戦前の日本にさえ、 自や学歴に関係なく、有能な人材に働いてもらいたい

.出
戦前 の 日本 にさえ、
自や学歴 に関係 な く、有能 な人材 に働 いて もらいたい とぃ ぅ希望
は色濃 くあ りました。 日本にはそれほど強固な能力主義 の歴史があります。 もちろん一つ
の国は 一枚岩ではあ りません。 しか し多 くの企業家 も学者 も作家 も、個性豊 かな人物が、
近代 の 日本 を創 りあげて来た ことを、感動 をもって認 めて来 ました。 こうした個人判別 は
差別 ではな く区別です。私 もまた作家 として、常 に区別 な しには書 くべ きテーマの発見 も
できません:区 別 は学問、芸術、政治、哲学 などのすべての分野 の基礎 の大地 です。差別
などで人や現象を分けていたら、一篇 のまともな小説 も書けないで しょう。
'し か し文化 には、自然 に
特徴があ ります。アジア系 の人 々は米 と魚 を多 く食べ ます。 ヨ
ーロッパ に住む人 たちは、小麦のパ ンと、牧畜の成果による肉を食べ ます 。
.歴 史的に、
_申
東には一神教 が生まれ、アジアには多神教 の世界 が出現 しました。私 はこうしたきわめて
自然で人間的な習慣や嗜好 を、その人 たちのために存続 したい、 という素朴 な願 いはず っ
と持 っています。
私 は小説家です。小説は日本語 では小 なる説 とい う意味 です。つ まリー人一人 の思いを
掬 いあげて、優劣 や善悪 を単純に考えて裁 かず、大切 に書 き留める仕事 です。その内容 は
私一人 の考 えで、他者や他 の団体 を代表するものではあ りません。アパ ル トヘイ トを私は
推奨 したことは一度 もありません。南 アフ リカで不幸 な結果をもたらしたその制度は、日
本 には幸いなことにあ りませんで したか ら、推奨す る理由が全 くあ りません。
しか し違 う生活習慣 の人たちの幸福 を増す目的 のために、異 なった暮 らし方がその人 の
社会生活の一部 で許 されていいと、今 も考えて いますが、それが南アで行われたようなア
パル トヘイ トを認めることだ、などとい う飛躍 した発想になるのは、む しろそう考える人
たちの悪意です。
南米 の 日系移民の中には、生涯スペイン語を話せないままの要 もいます。 こうい う夫婦
に子供 がないと、その老妻 は夫の亡 き後、誰 も通訳をする人が身近にいませんから、買い
物 もできず書類 も作れません。その国の老人ホームに入る と話相手 もあ りません。
現地 の 日系 2世 のカ トリックの神父 の要望 もあ り、私は 40年 間働 いた小 さなNGOで
ベルーに日系だけの老人ホームを作 ったことがあ ります。 これで 日本語 しか喋 らないおば
あちゃんたちも、毎 日友達 と会話 を楽 しみ、和食 を食べ、日本 の歌 をカラオケで歌えるよ
うにな りました。
..
日本 の大手 ゼネ コンは、過去 には外国に対す る知識 の不足か ら、 い く かの失敗 を して
っ
軽 い文化摩擦 を起 こした例 もあったようです。 しか し今では海外 で工事 をする時、外国か
らやって来 る労働者に対 して、できる限 りの繊細 な配慮 をしています。東南 アジアの場合
、宗教 も習慣 も違 う出稼 ぎの人 々のために、現場宿合 を国別 に分けて建てることも、過去
の経験 か ら出た一つの配慮 で した。
まず、イスラム教徒 が多 い場合 には、何 よ リモス クの建設が大切 です。東南アジアでは
、牛肉を食べ ない ヒン ドゥ教徒、マ レー シァゃィ ン ドネシアに多 い豚 を食べ ないイスラム
教徒、そ の他仏教徒、日本人 の ように神道 もい ます。たまにはユ ダヤ教徒 もいるか もしれ
・
ません。それ らの人 だちが ヽハ ラルや コニ シキ ー と呼 ばれる食事規定 を守 るためには、厳
密 に台所 も別 に しなければな りませんか ら、国別 の宿舎 を作 る方がその人 た ちも安心 だっ
たのです。それ らは違 う文化 を尊重 し,働 く人たちの心の安定 と、 日常 の便利 さと、友が
近 くにいるか ら寂 しくないとい う幸福感 を、む しろ増 やす ための配慮 の結果であって、差
別 とは全 く方向が違 います。
しか もそれ らの棲み分けには、法律 による立 ち入 り禁止や 、特定 の住居 に入れ という強
制力 もな く、それ らを守 らな くて も一切 の罰則はない、 いわ ば完全 な開放 と居住 の 自由を
原則 に した選択 の結果 です。
どこの国に も、同 じ外国に生 まれた人が集 って住 む、自然発生 的 な特別な地 区はある も
のです。 しか し現在 の 日本 には、宗教的な対立 もな く、ま してや人種 の差別など見 たこと
もあ りません。あ くまで能力主義が基本です。私 は他 のお国がなさることを理解 しよ うと
とは努 めますが、それ を改変 させ るような無礼は考 えた こともあ りません。その無力 さの
意識が、小説家の魂 の 自由の保証 です。 ましてやアパ ル トヘイ トの制度 を、必要 もな く日
本 が 自国に取 り入れるつ もりか、 などとい う解釈 の飛躍 は、私 には全 く理解できません。
なお世界 の名 だたる新聞社・ 通信社に言 い ます。
私 は現在、安倍総理 のア ドバ イザー的 な一切 の立場 にあ りません。 ジャーナ リズムの取
材 の原則 は、 こ うした些事 も、別個 に確認 の上で正確 にお書 きなることです。
2015,2・ 25
曽野 綾子