添付ファイル - 東京農業大学

産総研・東京農大・総研大 共同プレス発表資料
解禁日時(WEB・放送):平成 27 年 2 月 24 日 5:00
(新聞):平成 27 年 2 月 24 日付け 朝刊
発表日時:平成 27 年 2 月 23 日 14:00
本件配布先: 産総研(東京) → 経済産業記者会、経済産業省新聞記者会ペンクラブ
産総研(つくば) → 筑波研究学園都市記者会
総研大 → 文部科学記者会、横須賀市政記者クラブ
トンボは異なる光環境ごとに光センサーを使い分けている
-
色覚に関わる遺伝子の著しい多様性の発見 -
平成 27 年 2 月 23 日
独立行政法人 産業技術総合研究所
学 校 法 人
東 京 農 業 大 学
国立大学法人 総合研究大学院大学
■ ポイント ■
・ 色覚に関わるオプシン遺伝子の数がトンボでは並外れて多いことを発見
・ トンボは水中と陸上、上空と地表の認識に異なる色覚遺伝子セットを使用
・ 異なる光環境に適合した光センサーの開発にヒントを与える新知見
■ 概 要 ■
独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 中鉢 良治】(以下「産総研」という)生物プロセ
ス研究部門【研究部門長 田村 具博】生物共生進化機構研究グループ 二橋 亮 主任研究員、深津
武馬 首席研究員(兼)研究グループ長らと、東京農業大学【学長 髙野 克己】(以下「東京農大」
という)応用生物科学部 矢嶋 俊介 教授、生物資源ゲノム解析センター 川原(三木) 玲香 博
士研究員、国立大学法人 総合研究大学院大学【学長 岡田 泰伸】(以下「総研大」という)先導
科学研究科 蟻川 謙太郎 教授、木下 充代 講師らは共同で、トンボの色覚に関わる光センサーを
作り出すオプシン遺伝子が著しく多様であることを発見した。
私たちヒトは青色光、緑色光、赤色光に対応したオプシン遺伝子を持つことで、三原色を基盤
として多様な色を認識できる。昆虫などでは紫外線に対応したオプシン遺伝子を持つために、ヒ
トには見えない紫外線も認識できるなど、オプシン遺伝子と色覚には密接な関係がある。多くの
動物では 3~5 種類のオプシン遺伝子が色覚に関わることが知られているが、今回、トンボは例外
的に 15~33 種類という極めて多いオプシン遺伝子を持つこと、また、多くのオプシン遺伝子を幼
虫(ヤゴ)と成虫の間で、さらには成虫では複眼の背側と腹側の間で使い分けていることが分か
った。これは動物の色覚の多様性と進化に関する新知見である。
なお、この研究成果は、2015 年 2 月 24 日(日本時間)に米国の学術誌「Proceedings of the
National Academy of Science USA」(米国科学アカデミー紀要)にオンライン掲載される。
は【用語の説明】参照
飛翔するギンヤンマ。高度に発達した複眼を持つ
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産総研・東京農大・総研大 共同プレス発表資料
解禁日時(WEB・放送):平成 27 年 2 月 24 日 5:00
(新聞):平成 27 年 2 月 24 日付け 朝刊
発表日時:平成 27 年 2 月 23 日 14:00
本件配布先: 産総研(東京) → 経済産業記者会、経済産業省新聞記者会ペンクラブ
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■ 研究の社会的背景 ■
視覚はヒトを含む多くの動物にとって非常に重要な感覚であり、基礎から応用まで盛んに研究
されている。光は、眼にある光受容細胞で電気信号に変換され、脳で情報処理される。光受容細
胞中には、「光センサー」として機能するオプシンタンパク質が存在する。このオプシンタンパ
ク質を作り出すのがオプシン遺伝子である。異なる種類のオプシン遺伝子は、感受性の異なる「光
センサー」を作り出す。たとえばヒトは、青色光、緑色光、赤色光に対応した光センサーを作り
出す 3 種類のオプシン遺伝子を持つ。そのため、ヒトには赤色から紫色が見えるが紫外線は見え
ない。一方、ミツバチやショウジョウバエは紫外線に対応したオプシン遺伝子を持つが赤色光に
対応したオプシン遺伝子がないため、紫外線が見えるが赤色は見えない。このように、オプシン
遺伝子と色覚には密接な関係がある。これまでは、ほとんどの動物で 3~5 種類のオプシンタンパ
ク質が色覚に関係していると考えられてきた。
トンボは多数の小さな目(個眼)が集まってできた複眼を持つ昼行性の昆虫で、アカトンボなど
鮮やかな体色を持つ種類が多い。聴覚や嗅覚は退化しており、他の昆虫と比べて視覚への依存度
が高い。しかし、トンボの色覚に関わる分子機構は未解明であった。
■ 研究の経緯 ■
産総研では、さまざまな昆虫類を対象として高度な生物機能の解明に取り組んできた。生態的
に重要な機能を持つ昆虫の体色に関しては「昆虫の体色を変化させる共生細菌を発見」(2010 年
11 月 19 日 産総研プレス発表)、「アカトンボがどうして赤くなるのかを解明」(2012 年 7 月
10 日 産総研プレス発表)などの特筆すべき研究成果がある。
東京農大では、「生物資源ゲノム解析拠点」として、次世代シーケンサーを用いた生物の遺伝
子解析に実績がある。総研大では、動物の色覚に関わる分子基盤や生理現象の解析に多くの実績
がある。今回の成果は、未解明であったトンボの色覚多様性の分子基盤について、各研究機関の
従来の研究蓄積を活かし、共同で取り組むことにより達成したものである。
なお、本研究は、独立行政法人 日本学術振興会 科学研究費補助金と文部科学省補助金による
支援を受けて遂行した。
■ 研究の内容 ■
アカトンボの 1 種であるアキアカネを用いて、トンボの複眼がどの波長の光によく反応するか
を解析した。トンボは頭部に一対の大きな複眼と 3 個の単眼を持つが、色覚を担うのは主に複眼
である。単眼は水平感覚に関与している(図 1a)。アキアカネの複眼は、背側と腹側が構造的に
異なり、背側では 1 つ 1 つの個眼が大きく、細胞内に橙色の色素が蓄積しているのに対して、腹
側では個眼は小さく、細胞内に濃紫色の色素が蓄積している(図 1a、図 1b)。複眼に電極を刺し
て解析した結果、背側では主に紫外線(300 nm)から青緑色(500 nm)の短波長の光によく反応する
のに対して、腹側では紫外線から赤色(620 nm)までの幅広い波長の光に反応することが分かった
(図 1c)。つまりアキアカネでは、複眼の背側と腹側で色覚が異なっている可能性がある。
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産総研・東京農大・総研大 共同プレス発表資料
解禁日時(WEB・放送):平成 27 年 2 月 24 日 5:00
(新聞):平成 27 年 2 月 24 日付け 朝刊
発表日時:平成 27 年 2 月 23 日 14:00
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図 1 トンボの複眼の構造と光の応答感度
(a)アキアカネの頭部、(b)アキアカネ複眼の断面図、(c)光の波長ごとの複眼の応答感度
そもそもトンボに何種類のオプシン遺伝子が存在するのかも不明であったため、次世代シーケ
ンサーを用いてアキアカネの成虫や幼虫の頭部で機能している遺伝子を網羅的に解析した。その
結果、20 種類ものオプシン遺伝子が同定された(図 2a)。昆虫のオプシンタンパク質はアミノ酸
配列の特徴から、視覚型と非視覚型に大別される。視覚型には、紫外線タイプ、短波長(青)タイ
プ、長波長(緑~赤)タイプがある。アキアカネは、紫外線タイプを 1 種類、短波長タイプを 5
種類、長波長タイプを 10 種類、非視覚型を 4 種類持っており、視覚型のオプシンの遺伝子数が他
の昆虫と比べて桁違いに多いことが明らかになった(図 2a)。さらに、さまざまなトンボ類でオ
プシン遺伝子数を調べたところ、いずれのトンボでもオプシン遺伝子が 15~33 種類と非常に多く
なっていることが確認された。
図 2 昆虫におけるオプシン遺伝子数の進化とアキアカネで機能するオプシン遺伝子の内訳
(a)アキアカネとゲノム既知の昆虫のオプシン遺伝子数の比較、
(b)アキアカネの成虫の複眼背側、複眼腹側、単眼周辺と幼虫頭部で使われるオプシン遺伝子の数。
個々の遺伝子は、基本的に特定の時期および領域でのみ機能していた。
次に、成虫の複眼背側、複眼腹側、単眼周辺と、幼虫頭部に分けて、オプシン遺伝子の種類を
解析した。その結果、大部分のオプシン遺伝子は、特定の時期や領域だけで働いていることが分
かった。図 2b にアキアカネの例を示すが、個々のオプシン遺伝子は、幼虫と成虫のどちらか一方
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産総研・東京農大・総研大 共同プレス発表資料
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だけで使われていた。さらに、成虫で使われている大部分の遺伝子は、複眼背側、複眼腹側、単
眼周辺のどこか一カ所の領域だけで働いていることが確認された(図 2b)。つまり、トンボでは、
幼虫と成虫の間のみならず、成虫複眼の背側と腹側の間でも、そこで機能するオプシン遺伝子の
種類が全く異なっていた。これが光に対する感度の違いを生んでいる可能性が高い。なお、非視
覚型の 4 種類のオプシン遺伝子は、複眼、単眼のどちらでもあまり使われていなかった。
トンボの幼虫は水中であまり動かずに生活するのに対して、成虫は陸上を活発に飛びまわる。
したがって幼虫は成虫に比べると視覚や色覚への依存性が低いと予想される。また成虫では、複
眼の背側では主に空を背景に物体を認識し、複眼の腹側では主に地表の環境、繁殖相手や餌など
を認識する。
このような多様な光環境に適応するため、トンボはオプシン遺伝子を多様化させ、成長過程や
複眼領域ごとに使い分けるようになったと考えられる(図 3)。すなわち、視覚への依存性の低
い幼虫では比較的少数のオプシン遺伝子が使われるのに対し、成虫の複眼では多数のオプシン遺
伝子が使われている。しかも同じ成虫複眼でも、空から直接届く短い波長成分の多い光を受容す
る背側では短波長オプシン遺伝子が多く使われるのに対し、地表の物体からの反射光を受け取る
腹側では、長波長オプシン遺伝子が多く使われている(図 2b、図 3)。
オプシン遺伝子の種数や組み合わせはトンボの種ごとに異なっていたが、興味深いことに、幼
虫が砂に潜って生活する種類では、幼虫期に機能する短波長オプシン遺伝子が失われているなど、
それぞれの種の生息環境や行動に応じてオプシン遺伝子が進化した可能性が考えられる。
図 3 トンボにおけるオプシン遺伝子の使い分け(写真はアキアカネ)
今回の結果から、トンボでは異なる光環境に合わせて異なるオプシン遺伝子セットを使い分け
ており、オプシン遺伝子数の著しい増加がその基盤となっていることが分かった。それぞれの環
境ごとに別の遺伝子セットを用いる意義についてはさらなる研究が必要であり、各遺伝子の特性
を解析することで、異なる光環境に対する生物の適応機構の理解が深まることが期待される。
■ 今後の予定 ■
今後は、各オプシン遺伝子に関して個々の光受容細胞レベルで解析することで、個々の遺伝子
の詳しい特性を解明し、色覚の進化や異なる光環境への適応に関わる分子基盤の解明に取り組み
たい。
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解禁日時(WEB・放送):平成 27 年 2 月 24 日 5:00
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■ 本件問い合わせ先 ■
独立行政法人 産業技術総合研究所
生物プロセス研究部門 生物共生進化機構研究グループ
主任研究員
二橋 亮
〒305-8566 茨城県つくば市東 1-1-1 中央第 6
TEL:029-861-6128 FAX:029-861-6812
E-mail:[email protected]
生物プロセス研究部門 首席研究員(兼)生物共生進化機構研究グループ長
深津 武馬
〒305-8566 茨城県つくば市東 1-1-1 中央第 6
TEL:029-861-6087 FAX:029-861-6082
E-mail:[email protected]
【取材に関する窓口】
独立行政法人 産業技術総合研究所 広報部 報道室 梶原 茂
〒305-8568 茨城県つくば市梅園 1-1-1 中央第 2
つ く ば 本 部 ・ 情 報 技 術 共 同 研 究 棟 8F
TEL:029-862-6216 FAX:029-862-6212 E-mail:[email protected]
東京農業大学 総合研究所 事務部 仲上
〒156-8502 東京都世田谷区桜丘 1-1-1
TEL:03-5477-2532 FAX:03-5477-2634
貴志
E-mail:[email protected]
国立大学法人 総合研究大学院大学 広報室 眞山 聡
〒240-0193 神奈川県三浦郡葉山町(湘南国際村)
TEL:046-858-1590 FAX:046-858-1632 E-mail:[email protected]
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解禁日時(WEB・放送):平成 27 年 2 月 24 日 5:00
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【用語の説明】
◆色覚
異なる波長の光を色の違いとして識別する感覚。色覚が生じるためには、異なる波長に感度を
持つ光受容細胞が 2 種類以上存在することが必須である。
◆オプシン
動物の光受容細胞に存在する光受容タンパク質。レチナールという色素分子と結合した状態で
存在し、光のシグナルを電気信号に変換する光センサーとして働く。異なる種類のオプシンは、
通常は異なる波長の光に感度を示す。オプシンは視覚に関わる視覚型の他に、脊椎動物の松果体
などで機能する非視覚型もある。昆虫の視覚型オプシンは、アミノ酸配列の特徴から、紫外線タ
イプ、短波長タイプ、長波長タイプに分けられる。
◆三原色
あらゆる色の基本となる 3 色。光の三原色は赤、緑、青の 3 つで、RGB と表現される。なお、
シアン(空色)、マゼンタ(赤紫色)、黄色は、色の三原色として知られる。
◆光受容細胞
光のシグナルを受け取り、電気信号に変換する細胞。ヒトの網膜、昆虫の複眼や単眼など、視
覚器に存在するものは、視細胞とも呼ばれる。
◆次世代シーケンサー
従来のシーケンサーとは異なり、一度に読み取れる塩基配列の長さが 50~500 塩基(従来法で
は約 800 塩基)と短いものの、高度並列処理により 1 回の解析で数千万~数十億塩基対の塩基配
列情報を得ることができる特徴を持つ。
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