不拡散・科学原子力課での2年間

不拡散・科学原子力課での2年間
平成27年2月
外交実務研修員 馬場 智生
(佐賀県より派遣)
福島第一原子力発電所の事故から2年ほどが経過した2013年の春,佐賀から上京し
て間もない私は,立ち並ぶ東京の高層ビルの谷間に目を奪われつつ,これから始まる業
務への漠然とした不安を感じながらも,新たな経験,出会いに期待を抱き,外務省の正
門をくぐりました。
1 不拡散・科学原子力課とは何か
私が勤務した不拡散・科学原子力課(略称「軍不原(ぐんふげん)」)の所掌は,不拡散,
原子力の平和利用に関する外交政策です。その中で私は,IAEA(国際原子力機関)や
OECD/NEA(経済協力開発機構原子力機関)等の国際機関に係る業務を主に担当しまし
た。
IAEA 関係の業務について一つ紹介しますと,不拡散の確保のための具体的手段とし
て,IAEA による保障措置の実施があります。NPT(核兵器不拡散条約)に基づいて締結
している IAEA との「保障措置協定」に沿って,我が国の核物質の量などを IAEA に申告し
ます。また ,IAEA による査察を受け入れることで,申告内容が事実と相違ないことが確
認され,日本の原子力活動には軍事転用がないことを IAEA として「結論づける」ことが可
能となります。こうした「保障措置」に係る外交的事務を軍不原が行っています。
2 IAEA 総会
(1)IAEAは,米国アイゼンハワー大統領の演説
で提唱された「Atoms for peace」を契機として1
957年に発足しました。その意思決定機関にあ
たる「IAEA 総会」は,全加盟国が参加し,毎年9
月にウィーンで開催されます。我が国からは,
基本的に閣僚レベルが出席し,一般討論演説,
各国との会談等を通じて,我が国の原発事故
後の取組,原子力政策の方向性,国際的な原
子力平和利用分野での協力,といった各分野で
(IAEA 総会会場)
の取組に関する決意表明を行っています。大臣の出席となると,当然ながら,膨大な
関連業務が発生します。各省の出席者のとりまとめから始まり,ウィーンでの宿舎留保,
会談のアポ調整,食事の手配,配車の調整といったロジ業務をはじめ,大臣の演説の
原稿,会談用資料の作成,大臣へのブリーフ・・・すべてが,大臣の動きがスムーズに
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運ぶよう,ウィーン代表部や関係省庁の担当者と連携して入念に調整を行います。
(2)総会業務も2回目となった頃,上司に希望を伝えたところ,ついに念願のウィーン出
張の機会を与えていただきました。現場では,グランドホテル(IAEA 設立当時は本部と
して使われていた)をはじめ,外交的にも芸術
的にも歴史観あふれるウィーンの街に降り立
ち,実際に IAEA 本部に足を運んだ時は大変
感慨深い思いがありました。また,大臣(※)を
送り出す調整の段階から,現場での迎え入れ
体制まで一貫して関与したことで,自分のアレ
ンジが大臣の動きに直結するという,ロジ業務
の面白みと重大さを感じました。(※第 58 回
IAEA 総会は,内閣府特命担当大臣が出席)
(IAEA 本部の前庭にて)
3 先輩の教え
(1)軍不原をはじめ,外務省には尊敬すべき上司,先輩,同僚がたくさんいます。どんな
難しい状況であれ,現在おかれた状況の中でどのように対応するかということを迅速
に決定しなければなりません。そのために必要となる情報リテラシーや説明能力は当
然のこと,誰が誰に何を伝えるべきか,何をクリアにすべきか,といった問題の解決に
必要となる事柄を短時間で正確に処理していく仕事のセンスを備えた方が身の回りに
たくさんいます。その人達と一緒に仕事をし,一人の担当者として分け隔てなく扱って
いただけたことは,刺激的であったばかりでなく,非常に有難く感じました。
(2)その先輩方から私が受け取った教えとして,①原典にあたれ,②すべての利用可能
な情報を読め,③調べた上で意見を持って(早めに)相談せよ(すべてはホウレンソウ),
④Trust but Verify(信用するが検証すべし),といったことを繰り返し指摘されたことが
印象的でした。これらは,県に戻って仕事をしていく場合にも,課題解決のために必要
な心構え・能力であり,これからの仕事人生の中でも必ず生きてくるものだと思ってい
ます。
4 終わりに
一つ強調しておきたいことがあります。それは,軍不原を中心として外務省での環境が
非常に恵まれたものであったという点です。所掌する分野が興味深かったこともさること
ながら,「人」にフォーカスしますと,わからないことは何でも相談できる環境があり,担当
としてやりたいと希望を伝えれば,それを実現させるにはどうすればよいか一緒に考えて
くださる上司がいらっしゃいました。業務の進捗をきちんと把握し,全体をマネジメントしな
がらも,担当には十分な裁量を与えて,個性を出しながら仕事を進めることを奨励すると
いった具合で,なにより,仕事以外のところでも普通にコミュニケーションが取れる風通し
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の良さがあり,望ましい条件が揃っていたと思っています。
この学びの機会を与えていただいた佐賀県にはもちろんのこと,このように恵まれた環
境で2年間お世話になった軍不原の上司・同僚をはじめ,外務省でお世話になったすべ
ての人に改めて深く感謝いたします。
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