別紙1-1 論文審査の結果の要旨および担当者 報告番号 ※ 甲 第 氏 論 文 題 号 名 松室 美紀 目 観察を通して得られた事例に基づく 規則推論に関する実験的検討 論文審査担当者 主 査 名古屋大学教授 三輪 和久 名古屋大学教授 齋藤 洋典 名古屋大学准教授 川合 伸幸 1-2 論文審査の結果の要旨 本論文は,事例を観察することによって生成される規則推論を検討した 3 つの実験から構 成される。本論文の特徴として重要な点は,以下の 2 点に要約される。第 1 に,事例の観察 にあたっては,すべての情報に注意を向けることは困難であるという点が上げられる。その ため,人間は特定の観点を定め,その観点から事例の特定の特徴に着目することによって, そこに見出される規則を明らかにしていると考えられる。本論文では,その観点を「フレー ム」と呼び,規則推論におけるフレームの設定,変更のプロセスに着目した検討を行ってい る。第 2 に,これまでの規則推論の研究の多くは,最終的な推定結果として出力される規則 自体か,言語報告によってフォロー可能なプロセスを対象にするものがほとんどであった。 本論文では,巧妙に設計された実験課題に,眼球運動測定を組み合わせることによって,言 語を介した意識に昇らない推論プロセスにまで踏み込んだ分析を行っている。 本論文は,全体で 5 章からなる。第 1 章では,本研究の理論的枠組みとして,Simon & Lea (1974),および Klahr & Dunbar (1988)の Dual Space Search Theory を取り上げ,規則推 論を,仮説空間と実験空間という 2 種類の問題空間の相互探索として捉えるという立場をあ きらかにしている。さらに,本研究の実験課題と,眼球運動測定に基づくフレームの同定方 法について説明している。 第 2 章では,実験参加者の作動記憶能力に着目して,参加者の個人差と推論プロセスとの 関連について検討している。実験の結果,作動記憶能力が高い参加者の方が,事例の比較を 頻繁に行うことが確認された一方で,推論プロセスにおいて,特定のフレームに停留する継 続時間に関しては,作動記憶能力に関わる差異は観察されなかったことが報告されている。 第 3 章では,推論の初期段階で発見された規則が棄却され,より一般的な包括規則に転換 してゆく過程をあきらかにしている。2 種類の規則の移行期間においては,初期規則に対し て,負事例と正事例が混在して観察されるという特徴がある。実験の結果,負事例が観察さ れても,初期規則で設定されたフレームが継続して用いられること,さらには,初期フレー ムへの固執は,正事例が観察された時よりも,負事例が観察された時に顕著であることが確 認された。 第 4 章では,第 2 章,第 3 章の結果を,第 1 章で設定された理論的な枠組みに基づき検討 し,本研究の規則推論研究,より広くは帰納推論研究に対する貢献が議論されている。第 5 章では本論文の総括を行い,今後の研究の展開について展望を示している。 本研究は,規則推論の過程に関する興味深い知見を提供し,認知科学,認知心理学分野の 多くの研究者から注目されており,その学術的価値も高い。よって審査委員は,全員一致し て,松室美紀君が,博士(情報科学)の学位を授与されるに十分な資格を有するものと判定 する。
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