South Washington, DC 20001
(3)面会者:
1. 消費者訴訟局
副局長
Kenneth L. Jost
2. 消費者訴訟局
上級法律顧問
Linda I. Marks
3. Kenneth C. Maddox
(4)内容:
<連邦検事と司法省の位置付け>
・司法省(Department of Justice、以下「DOJ」と呼ぶ)消費者訴訟局(Office of Consumer
Litigation、以下「OCL」と呼ぶ)のワシントン DC 事務所は、全国規模の特殊な事件を担
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当する部署が集結している。OCL ワシントン DC 事務所は、連邦政府としての中心的な
役割を果たすだけでなく、ワシントン DC における地域レベルの犯罪も担当している。
OCL ワシントン DC 事務所には二つの機能がある。一つは、専門分野を培い必要な場合
に連邦検事(US attorney)に助言することであり、もう一つは、法令を行使して様々な分
野における訴訟を担当することである。
・全米各州は一つ以上の司法地区(judicial districts)からなっており、全 93 区の各司法地区
に地方裁判所(district court)がある。また、各地区には大統領に任命された連邦検事(US
attorney)がいる。地方裁判所からの上訴(appeal)は、全米に 11 箇所ある控訴裁判所(court
of appeals)で取り扱う。その他、最高裁判所が1箇所ある。各地区の裁判所は独自のシ
ステムを有す。
・連邦検事(US attorney)が担当する事件は、麻薬取引に特化していたり、銀行強盗に特化
していたりと、地域によって扱う範囲は異なる。米国の連邦検事局(US attorney
s office)
は DOJ の所属であるが、機能の一部は独立している。各地区の連邦検事補には、没収を
専門に担当する人員を一人配置している。DOJ 直属の連邦検事補(assistant US attorney)
である Cassella 氏はメリーランド全地区の没収事件を取り扱っている専門家である。本局
はボルチモア、支局はグリーンベルトにある。
・アメリカ食品医薬品局(Food, Drug, and Cosmetic Act 、以下「FDA」と呼ぶ)、連邦取引
委員会(Federal Trade Commission、以下「FTC」と呼ぶ)、消費者製品安全委員会(Consumer
Product Safety Commission) 、 又 は 道 路 交 通 安 全 局 ( National Highway Traffic Safety
Administration、以下「NHTSA」と呼ぶ)が捜査する事件における訴訟は OCL が担当する。
OCL は、DOJ の市民局(Civil Division)に属し、ワシントン DC に拠点を置いている。
・DOJ は米国政府の訴訟当事者であり、全ての法令を行使することができる。
FDA や FTC 等の捜査機関から DOJ へ事案が送付され、連邦検事局(US attorney
s office)
と共同で訴訟手続を行う。DOJ が担当する刑事訴訟の頭書は、「United States vs. 被告人」
となり、DOJ が担当する民事訴訟の頭書は、「United States vs. 没収対象資産」となる。
・各捜査機関の主要任務は、事件を捜査して DOJ に送付することである。例外的に、FTC
は刑事訴訟を担当する部門を有し、独自に刑事訴訟を起こす権限が与えられている。例
えば、FTC が刑事訴訟を起こした場合、頭書は「Federal Trade Commission vs. 被告人」と
なる。一方、FDA は訴訟部門を有しておらず、訴訟を起こす権限がない。
・大半の OCL では民事と刑事のどちらか一方の事件のみを取り扱うが、ワシントン DC 事
務所の OCL では民事と刑事を半々の割合で取り扱う。ワシントン DC 事務所は、様々な
事例を取り扱うため、訴訟を民事でも刑事でも起こせるようになっている。
・OCL では民事没収を行うことはあまりない。一般的には、押収(seized)又は制限
(restraint)できる資産がある場合、民事没収を適用することはあるが、OCL には民事で
起訴(indictment)する準備がない。民事没収を適用するために民事訴訟を進めた場合、
被告側によって民事開示手続(civil discovery)がなされ、情報を被告側に引き渡す必要が
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ある。一方、刑事没収における公訴事実の陳述(allegation)は刑事告発(criminal indictment)
となり、評決(verdict)又は没収命令が下る段階まで情報開示は行われない。ロサンゼル
ス、ニューヨークの南部地区や東部地区、シカゴ等の比較的大きな連邦検事局(US
attorney s office)では民事没収もよく行われている。ニューヨークには四つの連邦検事
(US attorney s office)があるが、メリーランドには一つしかない。
<行政没収と民事没収と刑事没収の違い>
・行政没収(administrative forfeiture)は民事没収(civil forfeiture)とは別のものである。行
政没収による没収対象には 50 万ドルの制限がある。行政没収は捜査機関が担当する。没
収対象となっている財産の請求があった場合、民事没収もしくは刑事没収として裁判所
にかけられる。麻薬等の所持していること自体が違法である物品のように、誰も所有権
を主張しない物品に対しては行政没収が適用される。
・民事没収は財産の所有権について民事訴訟によって争われるもので、刑事没収は被告人
が犯した犯罪に対して刑事訴訟で争われるものであり、いずれも判決が下った後に没収
の可否が決まる。刑事没収の判決は、被告人の有罪判決が前提となるが、民事没収の場
合、個人の有罪判決を前提とせず、訴訟対象の物品が犯罪の実行に利用された事実又は
犯罪によって得られた事実が連邦政府によって立証されれば没収の判決が下る。
<有罪判決から刑事没収までの流れ>
・刑事訴訟では、一審の有罪評決(guilty verdict)が下った後、没収の公訴事実の陳述
(forfeiture allegation)は陪審(jury)へと戻る。陪審(jury)は陳述に対して評決(verdict)
を下す。原告と被告の当事者間同士が妥協点を探り、合意を成立させる場合もある。いず
れの場合でも、有罪答弁(guilty plea)があった後に、裁判官(judge)は没収の予備命令
(preliminary order)を下し、一定期間の後、裁判所(court)は没収の永久命令(permanent
order)を下す。
<没収基金に移管された財産は被害者へ返還されるか>
・被害者が特定できる事件では、原状回復(restoration)又は恩赦(remission)によって被
害者への返還がなされる。被害者が特定できない事件や裁判に過大な負担が及んだ事件
においては、犯罪者から没収した財産は没収基金(asset forfeiture fund)へ組み込まれる。
・被告人の禁固(imprisonment)期間は原状回復(restitution)とは切り離して決定される。
・没収命令は永久的に帳簿に記録される。被告が刑務所から釈放されても、指定された金
額に達するまで没収命令は有効であり、被告人が釈放された後に新たに得た財産も没収
される。連邦捜査機関は、被告人が新たに得た財産を没収する場合、裁判所に申立てを
行い、差し押えてから没収する。ある事案では、返還義務を負う被告が刑期を終えた後
に宝くじに当たったため、宝くじの当選金が没収された。
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<消費者の被害回復手段>
・通常、民事訴訟においては、同意判決(consent decree)を出せないかを協議する。被告人
が被害者から奪った財産を所持している場合は、全額返済が和解条件となる。しかし、
被告人の手元にある被害者から奪った財産が被害額に満たない場合も多々ある。訴訟に
勝てば、裁判所に対して判決に救済(redress)を含めることを請求する権利がある。既に
被告人の手元に被害者から奪ったお金がない場合、被害を回復できないことが民事没収
の問題である。
・刑事訴訟の場合、起訴状が提出され犯罪者が逮捕された時点で、被疑者の財産は押収さ
れ、銀行口座は差し押えられる。損失を被った人物が特定できる刑事事件において、被
告に有罪判決が下った場合は例外なく、裁判所は判決言渡しの中で原状回復(restitution)
を命令する。被告人が財産を全く所有していない事案や多数いる被害者を特定できない
事案においては、事実上被害額は返還されないが、原状回復命令(restitution order)は、
被告の支払能力の有無に関わらず発令される。
・刑事没収の例:NHTSA が担当した中古車の走行距離改ざんの事件
‐被害者は車の購入者だけでなく、車のディーラーも含まれる。この事件では、ディー
ラーは車の卸売業者のオークションで過分に支払をした。
‐OCL は裁判所に対し、被害者のリスト、実際に販売された車の台数が多い場合は一人
当たりの平均的な損失を提示する。これを受けた裁判所は原状回復命令(restitution
order)を出す。原状回復命令は永久的に効力を有し、後に見つかった資産も返還対象
となる。
・OCL の義務は、法令のもと、被害者を特定し担当する事案における全ての被害者情報を
裁判所に提供することである。
<没収基金に組み込まれた資産の被害者への返還方法>
・いずれかの没収手続によって没収基金に組み込まれた資産から被害者にお金を返還する
には2通りの方法がある。一つは、恩赦の請願(petition for remission)である。DOJ が没
収した財産を保管し、被害者が DOJ に対しお金の返還を請願(petition)する方法がこれ
にあたる。請願(petition)は、DOJ 犯罪局(Criminal Division)の資産没収・マネーロン
ダリング課(Asset Forfeiture and Money Laundering Section)が取り扱う。請願する際、被
害 者は 犯罪に よる 被害損 失額 を提示 しな ければ なら ない。 もう 一つは 、原 状 回 復
(restoration)である。裁判所の命令によって不当利益が被害者に返還される方法である。
没収された不当利益は裁判所に引き継がれ、原状回復(restitution)手続を経て裁判所か
ら被害者に返還される。原状回復(restitution)は、恩赦の請願(petition for remission)手
続をより簡略にしたものである。
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<捜査機関の役割>
・各捜査機関は、法令の下、被害者と被害額を特定し不当に得た財産を発見する義務を有
する。不当に得た財産を捜査機関が発見した時点で没収手続が開始される。
・捜査機関が不当に得た財産を特定することには意味がある。例えば、連邦保安局
(Marshals Service)が行政没収によって独自に没収又は差押えをした後に、犯罪による不当
利益を使って犯罪者が購入した物品をオークションで換金しても、被害額のうち少額分
しか取り戻せない場合がある。そのため、連邦捜査局(Federal Bureau of Investigation 、
以下「FBI」と呼ぶ)等の捜査機関には、没収対象とする財産を見つけることを専門に担
当している部署がある。
<刑事没収の事例>
・不法なインターネット販売の刑事訴訟例:「United States vs. Vineet K. Chhabra」428
‐車、宝石、家、現金、銀行口座など総額 700 万ドルの被告人の資産を差し押さえて没
収したが、それでも 600 万ドルほど没収予定額に満たなかった。
‐多数の人がオンライン上で処方箋なしで薬品を購入した。違法に薬品を入手したため、
被害者とみなされない。ウェブサイトを立ち上げた人から多額のお金を没収した。医
師や薬局も事件に関与していた。
‐被害者が特定されない場合は、没収したお金は国の没収基金に移管される他、捜査に
関わった機関が捜査や法執行のための資金に充てることもある。
‐現金以外は連邦保安局(US Marshals Service)によって換金され、没収基金に移管され
る。Chhabra の事案では、FBI と FDA が捜査を行い、双方の機関で没収額を分配した。
‐被告人が事業で使用した全ての銀行口座が第三者の名義となっていたが、実質的に被
告人が管理していることが分かったため、銀行口座にあった 50 万ドルを没収した。
・麻薬取引の事件では、被害者が存在しないため、お金は財産没収基金に移管される。
・FTC が担当する投資詐欺(business opportunity cases、bizops)の事件では、被告人が不動
産や銀行口座を所有している可能性が高く、また、被害者も特定し易いため、被告人の
資産が被害者に返還されることが多い。
・投資詐欺の具体例:「United States vs. Carol Aronowitz」
‐接続環境が適している場所に情報端末を設置する事業で投資を募ったが、実際に接続
環境が良い場所はなく、事業の収入源であった利用料や広告料を得ることはなかった。
‐類似事案に、自動販売機、プリペイド電話、ATM などの設置事業と見せかけ、実際に
適切な設置場所を見つけることのないまま、機械も設置されないという詐欺の事案も
あった。
‐現在 Aronowitz 被告からお金を回収し、被害者に返還できるよう努めている。2010 年
12 月に事案の裁判(trial)がある。
428
Chabbra 事件の過程の記録:http://www.ftc.gov/os/adjpro/d9317/
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・被告が国外にお金を保有している事例:
‐刑事没収の有罪判決を受けた被告人がコスタリカに金銭を保有していたため、2010 年
12 月現在、金銭を回収すべく手続を進めている。
「United States vs. Russell McArthur」
‐被告は逮捕時に 100 万ドルを保持していたため、これを被害者に返還した。
<財産を特定する方法>
・没収対象の財産の特定に効果的な方法
‐金融犯罪取締執行ネットワーク(Financial Crimes Enforcement Network、以下「FinCEN」
と呼ぶ):銀行における現金取引報告や疑わしい取引報告(Suspicious Activity Reports、
以下「SAR」と呼ぶ)を管理している情報管理機関である。銀行は1万ドル以上の取引
がなされた場合、FinCEN に報告しなければならない。
‐捜査機関による不当利益の追跡:捜査チームが疑わしい銀行口座を特定したら、銀行
の記録から、住宅ローンの有無、クレジットカードによる購入履歴など、取引の痕跡
をたどって資産を特定する。
‐商用データベース「People Finder」:公的にアクセス可能なリソースから収集した情報
が蓄積されている。社会保障番号から様々な情報を探し出すことができる。データベ
ースに登録された職歴で、被告人が保有する財産を購入する能力があるかを確認する。
被告人の収入では購入できない資産を保有している場合、不当に得た利益で資産を購
入した疑いがあると推測する。
‐大陪審(grand jury)の罰則付召喚令状(subpoena):事件を担当する検事は令状を用い
て銀行の記録や電信送金記録を入手することが可能である。納税申告書(tax returns)
は罰則付召喚令状(subpoena)では入手ができないため、裁判所に出向いて被疑者の納
税申告書を確認する理由を伝えて、許可をもらう必要がある。納税申告書によって、
被告人が国に報告している収入が確認できる。
‐書類の追跡:内国歳入庁(Internal Revenue Service)や FBI 等の捜査機関、又は政府の
請負業者を介してお金の用途を特定する過程で発生する書類の追跡を行う。
・海外口座は、特定が難しい。ガーンジー島、マン島、バハマ、スイス、イギリス領ケイ
マン諸島、パナマ等、政府が個人の銀行記録を入手できる法律がない国は、犯罪者がお
金を隠すのに適しており、不当利益の隠し場所になっていると思われる。
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(4)アメリカ(没収制度調査、未請求資産管理制度調査)
アメリカ合衆国財務省とのミーティング議事録
(1)日時:2010 年 11 月 15 日(月)15 時 15 分∼16 時 45 分
(2)場所:アメリカ合衆国財務省財務省資産没収執行局
1341 G St. NW, Suite 900, Washington, DC 20220
(3)面会者:
1. 財務省資産没収執行局
局長
Eric Hample
2. 財務省資産没収執行局
法律顧問
3. 財務省資産没収執行局
顧問弁護士
4. 財務省資産没収執行局
局長補佐
Patricia O. Moss
5. 財務省資産没収執行局
局長補佐
Irina Dline
6. 財務省税関国境警備局
局長
Melissa M. Nasrah
Jeffrey E. Warner / Attorney-Advisor
Dennis McKenzie
7. 司法省資産没収マネーロンダリング課
Clifford R.R. Krieger
(4)内容:
<没収基金の目的>
・没収基金(forfeiture fund)は犯罪行為から得た収益(proceeds)を剝奪することと犯罪に
よる経済的誘引(economic incentive)を取り除くことを目的としている。
・犯罪行為により得たものを「利益(profit)」とするか「収益(proceeds)」とするかの判断
は難しいが、TEOAF は犯罪に繋がる金銭をすべて剝奪するという意味で、利益犯罪から
得た「収益(proceeds)
」という言葉を使う。
<連邦政府が管理する二つの没収基金>
・連邦政府の没収基金(forfeiture fund)は財務省(Department of the Treasury、以下「DOT」
と呼ぶ)が管轄するものと司法省(Department of Justice、以下「DOJ」と呼ぶ)が管轄す
るものの2種類がある。二つの没収基金は、没収した財源の用途は異なるが、運営方法
は同じであり、同様の手続がなされる。
・DOT 管轄下の機関には内国歳入庁(Internal Revenue Service、以下「IRS」と呼ぶ)の
犯罪捜査局のほか、移民税関執行局(Immigration and Customs Enforcement、以下「ICE」
と呼ぶ)、シークレットサービス(United States Secret Service)、税関国境警備局(Customs
and Border Protection、以下「CBP」と呼ぶ)等がある。
・DOJ 管轄下の機関には連邦捜査局(Federal Bureau of Investigation、以下「FBI」と呼ぶ)、
麻薬取締局(Drug Enforcement Administration、以下「DEA」と呼ぶ)、アルコール・タバ
コ・火器及び爆発物取締局(The Bureau of Alcohol, Tobacco and Firearms and Explosives、以
下「ATF」と呼ぶ)がある。
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議事録
(4)アメリカ(没収制度調査、未請求資産管理制度調査)
・没収を主導した連邦捜査機関が、DOT 及び DOJ のどちらの管轄下であるかによって、い
ずれかの没収基金(forfeiture fund)に組み込まれる。例えば、DOJ の管轄下の FBI が没
収を主導した機関であれば、DOJ の没収基金に組み込まれる。DOT 管轄の機関と DOJ 管
轄の機関が同じ没収の事件に関与した場合、被害者による請求を処理した後、各機関の
業務内容に基づき、いずれかの機関が主導権を持ち、主導権を持つ機関の属する基金に
全額繰り入れる。DOT と DOJ の没収基金に組み込まれた財産は、捜査機関の貢献度によ
って、公平に分配される(equitable sharing)。DOT と DOJ は、同様の公平分配(equitable
sharing)システムを導入しており、会計監査に用いるソフトウェアも同じものを使用して
いる。
・財務省資産没収執行局(Treasury Executive Office for Asset Forfeiture、以下「TEOAF」と呼
ぶ)が DOT の没収基金を管理しており、没収した財源の運用先は DOJ の政策担当官(policy
officials)の承認の下、DOT の政策担当官により決められる。財務省没収基金(Treasury
Forfeiture Fund、以下「TFF」と呼ぶ)は独立して運営されているが、毎年 DOT による監
査が入る。
<DOT の管理する没収基金の収入>
・2010 年度における TTF の収入内訳は、銀行口座を含む現金(currency)が 94%、不動産
(real property)が3%、没収された金銭以外の動産の売却金(sales property)が1%であ
る。
収入(revenue)の大部分は現金(currency)である。没収した物が多くても、価値がない
物であれば収入(revenue)は少ない。没収基金の収入の大部分は、金融詐欺等の捜査を
行う IRS、ICE、シークレットサービスが没収した金員である。TTF の家、土地、ホテル
等の不動産や国境における押収品等の売上げによる収入はあるが少額である。収入
(revenue)は 2003 年から5倍に増加している。
・押収される物の内訳は、大部分が禁制品(contraband)や偽造品(counterfeit)等の違法製
品(illegal products)、又は輸出入禁止・規制品(trade-related)であり、現金が押収(cash
seizure)されることは少ない。大半の押収や没収は CBP によるものであるが、CBP が没
収する物の大半は武器や麻薬等の禁制品であるため、結果的に保管又は破棄されること
になる。したがって、CBP が没収基金へ振り込む金額は、CBP が没収を執行するための
経費を下回っているが、高額な金員を没収できる IRS、シークレットサービス、ICE 等の
機関がその分を肩代わりして、結果的に CBP の管轄下にある犯罪の取締りに貢献してい
る。
・2009 年度の没収基金(forfeiture fund)が 10 億ドルと、2008 年度の2億7千万ドルから跳
ね上がったのは、金融詐欺(financial fraud)の件数が多かったためである。金融詐欺とは、
客や従業員の金融資産を所有者に代わって取り扱う者が故意又は過失によって、非合法
的又は非道徳的に運用する詐欺の総称である。
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議事録
(4)アメリカ(没収制度調査、未請求資産管理制度調査)
・2010 年 12 月現在、DOT が管理する押収物は5つの倉庫で保管している。倉庫はカリフ
ォルニアに2箇所あるほか、ニュージャージー、マイアミ、テキサスに1箇所ずつある。
倉庫に要する経費は年間 5,000 万ドルである。
<DOT が管理する没収基金の運用>
・没収された財産の運用方法に議会の承認は必要とされておらず、用途は TEOAF の独断で
決定している。TEOAF の事務所に2名、歳出案を検討する職員を配置している。没収さ
れた財産は、正当な手続を経て TEOAF の口座に振り込まれ、初めて運用できるようにな
る。
・TEOAF は、「mandatory authorities」と「super surplus」という2種類の没収基金運用の権
限を持つ。
‐「Mandatory authorities」は主に没収基金(forfeiture fund)を運営するための経費である。
例えば、倉庫の維持費、倉庫を管理する職員の人件費、TEOAF の職員や弁護士の人件
費、会計監査・経理の人件費、財産没収に関わる他組織の職員の人件費等がある。没
収基金に組み込まれた財産の分配の優先度は、1)犯罪に関係していない財産の所有
者(innocent owner)、2)被害者、3)公平な分配(equitable sharing)を求める海外の
機関、4)公平な分配を求める米国の法執行機関となっている。
「Mandatory authorities」
のうち、公平な分配(equitable sharing)と倉庫の維持費が占める割合が最も大きい。
‐「Super surplus」は民間企業の利益(profit)にあたるもので、没収財産から経費、捜査
機関に公平に分配された金額、被害者への返還金(refund)を差し引いて余った分のこ
とである。
「Super surplus」は、犯罪抑止のために支出される。2011 年度の「Super surplus」
の主な支出先は、1)南西部の国境における特別捜査班(task force)の運営費、設備、
情報技術等、2)国際組織犯罪(transnational organized crime)、3)IRS 金融犯罪特別
捜査班(Financial Crimes Task Forces)である。2011 年度は、CBP のインフラ整備、人
材補充、南西国境における民間人の保護体制強化に対して、1,500 万ドルが TTF から投
資された。その他の支出先は、1)ホワイトカラー犯罪対策、2)サイバー犯罪対策、
3)金融犯罪取締執行ネットワーク(FinCEN;Financial Crime Enforcement Network)の
システム等である。2010 年までの 20 年間で、コンピュータ、インターネット、銀行の
グローバル化に劇的な変化があり、インターネット詐欺や詐欺被害に遭う投資家が増
えており、時代によって犯罪の多い分野に多く支出している。また、国際組織犯罪の
対策として、捜査能力の向上に努めている。IRS、ICE、国際刑事警察機構(interpol)、
国際組織犯罪の機密情報センター、コンピュータフォレンジックの教育(computer
forensics training)等に多額の投資をしている。
<被害者への返還条件>
・被害者へ返還した金額の犯罪類型別の統計データはない。詐欺の被害において、DOT 及
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議事録
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び DOJ によって被害者へ返還される金額は、平均して損害額の 10%∼12%程度と考えら
れる。
・被害者は被害補償を受ける場合、被害額を提示しなければならない。身体的・精神的な
被害等は補償の対象にはならない。また、投資の利子及び機会費用は返還の対象にはな
らない。金銭的損失を伴う詐欺関連の被害が補償の対象となる。
・返還する相手は、必ずしも犯罪から直接被害を受けた人であるとは限らない。例えば、
被告人が犯罪で得た金銭で企業の株式の 70%を購入していたという状況で、この株式が
没収された場合、残りの株式 30%を購入した投資家は間接的に被害を受けたとみなされ、
没収された財産から被害が返還される。
<犯罪による被害状況>
・被害総額より没収額が少ないことはよくある。
・2010 年近年は、医療保険詐欺、ID 詐欺(identity fraud)、ポンジースキーム等の被害者が
大半を占める。
‐ポンジースキーム(ponzi scheme)は、実際には存在しない事業に対する投資を募り、
その投資家に対する利益配分を新しい投資家からの投資で賄う詐欺である。最終的な
被害者は投資額のほぼ全額を失うことになる。
‐ID 詐欺には、ソーシャル・セキュリティ・カードの盗難が含まれる。ソーシャル・セ
キュリティ・カードには、個人のこれまでの住所録、収入、与信枠等の情報が保有さ
れているため、第三者が他人の名前でローンを組むこともできる。シークレットサー
ビスが担当することの多い事件である。ID 詐欺の犯罪者は転々と移住するため、被疑
者特定は難しい。ID 詐欺はインターネットを介して行われることが多い。犯罪者は銀
行のネットワークに侵入して得た情報を海外にいる犯罪者に転売し、それを買った別
の犯罪者が虚偽のクレジットカードを作成して大量に売りさばくという手口が多い。
消費者のクレジットカードには負債に制限を設けられており、ほとんどの銀行は、ク
レジットカードの盗難等で被った被害を顧客に補償するため、この場合は銀行が被害
者となり、没収後の返還先となる。一方、キャッシュカード盗難による消費者の被害
は、消費者自身の損失となる。
‐抵当権詐欺(mortgage fraud)の事件では、返還相手が銀行という場合もあり得る。米
国政府が被害者となる、高齢者向け医療保険制度(Medicare)や低所得者向け医療保険
制度(Medicaid)、食品割引券等の不正請求、又は学生ローン等の不当な契約による詐
欺の事例は少なくない。国に対する詐欺には、税金に関わるものもある。例えば、あ
る銀行がカリブ諸島の口座からスイスの口座にお金を移行して、脱税をする方法を教
えていたという事例がある。税金の未支払分は没収とは切り離されて、IRS に徴収され
る。この事例では、脱税者は IRS に税金を支払い、スポンサーとなった銀行が不法な
事業から得た収益(fees charged)を没収した。銀行が詐欺の首謀者又は共謀者である
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議事録
(4)アメリカ(没収制度調査、未請求資産管理制度調査)
例は少なくない。銀行は自身が詐欺に関わっていたことを公にしたくないため、没収
される前に高額な金銭を支払い、解決することが多い。
・消費者保護関連の事件においては、押収物が禁制品や非合法製品であることが多く、転
売できずに破棄され、大抵収益を得られない。例えば、インターネットを介した偽薬を
販売する詐欺では、大量の偽薬を没収して倉庫に貯蓄する費用がかかる一方で、没収基
金(forfeiture fund)への収入がない。
・消費者被害の事例:
‐消費者が被害者となった民事没収の例として、ワールドオーシャンファームのエビ養
殖投資詐欺事件(Kuroiwa / World Ocean Farm)がある。
‐医療製品等の粗悪品を売りつけられた詐欺があり、没収額は約 600 万ドルであった。
‐金融詐欺の例として「Mizuno」のケースがある。日本の実業家が実際には建設されな
いゴルフコースの株を売り、そこで得た金銭を米国に持ち込んだ。その後、米国での
新事業やギャンブル等で大部分の金銭を使い果たした。その後、犯罪により得た財産
(asset)が押収され、まず米国の債権者に支払われ、残りの金額が日本へ返還された。
<没収前の被害者に対する通知>
・没収の手続は、没収の種類を問わず、適正手続(due process)に基づいて行われる。特定
の財産が没収の対象となっている事実は、インターネットや新聞を通じた公表や通知書
の送付によって、すべての利害関係者へ通知(notice)され、財産の所有者には申出の機
会が与えられる。何百にも上る被害者が存在し、被害者全員に通知書を送付できない場
合には、インターネットや新聞を介して公表する等して、関連書類提出の期間を設ける。
通知書送付の必要性に関して、法による規定はないが、政策の一環として行われている。
刑事没収の場合、意見聴取のため、補助的な通知期間が設けられる。ほとんどの事件に
おいて、各機関は請願の捜査を行い、捜査機関又は DOJ、もしくは双方の機関が請願
(petition)の検討を行う。
<行政没収について>
・行政没収の手続が進んでいる最中は誰でも異議の申立てをする機会があり、行政没収の
手続の最中に、訴訟手続(judicial proceeding)を伴う刑事没収や民事没収になる可能性は
いつでもある。しかし、行政没収が最も一般的な手法である。
・知的財産権関連(IPR-related)の違法製品を 2010 年に初めて略式没収
(summary forfeiture)に適用することを検討している。また、FDA が規制している食品に
関しても、没収する度に全ての手続を踏むのは煩わしいため、略式没収(summary
forfeiture)を適用する。
<没収の種類による違い>
272
議事録
(4)アメリカ(没収制度調査、未請求資産管理制度調査)
・没収額が多いのは、行政没収よりも刑事没収又は民事没収である。行政没収を適用でき
る金額には上限があり、上限を超えると連邦検事(U.S. Attorney)に報告される仕組みに
なっている。現金を行政没収する場合は 50 万ドルの上限はない。2003 年以前は、100 万
ドルの現金を行政没収するような事件は皆無だったが、2010 年近年は麻薬関連の犯罪に
おいて 100 万ドル以上の現金を行政没収する事例はちらほら見られる。詐欺関連の犯罪
において 100 万ドル以上の現金が行政没収される事件は見られない。詐欺においては、
刑事没収ではなく通常民事没収が適用される。
・刑事没収においては、必ず被告人の存在があり、被告人に有罪判決が下され(convicted)
判決が言い渡された(sentenced)後に没収が執行される。没収された資産(property)の
利害関係者が、その所有権を主張できるのは、資産が没収された後である。
・民事没収は、刑事没収とは異なり、被告人の存在は必要なく、資産(property)を対象に
訴訟が行われる。没収対象となっている資産(property)の利害関係者は、民事没収の手
続が行われている最中であればいつでも、その所有権を主張(state interest)できる。た
だし、没収手続(forfeiture process)の途中において申立てを行えるのは、犯罪に関係し
ていない財産の所有者(innocent owner)だけである。被害者は没収手続の最中に申立て
を行うことはできず、被告人に対する刑事事件の中で、有罪判決に続いて裁判所に原状
回復命令(restitution order)を出してもらうよう主張するか、行政没収、民事没収、又は
刑事没収に続いて行える恩赦の請願(petition for remission)を出すかのいずれかの方法に
よって所有権を主張するしかない。被害者が没収された財産を取り戻すには、行政没収
を経て財産が没収された場合においては没収した機関に対して直接恩赦の請願(petition
for remission)を提出し、司法手続を経て没収された場合においては DOJ に対して恩赦の
請願(petition for remission)を提出する。
<訴訟による没収の手続>
・民事没収の手続においては、資産(asset)を特定した後、資産(asset)に対して訴追請求
手続を行い(file a complaint)、資産(asset)を押収する。この段階で、財産の所有者や利
害関係者は没収手続の停止を要求する請求を裁判所に出す。その後、訴訟(litigation)、
開示(discovery)、申立て(motion)の順に手続を経て、正式事実審理(trial)に入る。民
事没収及び刑事没収の正式事実審理(trial)は、証拠の優劣(preponderance of the evidence
balancing of probabilities)によって審理される。
・刑事訴訟において被告人を有罪に処すには、合理的な疑いを超えて立証する必要がある
が、没収の判決は証拠の優劣によって下される。裁判官による没収の判決結果は、被告
人の財産を一部又は全て没収する命令(order)を出すか、全く没収しないかのいずれか
である。被害者を含む利害関係者は、恩赦の請願(petition for remission)手続を行い、没
収された財産の所有権を主張できる。DOT は通常、被害者からの請願(petition)を優先
し、その後残った分から没収に関わった機関に対する公平な分配(equitable sharing)を行
273
議事録
(4)アメリカ(没収制度調査、未請求資産管理制度調査)
う。
274
議事録
(4)アメリカ(没収制度調査、未請求資産管理制度調査)
バージニア州財務局とのミーティング議事録
(1)日時:2010 年 11 月 16 日(火)10 時∼12 時
(2)場所:バージニア州財務局未請求資産課(Virginia Department of the Treasury,
Division of Unclaimed Property)
101 North 14th Street・Richmond, VA 23219
(3)面会者:
1. 未請求資産課
課長
Vicki Bridgeman
2. 未請求資産課レコード・レシート部門
部門長
William Dadmun
(4)内容:
<未請求資産の取扱>
・全米各州に財務局(treasure office)又は監査局(comptroller office)に属する未請求資産
(unclaimed property)課がある。未請求資産(unclaimed property)を取り扱う課が州政府
の土地利用組織(land use organization)等の組織に属している州もあるが、未請求資産の
取扱方法はどの州も類似している。
・特定の資産が未請求資産と認められるまでの保有期間(holding period)、報告日(reporting
date)、基金(funds)の用途は各州の都合に基づいて決定され、州ごとに異なる。
・州の未請求資産(unclaimed property)制度と同様の連邦制度は存在しない。内部歳入庁
(Internal Revenue Service、以下「IRS」と呼ぶ)、国債局(Bureau of the Public Dept)、住
宅土地開発省(Department of Housing and Urban Development)等の連邦政府機関が管轄す
る未請求の税金や貯蓄債券(saving bonds)等は、州の管轄ではないため、各連邦機関が
保有し、3年間請求がなかった場合は各連邦機関の財源に移管される。連邦政府機関に
よって保有された未請求資産(unclaimed property)は、一定期間中に請求することで、所
有者は返還を求めることができるが、一定期間を過ぎると請求できなくなる。
・連邦政府機関は未請求資産(unclaimed property)を確認しても州に報告する義務はない。
一方、すべての事業者、州政府機関、地方政府機関等、連邦政府機関以外の機関は州の
財務局又は監査局に未請求資産を報告する義務がある。ワシントン DC 特別区も、州と同
様に扱われる。米国の領土であるプエルトリコやヴァージン諸島、カナダの一部(ブリ
ティッシュコロンビア、ケベック等)の地域に関しても州と同様に、独自に未請求資産
を扱っている。
・連邦政府は各州が未請求資産(unclaimed property)を管轄するものと考えており、各州に
未請求資産(unclaimed property)の法律がある。
<バージニア州における未請求資産制度の根拠法>
275
議事録
(4)アメリカ(没収制度調査、未請求資産管理制度調査)
・バージニア州における未請求資産制度の根拠法は、Title 55 Property and Conveyances,
Chapter 11.1 Uniform Disposition of Unclaimed Property Act, §55-210.1-30 である。
<未請求資産の目的>
・未請求資産制度の目的は、下記の3点である。
‐所有者不在の資産を元の所有者に返還し、所有者の所有権を守ること。
‐所有者不在の資産を、放置するよりも、リテラリー・ファンド(literary fund)に提供し
て、バージニア州の全市民にとって有益に活用すること。
‐所有者不在の資産を保管する者を資産管理の負担から解放すること。
<未請求資産の運用方法>
・バージニア州においては、未請求資産として州に報告された額(amount reported)から、
請求額(amount claimed)と州の未請求資産課の経費(operating expenses)を差し引いた
額がリテラリー・ファンド429(literary fund)に組み込まれる。州政府に報告された未請求
資産(unclaimed property)は、まずゼネラル・ファンド(general fund)に入る。ゼネラル・
ファンド(general fund)に入った未請求資産(unclaimed property)からどれだけリテラリ
ー・ファンド(literary fund)に入れるかを決定する。
・バージニア州財務局未請求資産課の経費は年間約 500 万ドルであり、その内訳は、職員
の給与、福利厚生費、未請求資産の保管費等の管理費(custody charges)、賃料(rent)、オ
フィスで使用する文房具費(office supplies)、電話代、及びコンピュータ関連の費用等で
ある。運営費は全て未請求基金(unclaimed funds)から出ており、2010 年の現在となって
は少額ではあるが、資産の金利(interest)からも出ている。経費は前年度の経費に基づい
て未請求資産課によって予算の一部として計上され、予算案が議会によって承認されれ
ば、未請求資産の口座から経費用の口座に移管される。
<未請求資産の規模>
・これまでに未請求基金(unclaimed fund)からリテラリー・ファンド(literary fund)に移
管された額は 10 億ドル程度である。1年間で 8,500 万ドルから1億ドルを組み込んでい
る。1961 年の設立当初は 10 万ドル程度と少額だったが、人口の増加により増額した。
・未請求資産(unclaimed property)として報告される資産の額は1件平均 700 ドル程度であ
る。
・個人と法人の報告される未請求資産の割合は、個人の方が多い。
<未請求資産の報告日と保有期間>
429
リテラリー・ファンド(Literary Fund)は、1810 年にバージニア憲法に基づいて設立され、公立校を支
援することを目的に運営している。移管された未請求資産(unclaimed property)は、学校の運営費や教師
の退職金等に充てられる。
276
議事録
(4)アメリカ(没収制度調査、未請求資産管理制度調査)
・未請求資産の報告期日(reporting period)は、保険会社を除き毎年 11 月1日である。保険
会社による、未請求の保険金(insurance property)の報告期日は毎年5月1日である。
・特定の資産が未請求の疑いがあると報告されてから、未請求資産と認められて基金に入
るまでの保有期間(holding period)は資産の種類、元の所有者の情報に基づいて決まって
いる。未払の賃金(wages)、手数料(commissions)、公共料金(utility)、還付金(refund)
等の保有期間(holding period)は1年間である。保険が満期となってから、被保険者から
の請求がない場合等、保険金(insurance property)の保有期間は2年間である。銀行預金、
株(stocks)、配当金(dividends)、有効な小切手(payable checks)等を含むほとんどの財
産の保有期間は5年間である。郵便為替(money order)の保有期間(holding period)は7
年間であり、トラベラーズチェックの保有期間は 15 年間である。会社が解散(dissolution)
した際の分配可能積立金の保有期間は6か月である。
・金融機関等が、未請求資産(unclaimed property)について州に届け出る際は、当該権利者
の分かる限り最新の住所がある州に対して行う。例えば、未請求資産の所有者が届け出
た最新の住所がバージニア州にある場合、バージニア州の財務局へ報告することになる。
<所有者による未請求資産の請求>
・元の所有者から請求があるか、又は州政府が元の請求者を特定すれば、未請求資産は全
て所有者に返還される。
・企業から請求がある状況として、リースの保証金、消費税の控除分、宛先不明の郵便物
等をオフィス移転の際に受け取れなかった状況や小切手等が現金化されないままになっ
ている状況等が想定される。
<未請求資産課の組織体制>
・バージニア州財務局の未請求資産課は、監査部門(Audit Unit)、レコード・レシート部門
(Records & Receipt Unit)、請求部門(Claims Unit)、セキュリティ・アカウンティング部
門(Securities Accounting Unit)の4部門で構成され、これらを束ねる部長を含めた 40 名
の常勤職員と5名の非常勤職員が勤務している。
‐監査部門(Audit Unit)では、未請求資産の報告を行う各機関を訪問し、報告義務を果
たしているかの確認業務を行う。報告する機関が何らかの支援を必要としている場合
はその提供を行う。
‐レコード・レシート部門(Records & Receipts Unit)では、銀行の取引や小切手の所有
者等、州に付託される情報をデータベースに入力して管理する。報告された未請求資
産の情報や元の所有者の記録をデータベースに入力する。
‐請求部門(Claims Unit)では、請求者とのやり取りを行う。請求者が未請求資産の所有
者である証拠を揃えて請求があった資産を所有者に返還することを任務としている。
請求部門は、部門の中でも一番人員を多く配置している。請求部門には広報活動を専
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議事録
(4)アメリカ(没収制度調査、未請求資産管理制度調査)
門に行う職員を2名配置して、バージニア州において未請求資産の制度に対する市民
の認知度を高める活動を行っている。
‐セキュリティ・アカウンティング部門(Securities Accounting Unit)では、証券保険機関
から未請求の投資信託や株の報告を受けた際に、これらの名義を財務長官の名前に変
更し、所有者からの請求があった際は名義を所有者に戻す。
<未請求資産制度による犯罪に関与した資産の特定>
・金融機関や証券保険機関からの未請求資産の報告を受ける財務局には、口座にあるお金
が特定の犯罪に関与しているかどうか、名義人を偽っているかどうか等を確認する術は
ない。2001 年9月 11 日のテロ以降の法規制により、口座の開設、ミューチュアル・ファ
ンド及び株の取引は厳しくなっているが、インターネット上の取引も増えているため、
口座の用途が合法か違法かの判断はできない。ただし、未請求資産(unclaimed property)
制度においては、未請求資産の報告時に作成された所有者の記録が、請求者の名前に一
致しなければならない。よって、仮名口座に対して犯罪者が請求を行った場合に、請求
部門の知識豊富なスタッフが偽造 ID や架空名義を見分けるということは可能である。し
かし、犯罪者が財務局で取り扱うような少額の未請求資産を口座に入れたまま数年間放
置した後に、請求してくることは考えづらい。また、請求があったとしても、返還する
相手が特定の国にいる場合は、返還できないことになっている。
・犯罪に関与する口座の特定について、犯罪捜査組織からの捜査要請はないが、要請があ
れば、テロリストのリストとの照合・確認作業を行うことはある。
・米国において特に大きな資産が動く、マフィア、麻薬及びカルテル等の組織犯罪では、
通常、犯罪者は収益を国外へ移管し、犯罪手口も巧妙であるため、犯罪によって使用さ
れた資産や口座が未請求資産として財務局に報告されることはほとんどない。財務局で
は、「遺族が故人の財産を把握してない」、「外国人が米国に預金を残したまま母国に帰っ
た」等、主に一般市民や合法事業の未請求資産を取り扱う。
・未請求資金(unclaimed property)として報告される口座の規模は、大きくても精々5万ド
ル程度で、100 万ドルに至るような規模ではない。
<未請求資産の要件>
・未請求資産として保有対象となる財産は有形(tangible)の財産である。貸金庫の中身、
警察に証拠品として預けられている物、病院における患者の所有物等の動産は含まれる
が、不動産は含まれない。「Escheats Generally」という法律に不動産に関連する事項が定
められているが、不動産が所有者不明となることはほとんどない。
・未請求資産は、基本的に倉庫の棚に収まる物しか受け取らない。倉庫に保管される財産
はオークションにかけられ、どの未請求資産を現金化したかを記録して口座に入れる。
既にオークションにかけられた有形資産に対して所有者から請求があればその売却金を
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議事録
(4)アメリカ(没収制度調査、未請求資産管理制度調査)
返還する。通常、1,200 点をオークションに出品して一度に現金化しても 12 万ドル程度
にしかならず、有形財産は無形財産に比べて規模は小さい。しかし、財務局は資産やお
金と同様、有形資産を守ることも消費者を守るためには重要だと考えている。
・有形資産の中で、紙の文書だけはオークションにかけることはないが、倉庫で永久に保
管することはできないため、いずれは処分する。オークションにかける前には、所有者
を特定するための努力が払われ、類稀な物については特別な調査も行う。紙の文書につ
いては、貸金庫の中身にある紙の文書だけが、未請求資産として報告される対象であり、
例えば、弁護士がクライアントから受け取った書類等は含まれない。
<金融機関等の未請求資産制度に関する負担>
・未請求資産の報告義務等、行政手続における金融機関等の負担については、所有者不在
の財産を保管する負担からの解放と相殺されている。金融機関が財産を保管する場合、
所有者に対する責任は金融機関が負わなければならないが、財務局(treasure office)に付
託されるとその責任は移管される。いずれにしても、銀行等が保管している請求者不明
の財産額自体は大きくない。米国では、金融業や投資信託業に対する規制は厳しく、事
業者は法律遵守に慣れているため、未請求資産に関する法律の遵守に対してのみ、疑問
視する意見は多くない。一方、弁護士や不動産事業者などからは、報告することによっ
て所有者の追跡等の負担から解放されるため、快く受け入れられている。一般的には、
税法や銀行法等に従うように、未請求資産の法律に遵守することは金融事業を営む上で
の義務の一環であるというように認識されている。
・銀行等は、1∼2年に渡って銀行口座が動かなかった場合、まずはその口座を遮断して
銀行の職員2名による二重管理下に置く。
<未請求資産の手続例>
・銀行口座にある預金が未請求資産として報告された場合:
‐ある口座において5年間取引がなかった場合、翌年の 11 月に金融機関から財務局の未
請求資産課に当口座の所有者不在の疑いがある旨の報告書が上がる。財務局において、
元の所有者の名前をデータベースに登録し、翌春の新聞に未請求資産の所有者の名前
を掲載する。1年に1回、所有者の住所がある地域で発行されている新聞において、
所有者の名前を掲載する。
‐所有者が財務局の公開データベースや新聞広告等を見て、自分の財産を請求する場合、
元の財産がそのまま返還される。請求に対して返還がなされるとデータベースから名
前が消去される。
‐請求がない場合、継続して新聞広告に名前は掲載されるが、預金額はリテラリー・フ
ァンドに移管される。ただし、請求があった場合にいつでも返還できるように、常に
適切な金額を請求予備金とし財務局は保有して、調整している。2010 年 12 月現在の請
279
議事録
(4)アメリカ(没収制度調査、未請求資産管理制度調査)
求予備金は 800 万ドル程度であり、もし報告された未請求資産の請求が全てなされれ
ば、10 億ドル程度になるため返還できないが、現実的な予備金は常に用意している。
・給与小切手が支払われていない場合:
‐所在不明などの理由によって、雇用者が元被雇用者に対して給与を1年間支払えなか
った場合、雇用者は財務局に未請求の給与を報告する義務がある。これを雇用者が怠
り、監査部門(audit unit)による内部調査により摘発された場合、財務局の要求によっ
て雇用者は支払えていないすべての被雇用者の給与を財務局に報告する。
・未請求資産が株式である場合:
‐未請求資産が株式である場合、株式名義書換代理人が、株式名義人の氏名とその配当
金額を財務局に報告する。株式の名義は財務局に書き換えられ、配当金は移管される。
元の株式名義人はデータベースに登録される。株式の場合、可能な限りウェブや新聞
等に掲載して所有者を特定するが、報告されてから1年経てば株式は売却される。ほ
とんどの場合、1年より長く保管しているが、一定期間を過ぎると管理費が高くなる
ため売却する。
<未請求資産の特定手段>
・10 ドル以上の財産はすべてウェブ上のデータベースに掲載している。財産がなくなった
場合、政府機関等に出向かずにデータベースで情報を検索することができる。
‐オンラインサービス「MissingMoney.com」では、全米の請求者不明の財産を探すことが
できる。各州のデータベースとは別に、大部分の州の財産を掲載している。引越しの
多い軍人もいるため、財産の特定に有効な手段となっている。
「MissingMoney.com」は、
テキサスの ASC 社が最低限の手数料を各州から集めて運営している。バージニア州の
場合、年間手数料は 8,800 ドルである。市民は自分の名前を入力するだけで全ての未請
求資産(unclaimed property)を見つけることができる。ただし、個人情報となる管理人
の名前や財産の額等表示されない。不正な請求や詐欺行為が行われても、データベー
スの情報と一致しない限り、情報は開示されない。財産の請求者は、社会保障番号(social
security number)と最後に居住していた住所を示す書類を提出し、それらがウェブ上の
情報と一致すると請求できる。
‐バージニア州の財務局ホームページでも未請求資産の情報を掲載している430。
‐全米未請求資産管理者協会(National Association of Unclaimed Property Administrators、
以下「NAUPA」と呼ぶ)が運営するウェブサイトからも全米の未請求資産を検索する
ことが可能で、各州の未請求基金(unclaimed fund)のウェブサイトにリンクしている431。
430
バージニア州財務局のウェブサイト「vamoneysearch.org」
:
https://www.trs.virginia.gov/propertysearchdotnet/
431
NAUPA のウェブサイト:http://www.unclaimed.org/
280
議事録
(4)アメリカ(没収制度調査、未請求資産管理制度調査)
メリーランド州連邦検事事務所とのミーティング議事録
(1)日時:2010 年 11 月 17 日(水)10 時∼11 時 30 分
(2)場所:メリーランド州連邦検事事務所
36 S.Charles Street, 4th Floor Baltimore, MD 21201
(3)面会者:
1. メ リ ー ラン ド 州連 邦検 事 補
資産 没 収・ マネ ー ロン ダリ ン グ班 長
Stefan D. Cassella
2. 弁護士
Robert W. Biddle
(4)内容:
<誰がどこに民事没収を申し立てるのか>
・民事没収の申立ては、必ず司法省(Department of Justice、以下「DOJ」と呼ぶ)が連邦裁
判所(Federal Court)に対して行う。連邦機関で捜査が始まった場合においても、必ず司
法省の連邦検察官(Federal Prosecutor)が連邦裁判所に対して申立ての手続を行う。
・地区裁判所は全米で 94 の地区に分かれ、地区ごとにひとりの連邦検事(US attorney)が
いる。全ての事案は、いずれかの地区の連邦検事(US attorney)の司法権下に配置され、
したがって、ほとんどの事案は連邦検事によって申立てがなされる。複数の地区にまた
がって司法権が発生する稀な事案もある。また、DOJ のワシントン本部の検事(Attorney)
が民事没収を取り扱う事案もあるが、少数に止まる。
<没収手続の発端について>
・連邦機関が犯罪による収益を没収する場合、令状(warrant)を取り、財産の差押えをし
て、行政没収、刑事没収、民事没収のいずれかの手続を開始する。事案が訴訟で争われ
ない場合は行政没収の手続を進めるが、訴訟となった場合は民事か刑事かを決定する。
・犯罪による収益の保有場所が銀行口座、貸金庫、レコード記録がある等既知である場合
は差押え令状(seizure warrant)を取る。保有場所が不明な場合は、大陪審(grand jury)
や罰則付召喚令状(subpoena)を用いたり、銀行から記録の証言を取ったりして捜査する。
こういった捜査を行わずに差押え命令や令状を出すことはできない。
・実際に差押えが行われる前に、幾つかのデュー・デリジェンス(due diligence)がなされ
る場合がある。犯罪に利用され損傷がある不動産等で、住宅自体に問題があり、政府が
所有したくないと判断した時には没収しないこともある。例えば、住宅バブルの影響で
実際の住宅の価値が借金よりも少ないことが明らかな場合がそれに当たる。
<行政没収の権限について>
281
議事録
(4)アメリカ(没収制度調査、未請求資産管理制度調査)
・行政没収は連邦の捜査機関が独自の判断で行う。例えば、詐欺は FBI、麻薬は麻薬取締局
(Drug Enforcement Administration、以下「DEA」と呼ぶ)というように捜査権を有する機
関が行政没収の手続を開始できる。ただし、行政没収が可能となるのは訴訟で争われて
いない事案に限る。
・事案が争われている場合、連邦検事(US Attorney)に報告され、民事又は刑事の司法手
続(judicial proceeding)による没収となる。
・典型的な行政没収の対象財産は、金員や車等であり、その所有者から没収される。行政
没収の対象となった資産の所有者には通知が届き、所有者が没収対象資産の所有権を主
張して訴訟を起こさなければ、資産は行政没収される。訴訟を起こせば、行政没収では
なくなり、連邦検事(US Attorney)に付託される。Robert Biddle 氏は、実際に所有者が行
政没収の不服を申し立てた例を見たことがない。
<行政没収の上限額の規定がない対象>
・行政没収が可能である対象は、金員とモニー・インスツルメンツ(money instruments)及
び 50 万ドル以下の動産(personal property)である。不動産は含まれない。モニー・イン
スツルメンツ(money instruments)には、小切手(checks)や企業間の商業手形(commercial
paper)等が含まれる。銀行口座には 50 万ドルの制限がある。複数の銀行口座が存在して
いる場合、口座全体で 50 万ドルという上限を設定するのか、各口座で 50 万ドルの上限
を設定するのかという点において Cassella 氏と Biddle 氏の見解は一致していない。裁判
所の判断にも統一性はないが、裁判に申立てがあれば、行政没収ではなくなり、議論さ
れることは滅多にない。また、カジノのデポジット口座は銀行口座と同等に扱われてい
る。
<検事による刑事没収と民事没収の選択基準>
・行政没収に対して不服申立てがあり、没収の司法手続が開始される際、検察官は可能な
限り刑事没収の手続を進め、刑事没収ができない場合に民事没収を試みる。基本的に民
事没収は刑事没収が適用できない場合の予備的な手段となっている。
・刑事訴追できる場合でなければ刑事没収は適用できない。
・一方、被告が逃亡者あるいは死亡している場合、重大な犯罪ではない場合、没収したい
財産を被告ではなく起訴されていない第三者が所有している場合、被告人が判決を受け
た犯罪において没収したい財産が使われていない場合は、民事没収を行う。
・刑事没収では、有罪判決後に被告人が所有する財産を何でも没収することができる。実
際に詐欺で得た財産でなくても、他の財産を代用として没収することができる。一方、
民事没収では人ではなく財産に対して訴訟が行われるため、実際に犯罪で得た収益の所
在を特定することができなければ没収は適わない。被告人が被害者から奪った財産を既
に所有していない場合や既に被害者から奪った財産を別の場所へ移動した場合、被告人
282
議事録
(4)アメリカ(没収制度調査、未請求資産管理制度調査)
の所有する合法な財産を代用して没収ができる刑事没収の方がより強力な効力を持つ。
第三者である利害者や被告人にとっては、民事没収の訴訟の方が争い易い。
・被告人が刑事訴訟において開示手続(discovery)を利用できる範囲は、被告人が民事訴訟
において開示手続(discovery)を利用できる範囲よりも極端に狭い。例えば、民事訴訟の
場合は証言録取(deposition)において、被告人は政府側の証言者が宣誓の下に証言した
内容に対して柔軟に質問を展開することができるが、刑事訴訟ではそのようなことはで
きない。
・検事は、被告による開示手続(discovery)が可能である民事手続を刑事訴訟が終わるまで
保留にしておく。この場合、開示手続は刑事訴訟が終わるまでできない。
・刑事訴訟では有罪判決が出た場合、刑事没収は判決の中で言い渡される。また、民事訴
訟においても、原告の連邦捜査機関又は連邦検事が勝訴すれば、民事没収は判決の中で
言い渡される。刑事訴訟の判決の際は、財産を誰が所有しているのかが決定され、有罪
判決を受けた被告人が財産を所有していれば刑事没収ができるが、例えば、被告人の妻
が所有している場合は刑事没収できない。
<被害者が被害を回復する手段>
(行政没収の対象財産から被害額を取り戻す場合)
・行政没収の対象となっている財産を被害者が取り戻すには、行政没収の通知を出した連
邦機関に直接出向き被害の回復を請求するか、弁護士を雇って民事訴訟を起こすという
二つの方法がある。捜査機関が適切に対応してくれると判断した場合、手続も簡単で裁
判の費用もかからない前者の方法が適しているが、捜査機関よりも裁判官の判断を優先
したい場合は後者の方法をとる。
・行政没収の対象財産に対し、被害者が連邦機関に直接出向き被害回復の手続を行う場合
恩赦(remission)や被害回復(restoration)として、被害者は請求を立てることができる。
・被害者が存在する場合、FBI 等の機関が規則に基づいて没収財産から恩赦(remission)を
行い、残額を被害者に返還する。
(刑事訴訟の判決後に財産を取り戻す場合)
・被告人が刑務所に入っていると金員を取り戻すことは難しい。
・刑事事件である場合、判決言渡しの一部として裁判所から被告人に対して原状回復命令
(restitution order)が出され、被害者にお金が返還されることがある。原状回復命令は、
没収の一部、又は没収とは切り離された判決として下される。
<原状回復命令(restitution order)と没収のすみ分け>
・民事没収でも刑事没収でも、裁判が行われる前に連邦検事が没収の対象資産を押収でき
るため、判決後に没収する財産を保全できる。他方、原状回復命令(restitution order)を
理由に被告人の資産を裁判前に差し押えることはできないため、被告に支払を要求でき
283
議事録
(4)アメリカ(没収制度調査、未請求資産管理制度調査)
ても、必ずしも判決後に被告が金銭を持っているとは限らない。最初の段階で差し押え
をしなければ、被告人が自身の弁護費用に財産を費やし、原状回復命令(restitution order)
も没収も困難になる。しかし、裁判官は没収で差し押えた財産を原状回復のために充て
るという判決を下すに至るまで裁判で踏み込むことはせず、結果的に没収した財源から
原状回復をするか否かは没収した財源を所持する DOJ が決定する。
・FBI や DOJ 等の連邦機関の関わりがないまま、民事訴訟によって被害回復を図ることは
可能である。被害者が被告人から自身の財産を取り戻すという民事訴訟になった場合、
被告人に対し裁判の最中は提示された金員(money)を使用できないという裁判所命令
(court order)を出して被告人の所持している財産を差押えできる。ただし、民事訴訟に
おける裁判所命令(court order)による差押えの場合、連邦検事による差押えの場合とは
違い、被告人は聴聞(hearing)をすぐに行うことができる。裁判所命令(court order)は、
メリーランド州においては制定法(statute)とコモン・ロー(common law)の組合せを根
拠としている。
<没収対象の財産がない場合又は被告が原状回復命令に従わない場合の措置>
・没収又は原状回復命令(restitution order)が判決言渡しに含まれた際に、被告が没収対象
となる財産を所持しておらず、検事が差押えをしていなかった場合は、一般の判決でな
されるのと同様に被告の賃金や他の財産を差し押えて、命令に従うよう促すがほとんど
回収できないのが実情である。
・財産の所在の調査は、事案の捜査を担当している連邦機関が行う。例えば、詐欺の事案
は連邦捜査局(Federal Bureau of Investigation、以下「FBI」と呼ぶ)が担当することが多
いが、IRS やシークレットサービス等担当する連邦機関は複数ある。
・刑事没収の手続の途中で被告人が破産した場合、リレーションバック(relation back)の
法理を適用して、破産管財人(bankruptcy trustee)より被告人の財産の没収を優先すると
いう見解がある。常に没収法と倒産法の優先順位に関する議論はあるが、明確な結論は
出ていない。裁判においては没収が優先されることが多い。リレーションバック(relation
back)の法理が適用される場合、民事没収も刑事没収も同じ理屈となる。
<没収額の算定>
・没収額は犯罪により発生した収益に基づき決定する。犯罪によって発生した収益は刑事
事件の裁判中、又は裁判後、あるいは民事訴訟の中で立証され、被害者の数、実際の被
害額も可能な限り計算して没収額を決定する。
<民事没収において犯罪捜査に使われた情報は使用できるか>
・犯罪の捜査に使われた情報を、民事没収の訴訟を担当する連邦検察官が利用することが
できる。10 年ほど前の法改正で、18 USC 3322 に規定された。一般的には、大陪審(grand
284
議事録
(4)アメリカ(没収制度調査、未請求資産管理制度調査)
jury)等で得た刑事事件の情報は連邦検事にさえ秘匿されるべきであるが、民事没収の制
度は民事ではあるが犯罪と関連しているとの理由で、例外的にこの制定法(statute)が規
定された。
<刑事没収後の民事没収の可否>
・民事没収の手続を、刑事没収の手続の終了後に行うことは可能であり、事例は少なくな
い。実際に民事没収と刑事没収を同時に申し立てて、刑事没収の裁判が終了するまで民
事手続を保留する(stay)ことがある。これは特定の理由で刑事訴訟が完了できなかった
場合、例えば、被告人が刑事訴訟中に死亡した場合や刑事訴訟で被告人を有罪判決に処
せなかった場合等に、民事没収で回収可能な分だけ取り戻すためである。民事没収は、
刑事没収とは立証責任(burden of proof)が異なるため、刑事没収では回収できない分も
回収できる例がある。刑事訴訟での被告人の敗訴状況により民事没収は行わないとする
検察官もいるが、厳しい検察官であれば、そのまま民事訴訟に移る。
・15 年前には、同一の犯罪に対して刑事没収と民事没収を重ねて処することは、ダブル・
ジェパディ(double jeopardy)の禁止にあたるか否かということが議論されていた。しか
し、1996 年に最高裁で民事没収は刑事の訴追ではないためダブル・ジェパディ(double
jeopardy)の禁止にはあたらないとの判決が下されて以降は、刑事没収と民事没収の併課
はダブル・ジェパディ(double jeopardy)には当たらないとしている。
<消費者被害を伴う民事没収の事例>
・Biddle 氏の知る限り、大きな被害を伴う詐欺事件において消費者被害が救済された事案の
ほとんどは、刑事訴訟の結果で原状回復命令によって被害救済されたものである。しか
し、海外において起訴された事案等、稀に刑事訴訟を伴わず民事没収で被害を救済する
例がある。例えば、日本での犯罪行為に対して日本の法律に基づいてある人物が起訴さ
れて、没収したい財産が米国に残っている場合、被害を回復するには二つの方法がある。
一つは、米国政府が日本政府に対して刑事没収命令を出すよう要求する方法であり、も
う一つは、米国にある金員に対して民事訴訟を行う方法である。もし後者の方法で米国
政府が没収した場合、没収した財産は日本の政府に引き渡すことになる。Ken International
という会社が日本の投資家に対して実在しないリゾート施設の株を売りつけた 1990 年代
初頭の事案がこれにあたる。
<刑事事件における集団被害事例の取扱い>
・1万人の被害者がいて法廷で証言できるのは 100 人である場合、刑事事件であれば被告
人が犯罪で得た収益全体に対して命令を課すことができる。例えば、ポンジースキーム
(ponzi scheme)の被害者が1万人存在し、4人の被害者しか特定できなかったとしても、
犯罪行為によって得た収益に対して命令が出されるため、全体の被害額を計算して被告
285
議事録
(4)アメリカ(没収制度調査、未請求資産管理制度調査)
人から犯罪収益を没収することができる。
・一般的な認識として、犯罪の被害に遭い、DOJ が没収した基金から返還を求めたり、裁
判所で原状回復命令を請求したりする場合には被害者が自発的に所有権を主張しない限
り、被害損失は戻ってこない。しかし、民事のクラスアクションの場合は、被害者全員
に対して通知が出されるという一部の被害者にとっては受動的に被害回復の手続が進む
ことがある。
・被害者が1万人で、法廷で立証できる者が 100 人しかいない場合でも、被害全体に対し
て起訴することが一般的である。刑事訴訟において一部の被害しか実際に立証すること
ができなくても、犯罪自体を立証して、実際の被害が法廷において立証できる被害例よ
りも多いことを立証できれば、陪審や裁判官の判断によって被害額全体を回復すること
は可能である。しかし、実際の被害が立証できる被害例よりも多いことを立証できなけ
れば、被害額全体の回復は難しい。
<訴訟の論点>
・訴訟で必ずと言っていいほど争われる論点は、没収額に犯罪によって運営した事業の経
費を含むか否かという点である。経費を控除せずに犯罪による収益の総額を没収すると
いうのが、原告側の政府が主張する内容であるが、被告側は経費を控除して利益だけが
没収されるべきと主張する。ほとんどの場合、政府の主張が通るが、どちらの主張が通
るかということに対して論理的な理由はなく、裁判官が制定法(statute)をどのように捉
えるかによって毎回異なり、民事においても刑事においてもほとんどの裁判で論点とな
る。例えば、シカゴの麻薬取引の刑事訴訟において、被告側の麻薬の仕入代金は没収額
から差し引かれるべきという主張が通ったこともある。
<民事没収制度の起源と現状>
・連邦の民事没収制度は、制定法(legislation)やコモン・ロー(common law)や政策等の
様々な要素から構成された 200、300 年の歴史の産物である。最初から民事没収制度を作
ろうとして制定していたのであれば、今とは全く異なる制度であっただろうというのが
Biddle 氏の見解である。コモン・ロー(common law)が適用される南アフリカ、英国、
カナダやオーストラリアの一部の地域で 20 年間にわたって使われてきた民事没収の手続
は、米国の手続と比べると単純で読みやすくなっている。
・米国における現行の没収制度は、原状回復(restitution)と没収のすみ分けに関する説明
が不足しており、双方の関係性が不明瞭である。一度行政機関が没収した財産によって
被害者の原状回復(restitution)がなされることも可能であれば、判決の中に没収命令と
原状回復(restitution)命令の両方を含むことも可能であり、被告が行政による没収と被
害者に対する賠償の両方を支払わなければいけないかということに対して現行法は曖昧
である。また、他の利害者に対して被害者が常に優先順位を持てるか等の説明も不足し
286
議事録
(4)アメリカ(没収制度調査、未請求資産管理制度調査)
ている。
・また、
「Qui tam」モデルと呼ぶ、関係者が連邦の基金(fund)を不正に使用した場合、又
は不正に受け取った場合、米国の名の下で個人が訴訟を起こすシステムがある。取り立
てた額の一定額を個人が得られる。米国の政府が捜査を行うことができ、原告である個
人が訴訟に関与できる。完全ではないが、消費者保護に役に立つシステムとなっている。
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議事録
(4)アメリカ(没収制度調査、未請求資産管理制度調査)
連邦捜査局とのミーティング議事録
(1)日時:2010 年 11 月 17 日(水)15 時∼16 時
(2)場所:連邦捜査局
没収課
935 Pennsylvania Ave NW., Washington, DC
Tel 202-324-8067
(3)面会者:連邦捜査局
没収課
課長
Stephen Jobe
(4)内容:
<FBI の組織概要と没収との係わり>
・連邦捜査局(Federal Bureau of Investigation、以下「FBI」と呼ぶ)は全米に 56 の支局を持
ち、各支局に没収業務を専門に行う職員が配置されている。ニューヨークやロサンゼル
スなどの大都市の支局は他の支局と比べて規模が大きい。
・FBI は行政没収を担当する部署、事件の捜査に特化している部署、会計管理をしている部
署の3部署に分かれ、没収業務全体の管理を行っている。
・行政没収の権限は米国の議会から FBI に付与され、消費者に対する詐欺も含めた様々な
犯罪に行使される。消費者に対する詐欺事件の多くは、FBI が関与している。議会から付
与された行政没収の権限が行使されるのは、国内外の犯罪行為を問わず、没収対象とな
る財産が米国内にある場合であり、一例として被告人が海外にいるなどして刑事訴追が
できない状況などが含まれる。
・FBI の目的は犯罪者から財産を没収し、それを被害者へ早急に返還することであるため、
行政没収の手続を進める際は、簡易的かつ迅速に行われる。
<行政没収の事例>
・行政没収の代表的な事件の一つに米国の老人医療保障(Medicare)の詐欺がある。被告人
は、医療機器メーカーを偽り、虚偽の保険請求をして多額の利益を得た。被告人が海外
逃亡して刑事訴追できなかったため、行政手続に基づいて財産を没収し、被害者である
政府に返還した。
<行政没収と民事没収の違い>
・行政没収は民事没収と異なり、没収対象となる財産には議会による制限がある。行政没
収の没収対象が動産(personal property)である場合は 50 万ドル以下に限られ、不動産(real
property)は没収できない。ただし、証券や小切手などのモニー・インスツルメンツ(money
instruments)及び現金には上限がない。
・DOJ は、銀行口座はモニー・インスツルメンツ(money instruments)には当たらないと結
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議事録
(4)アメリカ(没収制度調査、未請求資産管理制度調査)
論付けており、行政没収できる 50 万ドルという上限額の制限の対象となる。例外として、
利害者が自発的にお金を引き出し政府に引き渡す場合は 50 万ドルの制限はない。
<行政没収の手続>
・行政没収の手続は民事没収や刑事没収よりも簡潔である。FBI が行政没収を進める場合、
まず詐欺事件を捜査して、裁判所から詐欺を起こした個人や団体に対して差押令状
(warrant)を取る。行政没収は裁判を経ずに手続を進められる代わりに、財産の差押え
をした行政機関は差押え後 60 日以内に利害関係者に対して通知書を出さなければならい
という時間的制限が議会(congress)によって定められている。この通知書には、全ての
関係者に不服申立ての権限が付与されると明記されている。デュー・プロセス(due
process)に基づいて没収の権限を行使するため、逃亡者に対しても通知するように定め
られている。被告人が海外にいる場合は、国内の弁護人や被告人の最後の住所に通知書
を送付する。不服がある場合、通知が届いてから 35 日以内に申立てをしなければならな
い。35 日を過ぎると、申立てをしても基本的に拒否される。
・不服申立てがない場合、弁護士を有する FBI の没収課(legal forfeiture unit)によって全て
の行政手続がデュー・プロセス(due process)に遵守し、すべての利害関係者に行政没収
に不服を申し立てる権利を与えたかどうかを確認する。FBI の没収課は、手続がデュー・
プロセス(due process)に遵守していることを確認すると、次に「行政没収に対して不服
申立てが行われる可能性は十分低い」という立証責任(burden of proof)を負う。
「行政没
収に対して不服申立てが行われる可能性が十分低い」という立証責任(burden of proof)
は、差押え令状(warrant)の発行に必要な立証責任と同じく、
「相当な理由(probable cause)」
の有無に止まる。行政没収は認められると、FBI の捜査官は米国政府(United State
government)に対して没収財産を言明(declare)する。差押令状が発行されてから、通常
2∼3か月程度で行政没収の手続は完了し、被害者に返還し始める。
・不服申立てがあった場合、連邦検事(US attorney)が担当する訴訟となる。
・18 USC §983432に議会が定める行政没収の手続に関する規定がある。
・最高裁の判断においても、行政没収の手続保障に関しては、全ての利害関係者に通知を
することで満たされている。しかし、被告人が逃亡している場合などに、国内の弁護士
や被告人の最後の住所に通知するということがデュー・プロセス(due process)に合致し
ているかという議論はある。憲法 31 条でデュー・プロセス(due process)なくして財産
を政府が没収することはできないと定められているため、通知の内容や手段が議論の対
象となる。
<行政没収を止める手段>
・被害者や利害関係者が行政没収を阻止するための二つの手続が制定法(statute)によって
432
18 USC §983:http://codes.lp.findlaw.com/uscode/18/I/46/983
289
議事録
(4)アメリカ(没収制度調査、未請求資産管理制度調査)
認められている。
‐一つは恩赦又は減免の請願(petition for remission or mitigation)の手続である。行政没
収対象財産の利害関係者に送付される通知書には、被害者を含む利害関係者が恩赦又
は減免の請願(petition for remission or mitigation)の申立てをすることが可能である旨
を記載している。恩赦又は減免の請願(petition for remission or mitigation)を申し立て
る場合、被害者は司法長官(Attorney General)を介して FBI と共に申立てを行い、時
に FBI の手を借りて、詐欺によって財産を失った事実を証明する書類を提出する。請
願(petition)を受け入れるか否かを最終的に判断するのは、司法長官(attorney general)
にその権限を付与された没収課(legal forfeiture unit)と規定されており、つまり当課の
弁護士(attorney)が判断する。当課の弁護士による判断で請願が認められず、その判
断に不服がある場合に上訴(appeal)先は、最終的な判断を下す没収課(Legal Forfeiture
Unit)の課長である Stephen Jobe 氏である。もし裁判所によって Stephen Jobe 氏の判断
があまりにも規則(regulation)から逸脱しているとみなされれば別だが、通常、行政
没収の土壌に裁判所が関わってくることはない。裁判所による関与を被告人が求める
場合には、裁判所への不服申立てをするようにと行政没収の通知書に記載があるとい
う事由が背景にある。恩赦又は減免の請願(petition for remission or mitigation)を認め
ているのは制定法のガイドライン(statutory guideline)だが、FBI が手続の流れを把握
するために参照するのは連邦規定(federal regulation)の記述である。この連邦規定
(federal regulation)は、制定法(statute)に書いてあることが不明瞭な場合に、FBI な
どの捜査機関が制定法(statute)を執行するために参照するものであり、28 CFR Part 9
に規定されている433。
‐もう一つは、制定法(statute)に基づき裁判所に不服申立てを行う手段である。被害者
を含む利害関係者から行政没収に対して不服申立てがあると、利害関係者は米国政府
を代表する連邦検事(US attorney)を相手に訴訟を争うことになる。通常、被害者は、
わざわざ裁判所に出向く手間や弁護費用を負担しなければならない手段は選ばず、恩
赦又は減免の請願を行う。また、FBI が発行する行政没収の通知書には、FBI によって
行政没収された財産は被害者に返還されるということが明記されており、通知書を受
け取った被害者が不服申立てを行うことは滅多にない。例えば、実際の被害額が1億
ドルの場合でも、行政没収によって回復できるのは、50 万ドル以下であることが多い
ため、被害者が裁判沙汰にするという状況は一層考えにくい。
<被害者が行政没収を止めて訴訟を起こす状況>
・複数の被害者がいる場合、行政没収された財産は比例配分される。
・行政没収された財産の比例配分によって被害を回復するよりも裁判で回復できる金額の
433
28 CFR Part 9:http://law.justia.com/us/cfr/title28/28-1.0.1.1.10.html
特に消費者被害に関する恩赦又は減免の請願の手続についてについては、
28 CFR Part9 §9.8 を参照のこと。
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議事録
(4)アメリカ(没収制度調査、未請求資産管理制度調査)
方が多い場合、被害者は政府を相手に訴訟を起こす。
‐例:ある詐欺によって5万ドルの被害を受けた被害者にとっては、同じ詐欺によって
被害を受けた人が他に 10 人いる状況で、詐欺師が所持する 10 万ドルの財産を FBI が
差し押さえた場合、FBI によって差し押さえられた 10 万ドルのうち5万ドルが自分の
ものであると裁判を起こした方が最終的に得る金額が大きくなる可能性が高い。
・判例法(case law)に被害回復は被害者に対して平等に分配されるべきという考えがある
ため、被害者が裁判を起こしても平等に分配すべきだという結論に至ることが多い。
<行政没収額の統計>
・2009 年は、FBI を含む全ての連邦機関によっておおよそ 15 億ドルが司法省
(Department of Justice、以下「DOJ」と呼ぶ)の没収基金に組み込まれ、そのうち3億ドル
程は被害者に返還している。没収財産の中には被害者のいない麻薬などの事件も含まれ
る。
<没収財産の捜査手段>
・FBI が没収の対象となる財産の情報を集める手段:
‐連邦検事(US attorney)に要請し、大陪審(grand jury)の罰則付召喚令状(subpoena)
を使って銀行口座の情報を集める。
‐裁判所から権限を得て電話の盗聴をする。
‐個人の財政情報を集める組織である「FinCEN」から情報の提供を受ける。
・財産が国外に出てしまうと条約などが絡み手続が難しくなるため、その前の段階で保管
機関のリソースを使って情報を得るようにしている。
・捜査は、可能な限り連邦検事(US attorney)を介さず「FinCEN」や公開データベースを
使って行う。ただし、罰則付召喚令状(subpoena)を利用する場合は必ず連邦検事(US
attorney)の協力を得ることになる。
<没収基金の内訳>
・犯罪収益が DOJ の没収基金に組み込まれるのは、大半が行政没収と刑事没収によるもの
で、民事没収(civil forfeiture)によるものは少ない。
・2010 年は、マネーロンダリングの事件が多数あり、行政没収の割合が高くなった。ある
事件では、銀行がイランを代理して金融取引を行い多額の不当利益を得たが、銀行に対
して訴追することは難しかったため、銀行との合意の上で行政没収を行った。証券・小
切手などのモニー・インスツルメンツ(money instruments)は制限がないため、何億ドル
という金額を没収できた。
<全米各州の没収制度>
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議事録
(4)アメリカ(没収制度調査、未請求資産管理制度調査)
・全米各州には独自の没収制度があるが、基本的に連邦の没収制度をモデルとしている。
連邦の没収制度においては、財産を没収基金に組み込み、没収基金から没収基金の運用
にかかる費用を賄っているという点で、州の没収制度とは異なる。米国において没収制
度が始まった 1980 年代当初、没収制度に対して政府から与えられていた予算が少額だっ
たために DOJ が没収基金を作り、全ての没収基金の運営費を没収基金自体から得ること
にした。没収基金の運営費は、没収に関わる職員の教育、警察、連邦検事などに充てら
れている。ただし、没収に関与する職員の給与は含まれない。
・刑事没収しかない州もあれば、刑事没収と民事没収がある州もある。
・没収に関する法律がない州もあり、州政府の権限で差押えはできても、没収できない州
がある。そのため、18 USC §983 で、州が差し押さえた財産を連邦政府に移管できると
規定されている。現在では、ほとんどの州で没収に関する法律が定められているため、
この方法はあまり使われていない。
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